第六十八話 血型(blood type) 紅壱、「忌み血」について説明される
『組織』が、紅壱がカガリを死ぬ気で追い払った(と、瑛は思っている)にも関わらず、その仕事に見合った報酬を支払っていなかった事に憤った瑛だったが、紅壱の説得により、殴り込みは思い止まるのだった
瑛が落ち着いてくれた事に、紅壱が安堵したのも束の間、今度は親友の修一が生徒会のメンバーに入れられそうな空気になってしまう
腕っ節は強いが、制御できないほどのスタンドプレーをするから、生徒会に入れたら大変な事になる、そんな理屈を何とか押し通した紅壱
彼の体調を心配しつつ、瑛は彼へ「忌み血」についての説明を始めるのだった
「けど、いくら、先生の治癒魔術や、アイテムが凄いからって、あんだけの大怪我が、こんなにも早く治っちまうなんて、忌み血の恩恵ってのは半端ないな」
優劣はない、と言いつつも、愛梨は羨ましいらしい。
紅壱の腹に、グリグリと拳を押し当てる愛梨の後頭部を、軽く握った拳でコツンと叩いて諫めつつ、瑛は戸惑っている紅壱の目をジッと見つめる。
惚れた女が、自分と目を合わせてくれる、それは嬉しいのだけど、瑛は圧力が強いので、さすがに、紅壱も掌に汗が滲み出そうになった。
「確かにな。辰姫が忌み血でなかったら、さすがに危なかっただろう。
辰姫、どうやら、君の体に流れている忌み血の特性は、回復らしいな」
「・・・・・・回復っすか」
うむ、と首を縦に振った瑛は、恵夢がいつの間にか、運んできてくれていたホワイトボードに「忌み血」と書き、そこから四本の線を引き、その先にも単語を書き加えていく。
「攻撃、防御、回復、魔力量」
一つずつ挿された単語を読み上げた紅壱に、瑛は「そうだ」と微笑む。彼女の微笑に、胸が温まるのを感じながら、その片隅で「絵はアレだけど、字は上手いよな」と思う。
失礼か、とバツが悪そうに首筋を揉む紅壱だったが、瑛はきっと、彼から字が綺麗だ、と言われたら、凛々しさを維持できないほど、顔を緩ませ、喜んだだろう。
「大まかに分けて、忌み血の特性は、この四つだ。
この四タイプに該当しない特性もあるが、相当に稀で、私も『組織』では数人しか知らない。
まぁ、自分から忌み血の特性を公開する者も少ないから、もう少し、多いかもしれないが」
「効果は単純に考えても、問題ないですか?」
メモを取る準備をする紅壱からの確認に、「あぁ」と肯定し、瑛は指し棒の先端で、まず、「攻撃」をトントンと叩いた。
「物理および魔力による攻撃力が高くなる、このタイプは。
私と大神が、このタイプになるな」
紅壱が視線を動かすと、夏煌が自慢げにフラットな胸を張る。毎日のマッサージの恩恵は、まだ、出ないようだ。
「ちなみに、魔術は属性で伸びしろが違ってくる。
私は火炎属性が特に強くなり、次が土地属性だな。流水属性は今イチだ」
「・・・・・・・・・」
「ナツは、流水属性と氷凍属性が伸びていて、火炎属性の攻撃力が弱いのか」
「私は、防御だよ」
恵夢が赤線で囲んだのは、「防御」の単語だった。
「物理攻撃に対する防御力が高いのは、もちろんとして、魔術攻撃に対する耐性も変わるんですね」
「その通りだ」
紅壱の鋭い考察に、瑛は嬉しそうだ。
「私が30のダメージを負う流水属性の攻撃魔術を、先輩が被弾した場合は、10で済む」
「でもねぇ、火炎属性と氷凍属性は、皆より、ちょっと多めのダメージになっちゃうんだ」
