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とある生徒会長の本音は日誌だけが知っている  作者: 『黒狗』の優樹
生徒会の仕事は地味な方が重要
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第七十八話 積屍(carcass) 紅壱たち、小屋の中に積まれた魔属の死体に驚く

失神していた鳴は目を覚ますや、瑛から引き剥がすべく、紅壱に攻撃を仕掛けた

瑛は柳眉を逆立てるも、紅壱は自らの器のデカさを示すべく、怒りをぐっと堪えて、鳴の非礼を笑って許すのだった

そんなこんなで、紅壱らは作業小屋に到着する。その小屋は、一般の生徒に発見されぬよう、術によって隠蔽されていた

瑛はその事を説明すると、大胆にも紅壱の手を取って、小屋へ先導していく

 夏煌の思考が推察でき、愛梨は苦笑しつつも、「まぁ、分かるけどな」と呟く。

 自分も、想う相手が他の女子と仲良さげに話していたら、理由もなく苛立ち、茶化す態で話に割り込んでしまうかもしれない。他の女子から、まだ怖がられ、蔑視されているので可能性は低いと頭では理解していても、心は不安の靄で包まれてしまう。それが乙女である。


 「おいおい、転ぶなよ」


 「皆、待ってよぉ」


 さっさと先に行ってしまうメンバーらを、恵夢は歩くペースを早め、追う。

 瑛が紅壱と手を繋いだ所を見て、キャパを容易く超えてしまったショックで硬直してしまっている鳴の襟首を掴んで、引きずっているとは思えぬ速さである。普段から、大型トラックのタイヤを腰に巻き付けた紐の先に結わえ、引きずって走る事で鍛えた脚力と、粘りのある下半身の賜物であろう。

 恵夢に襟首を掴まれ、引っ張られている事で、それなりの不快感はあるはずだが、半ば失神してしまっている鳴は無反応だ。

 目は虚ろで、すっかりと乾いた唇は痙攣している。そんな彼女の地面に付いた踵は地面に線を引き、それにはコミカルさが宿っていたが、今の鳴の状態を見てしまうと、逆に途切れぬ、真っ直ぐなそれが彼女の心の不安定さを正確に表現しているようで、ゾッとしないものがあった。


 「メイちゃん、いい加減、起きてよぉ」


 その場に放置していくわけには行かなかったとは言え、さしもの恵夢の声にもうんざりそうな色が籠っていた。



 「会長、これは」


 小屋に入った紅壱は、中にある物を見て、少なからず驚いた。無表情の夏煌も、強張っているのが一目瞭然だ。表情が変化していないのは、鳴だけだが、それは単に我を失ったままだからだろう。

 自分らの目前に積まれている物が、何であるか、それは理解できるので、瑛に尋ねる必要はない。しかし、それがここにある理由が推測できなかった。


 「これは、今回、学園を襲撃した下位魔属の一部だ」


 戸惑う紅壱を嘲笑せず、瑛はそっと持ち上げる、ゴブリンの頭部を、魔属の骸の山の頂から。


 「・・・・・・」


 「あぁ、大神の言う通り、怪異は退帰の処置を施し、エネルギーを境界線のあちら測へ戻さねばならない」


 そのゴブリンを、瑛は己の得物で首を刎ねたのか、切り口は見事だった。世界最高の剣士である沼に「斬り方」を指南されていた紅壱だからこそ、一瞥しただけでも、瑛の技量の高さに舌を巻けた。

 彼も剣技には自負があったが、この域には、まだ到達できていない、と思っていた。しかし、彼は木刀で女性の太腿と同じくらいの直径がある鋼の円柱に切り傷を刻める。なので、瑛がそれを知ったら、己の未熟さを恥じるに違いない。

 高く積み重ねられている魔属の骸は、そのゴブリンのように切断されている個体もあったが、中には殴られて変形、もしくは叩き潰されているオークや、胸を射抜かれているコボルド、外傷はないが色褪せているスケルトンもあった。他にも異なる倒され方はあったが、大体はその四パターンだった。


 (ほとんどは会長がぶった切ってるけど、中にゃ刀じゃなくて、ナイフで首を掻っ捌かれてる奴もいるな・・・・・・ナツか。

 殴った痕は多分、エリ先輩か、メグ副会長だろうな)

 

