第七十話 計値(count) 紅壱、メンバーの魔力値をこっそり計ってみる
忌み血について説明された後、瑛から、一年生は魔力の総量値を検査で確認する、と聞かされ、焦ってしまう紅壱
何せ、彼はアバドンを、その身に宿している
ライトノベル的な推測をすれば、自分の魔力値は桁違いであるはずだ。逆に、少なすぎても、それはそれでショックである
瑛を騙すのは気が引けるも、あまり目立ち過ぎてしまうのも避けたい紅壱は、一刻も早く、自らの魔力を完璧にコントロールできるようになり、検査で適当な数字を出せるようにならねば、と決意を強めるのだった
「・・・・・・会長」
「ん、何だ?」
先手を取れて、鳴の勝ち誇っている雰囲気を感じながら、紅壱は思った事を口にした。
「やっぱ、会長は凄いっすね。
惚れるなぁ」
「!!」
ストレートで、飾りッ気のない、紅壱の本音、それは真っ直ぐに瑛の心を射抜く。当然、鳴のおべっかなど、あっと言う間に霞んでしまう。
自分の目の前で、瑛が今まで見た事が無いような表情になったものだから、鳴は愕然としてしまう。
後輩が絶望のどん底に突き落とされそうになっているとは露も知らず、瑛は己の顔は「へにゃ」と表現されてしまいそうなほど、だらしなく緩んでいる事に気付いたのだろう、慌てて、顔の筋肉を引き締め直す。とは言え、口角は小刻みに痙攣し、今にもまた、笑んでしまいそうだが。
「あくまで、検査の結果だ。これで、評価される訳じゃない。
私は特別に優遇もしないし、冷遇したりもしない。
しかし、まぁ、君らが良い数値を出してくれたら、鼻が高いな」
期待しているぞ、豹堂、と瑛に肩を叩かれただけで、崖の底から一気に登ってきた鳴、そのメンタルの復活力だけには、紅壱も一目置いていいな、と感じるのだった。
(さて、今の会長らの魔力量はどれくらいかね)
紅壱は、さりげなく視線を、全員の顔を撫でるように動かす。
目が合わず、紅壱が視界に入れたのも一瞬にも満たぬ時間だったので、誰も気付かなかった、情報を解析された事に。
(お、エリ先輩、600になってる。相当、努力したんだろうな。
メグ副会長は、1680・・・やっぱ、最上級生は経験豊富だからか。
おぅ、会長、2400か。一年で、ほぼ二倍にするってのは、凄いんだろうな。
ナツは990か。体のサイズは関係ないだろうから、妥当なのかね。
そんで、豹堂は・・・・・・1100ね。まぁ、あんだけの大口を叩いてるんだしな)
全員の魔力量を把握しつつも、紅壱は、やはり、自分のデータは確認しない。アバドンが中にいるのに、自分の魔力が低かったら、そんな不安に、豹堂に負けていたら、まで加わってしまったらしい。
(けど、いつまでも見ない訳にはいかないよな。
魔力の使い方が修得できたら、腹ぁ括るか)
何気に先延ばしにした紅壱は、ふと気になった。
「会長」と、紅壱が質問する許可を挙手で求めてきたので、瑛は「何だ?」と問い返し、言葉の続きを促す。
「魔力量ってのは、その検査で使う道具でないと、ハッキリは分からないんですか?」
瑛は「?」を浮かべるも、恵夢は紅壱の言わんとしている事が察せたらしい、ポンと手を打つ。その拍子に、恵夢の巨大きな肉毬が揺れる。
「ヒメくんは、パッと見ただけで、相手の力量が計れたり、使える術、弱点が調べられる魔術やアイテムがないのか、そこが気になるんだね」
「・・・・・・なるほど」
紅壱の質問の意図を正確に理解できなかった己を恥じると同時に、瑛は恵夢に対して、黒い嫉妬の念を覚えてしまう。そんな自分が情けなくなった瑛は俯いたのだが、紅壱はその動作が、自分の質問が低レベル過ぎて、落胆させてしまったのだ、と誤解してしまう。
先ほど、鳴の分かりやすさに呆れたくせに、彼も彼で、動揺が雰囲気に出やすいらしい。
「あ、違うぞ、辰姫。君に呆れたんじゃない。
むしろ、君の着眼点は非常に良い。実戦に出る者であるなら、気になって当然だ。
しかし、残念な事に、その質問に対しては、NOの答えしかない」
「ないんすか」
「あんた、ゲームのやりすぎなのよ。
そんな都合のいいもの、現実にある訳ないでしょ。
相手に魔力量だけじゃなくて、弱点が解析れたら、どんだけ不利になると思ってるの。
