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とある生徒会長の本音は日誌だけが知っている  作者: 『黒狗』の優樹
生徒会の仕事は地味な方が重要
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第七十七話 小屋(cabin) 紅壱たち、作業小屋に到着する

恵夢からの追求をどうにか、愛梨はやり過ごす事に成功する

安堵する一方で、彼女は恵夢に、紅壱は自分達に対して、壁を作っているのではないか、と相談した

紅壱が一線を引いているのは、恵夢も気付いていた事なので、瑛がその線を踏み越える、もしくは、紅壱を強引に自分の方へ引っ張ってくれる事を期待していた

また、愛梨は紅壱に、瑛に負けないほど惚れている夏煌の恋が破れてしまう時の事を考えると、つい、溜息が漏れ出てしまう

そんな折、鳴が目を覚ましてしまった!

 「いってぇ」


 普通の人間なら背骨が折れても、何ら不思議ではない衝撃を、最低限の闘気でしか覆っていない状態で受ければ、つい、紅壱も痛かったと認める言葉を発してしまう。しかし、その痛みも、ワイシャツのボタンを自分で付けている時に、指の腹を針で刺してしまった時と同じくらいだった。

 どんだけ、こいつ、頑丈なんだよ、と驚いてはいけない。紅壱に体当たりしたからこそ、鳴は平気でいられるのだ。もしも、何かの間違いで、修一に全力で衝突していたら、鳴の体は、いくら、魔術で強化していたとしても、入院レベルの怪我を負っていたに違いない。

 勝ち誇ったような笑顔を、紅壱へ向けた鳴は瑛を見る、まるで汚れた目を洗い流すように。しかし、次の瞬間に、鳴の瞳に映ったのは、不機嫌さが隠れていない、それどころか、濃く出過ぎている瑛の顔だった。

 仲間との絆をより強めるべく、基本的に、感情を隠すことなく、表に出すよう心掛けている瑛だが、ここまで侮蔑の色を出す事は少ない。それが、自分に向けられるとは露も思っていなかった鳴は戸惑う。


 「か、会長?」


 自分が瑛を怒らせるような事をしたとは、微塵も自覚していないからこそ、この反応リアクションなのだろう。


 「豹堂、君は・・・」


 瑛が不機嫌さを隠せなくなるのも、当然だ。紅壱が突き飛ばされ、なおかつ、彼がいた位置に鳴が強引に入ってきたと言う事は、今、夏煌だけが紅壱に密着している事になるのだから。

 例え、片側だけでも、好きな相手に体をくっつけていられる、それは僥倖で満悦を覚えられる時間だった。自分を、いささか過激な面はあるにしても慕ってくれる後輩でも、やられてカチンと来てしまう事はあるのだ。

 瑛も、自分の中に、こんな憤懣の念が発するスイッチがあるとは思っていなかった。しかし、それを押す事に、今の瑛には躊躇いがなかった。けれども、怯えている鳴を一喝しようとした瑛をやんわりと落ち着かせたのは、誰でもない、紅壱だった。


 「いいっすよ、会長」


 突如、怒りに思いがけずに水をかけられてしまい、その矛先は攻撃対象を見失い、フラフラとしてしまう。


 「辰姫、しかしな」


 「会長を独占してた俺も、悪いんすから」


 苦笑いを浮かべながら、痺れている背中を擦った紅壱は、自分に尖った眼光を突きつけてくる鳴に「次はねぇぞ」とドスの効いた声で釘を刺した。


 「・・・・・・」


 瑛を紅壱から遠ざけてくれた、その結果には感謝するも、やり方は黙過できるものではなかったようで、夏煌も鳴に警告する。

 こっちの台詞よ、と言い返したかった鳴だが、さすがに、口撃したら、瑛の中で自分の評価がまた下がりかねない、と危機感を覚えたらしく、舌を突き出すのも堪える。そうして、再び、気分の一新を図るべく、瑛に向き直る。

 今度、鳴の瞳に映ったのは、瑛の赤らんだ頬だった。

 唖然とし、紅潮している瑛は、今までで最も美しい、いや、色っぽいと表現するに相応しい表情で、鳴は見惚れてしまう。その一方で、彼女の心中には、形容しがたい真っ黒に穢れた感情が生じる。

 それは、あまりにも多くの気持ちと思考が混ざり合い過ぎており、名など付けられるものではなかった。しかし、少なくとも、紅壱への敵意もとい殺意が大部分を占めているのは間違いなかった。


 「いつっ」


 自分でもコントロールできない、いや、制御する気も起きない感情が波打った拍子に、鳴はつい、力加減を間違えてしまったようで、瑛の腕を強く締めてしまったようだ。

 皮肉にも、瑛は痛みで、鳴は大事な人が発した声で、我に返ったようだ。


 「す、すいません、会長」


 青褪めて謝りながらも、瑛の腕は決して離さない鳴に紅壱らは呆れる。


 (百合な女子を悪く言うつもりはねぇが、コイツのこれはヤバいよなぁ)


