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とある生徒会長の本音は日誌だけが知っている  作者: 『黒狗』の優樹
瑛vs夏煌、ラブバトルのスタート
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第六十三話 自慢(be proud) 瑛、紅壱を自慢したがる

惚れている異性の友人に対して、毒を塗ったナイフを投げた事を反省した夏煌

けれど、ちょっとは仲良くなれるかな、と思った矢先に、修一は彼女の地雷をまたしても、不用意に踏んでしまった

いくら、紅壱の親友でも、言って良い事と言っちゃならない事がある

夏煌は実力行使の中でも、特に異性に対して有効的な手段で、修一の余計な事しか言わない口を塞いだのだった

 「髪よし、目やに、鼻毛、無精ヒゲなし、服装の乱れもなし・・・口臭もよし、だな」


 途中のトイレで入念に身嗜みを整えていた紅壱は、生徒会室のドアを打つ前に、今一度、己の服装が乱れていないか、を確認する。

 一瞬、崩れていれば、瑛が正してくれるか、と期待が胸を過りはしたが、復帰初日から、そんなだらしない所を晒したら、イメージダウンだ、と自律し、制服をビッと着直す。

 そうして、庶務の腕章も真っ直ぐに袖へ止めた紅壱は、「よしっ」と自らに気合を入れるように息を吐き出してから、ノックをした。

 すぐに、「待ってたよぉ」と恵夢が扉を開け、紅壱を招き入れてくれる。

 まず、第一関門突破だな、と恵夢に目礼しながら安堵する紅壱。

 万が一にもあり得なかっただろうが、もし、鳴がドアを開けていたら、追い返されていた可能性が大どころか、それしかない。



 室内に入ると、瑛、愛梨、夏煌、そして、鳴もそこに揃っていた。

 瑛は机の前に形の整った胸を強調するようにして腕組みをして立ち、ソファに腰かけていた愛梨は笑顔でひらひらと手を振ってくる。

 夏煌は愛梨と向かい合う位置に座っており、紅壱がここに来てくれ、嬉しそうに口元をほんの少し緩めていた。

 鳴と言えば、壁に背中を密着させ、そっぽを向いていて、一瞥すら寄こさなかった。

 鳴の態度に腹が立たない訳ではなかったが、瑛の笑顔を前にしたら、そんな小さい事で怒ってなどいられない。

 紅壱は、皆に小さく一礼してから、復帰の挨拶をかます。


 「昨日だけじゃなくて、一昨日のミスも挽回するために、今日から、改めて、生徒会としての仕事に一層、精進いたしますので、これからもご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いします!!」

 

 眼光は鋭く、声も腹の奥底から出ていた。しかも、また、瑛の下で働ける、その歓喜と興奮の念で気合も高まっていたので、紅壱が纏う威圧感は常人の五割増しとなる。

 怪異相手に実戦を積み、同年代の女子より気力が強い生徒会メンバーでなければ、卒倒してもおかしくなかっただろう。


 「こちらこそ、よろしく頼む、辰姫」


 紅壱に負けず劣らず、瑛は嬉しさを溜め込んでいたのだが、生徒会長としての立場を重んじてか、口元は少し柔らかくするだけに留める。

 そんな彼女の自制を知ってか知らずか、恵夢、愛梨、夏煌は紅壱に近づき、「おかえり」、「期待してるぜ」と復帰を祝う言葉を浴びせる、激しいボディタッチを混ぜて。


 「んんっ」


 自分は触りたくても、紅壱に触れないのに、他のメンバーが気軽にボディタッチを繰り返しているのを目の前にして、瑛の中に一つの真っ赤な感情が芽生える。その気持ちの名は、妬み。

 しばらくは微笑む事で、妬みを押さえ込もうとしていた瑛だったが、恵夢に西瓜のように大きく、それでいて、マシュマロのような柔らかさの一対の肉毬を、逞しい腕へ形がひしゃげるように押しつけられている紅壱を見たら、メーターの針が振り切れてしまった。

 男にとって、その軟らかさは金では変えない価値があるにも関わらず、紅壱の鼻の下が伸びていない、そんな事も関係なかった。

 やばい、少し煽りすぎちゃったかな、と自省した恵夢は巨乳の内で後輩に謝りながら、お詫びとばかりに、瑛の方へ紅壱の背を押す。

 恵夢の意図は察せなかったが、結果的に、瑛に自然と近い距離になれたので、紅壱としてはありがたかった。


 「ちょっ!」


 当然、そうなれば、壁際にいて、そっぽを向き続けていた鳴が反応し、二人の間へ割り込もうとする。しかし、そうは問屋が卸さない。愛梨は親友のために、夏煌は昼休みに紅壱と親しく話せた負い目、もしくは優越感があるからか、鳴の前に立ちはだかり、邪魔をしようとした鳴の邪魔をする。


