表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
とある生徒会長の本音は日誌だけが知っている  作者: 『黒狗』の優樹
瑛vs夏煌、ラブバトルのスタート
73/453

第七十二話 斥候(scout) 紅壱、もう一人の生徒会役員について聞かされる

あえて、厳しい態度で紅壱を突き放した瑛だったが、彼のショックを受けた表情に、慌てて、弁解をしてしまう

瑛が紅壱に一人で生徒会の表の業務をなるべくやらせようとしたのは、彼に男子生徒と女子生徒の繋ぎになって欲しい、と言う意図があったからだった

惚れた女の望みは叶えてやりたくなるのが、漢である。紅壱は改めて、生徒会の黒一点として頑張っていく決意を硬くするのであった

表の業務についての話し合いが一区切りついたところで、話題は、町の人々を不安にさせている連続不審火事件へと移る

 強烈つよい上に冷たい雨に打たれているような、理不尽な都合で捨てられた仔犬のような(と言っても、そう見えるのは、瑛だけだろう)顔色になってしまった紅壱に、瑛は胸が痛んだが、持ち前の高い精神力で意見を翻しそうになるのを堪えた。


 「以前にも頼んだが、君には生徒会の、唯一の男性メンバーとして、男子生徒と女子生徒の橋渡しをしてほしいのだ。

 そんな君の、女子からの評価が悪いのでは、良い結果が出ない。

 辛い思いをさせてしまう事に関しては申し訳ないと思うが、頑張ってみてくれ」


 頼む、と瑛に頭を下げられ、手まで合わせられてしまう紅壱。

 もちろん、彼は瑛が惚れるだけの内外揃ったイケメンなので、「おっす、頑張ります」と己の胸板をガツンッと叩いた。

 ゴリラのドラミングか、大型二輪バイクの衝突音か、と思うような音が、紅壱の大胸筋から発せられたものだから、皆、吃驚してしまう。

 各々のリアクションが面白く、自然と生徒会室は朗らかな笑い声に満たされた。


 「よし、表の業務のスケジュールは、こんなところだな。

 では、続いて、裏の業務について話し合おう」


 待ってました、とばかりに紅壱の口角が吊り上がる。

 ヤの付く自由業、しかも、それなりに上の立場に就いている者ですら、パンパンに膨らんだ財布を取り出して許しを乞いそうな笑みですら、瑛には噛み応えのある骨を優しい飼い主から貰えた仔犬のように見えるのだから、つくづく、恋愛真っ最中の女子と言うのは・・・・・・


 「今回の任務は、どんなだ?」


 「任務になる、とは断言できない。

 今、調査中なのでな」


 そう前置いてから、瑛は一枚のチラシを紅壱に差し出す。

 受け取ったチラシが、見覚えのある内容だったので、紅壱は素直にその旨を告げた。


 「これ、俺が住んでるアパートに回ってきた回覧板に入ってました」


 それには、ここ最近、町内で立て続けに発生している不審火に対する注意が記されていた。朝、出る間際に紅壱と洲湾が会話した話題である。


 「怪異の仕業なんですか?」


 「そうとも言い切れないの。

 昨日、小学校の近くにある公園の木が燃えたのが十件目になるんだけど、残留魔力が確認できたのは、今のところ、その内の三件だけなの。それも、かなり微弱で、悪さをしている怪異の正体が特定できてない、と言うより、本当に怪異が火を着けてるって言い切れない」