 「大丈夫だ・・・しかし、さすがに歩き辛い。離してくれると助かるな」


 瑛からの、柔和な物言いだからこそ、断固とした拒絶に鳴は傷ついたようで、離した、と言うより、勝手に手の力が抜けたようで、彼女は瑛から距離を取る、危なっかしく後ろによろめいて。

 そんな鳴を、事態を静観していた愛梨が支えてやる。


 「ほれ、しゃきっとしろ。今から、仕事なんだ。

 ビシッと仕事して、名誉挽回すりゃいいだろ」


 愛梨に小声で励まされたおかげで、鳴の精神はほんの少しだけ快復したようで、虚ろだった目に光が戻る。同時に、一帯を淀ませていた魔力も掻き消え、対応手段を講じようとしていた恵夢はホッとする。

 下手すれば、こいつ、俺らを魔力で攻撃する気だったんじゃないだろうな、と戦慄しながら、紅壱は鳴の事を半ば強引に意識の外へ追いやって、瑛が自分らに追いついてくるのを待ってから、道すがらで気になっていた事を尋ねた。


 「そう言えば、会長、俺ら、何すりゃいいんですかね。

 力仕事だったら、エリ先輩で十分だと思いますけど」


 「誰が脳筋で女子力がマイナスな牝ゴリラだ!!」


 「どんだけ、被害妄想と空耳アワー拗らせてるんすか!?」


 愛梨が放ってきたナックルアローをギリギリで躱した紅壱の額からは、大粒の汗が飛んだ。修一なら避けず、腕で防御ふせげただろうが、咄嗟の判断で、紅壱は回避を選択した。当然、その行動は正しかった。


 (ヤバかった。下手に腕でガードしてたら、骨グシャグシャだったな。マジに、牝ゴリラじゃねぇか、この先輩)


 闘気、いや、闘氣で覆っていても、亀裂くらいは入っていた、と直観できるほどの風切り音を、当て損なった愛梨の拳は立てたのだ。

 これまでの怪異退帰の任務で、愛梨が打撃で怪異をKOした姿を何度も見ているだけに、自分の腕の骨が一般的な外科手術では治せない状態になったであろう、と容易に想像できた。

 任された持ち場が違っていたし、カガリと下位魔属の軍勢との連戦で疲れ切っていたため、愛梨の戦果も見ていないが、恐らく、ゴブリンの頭部も木端微塵にしたのだろう。


 「エリ、非戦闘時に、アイテムで攻撃力を上げるな、と言ったら、何度言ったら分かるんだ」


 瑛からの叱責に、愛梨は唇を尖らせた。


 「だって、コーイチが、アタシを女扱いしないからよぉ」


 「彼は別に、お前を女扱いしなかった訳じゃないだろう。

 事実、エリの腕力、打撃力は魔術や道具で強化せずとも、生徒会の中で一番なんだ。

 辰姫は、それを正しく評価かつ賞賛しただけだろう。なぁ?」


 ここで、瑛の言葉に同意してしまうと、結果的に愛梨を腕力しかないキャラだと認めてしまうに等しいので、紅壱は口籠ってしまう。けれど、それも肯定に等しい。


 「コーイチ、今度は避けるんじゃねぇぞッ」


 「こらこら、もう、目的地に到着ついたんだから、喧嘩はおしまいにしなさい」


 テレフォン、だが、強烈な右パンチを繰り出す構えを取った愛梨を、恵夢は後ろから抱き締める。例え、力で振りほどくことは出来ても、背中に巨乳を押しつけられたら、同性だって、たちまち、その軟らかさに怒気も毒気も吸収されてしまう。

 

 「エリちゃんは、今まで、そのパワーで皆を助けてきたじゃない。

 コンプレックスに感じる事ないよ。

 林檎を素手で潰せれば痴漢も素直に自白するし、栓抜きが無い時でも、瓶ビールの栓を指で剥がして、お酌してあげられるじゃない」

 

 さすがに、この時ばかりは、全員の「それ、フォローにも、慰めにもなってない」と心の中から飛び出し、背後に出現したツッコミが一致した。

 ともあれ、恵夢の言う通り、目的地には到着した。

 瑛が目指していたのは、森の中に建てられているプレハブ小屋だったようだ。平屋で、広さは10畳ほどだろうか。もしかすると、内側は魔術により拡張されているかもしれない、と紅壱は期待してしまう。


