第五十四話 腹筋(abdominal muscles) 紅壱、強くなりたいと望む剛力恋らに腹筋運動を教える
今日一日の仕事の進捗を、紅壱は幹部に報告させる
彗慧骨はアルシエルの近くにウルフが近づいてきている、と気付く
彼女からの報告にざわめき、すぐにでも討伐しよう、といきり立つ幹部とは逆に、紅壱はウルフは村の役に立つと考えていた
落ち着いている彼から、ウルフを生かし、村で飼う事の利点を説明された幹部らは、ウルフをなるべく生け捕りにすると言う方針を統一するのだった
「じゃあ、しばらくは各々に割り振った仕事を熟してくれ。
王として認めてもらった手前、気が咎めるんだが、ここに常駐する訳にもいかない身なんでな」
扉の力で、人間界へ任意の時間に戻る事が可能なのは判明したが、異界に宿泊っててしまうと、どうなるか、そこをまだ試していない。本音を言えば、一カ月ばかり滞在し、初日の夕方辺りに戻れれば最高だ、と思っていた。さすがに、一か月では容姿も大して変わらないだろうから、瑛達に怪しまれる可能性は低い。
(次は、土曜日に来てみるか)
幹部らは残念そうな表情になるが、紅壱の微妙な立場も理解してくれているからか、「いってらっしゃいませ」と首を垂れて見送ってくれる。
そんな中、剛力恋が一歩前に出てきて、半ば睨むようにして、紅壱を見つめてきた。
「ん、何だ?」
「タツヒメ様、次はいつ来るっすか?」
「まぁ、あっちで何もなければ、三日後だな。
その日は帰るが、二日後に泊まりの用意して、もう一回、来る」
コクリと肯いた剛力恋は下がるだけでなく、己の得物を手に取って、小屋から出ていった。
「あのバカ娘、王に何と言う口の利き方を」
「まぁ、許してやれ」
「けど、何で、外に?」
「素振りか、スパーをするんだろう」
剛力恋の気持ちは、黒星が多い紅壱には理解できた。
負けて悔しくて寝られない時は、体をとことん動かし続けた方が良い時もある。素振りをして、疲労で頭が回らなくなれば、そのまま倒れ込むようにして眠る事が出来る。今の季節であれば、夜、外で寝伏しても体調は崩すまい。
また、筋トレや走り込み、型の反復をしていると、自分が負けた理由も見えるし、次の戦いのヒントも掴める事もある。
誰が教えた訳でもないだろうに、自分から体を動かしに行った剛力恋に、紅壱は満足げな笑みを見せる。それを目にした林二と完二、骸二も、紅壱に一礼してから小屋を出ていった。恐らくは、剛力恋と共に、今日の反省戦をするのだろう。実際に、紅壱の動きを模倣し、ここでどうすべきだったか、を話し合うつもりらしい。
(今度、ビデオカメラでも買って来てやるか。
使い方は教えればいいし、動画で見れば、自分の足りない部分も客観的に視えるだろう)
ビデオカメラに付いた小さな画面の中に、己がいるのを見て、剛力恋らは、どんなリアクションをするだろうか、想像した紅壱はつい、口元が緩んでしまう。それが、また恐ろしいのは、最早、お約束だ。
吾武一達は、紅壱の事を最強だと思い、強く憧れているようだが、当人はそんな驕りなど持ったことがなかった。いや、驕れなかった、と言う方が正しいだろう。
何せ、祖父は世界最強の男で、その数少ない友人だって、各々が極めている一点に限れば、祖父に冷や汗を流させ、同時に喜悦の表情を浮かべさせる。
それは人間なのか、と疑うほどの猛者に鍛えられていれば、自分の強さに自信は持てても、調子に乗る方が難しい。
陰陽師である祖母や運転技術が超一流の女優は別にしても、沼には剣、カカシには暗殺術、祖父には喧嘩で勝てた試しがない。他の達人相手にも、白星はない。
合格点が貰えるだけで満足しないのが、紅壱だ。
強くなって来たと自信が出てきた途端、容赦のない師匠たちの優しさでこてんぱんに負かされる度、彼は己を鍛え直した。普通なら、世界最強クラスに自分が勝てないのは当たり前だ、と諦める。けれど、紅壱には諦められない理由があった。
彼は子供ながらに知っていた、世界最強すら凌駕する、その程度の結果に到達する事を諦めているようじゃ、恩のある魔王と再会するなんて無理だ、と。