 「会長、色々とご迷惑をおかけしました」


 「何が、迷惑だ。

 謝りたいのは、私の方だと言うのに。

 会長として、君の安全を第一に考えねばならなかった、けれど、結果、私のその判断ミスで、辰姫、君はカガリと遭遇し、戦う羽目になった。

 もし、君が死力を尽くして、カガリを食い止め、追い払っていなければ、祠に封じられていた代物は敵の手に落ちただけでなく、結界の亀裂から入り込んだゴブリンやオークに、多くの女生徒が凌辱され、食い散らかされていただろう。

 辰姫、君は何一つ、私達に迷惑などかけていない。

 むしろ、己を誇れ。辰姫、君が守ったんだ、この学園の平和を」


 瑛の熱い感謝の言葉と念に、紅壱は気まずい思いを抱く。

 瑛の言う通り、死力を尽くしたのは確かだが、カガリは追い払ったのではなく、倒している。しかも、そのカガリの死体はパートナーの霊属らに食べさせ、魔力の塊も自らが取り込んでしまった。その上、生き残った魔属の軍勢は、元の世界に返しただけでなく、自身の傘下に入り、今は村を大きくするために頑張ってくれている。

 そんな事実を、瑛に隠さねばならない以上、紅壱の唇が心苦しさから歪んでしまうのは必然。

 その歪みが、真実を隠している罪悪感ではなく、彼の長所と言っても良い謙遜だ、と瑛が勝手な誤解をしてくれたのは、紅壱にとっても運が良かった。


 「君は、よくやってくれた。

 役に立てなかった、と思うのなら、それでいい。

 その負い目を、成長の糧にしてくれれば、な。

 しかし、これだけは覚えておいてくれ、生徒会長として、私は君を誇りに思う。

 君は、この生徒会の自慢だ。他校の生徒会長と会った際は、たっぷりと自慢しよう」


 いや、『組織』に目は付けられたくないから止めてくれ、と真顔で脅したくなる紅壱だったが、瑛のキラキラとした目を見たら、口から制止の言葉が出てこない。

 惚れた弱みだから仕方ない、そう割り切れる事態ではない、と頭では理解しているのだが、心の方は瑛をガッカリさせたくない、と訴えてくる。

 顔に出ていない分、狼狽しているのが一目瞭然の可愛い後輩を見兼ねたか、助け船を出してくれたのは恵夢だった。


 「アキちゃん、ヒメくんの事を、外で他の人に自慢するのは止めた方が良いと思うの、私」


 「何故ですか?」


 良い気分に水を差され、わずかにブスッとした瑛に対し、恵夢は穏和な雰囲気を崩さない。そんな彼女に、紅壱は、癇癪を起したガキを優しく窘める母ちゃんみたいだな、と思ってしまう。私、まだ、お母さんってほどの年齢じゃないよ、と恵夢が頬を胸と同じ大きさになるまで膨らませて怒りそうなので、顔に出さないようにしたが。


 「アキちゃんが、ヒメくんをモミちゃんやトーリちゃんに自慢したいのは、すっごく分かるの。

 でも、アキちゃんの下に、そんな凄い後輩が入ったって知ったら、あの二人なら、きっと、良からぬ動きをすると思わない?」


 「!!」


 恵夢からの鋭い指摘に、ハッとする瑛。どうやら、たったの一言で冷静さを取り戻したらしい。

 さすが、紅壱の心を刺し貫き、毎日、恋と言う名の炎に焦がされる地獄に落とした女帝だけはある。もっとも、当人だって、紅壱に心臓打ちを直撃させられ、顔を合わせるごとに、息の仕方を忘れそうになっているのだから、お相子だろうが。


 「確かに、あの二人なら、エゲつない事をしますね。

 籾原なら、強引な引き抜き(ヘッドハンティング)くらいでしょうが、井地は辰姫を物理的に潰そうとしても不思議じゃない」


 (へえ、会長が、他人に対して、ここまで敵意をあからさまにするとは、珍しいな)


 別段、瑛に対し、紅壱は聖人君子のような印象を抱いていた訳ではないにしろ、どんな個性の持ち主でも、悠然と受け入れるだけの度量があるのだな、と憧れも抱いていたので、少し驚いた。

 どうやら、瑛は籾原と井地と言う人間に対し、相当に強い苦手意識、もしくは根深い嫌悪感があるようだ。

 とは言え、紅壱が瑛に失望するはずがない。むしろ、人間らしい、女子高校生らしい面もあって、自然な安堵の気持ちが心に生じる。


 (何で、その二人の事を考えただけで、そんな面になるか、聞いてみたいが)


 瑛の苦虫をまとめて百匹近く噛み潰しているような顔を見てしまうと、今の親密度では踏み込んではいけない問題だな、と直感できる。

 同級生である愛梨は、瑛とその二人の間にある確執を知っているようで、「確かにな」と米酢と黒酢の林檎酢割りを一気飲みしたかのような表情になっていた。愛梨も、籾原と井地に対しては、良い印象が無いようだ。