 「つまり、人間の放火犯の仕業、そいつが怪異を偶然召喚しかねないストレス、もしくは興奮の感情を溜めている、その可能性もある、と」


 小さく頷き返し、瑛は双眸に憤りの烈火を宿らせる。正義の心が滾っているのか、胸の前で力強く握りしめた右拳もプルプルと震えていた。


 「仮に、偶喚が起きる可能性が低いとしても、町内に恐怖を与える不届き者は放置できん。

 なので、怪異の関与が確認でき次第、不審火が出た場所を中心に、パトロールをしたい。

 反対の者はいるか?」


 誰も手は挙げず、首も横に振らなかった。


 「ありがとう。

 では、報告が来るまでには、ペア決めをしておく」


 「会長、私とコイツだけは、絶対にペアにしないでください!!」


 本気の嫌悪感を剥き出しにして、瑛に詰め寄って訴えている鳴には一瞥もくれず、紅壱は恵夢に尋ねた。


 「そう言えば、誰が、その調査をしてるんですか?」


 紅壱が自分に聞いてくれなかった、それがショックだったのだろう、瑛の顔がキツく強張る。鳴はそれに気付いたが、紅壱の方に行かせてなるものか、と進路を体で塞いでしまう。さすがに、後輩は突き飛ばせず、瑛は顔にこそ出さないが、心の中では狼狽していた。

 鳴の醜い独占欲に呆れつつも、あまり早急に親密になってしまうのも、応援したい側からすると、面白味が減ってしまうの。なので、恵夢は「少し離れておくのも大事だよね」と瑛を助けようとした、もう一人の自分を説き伏せた。


 「やっぱり、『組織』に、その手の専門の役目がいて、派遣されてくる感じっすか?」


 「大きい事件となると、そういう事もあるけど、今回は規模が町内だから、生徒会役員でやるの」


 「じゃあ、休ませてもらった分、俺が」


 「それは大丈夫。もう、一人、動いてるから」


 「じゃあ、サポートくれぇは」


 鳴のようにガツガツとするつもりはないが、瑛の役に立ちたい、その気持ちは譲れない、俺の方が強い、と自負している紅壱。彼は、少しでも休んでいた分を取り戻したかった、瑛は気にしていない、と解かっていても。


 しかし、恵夢は申し訳ない、と言うよりは、困ったように口の端をほんのちょっとゆがめ、「それもいらないかなぁ」と首を横に振った。


 「・・・・・・一体、誰が調査しらべてるんですか?」


 鳴ではないだろう。もし、彼女ならば、自分の仕事に手を出されたくないから、必ず、全力で拒否してくるはずだ。それがないのなら、鳴は瑛に、この一件についての調査を任されていない事になる。

 他のメンバーなら、紅壱が働きたがっているのなら、手を貸してくれるよう、頼んでくるだろう。

 となれば、答えは一つしかない。


 「もしかしなくても、俺がまだ、会ってないメンバーですか?」


 「ピンポーン」


 気まずさを誤魔化したいのか、わざとおどけた調子で、恵夢は両腕で頭の上に〇を作る。


 「その人は、いわば、斥候なんすか。

 ピンで動きたいっつーか、群れるのが嫌いなタイプなんですかね?

 それとも、豹堂と同じで、俺の事を生徒会役員として認めてないのか・・・・・・会長の傍にいる事を良く思ってないのか?

 ムカつきはしますけど、豹堂みてぇに、真正面から敵意剥き出しで、ハッキリ言ってもらった方が、こっちとしてもありがたいんですけどね」


 (自分で言ってて、何か、情けなくなってきちまうぜ)


 まだ会っていない、未知のメンバーに対し、紅壱はわずかだが不信感が募ってしまう。


 「そうじゃないよ」


 すると、いくらか強い口調で、恵夢が自分の邪推を否定してきたので、やや面食らってしまう紅壱。


 「斥候役で、単独行動したいタイプってのは、間違ってないけど、別にヒメくんの事を毛嫌いしてる訳じゃないの、アンちゃんは」


 「アンちゃん?」

 「そう、燕ヶつばめがはら杏子あんこ、それがフルネーム。

 役職は、生徒会の監査。まぁ、お目付け役。

 風紀委員長も兼任してるのよ、ほら」


 そう言って、恵夢が見せてくれた委員会の情報を纏めた冊子の、風紀委員会のページには、確かに委員長の名が、燕ヶつばめがはら杏子あんこになっていた。


 「生徒会の監査と風紀委員長を一緒にやってたら、そりゃ、ここにも、そう頻繁には顔を出せないっすね」


 単に多忙だっただけなのに、つまらない勘違いで、会ってもいない人間を貶めるような言葉を口から出してしまった己が恥ずかしくなり、紅壱は目を伏せる。

 そんな彼が感じた、生真面目ゆえの罪悪感を察したのだろう、恵夢は俯いている彼の頭を優しく撫でる。もし、紅壱が椅子に座っていたら、抱き締め、自分の軟らかな巨乳に彼の苦しみを吸い込もうとしたかもしれない。


