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とある生徒会長の本音は日誌だけが知っている  作者: 『黒狗』の優樹
生徒会の仕事は地味な方が重要
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第八十一話 七人(seven) 瑛、憧れの七人について、ウキウキと語る

悪気はなかったが、つい、瑛の胸元を凝視してしまった紅壱

それを真摯に詫びてくれた彼を大らかな態度で許し、瑛は魔晶についての説明を続ける

術師が魔力を快復させるには、休息するのが一番ではあるが、実戦の最中では、そうはいかない

そこで役に立つのが、怪異の死体から絞り出した魔力を術によって凝縮させ、使用者の魔力を快復させる魔晶

しかし、何事にも例外がある。それについて、考えを巡らせる紅壱であった

 「例外・・・さっき、教えて貰った、忌み血の特性か」


 「さすがだ、辰姫。気付いたな」


 「・・・・・・」


 今の今まで火花が散るほどぶつけていたのに、紅壱へ向けた二人の視線は尊敬に満ちていた。瑛と夏煌から、そんな目で見られ、驚いた紅壱は「あざっす」と照れ、後頭部を掻く。


 「希少な忌み血の中でも、特に数少ない特性、それは魔力の吸収だ」


 「魔力の吸収?」


 「そうだ、敵性怪異から魔力を吸収し、自らの消費した魔力を回復できるのだ」


 それを聞き、紅壱は先の戦いで、自らがゴブリンやコボルドが放ってきた魔力の弾や鎗を掴み、齧り、食べた事を思い出す。

 やはり、自分に流れる血には、アバドンを宿している恩恵か、レアな特性が宿っているようだ、と確信した紅壱。

 しかし、喜々とそれを語る訳にはいかない。希少であるなら、『組織』は注目し、自分を調べようとするだろう。

 魔女の研究を盗んで、自分の手柄にするような組織に、自分の秘密を暴けるとは思えないが、念には念を入れて損はない。


 「敵から魔力を奪って回復できるってのは、有利っつーか、ある意味、卑怯ですね」


 「しかし、良い事尽くめではない」


 「あ、やっぱり。

 そんな上手い話はないっすよね」


 小さく頷き返した瑛は、その時の事を思い返し、額に手を当てた。


 「魔力吸収の特性は、コントロールが難しいんだ」


 「・・・・・・」


 「吸い過ぎてしまう、それもあるな。

 自分の容量以上の魔力を、怪異から吸収すれば、体が破裂してしまう。

 だが、最大のデメリットは、そこじゃない」


 瑛はおもむろに右の掌を上に向けると、そこへテニスボール大の魔力の塊を浮かせる。

 紅壱は知らないが、このサイズの魔弾を無詠唱で作りだせる女子高校生の術師は、国内でも瑛を含め、十人ほどしかいない。


 「これが、私、と言うより、人間の魔術師が作る魔弾、魔力の塊だ」


 「会長らしい、力強さと凛々しさを感じますね」


 「・・・・・・」


 「そんな褒められると、恥ずかしいではないか」


 照れる瑛も可愛いな、と思いつつ、紅壱は説明の続きを求める。


 「今の君らでは、まだ判別が付かないだろうが、人間と怪異、正しく言うと、魔属が使う魔力は似ているが、異なるのだ。

 当たり前の話ではあるがな。人間の魔力は精神力から生じ、魔属はその人間のイメージを核にしたエネルギー体なのだから」


 瑛の言葉に「なるほど」と顎へ手をやった紅壱。


 「つまり、人間の魔力をレギュラーガソリンとすると、魔属の肉体を構成している魔力は灯油。

 燃料って括りは同じだけど、種類が違うモノが注ぎ込まれれば、エンジンは不具合を起こしちまうと」


 「まぁ、少し乱暴な例えではあるが、大きく間違ってはいないな」


 よしっ、と小さくガッツポーズを決めた紅壱へ、夏煌はハイタッチを求める。パシンッ、と軽快に手を打ち合わせた二人を、瑛はつい、羨ましそうに見てしまう。

 そんな負の感情を振り払うと、瑛は「壊れてしまうだけなら、まだマシだ」と続ける。


 「つまり?」


 「コントロールできなくなり、魔属の魔力を吸収しすぎると、術師の心身はその魔力に蝕まれる。

 そのまま絶命するだけなら良い方で、稀に暴走してしまう事もあるらしい」


 「暴走っすか」


 「・・・・・・」


 「そうだな、大神の“魔人”と言う表現が、もっとも的確かも知れない。

 まぁ、辛うじて、人型と表現できる容姿だったらしいがな。

 魔人化のケースは、公式に残っている資料では一件しかない。それも、数十年前だ」


 「相当に珍しいハプニングって事ですか?」


 そうでなければ困るさ、と苦笑した瑛。


 「私が読んだ資料にも詳細は書かれていなかったが、魔属からの過剰吸収により魔人と化した術師は敵対していた高ランクの魔属を倒しただけでは止まらなかった。

 パートナーとしていたデーモンも自らの内へ取り込んでしまった事で、理性を失い、怒りに飲まれたままで、その町に住んでいた住人を皆殺しにし、最終的に500人近く、命が奪われた。

