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とある生徒会長の本音は日誌だけが知っている  作者: 『黒狗』の優樹
瑛vs夏煌、ラブバトルのスタート
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第七十一話 邪魔(She gets in the way) 鳴、瑛と紅壱のペア結成を邪魔する

紅壱が生徒会業務に復帰する事は心から喜びながらも、瑛は彼がやりすぎる事を心配していた

オーバーキルをやらかすなら、まだいい

紅壱が自分達を守るために、己を犠牲にしてしまう事を危惧するのだった

そこで、彼女はしばらく、紅壱とペアを組んで業務に当たろうとするのだが、それを快諾できない者が一人、いた

 (うーん、残念。

 まぁ、俺も名前呼びできねぇし、非難するのはお門違いの筋違いか)


 自省しつつ、紅壱は胸の中で、「瑛」、「アキラさん」、「アキちゃん」、「アキ」、「アッキー」、瑛をどう呼ぼうか、と妄想してしまう。

 私服だと、どこかの組の最年少若頭にしか見えない紅壱にも、好きな相手の呼び方を考えるだけで気分が弾んでしまう、どこにでもいる男子高校生らしさがあるのだ。

 ちなみに、瑛の方は、「紅壱」の一択だった。あだ名で呼び合う距離感の恋人に憧れがない訳ではなかったが、「紅壱」の名は彼の両親が特別な願いを込めて、最初に彼へ贈ったプレゼントなので、自分も大切にしたい、そう思っていた。

 他のエリアで活動している、学生ハンターたちから、「炎の牝獅子」や「赤き女帝」、「闊歩する煉獄」、「インフェルノ・クイーン」と畏怖されている瑛にも、そんな乙女チックな面があった。


 「エリの確認方法はさておき、辰姫、君の体調は万全と判断して良いんだな」


 「問題ないっす」


 「では、君の言葉を信じよう・・・・・もちろん、エリの直感もな」


 ニカッと笑い返した愛梨を窘めるように、瑛は眉を寄せる。


 「まぁ、しばらくの間は、私と任務中は行動してもらうぞ。

 嫌かも知れないが、君は目を離すと、また、私達の為に無茶をしそうだからな」


 「嫌だなんて、とんでもない!

 むしろ、会長の負担を増やしちまって、申し訳ないっす」


 「そうです、会長。

 コイツは大丈夫だって言ってるんですから、別に一人でも」


 鳴は悲痛な面持ちで再考を訴えるが、瑛は躊躇いも無く、首を横に振る。その動作で、鳴は自分の首がギロチンで切り落とされたような錯覚に囚われた。

 

 「そもそも、実力があるにしても、経験の少ない新人を単身で行動させた時点で、私の過ちだ。

 だから、辰姫が任務に慣れてきた、と私が判断するまでは、一緒に組む。

 いいな、辰姫」


 女帝、そんなニックネームがついている美少女が全身から放ってくる、有無を言わせぬ威圧感を前に、爽快な気分を覚える事を優先して、NOと言える男がいるだろうか。いや、いまい。しかも、惚れたイイ女と一緒にいられるとなれば、尚更、拒否ことわる理由などない。

 またしても、愛梨と恵夢は苦笑する。


 (かなり、職権乱用してますね、アキのやつ)


 (指摘しない方がいいかなぁ、これは)

 

 (会長失格だって、舌ぁ噛み切りかねませんからね)


 (まぁ、私達で、出来る限りのフォローするしかないね)


 「・・・・・・背中を預けてもらえる強さになるまで、よろしくお願いします」


 「うむ、ビシバシ鍛えるぞ、私は」


 そう言った瑛の笑顔は眩しく、紅壱はつい、目を細めてしまう。異性だからこそ、逆に我慢できたのだろう、彼は。同性である鳴は、その笑顔で腰が抜けてしまったらしい。毒気もすっかりと消え、だらしなくなった表情で喘いでいた。

 輝愛子に次いで、関わりを深くは持ちたくない女の耳障りな声で、一層に落ちつけた紅壱は皮肉を込めて、胸中で彼女へ礼を述べた。それから、瑛に訊ねる、ほんの少しだけ、ワクワクしながら。


 「ところで、何か、仕事があるんですか?」


 新しいオモチャを欲しがる男児のようだ、そんな穏やかな感想を、紅壱の顔を見て思い浮かべられるのは、瑛にとっても、彼の容姿が好みのど真ん中だからだろう。


 「もちろんだ」


 まず、表の方、と瑛が告げた一瞬、紅壱の表情に濃く滲んでいた、荒事に対する期待が翳る。もちろん、瑛はそれに気付いたが、紅壱がすぐに頬の筋肉を引き締め直したのを見て、注意はせずに言葉を続けた。