 「大丈夫、アンちゃんは気にしないよ」


 「・・・・・・そうだと助かるんですけど」


 「あー、でも、ヒメくんの推理は、ちょっと外れてるんだよね」


 「え?」


 ハトが豆鉄砲を喰らったような顔になった紅壱に、「プッ」と噴き出しそうになりながらも、先輩としての威厳で何とか耐えた恵夢は説明を続ける。


 「確かに、アンちゃんは二足の草鞋を履いていて、忙しいの。

 けど、この部屋に来ないのと、皆と一緒に任務に就かないのは、違う理由があってなの」


 「違う理由?」


 「シャイなんだよ」


 ここで、苦笑している愛梨が話に参加してきた。


 「シャイ・・・ナツと同じっすか。キャラ、被ってますね」


 「いや、大神よりも重度な人見知りなんだ、燕の姐さんは。

 なんせ、アタシも直に会った事が無いくらいだぜ」


 「一回も?」


 「あぁ」と頷いた愛梨は、「参るよな」と肩を竦めた。


 「・・・・・・」


 どうやら、夏煌もまだ、会った事はないらしい。親しい者でなければ、彼女が興味津々なのは気付けないだろう。


 「燕の姐さんに、中々会えないんで、アタシも、逆に気になってな、風紀委員室や教室まで行って、学園中を探し回ったんだけど、影も形も捉えられなかった」


 「忍者みたいな人ですね」


 ふと、紅壱はカカシに課された、「かくれんぼ」の試練を思い出す。



 あの時も、カカシに大安売りの真っ最中で、大勢の客でごった返している大型デパートを舞台とし、自分を探し出してみろ、そんな課題を出され、それに挑んだ。

 気配を完全に殺し、あらゆる人物に変装できるカカシを見つけ出すのは、闘気による探知が出来る紅壱でも骨が折れた。

 祖父のように、威圧で周囲の人間を失神させるわけにもいかないので、地道に抑えられている気配を見つけ出す、嗅覚と言い換えても良い能力を研ぎ澄ますしかなかった。

 何度か、課題はクリアできたが、それはカカシが手加減してくれていたからに他ならない。

 もしも、カカシが仕事モードだったら、自分は接近された事にすら気付かれず、命を刈り取られていたのは間違いない。

 裏社会では誰も知らない、けれど、その存在だけは確かに噂される、無名で超一流の暗殺者、それがカカシだ。

 暗殺者としての才覚が乏しい事も含め、紅壱ではカカシの足元にも及ばない。もっとも、彼の師匠は達人を通り越して、人としての枠を取り払っている所があるので、本気を出した相手に勝てない事に落ちこむだけ馬鹿らしい。

 しかし、紅壱は惨敗に本気で落ち込んで、真剣に考える、どうやったら勝てるか、を。

 それ故に、彼は男子高校生にして、師匠らが立つステージに向かう階段に両足を乗せてしまったのだ。

 一般的な感覚と常識を持っている者からすれば、修羅道を傷を重ねながら進む紅壱は哀れに映るだろう。

 だが、紅壱は周囲の評価や同情なんて気にしない。そんな暇はない、彼には。

 自分の目的を果たすには、修羅道が唯一のルートなのだから。師匠に恵まれている自分は幸運だ、普通の 高校生らしい青春が謳歌れない自分は不幸だ、なんて思っている余裕も、あえて捨てていた。

 あの時、あの場所、あの状況で、自分が決断した人生は、七転び八起きじゃ済まない道なのは承知している。それでも、紅壱は自分の物差しを杖にしなくても良い、楽な道を教えてもらうつもりはなかった。

 もし、親切な誰かが何かを教えてくれるのならば、目的地に繋がっている事だけは確定している険しい道の歩き方だけを紅壱は求め、自分の足で一歩ずつ踏み締めていくだろう。


 