 最期は残っていた魔力で大爆発を起こし、半径100mを更地に変えてしまったそうだ」


 桁違いの被害数を聞き、さしもの夏煌も険しい表情となり、紅壱のシャツの裾をギュッと握ってしまう。


 「怖ぇか?」


 「・・・・・・」


 気丈に振る舞う友人に、紅壱は苦笑し、そっと頭を撫でてやる。彼の大きな手から頭に伝わってくる、素朴な優しさに夏煌の表情は緩む。そうして、彼女は紅壱にバレぬよう、瑛に向かって勝ち誇ったような微笑を見せる。

 あざとく、か弱い少女のアピールを紅壱に対して行った夏煌に、瑛は自らの額に青筋がビキっと音を上げて浮かんだのが分かった。

 空気が緊迫したのを感じた紅壱は、瑛がその魔人が無辜の民の命を残忍に奪った事に、炎のような怒りを覚えたのだろう、と誤解し、彼女をますます尊敬する。


 「500人も殺害るなんて、許せないっすね」


 「その通りだな。

 しかし、その魔人の戦闘力を考えれば、500人で済んだのが奇跡に近い。

 下手をしていたら、その数倍の被害になっていただろうからな」


 紅壱が夏煌の頭から手を離すのが、あと数秒でも遅れていたら、獅子と狼の殺し合いが始まっていただろう。


 どうにか、苛立ちが収まった瑛は自己嫌悪を覚えつつ、それは隠し、憤慨している紅壱に同意する。


 「ってことは、『組織』の腕利きが、魔人を食い止めて、被害を最小に抑えたって事ですか?」


 「それなら、『組織』の資料は、もっと残されていただろうさ、大いに美化されてな」


 呆れ返っている瑛が肩を竦めたのを見て、紅壱も勘付く。


 「そうだ、魔人と戦ったのは、『組織』に属していない、むしろ、反目していた外部の人間だった、と私は予想おもっている」

 

 散々、自分たちを手こずらせていた者に、世界の危機を救われたなんて真実、面子を大事にする組織がデータとして残しておける訳がない。かと言って、事が大き過ぎて、完全に抹消する事も出来なかったのだろう。

 しかし、瑛のように、数が少なく、その上、不明瞭な情報からでも、真実に辿り着ける鋭い洞察力と情報の処理能力を持っている逸材にバレてしまうようでは、当時の『組織』の隠蔽工作も、まるっきりの無駄だな、と紅壱は苦笑する。


 「もっとも、さすがに私の今の権限では、その魔人と戦ったのは、謎の七人と言う事しか解からなかったがな」


 「・・・・・・」


 「そう、凄いだろう。500人の中には、『組織』の優秀な術師も一割ほどいたらしい。

 それだけの戦力がいれば、カガリですら倒せた、と私は思う。

 にも関わらず、その魔人を倒す事が出来なかったんだ。

 しかし、その七人は爆発こそ起こさせてしまったが、魔人を倒したんだ。

 どれほど強いのだろう、その七人は」


 資料に遺されていなかったからこそ、そこに視えた英雄に、瑛は強い憧れの念を抱いていたのだろう。夏煌が褒め称えてくれた事で、自制心のタガが緩み、興奮してしまったようだ。


 「七人の内、ある者は拳で、ある者は刀で、ある者は鎗で、ある者は弓矢で、『組織』の誰も傷つけられなかった魔人に浅くはない傷を刻み、絶叫させたそうだ。

 個の力もズバ抜けていたが、連携攻撃コンビネーションも素晴らしかったようだな。

 魔人の死角から迫り、毒や罠、爆薬を駆使して、ダメージを蓄積させる者もいれば、一角白馬ユニコーンが曳く戦車で縦横無尽に駆け回って魔人を翻弄して、仲間をサポートする役もいたらしい。

 何より、私が憧れるのは、ビル一棟すら消し飛ばせる魔人の魔術を打ち消したと言う、凄腕の魔術師だ。

 守りだけではなく、攻撃の魔術も桁違いで、魔人が自分の肉から生み出した百体近くの雑兵を一瞬で灰燼に変える爆炎を、たった十秒の詠唱で熾したしたそうだ。

 火炎属性と相性が良い私としては、ぜひ、こうなりたい、と思っている」


 一方で、紅壱は瑛が「七人」と連呼した事で、とある恐怖の記憶が蘇りかけていた。


 (いや、まさかな・・・・・・有り得ない、とは言えないが・・・・・・マヂか)