不便だよねぇ、と愚痴る恵夢。溜息を吐く動作に合わせ、重厚感たっぷりに揺れた桃饅頭に、もしも、目が釘付けになっていたら、紅壱は瑛にジト目で睨まれていただろう。瑛の事が好きとは言え、目の前で巨乳が上下したら見てしまうのが、男である。
「そんで、俺が回復ですか?」
「恐らくはな。
文字通り、回復に長けている者だ」
「・・・・・・体力を回復したり、怪我を治療する術を会得しやすいんですか?」
「そういう人もいるけど、ヒメくんは違うかも」
「違うと思うぜ」
そう言い切ったのは、愛梨だ。
「お前が優しいのは確かだけど、治癒魔術を使うイメージはないぜ。
どっちかって言うと、『治す』じゃなくて、『壊す』専門だろ。なぁ、アキ?」
「答えにくい事を私に振るなッ」
反射的に言い返してから、ハッキリと紅壱が治癒魔術で人の為になるタイプではない、そう言っているのと同じ、と気付いたのだろう、瑛は一気に青褪める。
「た、た、た、辰姫、そんなつもりで言ったんじゃないぞ」
今にも、自責の念から泣きじゃくりながら、謝罪の言葉を繰り返しかねない瑛の表情に、嗜虐心が芽生えるも、グッと耐えた紅壱は「大丈夫っす。自覚あるんで」と、度量の広い男である事をアピールする。
つい、口が滑ってしまった己の油断を恥じる瑛を、「どんまい」と恵夢は慰めてから、説明を再開する。
「多分、ヒメくんは自分の回復能力が高いタイプだねぇ。
物理と魔術、どっちの攻撃でダメージを負っても回復が速くて、同時に、治癒系の魔術の効果が出やすい人」
恵夢の理解しやすい説明に「なるほど、なるほど」と頷き、ペンを持つ手を動かしながらも、紅壱は心中で「違うだろうな」と直感していた。
(俺の再生能力が、一般人や術師より高いのは、アバドンさんのおかげで、血の効果じゃない。
となると、他の三つか、レアの一つ・・・・・・もしくは、総てか)
紅壱の目は自然と残っていた、「魔力量」に当たる。
「魔力量ってのは、人より魔力の量が多いって事だから、ある意味、一番に有利だな」
妬みの気持ちは殴り飛ばせたのか、妙にスッキリした顔になっている愛梨は「魔力量」の部分を拳の角で打った、コンコンと。ホワイトボードに穴が開かないか、と不安になったが、その辺りは、愛梨も加減していたようで、無事だった。
「魔力の量が多いと、魔術も連発できるから、攻撃役としても、防御役としても重宝されるんだよ。
瑛みたいなオールラウンダーって感じじゃないけど、全体的にバランスが取れてるんだ」
ふと疑問が芽生えた紅壱は少し躊躇ったが、思いきって、尋ねてみた。
「会長、一つ聞いていいですか?」
「遠慮せず、何でも聞いてくれ」
先程の失態もあってか、紅壱に頼られるのが、本当に嬉しいのだろう、瑛は一般生徒が見たらギョッとするような明るい笑顔を魅せる。
そんな彼女に、他のメンバーが起こした反応は様々だった。
恵夢は瑛が可愛くなっていく喜びで胸が膨らみ、愛梨は親友には幸せを掴んでほしいよな、その願いから切なそうな表情となる。
夏煌は、瑛にリードされてしまったような気がして、無表情のまま、オロオロしていた。
鳴と言えば、まだ、壁に頭を擦りつけ、「ごめんなさい」と繰り返している。
生徒会長ではなく、女子高校生らしい無垢な笑みに、紅壱はドキッとしてしまい、頭に浮かんでいた疑問が危うく、飛んでしまいそうになっていた。
「・・・・・・ま、魔力ってのは、増えていくものなんですか?
