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とある生徒会長の本音は日誌だけが知っている  作者: 『黒狗』の優樹
瑛vs夏煌、ラブバトルのスタート
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第六十四話 報酬(reward) 紅壱、襲撃者から学び舎を守った報酬を受け取る

あれだけの怪我をしながらも、生徒会役員を辞めないでくれた紅壱に、瑛は感謝し、更に恋心を強める

そんな彼に敬意を払いつつ、瑛は紅壱に今回の報酬を払うべく、彼に生徒手帳を出すよう求める

しかし、彼は一度、怪異を退帰させる業務に従事しているはずなのに、報酬の事を知らなかった

それに対し、瑛は違和感を覚え、彼と共に仕事をし、また、手続きをしておく、と言っていた愛梨に説明を求めようとする

だが、身の危険を感じた愛梨は、即座に脱走を図る!!

 「フルスタ・プクリエ!」

 

 だが、瑛が唱えた呪文により具現化した鎖が床から勢いよく飛び出し、ドアまで迫っていた愛梨を拘束する方が早かった。

 

 「どこへ行く? 言い訳の一つくらいはしていくといい」


 笑顔や真顔でなく、顔にハッキリと怒りの感情が出ている分、怖さは感じないだろうか。

 そんな訳がない、瑛が怒っているとあれば。

 彼女の、愛梨だけに放っている怒気に腕の毛が燃えてしまいそうな錯覚を覚えながらも、紅壱は彼女への尊敬度を高めていた。

 喧嘩屋としての実力は校内や町内どころか全国クラス、魔力も総量に限れば、アバドンと祖母の朱音のおかげで桁が違う紅壱は、まだ、瑛や孤募一から魔力の使い方を教わっていないため、魔術師としては素人同然だ。そんな彼でも、瑛の凄さだけは直感で理解できる。


 (エリ先輩の動きを封じている、あの火の鎖、発動がかなり速かったな)


 紅壱の感想は、正しい。本来であれば、相手をこの火の鎖で拘束する術を発動させる呪文は、「フルスタ・プクリエ・リュストゥング・ヘルメット・シュレーム・パノブリア・スクートゥム・ラーティゴ」だ。

 瑛が得意とする魔術の属性は、火炎である。だが、それだけでは、この発動速度は説明できない。己の天才性に驕らず、毎日、地道な基礎鍛錬を積んでいるからこそ、「フルスタ・プクリエ」と、呪文を短縮しても、十全の効果を発揮できるのだ。


 (しかも、温度まで、完全にコントロールしてるよな、これ)


 鎖を勢いよく発射した床のカーペットは元より、縛られている愛梨の体からも煙が立ち上っていない。それは、頭が怒りで煮え滾りながらも、親友もとい仲間は無意味に傷つけないだけの、瑛らしい優しさが残っている証拠だろう。

 実際、この火の鎖で相手を縛り上げる魔術は、攻撃や拘束と言うよりも、動きを封じた相手を火傷で苦しめる意味合いが大きい、拷問用の魔術だ。

 あまり、仲間相手に使いたくない魔術ではあるが、以前、紅壱の動きを封じた空気を操作する魔術は、前もって準備が必要だ。

 疾風属性の相性が最良ではない瑛では、怒りのままに呪文を唱えると、愛梨をぺしゃんこにしてしまう危険性があった。敵意剥き出しの魔属相手なら、遠慮はしないが、仲間は傷つけられない。

 とは言え、後輩が受け取るべき、魔属退帰補助の報酬をネコババしたとなれば、情けなどかけられなかった。

 有体に言ってしまえば、今の瑛は、生徒会長としてだけではなく、紅壱にピュアな恋心を持っている者として、憤怒の権化となっていた。つくづく、恋する乙女と言うのは、恐ろしいものだ。

 紅壱にホの字であると言う点では、夏煌も同様なのだが、瑛があまりにも恐ろしいものだから、腰を抜かしそうになってしまっていた。一歩リードされた、その悔しさもあったが、その感情でも震える背中を押すには力不足だった。

 ガクガクと膝が落ち着かない小さな後輩を支えてやりながら、恵夢は「あらあら、困ったわね」と眉を顰めている。だが、愛梨を助ける、瑛を止める気は微塵もなさそうだった。

 

 「会長、ステキです」


 鳴に到っては、唾液を垂れ流すほど、恍惚の表情で、己の股間を押さえ、しきりに太腿を擦り合わせている始末だ。今にも、指が下着の中に入っていきそうである。


 (おいおい、ここでオナニーするほど変態じゃないって信じてるぞ、豹堂ッッ)