 「でしょ? だから、もう、しばらくは、ヒメ君の事は公にしないでおこうよ。ね?」


 「――――――・・・・・・そうですね。私としても、辰姫が好奇の目に曝されるのは、不本意ですし」


 助かった、紅壱は肩から緊張が抜け落ちるのを感じた。

 瑛から、自分をアピールしたい欲求を見事に削いでくれた恵夢へ、紅壱は視線で感謝の意を示す。恵夢は紅壱からのアイコンタクトを受け、瑛に気付かれぬよう、小さくお茶目なウィンクを返す。

 他の男子生徒であれば、一発で鼻血を噴いただろう。修一は、恐らく、目元ではなく、胸元に目が釘付けになっていたのは、まず、間違いない。しかし、紅壱は瑛の事しか見えていないので、恵夢のウィンクにも、軽く揺れた肉風船にも動揺しない。

 後輩の助けになりたい、そんな見返りを期待しない善意からの行動ではあったが、ここまで無反応だと、さすがに恵夢も凹む、胸は萎まないが。

 恵夢を落ち込ませてしまったとは気付かぬ紅壱と瑛は、「皆に自慢するのは止めるが、君が私の誇りであるのは嘘じゃないぞ」、「あざっす。その言葉で、痛みも吹っ飛びます」と、聞いている方が赤面しそうな会話をしていた。


 「そうだ、忘れぬ内に処理をしておこう」


 ポンと打った手を、瑛はおもむろに紅壱へ向けて開いた。


 「生徒手帳を出してくれ」


 「え?」


 まさか、退学なのか、と青褪めた紅壱を見て、瑛も訝しげな表情になる。


「もしや、携帯していないのか?」


生徒手帳の携帯は、全生徒の義務であり、それを怠っていると判明すれば、反省文提出のペナルティとなる。一般生徒の模範となるべき生徒会の役員が、生徒手帳を携帯していないとなれば、罰則はより重くなってしまう。

心配そうに聞いてくる瑛に反し、鳴は嬉しそうにしている。そんな彼女のあからさまなリアクションに、夏煌は細い眉をキツく寄せ、苛立ちを示す。

 その隣で、何故か、愛梨は汗だくになっていた。室内は空調が効いて、適温に保たれているというのに、だ。


 「いや、持ってますけど・・・・・・生徒手帳をどうするので?」


 「どうするって、今回の報酬を振り込むのに必要なんだが」


 「報酬?」


 思いがけない単語が、不思議そうな顔になっている瑛の薄桜色の唇から零れたものだから、紅壱は戸惑う。


 「そうだ、君は『組織』が高額の賞金首として認定している、あの『夏暁』のカガリを倒すまではいかずとも、撤退させ、この学園に封印されている魔王の一部の強奪を阻止した功績があるからな、報酬が支払われるのは当然の事だ」

 

 自慢げに胸を張る瑛だったが、それを聞いて、しきりに首を捻っている紅壱を見て、違和感を持つ。


 「・・・・・・辰姫、確か、君はエリと一緒に、ワーキャットの退帰作戦に参加したな」


 「えぇ。俺が誘い込んで、エリ先輩がワーキャットにトドメ、刺しました。

 そんな感じの報告書を、俺、提出しましたけど」


 「あぁ、受理した。そうだな、エリ、いや、太猿会計」


 漫画的表現すぎる、とツッコミたくなるほど、愛梨の顔は大粒の汗で埋まっていた。彼女はギギギとわずかに動くだけで、首は縦にも横にも振られない。だが、瑛には十分だった。


 「どうやら、辰姫、君は知らなかったようだが、あのワーキャットの退帰にも報酬が出ていたんだ。

 あのワーキャットの一件では、重傷者も出ていたからな」


 「・・・・・・え」


 「ペアで作戦を実行し、成功したなら、どちらにも支給される。

 もちろん、役割で金額が異なるので、今回は太猿会計の方が多かっただろうが、君にも支給されたはずだ。

 丁度、私はその時、所用で手が外せなかったから、太猿会計に処理を頼み、そのついでに、辰姫に報酬についても説明するよう、言っておいた記憶があるな」


 そこで一旦、言葉を切った瑛だが、その小刻みに震える両肩からは、目に見えるほど真っ赤な怒気が立ち昇っていた。

 ヤバい、そう直感したのだろう、愛梨はすぐさま、生徒会室から脱出にげようと、ダッシュ力を魔術で最大まで強化し、床を蹴る。


 「コーナー・シュピッツェ・ボール・セニオ!」

昼休みに色々とあったものの、紅壱は放課後、緊張しながら、生徒会室に出向く

朝に会えた分、瑛はまた、紅壱とここで一緒の時間を過ごせる嬉しさを噛み締めるも、生徒会の長として、それは表情へ出さないようにしていた。もっとも、親友と先輩には丸分かりだったが

カガリを追い払えるほど強い後輩が、私の隣にはいるんだ、と同年代に自慢したくなった瑛であったが、恵夢の説得により、紅壱に魔の手が迫る可能性があると気が付き、泣く泣く断念するのだった

そんな矢先、瑛から魔属に関する事件の報酬を支払う、と言われ、反応に窮してしまう紅壱

突如、その場から逃げだした愛梨

何故、彼女は瑛からの逃走を選択してしまったのか?

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