諦めれば、死なずに済むのは体。諦めて死ぬのは心、だから、紅壱は負けるほどに強くなり、この年齢にして、祖父らに本気の一端を出させるまでに到ってしまったのだ。
人間は限界を超えたら死ぬ、そんな考え方があったからこそ、紅壱は限界の先を突破しようと躍起になった。強さへの貪欲さが危なっかしくなったのは、自身の髪が赤く染まる一件があってからだった。
その一件により、自分が敗北の上に積み重ねてきた、淡い自信が土台から崩壊してしまった紅壱。
常人なら再起不能になるほど深刻なダメージが、彼の心には刻まれた。しかし、紅壱はそこから復活した。この精神力は、魔王の依代だから、そんな陳腐な説明には収まり切らないだろう。
今まで以上に、自分を死線のギリギリまで追い込むようにして努力し、己らへ我武者羅に向かってくる愛弟子に師匠らは不安を抱いた、祖父の玄壱以外は。
修練場に足を踏み入れたなら、その関係は、祖父と孫でもなければ、師匠と弟子でもない、死ぬか生きるかの敵同士。だから、玄壱は紅壱の成長、いや、進化を大歓迎し、それまで以上に、本気でぶん殴った。
一つの勝利だけでなく、百の完敗、千の惨敗を糧と踏み台にしたからこそ、今の辰姫紅壱はいる。
彼は喧嘩のエリートでもなければ、努力の天才でもない、ただただ、純粋に強くなって己の大切な物を守りたい、我儘で負けん気の強い、進化能力だけがズバ抜けた怪物だった。
自分の頭で、強くなる方法を考え、試行錯誤を体で繰り返す魔属らに、自然と紅壱の期待も膨らむ。
紅壱自身も、本質的な強さに対しては貪欲な存在だ。幹部のレベルが上がってくれれば、手加減もしないで済む。彼の期待は、幹部との模擬戦が自分もまた、強くしてくれるかもしれない、そこにもあった。
「・・・・・いや、連れていけないぞ、お前も」
紅壱ににべもなく断られ、妖精は「ガビーン」と表情を歪め、へろへろと蛇行しながら落ちていく。慌てて、食々菜は、その大きく温かな掌で彼女を受け止めた。
「この妖精さん、何と仰ったんですか?」
「俺と一緒に人間界に行っていいか、ってよ。
いくら、体が小さいからって、魔力は出てるんだろ」
視線を向けられ、「ええ」と磊二は首肯する。「なら、やっぱ、ダメだな」と紅壱に改めて、同行を却下され、妖精は食々菜の掌の上で泣き始める。
「泣いたってダメだ。
俺が迷惑するから連れていきたくないって言うんじゃない。
俺の近くには、魔属を狩る事を生活の一部にしてる人達が多いんだ。
全員が全員、お前を問答無用で、乱暴に倒すとは限らないけど、中には本当に容赦ない人もいるんだ」
この時、紅壱の頭に浮かんでいたのは、誰だったのだろう・・・
「だから、連れていけない。
せめて、魔力が完全に消せるようになるか、ハンターから逃げきれるだけの実力が備わってからだ」
(まぁ、そもそも、扉を魔属が潜れるか、も微妙だよな)
雷汞丸達は霊属だが、自分と契約しているので、一部と見做される可能性は高い。しかし、いくら、自分が村長かつ王を担う村の一員とは言え、一緒に通れるとは断言できない。通ろうとした時に弾かれるだけなら、まだ良いが、消し飛んでしまったら目も当てられない。
敵対行為を取ってくる相手なら、実験するのに打ってつけだが、残念ながら、今はその対象がいない。仲間で安易に試す訳には行かない以上は、妖精が泣き喚いて懇願してこようが、心を鬼にして、甘さは見せないに限る。
どうしても、人間界に行きたいと言うなら、自分と契約させるしかない。
アバドンの恩恵なのだろう、雷汞丸、風巻丸、翠玉丸、奔湍丸、羅綾丸の五匹と契約していても、余裕はまだ残っている。恐らく、幹部だけでなく、このアルシエルに住む魔属全てと契約を結んでも、不具合は出ないだろう。
根拠はないが、その確信が紅壱にはあった。なので、この妖精と契約を結び、名を与える事も出来る。
だが、その方法にしても、瑛達に察知される可能性も0ではない。
怪異と契約する事によって、魔力に何らかの変化が出てしまうのなら、魔力の扱いで、自分に勝っている瑛達なら気付くだろう。
何せ、一般人(私的な財産や社会的な立場から考えれば、普通ではないにしろ)である輝愛子ですら、契約した紅壱の雰囲気が変わった事に目敏く気付いたのだ。もちろん、それは輝愛子が紅壱の事を溺愛しているからだが、異変を察知されるリスクは避けたかった、紅壱としては。