魔力量ってのは生まれた時から決まっていて、そこから増えたりはしないんでしょうか?」
「うむ、そこが気になるのは当然だな」
腕を組んだ瑛は、「その質問に対する答え、それは、増える、だ」と頷いた。
「適正な努力や加齢で、術師の魔力は少しずつ増えていく。
しかし、限界値は個々で決まっていてな、それに達したら、どれだけ努力しても増える事はない」
十代の私達は、まだ達していないがな、と瑛は笑う。
「実戦の際、アイテムや魔術で、魔力量を一時的に増やす事も可能だが、これは多用できない」
何故か、分かるか、そう目で瑛に問われる紅壱。すぐに、「分かりません」と答えるのは簡単だが、それでは、自分の為にならない。それ以前に、惚れた女に低い評価をされるのは、男として耐えがたいものがある。
「魔力量が多い方が戦闘で有利なのに、重ねがけや、何度も使わない方がいいとなると、それなりのデメリットがあるんだよな、きっと」
黙って考える事も可能だが、紅壱はあえて口に出し、情報を丁寧に整理してみる。
「一時的に魔力を増やし過ぎると、戦闘後に反動があるのか。
増やした分だけ、減っちまって、しばらく元に戻らなくなるのか。最悪、魔術が使えなくなる後遺症がある?」
「その通りだ。
本当に、君は読みが鋭いな。教えている側として、これほど、気分が良くなる事もない」
楽し気に笑い声を発し、瑛は紅壱に拍手し、鳴以外のメンバーも倣う。
「現時点で、『組織』の術式研究部によって、魔力量を一時的に十倍まで増やす呪文が完成させられている。
それを元に、魔道具開発部も五倍まで増やす腕輪の作成に成功している。
だが、使用できる呪文は五倍まで、回数も一回のみ。腕輪も『組織』が許可しない限りは、装着してはならない事になっている。
一応、この生徒会にも支給されているが、使用した事はない。これからも使いたくないがな」
「やっぱり、魔力量が減るんですか?」
「あぁ、呪文やアイテムで、強引に魔力を満たす器を大きくするんだ、リバウンドがあるのは当然だ」
「でも、それも承知で使用しなきゃならない魔属、霊属がいるんですよね」
「そうだな。カガリや、私と刃を交えた、あの女吸血鬼も該当する。
さすがに、私も一瞬、二倍の呪文を使おうか、と迷ったよ」
乾いた笑いを漏らし、ふと、瑛は安堵の息を溢す。
「君に、その呪文を教えておかなくて正解だった」
「え、何でですか」
驚く紅壱に、「自覚がないのか」と呆れた瑛は、彼の胸板を軽く握った拳で叩く。
「まだ、それほど長い付き合いでもない私だって、分かるぞ。
君は、誰かの為に無茶するタイプだ。
個人的に、好感は大いに抱けるが、君の無謀を悲しむ者もいる。
君は誰かを守れて満足を得られるだろう、しかし、君の大切な者にとって、君も大事な者だ。つまり、死にそうになるような守り方をされて、喜ぶはずがない。
全力を出すな、とは言えん。しかし、誰かを守りたいのなら、まず、自分の身、安全、死なない、生きる事を考えるんだ。
私は信じているんだ、君が単なる死にたがりではない、と」
立て板に水の勢いで、瑛は自分の思いを紅壱にぶつけた。
聞きようによっては、告白同然だが、妙に鈍感なところがある紅壱は気付かない。当然のように、瑛も自分が、紅壱を特別視している事を曝け出してしまった事に無自覚だ。
甘ったるいピンク色ではないにしろ、独特な雰囲気を醸す二人に、恵夢と愛梨は苦笑いだ。
「・・・・・・」
瑛にリードされてなるものか、強引に割って入った夏煌は、小さな英雄だ。
夏煌が瑛の前に立った事で、ハッと我に返った紅壱は表情を翳らせ、「俺、そんなに無茶をするタイプに見えるんですかね?」と尋ねる、仲間に。
「うーん、まぁ、正直、一線を越えちゃうタイプだなぁ、とは思ったよ」
「アタシもお前の事をバカと言えた義理じゃないけど、今回は退くべきだったかもな」
「・・・・・・・・・」
「ナツ、お前まで」
夏煌からも、自省と自重を意識して、と言われてしまい、紅壱は頭を抱えたくなる。
自分では、そこまで己を追い詰めていたつもりはなかったのだが、周囲にとっては、死にたがりの暴挙と捉えられるものだったようだ。
「以後、気ぃつけます」
「そうしてくれ・・・・・・もう、失いたくないからな」
後半の部分は、瑛の声があまりにも、か細かったので、さすがに紅壱の耳も拾えず、「え?」と聞き返したのだが、「いや、独り言さ」と誤魔化されてしまう。
そんな態度を女性が取った際は、突っ込んだ質問を重ねてはいけない、と変装術や自動車の運転技術を優しく叩き込んでくれた女優から教わっていたので、紅壱は感じた違和感を流す事にした。
術師の家系に多い、「忌み血」が流れる者
その血には、攻撃、防御、回復、魔力量、そして、特異の4+1タイプがある
紅壱の回復力が人並み外れている事から、瑛らは彼の「忌み血」のタイプは回復であろう、と推測する。その一方で、怪我の治りが速いのは、アバドンの恩恵であり、血そのものに宿る力は他のタイプではないだろうか、と紅壱は期待するのだった