ちょっとは考えないさいよ。あ、無理よね、アンタの頭は、カガリを逃がさない方法も思いつかないくらい、空っぽだもんねッ!?」
紅壱が瑛に褒められた事で焦ったからか、鳴は紅壱を詰り、貶める。
そんな彼女に制裁を落としたのは、愛梨だった。術で攻撃力を上げなかったのは、彼女なりの優しさか。
「豹堂に代わり、謝るよ、辰姫」
「いや、アイツの言った事も一理ありますんで。
そうですよね、そんな都合が良いものあったら、もっと、戦いでの被害が減りますよね」
「まったくだ。
実際、『組織』は、君が言ったような技術を実現化しようと研究しているんだが、軸を支える術の構築で手間取っているようだ。
そもそも、魔力量が計測できるアイテムが完成したのも、十年ほど前らしい」
「そうらしいね。
確か、とある魔女のアジトに踏み込んだ時に見つけた、未完成のアイテムを複数くっつけたら、魔力量が表示されるようになったんだって」
「つまり、『組織』は魔女の研究を横から掻っ攫って、自分らの手柄みたいにアピールしてるんすか」
コクリと肯いた瑛は「まったく、情けない」と憤っていた。
「やはり、世の中、ゲームのようにはいかないさ。
――――・・・しかし、いつかは実現してほしいものだな、そんな夢が。
私は戦うしか能がなく、その手の新たな技術を成立させるのは不得意だが、それに必要な素材を集めてくる事は出来るだろうからな、サポートは惜しまないつもりだ」
「俺も協力しますよ」
「あぁ、頼むぞ」
また一つ、強い絆で結ばれた紅壱と瑛を見て、恵夢は揉み応えのある果実の中が、温かい気持ちで満たされるのを確かに感じた。
野心に燃える瑛に惚れ直す一方で、紅壱は安堵していた。
(俺の『眼』に近い魔術や道具の類が『組織』にないなら、少しは安全だな。
もし、あったら、俺がアバドンさんを宿しているって事がバレるかもってビビっちまった。
でも、油断は大敵。気ぃ付けるに越した事はねぇ)
その裏側で、紅壱は同じアパートの住人に対し、改めて、底知れなさを感じていた。
昨夜、彼は「情報解析」が人間相手にも使えるのか、試していた、音桐荘の住人を対象に。
使える事が判明すると同時に、視る際は細心の注意が必要である事も学べた。
輝愛子の秘書とボディガードの役職に就いているとはいえ、一般人枠に入るであろう絹川と瓶持は、基本的な情報を見る事が可能だった。
他の一般人は見ていないが、それでも、戦闘力と精神力の数値が桁違いだ、と感服するには十分だった。
しかし、球磨と洲湾はダメだった。
球磨の方は、野生の勘なのか、それとも、常時発動している闘気による気配察知なのか、そこは判断しかねるが、見ようと紅壱が集中した途端に、視界から消えてしまった。
唐突に動いた友人に、絹河は驚き、「ちょ、何」と驚いていた。
驚いたのは、紅壱もだ。魔属らは、あれだけ、じっくり見ていても、自分の情報が丸裸にされている事に気付いていなかったのに、球磨は見ようとしただけで、警戒心が体を反射的に動かした。
「どうしたのよ」
「いや、紅壱に視姦されそうな気がした」
「は!?」
表現こそ不穏当で不名誉なものだったが、球磨の勘は正しい。
恐るべし、球磨素歌、と唸るしかなかった紅壱。
多分と言うより、間違いなく、祖父らにも通用しないだろう。もっとも、情報解析せずとも、彼らの強さは見ただけで感じ取れるし、何より、心と体、そして、魂の深い所まで刻まれているのだから。
洲湾の方はと言えば、紅壱が自分の情報を見ようとしている事に気付き、視界の外へ出る事はしなかった。しかし、彼は球磨の時とは異なる驚きを受けた。
洲湾の情報が表示されるはずの画面は、真っ黒に塗り潰されていた。
見た瞬間に、「無い」のではなく、「隠されている」と理解できた。しかも、わざと「隠している」とアピールしているのだ、とも気付いた。
「隠されている」情報が見えないのは、自分のレベルが低い、『情報解析』のスキルの熟練度が足りない、様々な理由もあるのだろう。レベルが上がるか、情報を隠蔽するスキルを無効にできるスキルを得られれば、視える場所が生じるのだろうな、と予想した上で、紅壱はその先も察していた。