契約をするにしても、魔力の扱い方に熟練し、契約による変化を完全に隠せるようになってからだ、と紅壱は考えていた。
このように、最悪な事態を常に想定し、自分と仲間の安全を確保できる手段を、慎重に選択する、ウサギのような臆病さを恥とせずに持っているからこそ、紅壱の格は上がるのだ。
常に百近いパターンの先を読み、即断即決できる紅壱に、幹部らは尊敬の眼差しを向ける。
「磊二、急かすようで悪いが、どうだ、進捗は?」
紅壱が確認したいのは、井戸掘りの方ではなく、魔力の扱い方だろう、と察した磊二は「今しばらく、お時間をいただきたいです」と、虚勢を張らずに頭を下げる。
「いや、頼んだのは昨日の事だし、お前には水脈探しも割り振ってるんだ。
どっちを優先するってんなら、村の為になる水脈探しの方でいい。
俺は、アッチでも情報を集められるんだしな」
そう言われて、奮起しない磊二ではない。人間に、紅壱へ魔力の使い方を指導すると言う名誉な役目を奪われてはなるものか、と彼の目の色が変わる。
揺さぶりをかけたつもりはなかったので、紅壱は唐突に、磊二が雰囲気を変えたので、瞠目するが、消沈されるよりは良いので、理由は考えない事にした。動機を蔑ろにする気はないが、心に着火した、その事実が重要だ。
「こちらへお戻りになるまでには、カリキュラムを完成させます」
「・・・・・・まぁ、無理はするな」
頼んだぞ、と硬くなっている彼の肩を軽く叩いてから、紅壱は吾武一へ顔を向け、明朝の指示を託す。
「とりあえず、明日はやる気のある奴だけでいいから、川まで走り込みに行ってくれ。
戻って来て、息が整ったら、腕立て伏せだ」
「何回ほどやらせましょうか?」
「まぁ、理想は100回だが、いきなり出来るもんじゃないから、各々の腕が動かなくなるまで、だ」
「了解です」と、吾武一は畏まる。そんな彼の目にも闘争心は宿っており、明日こそ、100回の腕立て伏せに成功するぞ、と滾っているようだった。
「まぁ、やりすぎるよな。肘を痛めると、致命的だぞ」
栄養ドリンクの回復効果は劇的だが、過剰なトレーニングで与えてしまったダメージにまで通用するか、分からないのだ。
「・・・・・・気を付けさせます」
「そうしてくれ」
さて、帰る前に、剛力恋らにも声をかけていこう、と紅壱は小屋の外に出る。
期待通り、四匹は広場でスパーリングに精を出していた。
まだまだ、一つ一つの動きに粗はあるが、その分、磨けば輝いてくるな、と紅壱に思わせるだけの質があった。
どうやら、完二は剛力恋に「参った」をしたようで、腕立て伏せを行っているようだ。
彼が腕立て伏せを終えるのを見計らい、紅壱は「どうだ?」と声をかけながら、近づいた。
慌てて、林二と完二、骸二は居住まいを正したが、剛力恋は立ったままで、あらぬ方向に視線を向けている。どうやら、焦りから小屋を逃げるようにして出てきてしまった事に罰の悪さを覚え、紅壱が怒りに来たのではないか、と不安になっているようだ。
しかし、謝る事には、何らかのプライドが邪魔をしているようで、林二らのように紅壱の前に跪けないようだ。
林二は「おい」と小声で叱責し、剛力恋の腕を引いていたが、紅壱は「いい」と手を振った。
「・・・・・・アタシ達は強くなれるっすかね」
「さてな。ただ、強くなりたいって思ってるだけじゃ、強くはなれねぇ。
本当の強さを得た奴ってのは、全員、須らく、努力をしてるもんだ。
言っただろう、お前らに、強くなりたいって思いと、強くなるための努力に耐える根性があるなら、俺はいくらでも協力するって」
「ありがとうっす、タツヒメ様」
ゴシゴシと涙を拭った剛力恋は紅壱に向き直ると、勢いよく頭を下げた。言葉はなかったが、その勢いの良さと角度に、彼女の反省がちゃんと見受けられたので、紅壱は頷き返して、部下の非礼を広い心で許した、と言うポーズを取っておく。
王様の怒りが解けたとなれば、遠慮しないのが剛力恋の長所だろう。下げる時以上の勢いで顔を上げるや、紅壱に縋るようにして助力を求める。
「腕立て伏せ以外にも、一人で体を鍛える方法を教えて欲しいっすよ!!