 「さぁ、太猿会計、言いたい事はあるか?」


 「す、すいませんでしたぁぁ」


 愛梨が、まず、言い訳ではなく、謝罪の台詞を本心から叫んだことで、わずかに瑛の怒りは鎮まったのか、室内の圧迫感が弱まる。祖父や彼の友人、球磨、また、認めたくはないが、義姉の輝愛子の放つそれに比べたら、絶対的な死を覚悟させるレベルではなかったにしろ、呼吸がしやすくなったのは間違いない。


 「一応、横領した理由も聞いておこうか」


 「実は、ワーキャットの報酬が出た日、姉ちゃんから借りてた、カンフー映画のDVDボックスを落っことして、特典に付いてた限定カラーのフィギュアが壊れちまったんだ」


 「なるほど、それを取り急ぎ、買い直そうにも、自分の手持ちでは足りなかったから、辰姫の報酬をこっそり貰った訳だ」


 続きをズバリ言い当てられてしまい、汗だくの愛梨は観念したように、弱弱しく、縦に首を横に振るしかなかった。


 「なるほど、嘘は言っていないようだな・・・・・・理由は判った」


 コクリと肯いた瞬間に、愛梨の恐怖と後悔はピークに達する。それもそうだろう、自分を見つめている瑛の瞳から、怒りの感情すら消え去り、無感情な漆黒だけがあったのだから。

 ゾゾゾゾゾ、と背後に効果音が見えても、何ら不思議ではないほど、本気でキレた瑛を見るのは、これが二回目。その対象が、まさか、自分になるとは思ってもいなかった愛梨は青褪める。

 ヤバい、そう思った瞬間、大抵の人間は潔く諦めるか、必死な命乞いを図る。

 だが、愛梨はどちらでもなかった。


 「があっ」


 いくら、温度が火傷しない程度まで下げられていると言っても、簡単に引き千切れるものではないはずだ。しかし、引き千切ってしまうのが、愛梨なのだろう。

 拘束を解いた愛梨は、次に取るべき行動に迷う。

 逃げても、問題は解決しない。むしろ、今の瑛に背中を見せるのは危険すぎる。どんな魔属が相手でも、真正面から正々堂々と挑む、それが彼女のスタンスだが、今の状態だと、背中に火球を直撃させる事も躊躇しないだろう。

 なら、前に出る、つまり、瑛に攻撃を仕掛けるしかない。だが、そもそも、非は自分にある訳だし、何より、友人に攻撃を繰り出す事は、愛梨には出来なかった。

 火の鎖を引き千切られた事による驚きは、愛梨が逡巡している間に霧散してしまったようで、瞳の揺らぎが収まった瑛は「罰を受けよ」と右の掌を身構える親友へ向ける。

 刹那、動いたのは紅壱だった。


 「会長」


 さすがに止めないとマズいわね、と呪文を唱えて、瑛の頭上に水球を作ろうとしていた恵夢は紅壱が彼女の肩へ手を静かに置いたのを見て、事態の静観を続ける事にした。


 「・・・・・・何だ、辰姫庶務」


 「その辺で、勘弁してやってください」


 「君が、そう言うなら、止めよう」


 一瞬にして、瑛の怒気が冗談のように引き、双眸にも彼女らしい精悍さが宿る凛とした光が戻ったものだから、いよいよ、限界まで張ってしまっていた緊張の糸が切れ、「た、助かったぁ」と、その場にへたり込んでしまう。

 「さすがねぇ」と拍手する恵夢の隣では、夏煌が悔しそうに下唇を噛み締めていた。鳴は依然として、瞳を潤ませ、穢れた熱を帯びる息を荒くしていた。


 「コーイチ、すまなかった」


 「いいっすよ。エリ先輩には、色々と教えて貰ってるんで、その授業料って事にしましょう」


 「いや、それはいけないぞ、辰姫。

 エリ、今回は、辰姫の温情に免じて、役職の剥奪と言った厳罰は下さない。

 だが、今日より一週間、君は一階と二階の女子トイレの掃除を命じる」


 「承ります」


 命が助かったのだ、トイレ掃除くらい、喜んでやろう。


 「辰姫、君も何か、罰を与えてやれ。それくらいの権利はあるぞ」

 

