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とある生徒会長の本音は日誌だけが知っている  作者: 『黒狗』の優樹
異世界生活の改善開始
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第五十二話 報告(report) 幹部、今日の業務成果を紅壱へ報告する

紅壱の圧倒的な強さに触れた事で、今の自分の実力を知れた剛力恋と林二

自分の為に、仲間の為に、何より、王の為に、もっと強くなろう、と決意したのは二匹だけじゃない

連帯責任により、腕立て伏せをしたゴブリン族だけでなく、紅壱の強さが地味な努力を、地道に重ねてきたからだ、と知った他の三種族も王に、一層の忠誠を誓うのだった

紅壱は腕立て伏せを終えると、幹部を一カ所に集め、今日の報告をさせる

 「揃ったな、全員」


 「では、それぞれ、今日の報告を」


 紅壱から任され、緊張しているが嬉しさが双肩から滲み出ている吾武一の仕切りに頷き、皆が手を挙げた。ザッと全員の顔を見渡し、まず、紅壱は弧慕一を指名した。


 「では、報告させていただきます」


 紅壱、続けて、他の幹部に頭を下げてから前に出た弧慕一は、紅壱の前に跪く。止めろ、と言いたい彼だが、幹部から王様らしくいる事を求められている上、他の村魔に混じって働いてしまっただけに、強くは言えない。

 王様も大変だ、と溜息に憂いを包んで噛み潰した紅壱は、なるべく威厳が出るように問う。


 「どうだった、スケルトン族が住んでいた洞窟は拡張できそうか?」


 「はい、可能だと思われます。

 タツヒメ様が、我らに買い与えて下さった道具があれば、十分に、洞窟の壁を砕く事は容易でしょう。ただ」


 「ただ?」


 「輔一殿に居住スペースを案内していただいたのですが、スケルトン族も使った事が無い道がありました。

 行き止まりかと思ったのですが、壁の向こうには、どうやら、広い空間があるようです。

 壁を壊す事も出来たのですが、何らかのトラブルが発生する可能性もあったので中止させました。

 ついては、申し訳ないのですが、壁を破壊するか、を判断していただきたいのです」


 弧慕一が気まずそうにしていたのは、紅壱に責任を押しつけてしまう、自分が仕事で結果を出せなかった、と思っていたからのようだ。


 「・・・それでいい」


 自身の能力を超える事態に対して勝手な事をせず、冷静な対応をし、自分に報告した弧慕一を紅壱は褒める。叱責される覚悟もあっただけに、まさか、誉められるとは思ってもいなかった弧慕一は間の抜けた表情を晒してしまったが、すぐにハッとし、平伏する。


 「壁の向こうが広い空間になっていそうなのは、その道の先だけか?」


 「いえ、他にも細道がありましたので、もしかすると」


 「他の道の調査は、まだだな?」


 コクリと肯いた弧慕一を前に、紅壱は「ふむ」と顎へ手を当て、首を軽く傾げた。美少女が行えば、男心をくすぐる可愛らしい動作ではあるが、ゴブリンらを従える紅壱だと胸はトキめくどころか、心臓が縮み上がりそうになる。

 「壁は薄いのか」


 「はい、あのツルハシであれば、三撃ほどで完全に砕けるか、と。吾武一殿と、奥一殿なら、一撃で」


 「そんなに脆い壁か」


 (壁の向こう側に、有毒や可燃性のガスが溜まってたら、危険だな)