 貫通の傷は、魔弾による攻撃だろうか、と予想が出来たが、色褪せはどんな倒され方をしたのか、解からなかった紅壱。聞くは一時の恥聞かぬは一生の恥、なので、彼は遠慮せず、瑛に質問した。


 「このスケルトンは、どう倒したんですか?」


 聞きながら尋ねた紅壱は試しに触ったスケルトンの骨が、随分と脆くなっているのに仰天する。触感はおが屑やおからに近かった。


 「それは、メイちゃんが光属性で浄化したんだよ」


 「浄化・・・なるほど」


 この色褪せは、活動エネルギーである魔力を搾り取られた事によるものなのだろう。


 やはり、鳴は天使をパートナーにしているだけあって、光属性の攻撃が得意なようだ。


 (厄介っちゃ厄介だな)


 不意打ちなどせずとも、真正面から、一撃で鳴を倒す自信はあった。しかし、曲がりなりにも瑛に実力を認められ、なおかつ、今回の襲撃で活躍しているのだ、油断は出来ない。怪異を浄化できる光属性が得意と判明ったならば、尚更だ。

 光属性の魔術による浄化が、人間にもダメージを与えるのか、それは現時点ではっきりしない。しかし、自分はアバドンが中にいる。鳴の実力では有り得ないだろうが、もしも、彼女に“毒”が届いてしまう事になったら、冗談じゃ済まない。

 即座に排除したい、それは本音だが、鳴がいなくなれば、瑛が悲しむだろうな、と紅壱は思ってしまう。

 自分に対してキツく当たる鳴に厳しく接してはいるが、何だかんだで、可愛い後輩として見ているのだ。そんな鳴が自分の前から姿を唐突に消せば、聡明な瑛は確実に何かがある、と判断し、自分が実行犯である事に辿り着くだろう。


 (最も、嫌なのは、会長が俺が犯人だと知って、真実に目ぇ瞑っちまう事か)


 紅壱はこう想う、瑛は常に己が正しいと信じる路を、何の負い目も無く邁進するからこそ美しいのだ、と。自分は、そんな苛烈さと清廉さを併せ持った女帝に恋い焦がれるのだ、と。

自分に傷を付けられる相手を放置するのは不安だったが、瑛を穢したくない、その気持ちの方が強い以上は、脳内会議をする必要性すらない。


 (豹堂の事は後回しだ。

 とりあえず、今は実力を上げて、知識も付ける、それに専念しよう)


 コクリと肯いた事で、紅壱はふと、気付く。どうやら、夏煌も彼より先に気付いていたらしく、鼻を小刻みに動かしていた。

 

 「こんだけの死体があるのに、悪臭がしませんね」


 魔属の死体は、人のそれと違い、日数が経過しても腐らないのだろうか。


 「・・・・・・」


 「ん?」


 紅壱に良い所を見せるべく、周囲を観察していた夏煌に袖を引かれ、とある一点に目をやった紅壱。

 そこには、小瓶が置かれていた。サイズは250mlのペットボトルほどで、中には浅葱色の液体が入っていた。光の透過具合からして、水ではなく、精油かもしれない。蓋は開いており、小瓶には線香ほどの細さと長さの枝が入れられていた。


 「あっちにもあるな・・・そっちにもか」


 夏煌の袖引きに合わせ、視線を動かすと、同じ小瓶が三つあった。計四つのそれを繋ぐようにして、中身の精油を垂らして引いた線が正方形となっている。その正方形の中にある事で、魔属の死体からは悪臭が立ち昇っていないようだ。


 「これも、光系の魔術ですか?」


 「あぁ、メグ先輩が品質保持の効果を与えたアロマオイルで囲むと、中に入れた物は腐らなくなるんだ」


 「私のレベルじゃ、三日が限界だけどねぇ」


 「それでも凄いっすよ」


 どうやら、愛梨は苦手らしい。魔力が少ないからなのか、相性が良くないのか、両方なのか。しかし、愛梨はその手の作業が不得手である事を苦手と認めているが、恥とは思っていないようだ。

 それは開き直っている訳じゃなく、その仕事を手伝えない分、他の作業で頑張る、と決めているからだろう。

 その前向きさには好感が持て、紅壱は愛梨の事を見直す。


 (シュウイチが認める訳だ、胸のサイズの割に)