 「あぁ、何でもやるぜ。

 そうだ、尻でも触らせてやろうか。胸は自信がないからな・・・サービスで、顔も近づけていいぞ」


 助かった安堵から、つい、調子に乗って、口の滑りが良くなってしまうのが、愛梨の悪いクセ。


 「太猿会計、どうやら、まだ、仕置きが足りないようだな」


 再び、瑛の瞳が静かに翳っていき、髪までざわめきだす。しかも、今度は、夏煌まで臨戦態勢に入ったのか、彼女の犬歯が「ギギギ」と軋むような音を発しながら伸びていく。


 「会長、ナツ、落ち着いてくださいってば」


 「うむ」


 (コクリ)


 すんなり、紅壱の言葉で大人しくなる二人、いや、二匹に「はぁ」と恵夢の口から、嘆息が零れるのも仕方がない。


 「やべぇ、やべぇ」


 「エリ先輩、気ぃつけてくださいよ」


 ギヌロと後輩から睨まれ、愛梨は肩身が狭くなる。


 「三日で勘弁してあげるつもりでしたけど、一週間ほど、学食で特Aランチを奢って貰う事にします。ついでに、シュウの分もお願いしますね」


 「何!?」


 修一の分まで、と言われ、愛梨の顔が引き攣る。彼女は、慌てて、二人分の特Aランチを一週間、奢った際の出費を計算する。いくら、彼女が脳筋女子でも、その程度なら暗算は出来る。


 「一万四千円じゃねぇか!!

 コーイチ、頼む、三日で勘弁してくれ」


 愛梨は半泣きで、両手を合わせて拝むも、紅壱は優し気に微笑み、首をゆっくりと横に振る。


 「マヂかよ・・・完全に、今月の小遣いの残り、トんじまう」


 本気で落ち込んでいる愛梨の惨めな雰囲気に、紅壱は胸が痛んできてしまう。


 「しょうがないですね。特Bランチ、一週間、二人分で勘弁してあげますよ、エリ先輩」


 「コーイチ!!」


 「辰姫、あまり、仏心を出すんじゃない。エリが調子に乗る」


 「ありがとな、コ・・・ゥ・・・・・・一万三千円だ!!」


 感謝しようとした矢先に、愛梨は出費のダメージが大して軽減しない、その事実に気付いたのだろう、愕然とし、素っ頓狂な声を出す。

 そんなリアクションは、夏煌のツボにはまったのか、彼女はそっぽこそ向いていたが、肩の揺れ、「ぶふっ」、「ぐくぅ」、そんな奇妙な音から、笑いを噛み殺し、耐えているのは容易に察せた。


 「エリ、その条件を呑むのは勿論だが、今回の報酬から、前回の分を引いても構わないな」

 

 もう、愛梨にはコクリと首を縦に振る力しか残っていなかった。


 「手続きは後にするとして、まずは辰姫に報酬を渡すとしよう」


 瑛に「手帳を貸してくれ」と言われた紅壱、今度は不安がらずに、「うっす」と渡せる。


 「さーて、私達は君に何を集ってやろうか」


 よもや、瑛がそんなジョークを飛ばしてくるとは思ってもいなかった紅壱は軽く驚いてしまう。だが、言った瑛の方が、表情こそ平静さを保っているものの、耳の縁がほんの少しだけ赤くなっているのに気付き、「うっわ、クソ可愛すぎんだろ」と感極まりそうになる。

 紅壱が、そんな衝撃を放出しないよう、顔の筋肉に力を入れているのに気付き、瑛は「スベった」と勘違いする。慣れない事はしない方が良いな、と誤解から反省しつつ、紅壱が差し出していた生徒手帳を受け取り、自机に設置している読み取り機にそれを開いて置く。


 「何せ、君はあのカガリを追い払ったのだからな、それなりの金額にはなっている。

 しかし、生徒会役員である以前に、自身が高校生である事を忘れず、計画的に使う様に。

 まぁ、今回くらいなら、パァーと使っても構わんだろう。それくらいの贅沢は許されるだけの仕事を、君はしているんだからな」

 

 瑛の賛辞に、「あざっす」と頭を小さく下げる紅壱。おもむろに、夏煌が彼の顔を下から覗き込むと、誉められた嬉しさで、悪魔じみた笑顔になっていた。

 自分ではなく、瑛の言葉で、紅壱がそんな顔になるのが、ちょっとだけ悔しかった夏煌だったが、ここで不機嫌になったら、自分が小さい女だと思われそうだったので、頬を苛立ちで膨らませるのは堪えた。