 破壊した瞬間に、ガスが流れ込んできて、コボルドが即死する、またはツルハシを打ち込んだ瞬間に発した火花に引火して大爆発する可能性が低くない。


 「コボルドは、土を操作する魔術に長けてる種族。

 弧慕一、お前であれば、その壁を全壊させず、向こう側が見える程度の穴を作れるんじゃないか?」


 吾武一に問われ、弧慕一はわずかに顔を顰めて、首を横に振る。


 「試そうとしましたが、洞窟内に漂っている闇属性の呪素が濃すぎて、上手く行きそうもなかったのです。

 重要な仕事を任せていただいたにもかかわらず、力不足で申し訳ありません」


 「だからこそ、我々はHomeにしていたんです」


 「なるほど、スケルトンは夜の方が戦闘力が上がる種族の一種ですから、暗い洞窟内の方が暮らしやすいんですね」


 「じゃあ、昼間、動くのはキツいのか、お前ら」


 紅壱に申し訳なさそうな表情をさせてしまったからだろう、輔一、骸二、彗慧骨は慌てて否定する。


 「いえ、あくまで、日光を長く浴びすぎると、動きが阻害されるだけです。

 皆には、各々で日陰に入って、少しでも闇属性の呪素を体内に取り込むように注意しています」


 「それに、王様の支配下に入った事で、名が与えられていなくても、皆、ちょっとだけ強くなったみたいで、前よりも昼間、機敏に動けるようになってるみたいです」

 

 スケルトンからリビングアンデッドになった己が、特に日中に行動できるからだろう、彗慧骨の言葉は力強い。


 「けど、無理はするなよ。

 弧慕一、お前自身のレベルが上がれば、洞窟内でも土属性の魔術は使えるか?」


 「使えます・・・いえ、使えるようになってみせます」


 「期待してるぞ。

 じゃあ、コボルド族には、少し負担をかけちまうかもしれないが、しばらくは俺が購入てきた道具で、安全なエリアから拡張を開始してくれ」


 「かしこまりました」


 弧慕一が下がると、次は影陰忍が自らの働きぶりをアピールしてきた。その積極性が、忍者らしいか、そこはツッコまないであげてほしい。


 「侵入者用の罠、作成は順調でござる」


 「お、自信ありか」


 満面の笑みと共に頷いた影陰忍の「危罠作成・小」のスキルを確認すると、十分な経験値が溜まっているようだった。その罠を設置すれば、「危罠設置・小」のスキルにもポイントが入るのだろう。二つが熟練すれば、スキルアップや、他のスキルを獲得できる可能性もありそうだ。


 「気付かれないように設置するのは当然にしろ、村魔が引っ掛からないように、自分達には分かる目印を用意しておけよ」


 一瞬、表情が引き攣ったのは、失念していたからだろう。「御意」と小刻みに震えながら首を垂れた影陰忍に苦笑いし、紅壱は彼女を下がらせて、骸二を指名する。


 「見回り、ご苦労さん。

 森で、何か異変はあったか?」


 「顕著な危険はありませんでした。

 エルフやデビルも、アルシエルを監視している気配は付近に感じませんでした。

 ですが、奴らは魔術に長けておりますので、私らが感知できなかっただけかも知れません」


 見た目からは分かり辛いが、紅壱の役に立てるだけの働きをできた、そう自信満々に言えぬ事を悔しく思っているらしい骸二。


 「まぁ、あっちが先に手を出してこない限りは、こっちも動かなくていい。

 そうか、エルフだけじゃなくて、悪魔の類もいるのか、この森には」


 瑛の作ってくれた資料に載っていた写真には、紅壱がイメージしていた通りのデビルが写っていた。

 頭から生えているのは山羊のような角、背には蝙蝠の翼、その体躯は筋骨隆々であった。恐ろしい形相に見合い、知性は低く、暴力衝動に任せて、手当たり次第に人や物を破壊するそうだ。

 腕力もあり、飛ぶ事も出来る、その上、個体によっては火を吐く、角から電撃を放つ、幻視を使うなどの攻撃手段も有しているそうだ。

 瑛が高等部に進学してから、担当するエリアには一匹しか出ていないらしいが、その際は、大きな被害となった、と資料にはあった。

 疑問があったら、何でも聞いてくれ、と瑛には言われていたが、紅壱はその一件について、瑛へ尋ねられなかった。資料は手書きではなく、パソコンで印字されていた。なのに、その「デビル」の説明文だけ、強い悲しみが籠っているように、紅壱は感じた。惚れた女の心の傷を、どうして抉れようか。