上手く言えないっすけど、腕立て伏せだけだと、強さのバランスが良くない感じになる気がするっす」
どうやら、それは他の三匹も薄々とは感じ出していたようで、表情こそ固めたままだったが、目は剛力恋と同じ色に染まっていた。
自身も強さに対して、誰よりも渇望している自覚があるだけに、紅壱はこの類の目に弱かった。
「無理はしないって約束できるなら、もう一つくらいなら教えてやる」
「約束するっす」
「約束します」
「言い付けは守るぞ」
「お約束しましょう」
四人の言葉が重なった事に苦笑いしつつ、紅壱は地面に寝転がる。その状態で行うセルフトレーニングは、腹筋運動である。
「基本的なやり方としちゃ、こんな感じだ」
紅壱は膝を軽く曲げると、頭の後ろで腕を組み、「い~ち」と上半身を起こす。ただ、それだけの動きだが、初見である剛力恋らは「おぉ」と驚く。
むず痒さを覚えながら、紅壱は10回ほど腹筋運動をしてから、「よっ」と勢いを足で付け、立ち上がった。
「この腹んトコの筋肉を全体的に鍛えたいってんなら、このトレーニングが効果アリだ」
ふむふむ、と頷いた林二だが、とある事が気になったようで、紅壱に緊張しながら頼み事をしてきた。
「王様、お腹の筋肉を見せていただけますか?
この腹筋運動が、どれほどの効果があるのか、確認したいのです」
「アタシも見たいっす」
林二の頼みを後押しするように、剛力恋もしきりに右手を上げる。
「そんな大したもんじゃねぇぞ」
恥ずかしそうに捲られたシャツの下にあったものは、仮面ライ〇―か、とツッコミを受けるほど、綺麗な形に割れ、しかも、一本の溝が実に深い腹部であった。
闘氣による防御も万能ではない。その質を高い状態で維持しているのは、ここまでになるほど地道に鍛え、なおかつ、それを続けているからだ。
彼の見事な腹筋を目の当りにし、自分達の努力が何ら足りていない事を、彼らは思い知ったようだ。
生きるのに必死で、自分を鍛える余裕もなかったし、その姿になったのも、つい最近なんだ、と慰めても意味がない、むしろ、逆効果だと分かっていた紅壱はシャツを下ろし、「やり方、教えるから、とりあえず、仰向けで寝転べ」と地面を爪先で叩く。
「まぁ、やり方って言っても、そんな大層なもんじゃねぇ。
寝転んで上半身を起こす、この繰り返し。
あ、起き上がる時は、反動を付けないってのが大事だ」
余裕で300回の腹筋が出来てしまう紅壱は軽く言うが、初めての腹筋運動に四匹は辛そうだ。特に、完二は体が大きいからか、起こすたびに歯を食い縛っている。
スケルトン族である骸二は、どうやら、魔力が筋肉の代わりをしているのか、プルプルと小刻みに震えながら、どうにか、上半身を起こしきる。どうにか出来て、安堵したのか、「ぶはぁ」と彼は口から黒煙を吐き出す。
「毎日、どれくらい行えばいいのでしょうか?」
「そうだな、俺は50回を、最初の目標にしたな。
50回が出来るようになったら、10回ずつ増やしていった。
お前らの場合は、30回を1セットにしたらどうだ」
「うっす!!」と紅壱に返事をしながら、剛力恋は汗だくで腹筋運動を行う。
「できたっす~」
どうにか、30回を達成した剛力恋は引き攣った笑顔で立ち上がる。
「タツヒメ様みたいなお腹になるまで、どれくらい、かかるんすかねぇ。
参考にしたいから、もう一回、見せて欲しいっす」
俺の腹筋を見ても、そんな楽しくはないだろう、と微苦笑しながらも、紅壱はシャツの裾を捲りあげ、剛力恋に腹を向けた。
「うーん、やっぱり、凄いっす。デコボコっす・・・・・・ウラァッ」
「!!」