 「うむ、振り込み完了だ」


 キーボードを軽快に打ち終え、瑛は手帳を紅壱に返す。


 「えっと、いくら入ってるんだ?」


 生徒会役員専用の手帳を貰った際、自身の顔写真の下に数字が八桁まで入る空欄があったので不思議だったのだが、どうやら、そこに報酬額が印字されるようだ。


 「・・・・・・60万円、いいんすかね、こんなに貰って」


 「何!?」


 「あ、やっぱ、多すぎるんすか、これ」


 瑛の表情が切迫しているのを見て、さしもの紅壱も焦る。しかし、瑛が声を荒げた理由は真逆であった。


 「60万円だと・・・・・・」


 生徒手帳もしくは機器の不調か、と疑った瑛はパソコンで情報を確認し、『組織』が紅壱に今回、振り込んだ報酬の金額が間違っていない事を確認した。

 だからこそ、瑛は先程まで以上に強烈はげし怒気いかりを露わにする。

 形容しがたい義憤を覚えているのだろう、彼女は自らの魔力を制御できなくなっていた。

 全身から可視化できるほどハッキリと立ち昇る魔力の色が薄い白から真紅、つまりは、熱エネルギーに変質しかけていた。


 「あちち」


 紅壱が飛んできた火の粉や、熱くなった空気を手で払いながら発した声で、ハッと我に返る瑛。なれども、それは己を蝕んでいた激情を制御する冷徹さを取り戻しただけ、つまり、まだ、瑛の頭には血が上っていた。

 何で、また、瑛が怒っているのか、理解が及ばないなりに、彼女が物騒な事をしでかしそうだ、と直感した紅壱は彼女を止めようとする。

 これほどの怒気を放っている瑛を前にしても恐怖で竦まず、動ける、それは紅壱の恐怖に対する耐性が著しく高い事を意味しているのだが、今の瑛は紅壱の事で怒っている為に、紅壱が伸ばしてきた手すら邪魔に思えてきてしまう。


 「ッ」


 もしも、咄嗟に紅壱が腕を目にも止まらぬ速さで退いていなかったら、瑛は自身の間合いに入ってきたそれを魔力の炎で焼いていただろう。

 それ自体は、大した問題にならない、紅壱にとって。肉まで黒焦げになる程度の熱傷であれば、十数分で再生する。また、髪が赤くなってしまう、つまり、アバドンが休息により回復している魔力を使ってしまう事さえ躊躇わなければ、いっそ、使い物にならない部分は切り捨て、生やせばいい。

 だが、瑛の前で、自分がそんなバケモノじみた特性を晒す訳にはいかない。

 いつのまにか、臆病になっていた自分に自嘲の感情を覚える余裕も、紅壱に瑛は与えてくれない。


 「『組織』の経理め、ふざけおって」


 どうやら、瑛に「嚇怒」という名の炎の塊に変えようとしているのは、『組織』の経理らしい。


 「ちょっと落ち着いてください!」


 肩を掴んでの制止は諦め、紅壱は出口に向かおうとしていた瑛の前に立ちはだかる。

 さすがに、まだ、目の前の障害物を問答無用で灰燼に帰すほど、自我が消えている訳でもないらしく、瑛は歩みを止めてくれた。

 それでも、「どけ」と、一般人であれば、自らが火達磨になったかのような錯覚でショック死しかねないほど、熱気を孕んだ声を発した。


 「いえ、どきません。

 聞かせてください、何故、そんなに怒っているのか」


 そんな瑛の灼熱あつい声にも怯まぬ紅壱が尋ねたのが効を奏したのだろう、瑛の唇がおもむろに、その理由を紡いでくれた。もし、鳴辺りが尋ねていたら、どうなっていたか、それは想像するだけで鳥肌が立ってしまいそうだ。

身体強化の魔術を使ってまで逃げようとした愛梨だったが、紅壱絡みで怒った瑛の反応は、いつもよりも速かった

呆気なく、火の鎖に捕まってしまった愛梨は潔く、自身の罪を認める

瑛も、紅壱が愛梨を許し、軽くはないペナルティを課した事で、怒りの火を鎮めるのだった

改めて、今度は瑛がしっかりと支払いの手続きを行い、紅壱は学園を守った報酬として、60万円を受け取り、金額の大きさに驚く

けれども、その矢先、瑛はまたしても、激怒する事に

何故、瑛はブチ切れてしまったのか!?そして、瑛を止める事は出来るのか!?

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