 いつか、瑛に話してほしいな、と願いながら、紅壱はデビルの特徴を頭の中へ叩き込んだ。

 ちなみに、デビルのページにも、瑛の手書きのイラストが挿っていたのだが、その絵は例に漏れず、強烈だった。実物のデビルも醜悪な面構えだったが、瑛の絵も負けず劣らずの醜さであった。

 もし、デビルが瑛の絵を見たら、即座に泣いて、特徴的な尻尾を丸め、逃げ出しただろう。悪魔祓いのアイテムとして売り出したら、それなりの儲けが出そうだ、と紅壱は瑛を傷つけないコメントを必死に考える一方で、そんな生臭い発想も思い浮かべていた。


 「森の北側から追われてきた奴らが、この西側で偉そうにするのはムカつくぞ」


 紅壱が小首を傾げたので、すかさず、食々菜が説明に入る。


 「この森は、大きく分けて、四つのエリアに分かれているんです。

 一つはここ、西側です。棲息している種族はゴブリンやオーク、エルフ、ドワーフなどがおります」


 『組織』によって、亜人種と分類されている魔属が多いのが、森の西側らしい。


 「あと、スライムやフェアリーと言った種族も多いです」


 彗慧骨が、食々菜の説明を捕捉した。

 へぇ、と頷いた紅壱は己の頭上で、満腹感により眠ってしまっている妖精を落とさないように気を付けながら、メモを取る。


 「南側には、ワーウルフなどの獣人や、ビートルマンと言った蟲人が多い、と聞きます。彼らの身体能力は、とてつもないそうです。

 また、高レベルで巨体の魔獣などもいるらしいです。この村に見た者はおりせんが、ドラゴン種もいると聞きました」


 (ドラゴン! やっぱ、異世界だもんな。いるに決まってるか)


 「北に多い種族は、デビルやウィッチ、サキュバスと言った魔術に長けた種族、ゴーストやゾンビと言った触れ辛い種族らしいです。デーモンの一族が錬金術で作りだした機械人形も大量におり、エリア中に配置されているそうです。

 基本的に一致団結している南はともかく、北は勢力と陣地争いが過激で、それに敗れた者は、西エリアに逃げてきて、力の回復を図るのです。また、他のエリアに侵略する際の拠点として、ここに移ってくる実力者もいます」


 (そう言えば、多部さんも公爵の事で苛立ってる時に、そんな事を言ってたな。

 なら、公爵の屋敷は、こっち側にあるのか?)

 

 多部より少し弱い公爵だが、今の自分よりは遥かに強いだろう。この村と住魔に手を出してくるのなら、毅然と戦うつもりではいるが、できれば、争いたくない相手だ。恐怖もあるが、自分の料理を褒めてくれる者とは敵対したくない、そんな甘さもあった。

 公爵は、今回、学園を襲った一派と関係しているのだろうか、そんな事を考えながら、紅壱は皆からの報告に耳を傾ける。


 「境界線が明確に決まっている訳でも、壁などが作られている訳でもないので、北と南の魔属は自由に行き来しますが、森の中でも西は最弱なので、ここに棲む魔属のほとんどは、北と南に進んで行きません」