紅壱の逞しい腹筋に惚れ惚れとし、褒め千切っていた剛力恋がいきなり、ショートアッパーを王の腹部へメリ込ませたものだから、林二、完二、骸二はギョッとしてしまう。ゴヅンッ、と硬い岩を殴ったような音まで、直撃した瞬間に上がれば、尚更に驚くだろう。
しかし、憤慨した完二と骸二が糾弾の言葉を発するよりも、「あいたたた」と剛力恋が自らの拳を押さえ、蹲る方が先だった。
「どうした」と慌てた林二が涙ぐんでいる妹分の拳を見ると、わずかではあるが皮膚が裂け、血が流れ出ていた。すぐさま、彼は腰のベルトに挟んでいたタオルを細く引き裂いて、剛力恋の拳へと巻きつけ、止血を図った。
「・・・・・・剛力恋、言っただろう。お前は、攻撃の動作が丸分かりだって」
呆れたように嘆息する紅壱の露わにされたままの腹筋の表面は闘氣に覆われている事を示すように黒光りし、凹凸がさらに際立っていた。見た目からは分かり辛いが、今の彼の腹筋は、鋼と同じ硬さになっている。そんな鋼の盾と表現しても過言じゃない腹筋を思い切り殴ったのだ、剛力恋の方がダメージを負うのは当然だろう。
「ちぇっ、折角、良いタイミングだったと思ったのに・・・って!?」
悔しそうに唇を尖らせた剛力恋が、林二にポカンと殴られ、唸る様に、完二と骸二は声を出して笑ってしまう。「ブハハハ」と「カッカッカッ」と笑う二人は、どこぞの悪役プロレスラーだと思うほどの威圧感が出ていた。
「本当に申し訳ありません、王様」
「気にするな。わざと誘った俺も悪い」
「でも、オイラたち、剛力恋が殴る気配、まったく分からなかったな」
「さすが、我らが王だ。腹筋もそうだが、敵の攻撃を予測する勘も学ばせてくれる」
しきりに感心している友人に、林二は「何を呑気に」とボヤキたくなる一方で、吾武一がいなくて良かったとも安堵した。
「絶対、タツヒメ様の顔色を変えさせるっすよ」
懲りていない剛力恋に、林二の口はもう塞がらない。
「攻撃力もいいが、防御のテクも疎かにするなよ。
当たれば確実の一撃を持っていても、当てられ過ぎて動けなくなってちゃ、本末転倒だからな」
「どんなパンチ受けても平気なように、腹筋、しっかり鍛えるっす」
むんっ、と力を入れた腹に剛力恋は拳を軽く当てる。闘氣に覆われている紅壱の腹筋を打った時のような音こそ出ないが、コンコンと桐の板を叩いたような音は上がった。
「まぁ、本当に無理するなよ。
あと、他の奴にも、ちゃんと教えてやれ。
お前らだけが強くなっても、意味がないんだからな」
「もちろんです。明朝、皆で集まった際に、やり方をレクチャーします」
任せたぞ、林二、と笑顔で頷いた紅壱は意識を集中し、眼前に扉を出現させた。
四匹は、すぐに立ち上がり、王に首を垂れた。
「骸二、スケルトン族には負担をかけちまうかもしれないが、今夜も見張りを頼むな」
「仰せのままに」
何かがあれば、こちらに残る相棒らが知らせてくれるだろう。
「じゃ、またな」
「お気をつけて」
紅壱は後ろ手に手を振り、開けた扉を潜った。またしても、あの浮遊感が彼を襲う。
報告が一頻り終わると、更なる強さを求める剛力恋は仲間と共に小屋の外に出て、自己鍛錬を始める
人間界へ、一緒に行きたがる妖精を宥め、外に出た紅壱は努力する彼女らを見て、期待で胸が膨らむ
腕立て伏せだけでは、付く筋肉のバランスも悪くなってしまうだろう、と彼は無理はしないと約束させたうえで、彼女らに腹筋運動も教える事に
剛力恋がちょっかいを出すと言った、ちょっとしたハプニングはあったにしろ、紅壱は良い気分のままでアルシエルを後にするのだった