 「校内で行う、健康診断と一回目のスポーツテストの準備および、当日の計測の補助。

 これは、保健委員と体育委員の手伝いになるので、一年生はその説明会に参加してもらう。

 風紀委員と合同で行う、生徒・教員対象の抜き打ち所持物検査の打ち合わせが明日あり、これには私と鷲尾先輩の二人で出席する。

 放課後に、今回、と言っても、毎回、ほとんど同じだが、持ち込み禁止の物のリストは渡すので、翌日、それを参考に生徒らの鞄の中身を確認してほしい。

 万が一にもないだろうが、持っていた者は停学一日とするので、職員室へ連れていってくれ。

 一年生の担当は私と辰姫。二年生はエリと大神、頼む。三年生は、鯱淵先輩と豹堂にお願いしたい」

 

 すると、例によって、鳴が抗議の声をあげる。


 「何で、また、会長とそいつがペアなんですか?」


 鳴が咬みついてくるのは予想していたのだろうが、紅壱へあからさまに敵愾心を剥き出す彼女に、つい、瑛は溜息を溢したくなる。

 どうにか、落胆の息吹を飲み下すと、瑛は右手の親指と人差し指を立てる。


 「まず、一つ目、新入生の男子生徒は、生徒会の黒一点である辰姫の方が、素直に鞄の中身を見せてくれる、そう考えた。

 二つ目は・・・・・・厳しい確認を目の前で見せることで、この学園の所持物検査が甘くない、そう、教えるためだ、生徒にな」


 二つ目の理由を説明する際、危うく、「なるべく、辰姫と一緒に仕事をしたいからだ」と本音を言ってしまいそうになった瑛は、間一髪で誤魔化せた自分を褒めたくなる。

 だが、鳴は引き下がらない。


 「一つ目は納得できますが、二つ目は異議ありです。

 その理屈で言えば、会長がコイツのペアでなくてもいいはずです」


 「・・・・・・その通りだな」


 正論を好んで使う者は、正論に弱い。途端に、旗色が悪くなってしまった彼女に、助け船を出したのは恵夢だった。


 「メイちゃんの意見はもっともだけど、三年生の私が一年生の検査をしたら、いらない緊張をさせちゃうと思うの。

 エリちゃんは、喧嘩腰なトコがあるから、検査の最中にトラブルになりそうじゃない?」


 「いや、さすがに一年生に喧嘩は売りませんよ」


 「ホントに?」


 ジッと恵夢に見られ、自分が修一とモメた事を思い出したのだろう、冷や汗を頬に伝わせた愛梨は「アハハハ」と笑って誤魔化す。


 「なら、上級生の検査をコイツに」


 「尚更、ダメよ」


 鳴の考えを察したのだろう、恵夢は穏和な笑みを浮かべながらも、強烈な気迫を口元に携えて、首を横に振る。その動作で、鳴は彼女に策を見抜かれたと気付いたか、表情や気配にこそ出さなかったが、心中には動揺が広がり、どう切り返すか、必死に考える。


 「恥ずかしい話だけど、二年生、三年生には男子生徒を毛嫌いしている女生徒がまだ多いわ。

 もし、ヒメくんが自分達の荷物を確認するとなったら、疚しいものは持っていなくても、絶対に素直には応じない。

 上級生と、そんなトラブルが起きたら、今後、ヒメくんの心証が悪くなっちゃう。それはダメ」


 紅壱を生徒会だけでなく、学校からも追い出したくて、そのキッカケを常に探している鳴の執念には、恵夢も呆れを通り越し、感心すらしてしまう。だけれども、彼女は瑛と紅壱の味方で、二人がカップルになる事を願っている。なので、何の躊躇いもなく、鳴の悪だくみを叩き潰す。


 (この女、何て悪どいんだ。やっぱ、天使と契約してるだけあるな)


 「だから、ヒメくんには一年生を担当してもらって、そのペアは、一年生に生徒会の公平さをちゃんと知って貰う意味でも、会長のアキちゃんが適任、私はそう思うな、メイちゃん」


 恵夢の正論に、鳴はぐうの音も出ないのだろう、ガクリと項垂れた。それを見ても、恵夢はほくそ笑むでもなく、懲りない後輩に肩を小さく竦める。そうして、戸惑っている瑛に向き直ると、「ペアはこのままでいこう、ね」と告げた。


 「その代わり、明日の校門前でやる、挨拶運動は私とじゃなくて、メイちゃんと一緒にやってあげて」


 「!!」


 まさか、たった今、自分の目論見を打ち砕いた恵夢が、挨拶運動のシフトの交換を提言してくれるとは思ってもいなかったのだろう、とんでもない勢いで上げ、向けた顔には混乱がありありと現れていた。


 「あれ、いや?」


 「と、とんでもないです、副会長!!