 自分が知っている七人なら、魔人に辛勝できるだけの実力が当時、あっても不思議じゃない。

 これもまた、会長達に知られる訳にはいかないぞ、と彼女に秘密を作る事に罪悪感が芽生えた紅壱だった。しかし、バレたら、自分が魔王を宿している事に次いで、面倒臭い事態になるのは目に見えている。さすがに、それをフォローできるだけの能力がない、と自覚できるだけの能力を、紅壱は持っていた。


 「出来れば、今後、誰も魔人にならないといいですね」


 「まったくだ。魔王に大きく劣ると言っても、町一つを消し飛ばせる存在など、今の『組織』では、太刀打ちできん」


 厳しい物言いで『組織』に辛辣な意見をぶつけた瑛を、背後から優しく抱き締め、それ以上の暴言を諫めたのは、恵夢だった。


 「準備できたよ」


 「!! 申し訳ありません。全て押しつけてしまいました」


 瑛が青褪め、振り返るや、恵夢に平謝りし始めたので、慌てて、紅壱と夏煌も倣う。

 どうやら、恵夢は瑛が意気揚々と、紅壱らに魔晶について講義をしている間、黙々と仕事の段取りをしてくれていたようだ。


 「大丈夫だよぉ。そんな大変じゃないし」


 温厚な笑みで、恵夢に許されてしまっては、瑛も小さくなるしかない。


 「いや、会長は悪くないっす。

 元はと言えば、俺が魔晶について質問したからであって」


 「!! いや、君は悪くない。

 新人の君が、魔晶について興味を持つのは当たり前であり、その疑問を解消するのは先輩である私の義務だ。

 だから、悪いのは端的かつ分かりやすく説明が出来なかった私だ」


 「いや、俺っす」


 「私だと言っているだろう」


 「俺ですって」


 「私だ、非があるのは」


 バカップル感丸出しで言い争う二人に、今度は夏煌の髪が怒りでざわめきだす。

 犬耳が生えかけた後輩を止め、恵夢は瑛と紅壱を自分にしか出来ない方法で落ち着かせた。

 いきなり、恵夢から抱き締められ、頬に柔らかく温かなものを押しつけられた二人は言葉を失い、呼吸すら忘れてしまう。下手に深呼吸すれば、肺いっぱいに恵夢の巨乳から漂う、ミルクのような甘い香りが満ち、幸福な気持ちのままで失神していたに違いない。


 「ちょ、メグ副会長、ギブっす」


 巨乳に顔をいつまでも埋もれさせていたい、その欲求もあったが、瑛が目の前にいる以上、だらしなくなる面は曝せない。歯を食い縛って、エロ心に傾く自分へ延髄蹴りをかまし、黙らせると紅壱は頬を恵夢の柔い餅から引き剥がそうとする。


 (ビ、ビクともしねぇ!!)


 必死に足掻くも、恵夢の拘束から逃げられないのは瑛も同じようだ。


 「反省したぁ?」


 「しました!! しましたから、もう離してください、先輩ッ」


 同性であっても、性的な興奮を与えるらしい、恵夢の豊かなバストは。むしろ、自分の胸と比較してしまい、落ちこませる分、攻撃力が高いのだろう。


 「ヒメくんも、アキちゃんと仲良くできるぅ?」


 「できます、できますから」


 仲が悪くなっていた訳ではないが、ここはそう言っておかないと、恵夢は拘束を解いてくれそうもなかったので、紅壱は反省の言葉を繰り返す。

 しかし、彼が首を振ると、頬を胸の先に擦りつけてしまう事になるので、恵夢はつい、「あんぅっ」と甘い啼き声を漏らしてしまった。

 そのリアクションに、紅壱は血の気が引くのを感じ、瑛の頭には血が上る。


 「いっ、違います、故意じゃないっす!!」


 仲直りをさせようとしているのに、自分の所為で、二人の仲が険悪になりそうになったので、恵夢は慌てて、彼らの頬をますます強く、自分の胸に押しつける。


 「嘘っ」


 「えっ」


 傍目から見ていると、恵夢が瑛と紅壱を窒息死させようとしている、そんな絵面に、夏煌は唖然としていたが、不意に我へ返るや、自らの胸部へ手を持って行った。しばらく、そこを擦るも、この感触では紅壱をドキドキさせられない、と理解した、否応も無く。

休息と魔晶に頼らず、魔力を快復させる方法、それは、他の術師や怪異から魔力を吸収する事だった

一見、チートな能力ではあるが、何事も良い面ばかりではない

人間の術師と怪異の魔力は質が異なるために、あまり、大量に吸収してしまうと、その術師は魔人と化すリスクがあったのだ

かつて、大暴れした魔人から民を守ったのは、『組織』・・・ではなく、『組織』に危険視されていた七人であった

その七人について興味津々な瑛の隣で、七人についての見当がつく紅壱は焦りを隠すしかないのだった

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