 ふと、食々菜の説明が途切れた。メモから顔を上げると、彼女は何かを言い淀んでいる風だった。


 「そして、東側には・・・・・・」


 「俺達、人間が、霊属と呼ぶ、他のエリアとは比較にならない、圧倒的に実力のある種族がいて、支配している訳だな」


 食々菜だけでなく、幹部らが血色を失いつつある顔で頷いたのを見て、紅壱は「東にいるのは妖怪か」と確信を強めた。

 種族数で言えば、魔属の方が圧倒的なのだろうが、その分、個体の強さが霊属はズバ抜けているのだろう。


 「友好的な交流を図れるとしたら、やっぱ、東か」


 「!!」


 紅壱は呟いたつもりだったが、吾武一らの耳にはハッキリと入ってしまったらしい。

 全員がギョッと顔を引き攣らせ、無意識に、王の正気を疑ってしまう。彼らは、すぐに己の心に過った恐れを拭うも、顔には汗が滲み出てしまっていた。

 代表して、紅壱に恐る恐ると尋ねたのは、副村長の筆頭を自負している吾武一だった。

 数秒間ばかり悩んだ彼は、ストーレトな質問をぶつけた、王へと。


 「本気ですか?」


 「勿論だ。俄かとは言え、俺にも王としての立場がある、お前らを混乱させるだけの発言を軽はずみにはしねぇよ」


 茶を飲み、紅壱は「あっちが穏便に話を聞いてくれる気なら、無益な戦いはしなくて済む」と続ける。


 「もちろん、東の奴らの傘下に入るつもりもねぇ。

 甘いと言われるかもしれないが、できりゃ、力で支配するって形にもしたくもない。

 理想としては、同盟が結びたい」


 「ど、同盟ですか?」


 「あぁ、同盟だ。

 資材や食材を交換したり、技術提供をしあえたりすば、お互いが統治しているエリアも発展させられる。 有事の際は、共戦関係として弱点をカバーできりゃいいな」

 

 切っていない羊羹を齧った紅壱は、「まぁ、最終的には、この森の東西南北で一つの連合を作りたいんだけどな」と、爆弾発言を投下した。

 動揺で、皆は頭が真っ白になってしまう。しかし、少しずつ、落ち着きを取り戻してくると、「この王なら、やってのけるかもしれない」と思えてきた。

 東は得体が知れない、北は狡猾で策士、南は脳筋で荒くれ者ばかり、西はどっちつかずの日和見主義、そんな相性が最悪すぎるため、これまで、誰も一致団結する事など考えてこなかった。

 もちろん、それは協力せねば、どうにもならない事態が起こってこなかった事も大きい。けれど、これから、そのような状況にならないとは、誰も断言できない。

 そんな時、反目し合っていたら、この世界に住まう怪異は全て、全滅させられてしまうだろう。だが、そんな時だからこそ、お互いに相手の下には付きたくない、と安いプライドが働いてしまう。


 (いざと言う時、誰がリーダーとなるか、余計な小競り合いで消耗しないためにも、何も起きていない内に、全種族を纏める王は決まっていなければならない)


 伝説に語り継がれなくなって久しい、七柱の魔王の所在が分からぬ今、この森の覇権争いに没頭している怪異を導けるのは、自分達の目の前にいる辰姫紅壱しかいない、全員の気持ちが一致する。

 刹那、紅壱は自分の中でアバドンが疼くのを感じた。


 (・・・・・・褒められた?)


 試しに呼びかけてみようか、と思った紅壱だったが、突然、吾武一らが己に平伏してしまったので、慌てて中断する。


 「どうした?」


 「改めて、我らが王に忠誠を誓わせてください。

 我らが命、お預けいたします」


 「・・・・・・よろしく頼む」


 ハイ、と返事を揃えた幹部に、紅壱は「何で、急に?」と疑問を覚えながら、負うように頷き返した。


 「まぁ、『組織』や天使に対抗するための連合は、今すぐって話じゃない。

 まずは、このアルシエルを軸にして、西側の魔属を束ねるのが先決だ。

 皆、逸って、北、南、東に接触しないように」


 (・・・・・・あ、こいつ等、動く気だったな)


 顔を上げていない吾武一らの肩が、一瞬だが硬直したのを、紅壱は見逃していなかった。やはり、魔属も図星を突かれると、肩に反応が出るらしい。

 心の海の揺らぎを体表に出さない訓練もさせるべきか、と紅壱は溜息を溢す。

幹部からの報告を受け、紅壱は改めて、問題が山積みである事を実感する

やる事は多く、その一つ一つの解決が容易ではない

だが、大変であるほど燃えるのが、辰姫紅壱と言う男であり、王の器

独りで抱え込まない彼は、力強い仲間に頼りながら、村をより良い物にするための努力を惜しまないのだった

そんな中、紅壱はとある爆弾発言で、幹部らを驚かせてしまう

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