 お願いします、交代かわってください」


 途端に手のひらを返し、鳴は深々と頭を恵夢に下げる。ここで意地悪く焦らしたら、靴でも舐めそうだな、と紅壱だけでなく、恵夢も感じたのだろう、「OK」と指でもサインを作った。

 鳴が何故、この程度のガッツポーズを決めたのか、分からないものの、どうやら、話が恵夢のおかげで纏まったようなので、「ありがとうございます」と瑛は礼を告げる。


 「って事で、ヒメくん、明日の朝は玄関で一人になっちゃうけど、ファイト」


 「俺単品で大丈夫っすかね?」


 いたずらに女生徒を脅かしてしまうだけなのでは、と紅壱は不安がる。見た目に因らず、繊細な彼に微笑みながら、愛梨は「大丈夫だろう」と言い切る。


 「・・・・・・」


 夏煌も彼女の言葉に同意し、紅壱を励ます。


 「その根拠は?」


 「確かに、コウイチの面は怖ぇ。女子もビビってる」


 「そうだろうか? 私は整っていると思うがな。

 正直、テレビに出ている、歌は下手だし、ダンスのキレも悪い、バラエティ番組でもつまらないコメントをするアイドルよりも美形だと思うがな」


 瑛が照れもせずに、自分の容姿を褒めてきたので、紅壱は思いがけず、耳まで真っ赤になってしまう。驚いたのは、鳴も同じだったようで、喜びから一転し、瑛の美的感覚を疑うような目になってしまっている。

 もじもじしている紅壱、そんな彼に萌えている瑛を見て、愛梨は「あちぃな」と苦笑しながら、自分の顔を扇ぎ、話を続ける。


 「そう、アキの言う通り、中にはコーイチの事をイケメンだと思ってる一年生もいるらしい。

 シューイチも何気に、人気が高いみたいだな」


 「・・・・・・」


 愛梨の言葉に、夏煌は「マジか」と驚いているようだ。


 「まぁ、コーイチは顔だけじゃなく、行動もイケメンだからな。

 お前、ちょいちょい、日直の女子、手伝ってるだろ、自発的に」


 自分の事を真剣に美形だと思っている瑛の目に映され、小さくなりたいと思っていた紅壱は「助かった」とばかりに、愛梨の指摘に肯く。


 「ほぉ、そうなのか」と、感心する瑛。


 「実際に、私が見たのは一度だけど、確か、集めたノート、職員室に運ぶの手伝ってたよな」


 数瞬、あったかな、そんな事、と考える素振りをした後、思い至った紅壱は「確か、召喚儀式の前々日かな」と呟いた。


 「他にも、購買で総菜パン譲ってやったり、棚の高いトコにある教材を取ってやったり、あと、コンビニの前に近くの高校の男子がたむろってて入れない女子、助けてやった事もあるらしいな」


 お礼言ってたぞ、と愛梨に言われ、紅壱は「どっから仕入れてきてるんですか、そんな情報」と、またもや、赤面する。


 「ほぉ、そうなのか」


 先程と同じ言葉が、瑛の口から出た訳だが、それには確かな嫉妬の響きがあった。


 「まぁ、まだ、ほとんどがお前の事を知らないだけだ。

 何人かは、お前が見た目通りの不良じゃないって解かってくれてる。だから、今後の挨拶運動や抜き打ち検査で、良い印象を与えてやれ」


 「いや、挨拶はともかく、事前通知なしの持ち物検査で好印象を与えるって、かなり、難易度高くないですか」


 「・・・・・・・・・」


 「ナツもそう思うよなぁ。

 やっぱ、俺、挨拶運動だけでも誰かと一緒にいた方が」


 「いや、辰姫、恐れて行動しないのでは、何も好転しない」


 他の女生徒が、彼に恋愛感情を持ってしまったら、どうしよう、と不安にはなったが、瑛は生徒会長としての立場を優先する、無理矢理に。まさか、瑛に突き放されるとは思ってもいなかったので、紅壱は言葉が出なくなる。もちろん、鳴は嬉しそうだ。

瑛への純粋な尊敬と恋愛感情だけでなく、紅壱への上限が取っ払われた敵意で、鳴は何が何でも、その二人が共に行動し、仲が深まる事を阻止しようとする

好きな相手と、なるべく、共に居たい、と思うのは、立派な生徒会長でも同じ

お互いに譲らず、険悪な雰囲気になりかけるも、年長者である恵夢が妥協案を出してくれたおかげで、流血沙汰は避けられるのだった

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