 紅壱は顔に出していなかったと思ったのだが、野生の勘で、嬉しい言葉と失礼な言葉を同時にキャッチしたようで、バッと紅壱の方を愛梨は見てきた。


 「な、何すか、先輩」


 ギョッとした後輩に、愛梨は逆に気不味くなったようで、「いや、すまん」と頭を掻いて、死体の山に目を戻す。彼女に注意を外され、紅壱は安堵し、次からは気を付けよう、と自戒する。


 「光系の魔術で、品質を保てるとなると、逆の闇系だと、腐敗を早める事も出来るんでしょうね」


 「その通りだ。分かっていたが、辰姫、君は察しが良いな。

 そのような直感は、鍛えても会得しづらいものだ。誇って良いぞ」


 「うっす」


 他人から純粋な褒め言葉を貰えれば、嬉しいもの。それが、心底、惚れている女から笑顔で貰えれば、単純な男は天にも昇りそうになる。紅壱は瑛の賛辞に無骨な返事をしただけだったが、本当はガッツポーズ、いや、昇〇拳を繰り出したい衝動を全力で押さえつけていた。

 彼は、ちゃんと、自分の実力を把握できていた。歓喜で、一瞬でも集中と制御が乱れ、闘気を拳と一緒に突き上げてしまったら、この小屋の屋根には大穴が空いてしまう。


 「さて、話を戻そうか。

 豹堂、何故、ここに魔属の死体の一部を保管しているのか、君なら答えられるだろう」


 慕っている相手が、名誉挽回のチャンスをくれたのなら、呆けている場合じゃない。

 ハイッ、よく通る声で返事をした鳴。彼女は紅壱に一瞥すらくれずに瑛が望む答えを迷ったり、言い淀んだりする事無く答えた。

 鳴は、あえて、紅壱に対抗心と余裕を顔色で見せつけない事により、いけ好かない男の神経を逆撫でし、この後にするであろう仕事のミスを誘おうとしていた。だがしかし、紅壱には通じていなかった。

 違う状況であれば、紅壱も鳴の悪辣な意図を読み取り、呆れかえっていただろうが、残念な事に、今の彼は怪異の骸を退帰させずに保管していた理由の方が気になっていた。なので、瑛の質問に対する答えが知れるなら、別に鳴の口からでも構わなかったのだ。

 自分が無様な独り相撲をしているとは気付いてもいない鳴に、恵夢、愛梨、そして、夏煌は同情せざるを得ない。

 夏煌は思った、自分は瑛がライバルとして向かい合ってくれるだけ、恵まれているんだな、と。


 「会長たちが、魔属の死体を全て退帰させずに、一部を残していたのは、魔晶を作成するためですよね。

 この量であれば、ランクCの魔晶が完全な状態で、3つは作れると推察します。

 ランクDに質を落とせば、10個作る事が出来ます。

 形の完全さに拘らないのであれば、ランクB⁻も作れます」


 自信ありげな鳴の答えに、「ふむ」と満足げに頷いた瑛は問いを重ねる。


 「ランクCと判断した根拠は?」


 「素材が、ゴブリン、オーク、コボルド、スケルトンだからです。

 中にはジョブ持ちがありますが、下位種族である以上、完全な状態に拘るのなら、ランクCの壁は越えられない、と考えます」


 正解だ、と瑛に褒められ、拍手を贈られた鳴。瑛に責任を転嫁する訳ではないが、それが鳴を調子に乗らせてしまった原因である事は否めない。


 「もしも、どっかの役立たずな誰かさんが、『夏暁』のカガリを逃がさず、せめて、指の一本でも死ぬ気で噛み千切っていたなら、それだけでランクB+の魔晶が作れていたと思うんですけどね!!」

瑛が紅壱と手を繋いだ、それにショックを受けたのは、紅壱に惚れている夏煌、瑛を敬愛している鳴だった

前者は、ライバルに負けないよう、今日の仕事を頑張る、と気概を漲らせ、後者は受け入れがたい事実の前に気が遠くなってしまう

小屋に入った紅壱らは、中に大量の魔属の死体が集められていた事に言葉を失った

瑛に問われ、良い所を見せようとした鳴は、魔属の死体を瑛たちが保管していた理由を言い当てるも、調子に乗り過ぎて、またしても、紅壱を貶める発言をかましてしまった

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