 「ちなみに、辰姫、あの小屋が見えているな」


 「・・・・・・一般生徒には見えないようになっているんですね」


 紅壱の察しの良さに、瑛は鳴が札束をカウンターに積む事も厭わないほどの笑顔になる。


 「そうだ、生徒会役員だけが、あの小屋を視認できる」


 豹堂、何故か、答えれるか、と瑛が優しい笑顔を向けてくれた時の、鳴を昇天させた歓喜は凄まじかった。


 「豹堂?」


 鳴が酸欠状態になっているのに気付き、眉を顰めた瑛。その反応で、このままだと帰されてしまう、と危惧した鳴は驚異的なメンタルコントロールで動揺と歓喜を鎮め、心拍数も平時のそれまで戻すと、一つ咳払いしてから、自らの生徒会証を出す。


 「これに付加されている魔術の効果ですね。属性は光でしょうか」


 「正解だ。

 あの小屋の周囲には、隠蔽と認識阻害の効果を発揮する、闇属性の結界が展開している。

 それを、この会員証に施されている光系の魔術で打ち消しているのだ。

 当然だが、携帯していない状態だと、入室も出来ないから、注意するように」


 コクリと肯く一年生’sの横で、愛梨は「そうだっけな」と懐かしそうに、遠くを見た。恐らく、彼女は一年生の時に、その注意を忘れて、入れなかった事があり、先輩に説教された経験があるのだろう。


 「って事は、今日の仕事、あの小屋の掃除ですか?」


 仕事に小さいも大きいもないと思っている紅壱ではあるが、あのサイズの小屋の掃除に、何も全員で来る必要はなかったのでは、と思った。


 (いや、でも、本当に空間が拡張されてて、体育館くらいになってるなら、この人数でも足りないか?)


 紅壱が何を考えているのか、読めたのだろう、恵夢は「違うよぉ」と手を左右に振る。


 「今日、ここに来たのは、お掃除の為じゃないよぉ、ヒメくぅん」


 「まぁ、綺麗にするって意味じゃ合ってるけどな」


 愛梨の含みがある言い方に、紅壱と夏煌は顔を見合わせ、首を傾げた。当人らは意識していなかったが、その同じ動きを見て、瑛は心に棘が刺さったような気分になる。

 何とか、嫉妬の感情を先輩としての威厳で落ち着かせた瑛は、「さぁ、行こう」と紅壱の手を取って、進む事を促す。

 まさか、瑛が自分から、こんな大胆な行動に出るとは思ってもいなかった夏煌は紅壱の手を掴み損ね、唖然とした顔で、その場に立ち尽くす。


 「・・・・・・・・・」


 言葉も出ない夏煌の小さく震える肩へ、愛梨はそっと手を置いた。


 「ナツ、お前の気持ちは知ってるから、あいつらを見て諦めろ、とは言えない。

 安っぽい同情で、応援もしたくない、

 けど、アキはお前が思ってるよりも強くて、自分に正直になれる奴なんだ。

 アイツに勝って、欲しい物を手に入れたいなら、ぶつかっていくしかねぇよ」


 「・・・・・・・・・」


 「よしっ、その意気だ。

 とりあえず、今日の仕事を真面目に頑張って、コーイチにアピールしろ」


 「・・・・・・・・・」


 「いやいや、体よくお前に仕事を押しつけようなんて思っちゃいねぇよ!?」


 図星を勘が鋭い夏煌に突かれ、愛梨は漫画やアニメのように、分かりやすく目が泳ぎ、下手な口笛を吹き出す。そんなコミカルさに、夏煌は自然と励まされ、胸の前でグッと小さな両拳を握りしめた。元気が出たらしい後輩に、釈然としない気分になりつつも、愛梨は「さて、頑張るか」と、背中をそっと叩いた。


 「!!」


 本人は優しくしたつもりであったが、小柄な夏煌にとっては相当な衝撃だったらしい。背後からの衝撃に踏ん張り損ね、つんのめってしまう。もしも、愛梨が目にも止まらぬ動きで前に移り、受け止めていなかったら、顔面から硬い地面にぶつかっていただろう。


 「悪ぃ、大丈夫か?」


 「・・・・・・」


 ぷくっと頬を膨らませた後輩に、愛梨は反省の色が見られない笑顔を見せた。

 呆れつつも、夏煌は愛梨を大きな心で許し、今度は背中を叩かれないよう、足早に小屋へ向かう。たとえ、短い時間でも、紅壱と瑛を二人きりに近い状態にはしたくないのだろう。

気絶から目覚めるなり、紅壱に体当たりをかまし、瑛から引き剥がした鳴

紅壱と強引に離された瑛は、鳴にお仕置きをしようとするのだが、紅壱が意外にも、彼女を庇う

彼だって、瑛との距離が開き、ショックではあったが、ここで憤慨すれば、鳴に器が小さい男、と嘲笑されるのは火を見るよりも明らか。故に、彼女のちょっかいを笑って許す事で、紅壱は瑛に度量のでかさをアピールする方を選んだのだった

そんなこんなで、本日の作業を行う小屋に到着した一同

果たして、この小屋で、紅壱達は、どのような作業を行うのか

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