(仮に、隠蔽を引っぺがせても、その下の情報は嘘だらけだろうな)
そうすると、次は虚偽を無効化するスキルも入手せねばならないのだろう。
情報の重要さが理解できる紅壱としては面倒だと思いつつも、自分もそれが出来るようにならないとな、と少しだけ焦る。
『組織』にはないが、『組織』に所属していないフリーの術師の一部には、「情報解析」が出来る者がいるはずだ。自分の情報を隠せる洲湾も、間違いなく、出来る。もしかしなくても、熟練度は己より高い、と確信する紅壱。
自分の秘密に気付いていながら、何も言ってこない事に不気味さは覚えるが、彼女には彼女の都合と立場もあるんだろう、と慮った紅壱は一先ず、洲湾は敵性対象から除外しておく事にした。
少なくとも、今度の検査で、自分の秘密に気付く者はいない。
なればこそ、それまでに集中すべきは、自分の魔力を完全にコントロールできるようになり、魔力量を誤魔化せるようになる事。
桁違いに多くても、極端に少なくても駄目。
(目標にすべきは、会長の数値だな、うん)
棚ぼたな上、良い思いまでしてしまった紅壱は、自分の運の値は高いのだろうか、と希望が芽生える。
「・・・・・・・・・」
「いや、俺はどんくらいかな、と思ってな」
「・・・・・・・・・」
「そうだな。検査の日まで、しばらくあるからな、頑張ってみるか」
「・・・・・・・・・」
「分かってるって。怪我するような無茶はしない。
お前とも約束するし、会長にも叱られたくないしな」
「おいおい、私が、そんなに怖いのか」
冗談めいた物言いをしたつもりだった、瑛としては、精一杯。
「えぇ、怖いっす(会長を悲しませるのは)」
「!?」
いつだって、男は言葉が足りなくて、もしくは、故意に減らす事で、意中の相手を傷つけてしまうものだ。瑛のリアクションで、誤解を招いたと気づけた紅壱はマシな部類に入るだろうが、この状況で言わなかった本音を言う度胸もない。とんだチキン野郎だ。
後輩、しかも、惹かれている相手に恐怖感を与えていたと誤解し、その場に膝から崩れ落ちそうな瑛を支えたのは、鳴への説教を恵夢へ押しつけた愛梨。
「さすが、我らが生徒会長。
こんだけ、おっかない面の男子にも特別視されるとは、違うねぇ」
「・・・・・・それは、フォローになってないぞ。
見ろ、辰姫が落ちこんでいるじゃないか」
「あ、すまん、コーイチ。わざとだ」
「わざとっすか!?」
「なんだ、元気じゃねぇか」
一頻りのお約束を済ませると、愛梨は笑いながら、紅壱の胸をズンと打つ。
「けど、アキが(泣くのが)怖いってんなら、そうならないように努力しろ」
「うっす」
「アキだけじゃないぞ、(お前が怪我するのが)怖いのは」
これは冗談じゃないからな、と愛梨は自重を念押しする。
「でも、ほんと、お前の回復力は羨ましいな。
同期にも、そっち方面の忌み血の奴はいるけど、お前ほどじゃないぞ。
お前の子供も、そうなるのかね」
「さぁ、どうなんでしょう?」
タイプはともかくとして、忌み血は祖母の家系だろう。しかし、記憶にある父の体質は、普通であった気がする。子供だからと言って、血の特性は受け継がないのかもしれない。
「どうだ、アタシと子作りして、確認してみるか?」
「!!」
親友のかました衝撃発言に面食らった瑛。
「こ」
「こ?」
「こ・・・こ・・・・・・こ」
「コケコッコ?」
子作りなら私としてくれ、そう言いたいのに、羞恥心が邪魔をする。
「こ・・・・・・・・・こ、この話題は、ここまでだ。そろそろ、本題に戻ろう」
てっきり、瑛が自分の下の名前を呼んでくれるのでは、と期待していた紅壱はずっこけそうになる。
紅壱は、生徒会メンバーの魔力値を、密かに『鑑定』してみる
全員が高い数値を出している事に感心しつつ、瑛の数値を紅壱は目標にする事にした
そんな紅壱は、実は、音桐荘の住人にも、鑑定を使っていたのだが、戦闘力と野性さで上回っている球磨と、魔術師として高次元の存在である洲湾だけは、情報を視る事が叶っていなかった
上には上がいる、と噛み締めていた紅壱に、愛梨がかましたジョークに瑛は大いに慌てるも、あと一歩が踏み出せず、名前呼びはお預けになるのだった