 「あぁ、言い得て妙だな、忍者って表現は。

 人を探すのには、それなりに自信はあったんだけどな、あの時は凹んだぜ」


 悔しさを思い出したのか、愛梨は掌に拳をパンッと叩き付ける。


 「メグ副会長は、燕ヶ原先輩と会った事があるんですよね?」


 すると、恵夢は少しだけ傾げた首を、小さく横に振る。それだけで、彼女の胸が「たゆん」と動き、紅壱は「おぅ」と心中で唸ってしまう。

 恋愛対象は、瑛のみで、恵夢に胸を押しつけられてもスケベ心が起きないにしても、目の前で巨乳が揺れれば、心の水面にも波紋は生じるものだ。


 「私も、直に見た事ないの。

 一度、廊下の角で影は見えた事があるんだけど、すぐに見失っちゃった。

 ほんと、忍者みたいに、ドロンって消えちゃったんだよね」


 「どんだけ、恥ずかしがり屋なんですか、その先パイ。

 よく、そんなシャイで仕事が成り立ちますね」


 「個としても優秀だし、出す指示も的確だから、下からの支持は篤いんだよな、燕の姐さん。

 シャイだけど、話は面白いし、知識も豊富だから、雑談は結構、弾むしな」


 愛梨の言葉に、紅壱と夏煌は顔を合わせ、首を捻る。


 「あの、エリ先輩、燕ヶ原先パイには会った事がないんですよね?」


 「あぁ、姿は見た事ないぜ」


 「なのに、お喋りはしたコトがあるんですか?」


 「電話でも、よく喋るな。メールは、アタシの方が苦手だから」


 困惑の色が重ね塗りされた事で、紅壱の強面はより一層、一般人を脅かすものになる。それを見て、彼が?マークを飛ばしている理由に気付き、恵夢は「エリちゃん」と目配せした。それで、愛梨も自分の言葉が足りていない事に考えが至ったのだろう、「なるほど」と頭を掻く。

 けれど、説明しようとした口を閉じ、おもむろに意地の悪い表情になった。


 「ま、絶対に会えないって事はないだろうし、サプライズは取っておくか」


 「ちょ、気になるんですけど、余計に」


 「ナルと違って、燕の姐さんは男嫌いって感じじゃないし、お前を邪見にはしないだろ」


 「そもそも、アンちゃんが、アキちゃんにヒメくんの事を教えたらしいし」


 恵夢の言葉に驚きながらも、紅壱は入学時から、時折、感じていた「見られている感」を思い出す。他の女生徒が瞳や視線に込めている怯えや嫌悪とは違う感じはしたが、後期の色を向けられるのも慣れていたので、あまり気にしていなかった。


 (じゃあ、アレは燕ヶ原先輩の視線だったのか)


 何故、自分に注目していたのか、そこに疑問は芽生えるが、彼女が瑛にそれとなく、自分の事を紹介してくれたから、知って貰え、生徒会に入る事も出来た。


 「会えたら、礼言います」


 「うん、そうしてあげて」


 嬉しそうな恵夢に紅壱が頷き返したタイミングで、鳴を宥め終えた瑛がやってくる。


 「燕ヶ原先輩の話か?」


 「きっと、コーイチ、最初、ビックリするだろうな」


 「そうだな。まぁ、エリよりはマシだろう。

 いくら、魔術に明るくなかったとはいえ、あのリアクションは失笑ものだったぞ。

 いや、失笑でなく、失き」


 「よし、アキ、表出ろ」

 

 あえて、地雷を踏んで来た親友に、わざとキレた愛梨を落ち着かせる中、紅壱は「一体、どんな人なんだ?」と不安を募らせるしかなかった。

連続不審火は、人の手に因るものなのか、それとも、怪異の仕業なのか

それを調査しているのは、一年生トリオがまだ、顔合わせしていない、生徒会のメンバー・燕ヶ原杏子だった

どうやら、彼女は無口な夏煌よりも人見知りの気が強く、驚くべきことに、他のメンバーすら姿を見た事がないらしい

一体、どのような人物なのだろう、と紅壱が興味を持つ一方で、瑛と愛梨は仲良くじゃれようとしていた

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