第四十三話 会合(meeting) 紅壱、吾武一らと村の今後についての方針を話し合う
万引き犯を捕まえる、と言った寄り道はしてしまったにしろ、自らが治める村・アルシエルの発展の助けになりそうな物品を大量に買い込んで来た紅壱
村に戻ってきた彼は、仲間らに軽い腹ごしらえをさせてから、今後の為に何をすべきか、それを話し合うべく、幹部を仮の集会所へ集める
さて、どのような意見が飛び出すのか
「よし、吾武一も顔を洗って、戻ってきたところで話し合いを開始する」
「ハイ!!」
紅壱から買ってきた物の整理と配布を任された食々菜を除く、名付けにより種族進化済みメンバーの返事に頷き返した紅壱は、全員の顔を見まわしてから、「まず、何から始めるべきだと思う?」と意見を求めた。
自分は、王としても、村長としても、新米だ、と自覚がある紅壱。だから、変に驕らず、分からない事はハッキリと分からない、と言葉で告げ、態度で示し、素直に部下や仲間の力を借りられる。それも、民を導くリーダーとして、間違っていはいない器であるとは思っていない紅壱は、進行を吾武一に任せた上で、もう一度だけ、同じ質問をする。
「意見がある者は、挙手してから述べるように」
全員が、しばらくは押し黙り、どの事業から着手すべきか、を悩み出す。
最初に、堂々と手を挙げたのは、吾武一だった。
「まずは、縄張り、と言うよりは、この村そのものの敷地を拡張すべきです」
それに同意したのは、弧慕一と磊二だった。
「この緊急事態なので、皆、一つの小屋で雑魚寝する事に我慢してくれるでしょうが、それも長期間は難しいでしょう」
「特に、オーク族は巨体なので、ゴブリンのサイズで作った小屋は狭すぎます。
鼾もうるさいですが、寝返りを打った際、隣にいる同居人を潰してしまう可能性もあるか、と」
昨夜に、輔一を危うく、骨煎餅にしてしまう所だった、奥一は「ぶひ」とバツが悪そうに鼻の頭を掻いた。
「なので、木を切り倒し、地面を均して、新たな家、各々の種族のサイズに合った家を建てるのが急務か、と」
「ふむ、この広場に家を建てるよりは、村の敷地の外、森を拓く方が今後の事も考えれば正しいな」
吾武一も、弧慕一らの意見に賛成の態度を示す。
「それも大事っすけど、私は個々の強さを高めるのが大事だと思うっす」
「他の魔属の動きも、探るべきでござる。
王の命令があれば、拙者はすぐにでも、耳長の里に侵入するでござる」
戦力の強化を訴える剛力恋と、対外調査を推してくる影陰忍。
「戦力ではないが、体を鍛えるのであれば、斧で切った木を運んだり、川の水をこの村へ運ぶ水路作りや井戸掘りでも十分だ、剛力恋。
戦い方を知る前に、まず、基礎的なスタミナや筋肉を付ける方が大切だ」
「陰険だが、余所者の接近に、耳長どもは聡い。
侵入して見つかれば、奴らがこちらに攻め込んでくるチャンスをくれてやるものだぞ。
王様はこっちから、喧嘩は吹っかけないと言ったんだ。
まずは、村の防御をしっかり固めるのが先だぞ」
(王様に握力勝負を仕掛けた、お前が言うなよ、それを)
皆、似たような事を心中で思ったのだが、完二の意見は間違ってもいなかったので、「確かに」と受け入れるに留める。
「村の防衛と言えば、壁か。
しかし、この村に集まったコボルドの力を合わせても、村一周するほどの壁は作れないな。
大きさを優先すると、どうしても薄くなり、結局、敵の攻撃が防げない」
「奥一様、壁が無理なら、防護柵を作るのが一番です。
なので、家を建てる分と、防護柵を作る分の木材を確保するために、率先して行うべきは森の木を伐る事です。そうすれば、テリトリーもおのずと拡げられます」
彗慧骨の現実的かつ効率重視の意見に、皆は「おぉ」と感心する。
「もちろん、大っぴらに森を切り拓き、村を大きくしようとすれば、森の管理者を自称しているエルフが動く可能性が高いので、慎重に事を進める必要はあります」
これまでの、吾武一らの話から、この森にエルフが棲息しているのは予想していた紅壱は、彼らの事を仲間たちが快く思っていない事も察する。
(エルフ・・・・・・確か、こんな魔属だったよな)
瑛の用意してくれていた資料に掲載されていた、エルフの写真を脳裏に思い浮かべる紅壱。世間一般のイメージに沿った姿形を、人間界で得ていたその女エルフは、写真の中で弓に矢を番え、何かを狙っているようだった。
「エルフってのは、他の魔属と、そんなに馬が合わない性質なのか?」
「エルフ族全てではありませんが、ほとんどは自分達の魔力の多さ、魔術の豊富さ、弓の扱いに長けている点を鼻にかけ、他種族に対して高圧的な態度ですね」
「プライドの高さが凄いっすよ。
強いのも、悔しいけど、事実っす。
私達は、どうしても勝てないから、下手に反抗しなかったっすけど、水浴びする場所を巡って争ったワードックの奴らは、エルフに惨敗したっす。
でも、今なら、あいつらの矢くらい、簡単に切り落とせるっすよ、私たち」
自信満々に頷く剛力恋に「調子に乗るな」と窘めの言葉を放つ吾武一だが、彼の目も「エルフには負けない」と、ハッキリ言っていた。見れば、他の幹部も全員、双眸がギラついている。
「承知しているだろうが、エルフにこっちから喧嘩は売るなよ」
「もちろんです」
あっちが攻めて来たら、構わないですよね、と目で尋ねてきた吾武一に、紅壱はもう一本ばかり、釘を刺しておく。
「エルフってのは、この村の近くに住んでいるのか?」
そうなると、最悪ではないが、少しばかり面倒だよな、と憂う紅壱。その表情には、独特の色気が宿っており、雌はうっとりしてしまう。
「いえ、排他主義で、孤高を貫く種族ですので、近くには住んでいません。
ただ、風の声を奴らの耳は聞けるので、森の中で自分達の暮らしに影響が出るトラブルが起きた、と判断すれば、どこへでも駆け付けてきます」
「となると、この村に四種族が集まり、俺が王になったってのも知ってるって訳か、奴らは」
「恐らくは。
正直なところ、奇襲を仕掛けてくるか、少なくとも、使者の一人くらいは早朝に寄越してくると思っていたのですが、特に反応がありませんので、私どもも戸惑っております」
「!!・・・・・・吾武一、お前、そういう事は早く言え。
エルフの事を知ってたら、俺は人間界に戻らず、こっちに残って、奇襲に備えたぞ」
紅壱の声に、一握りの怒気が籠っているのが分かったのだろう、吾武一は黒い肌を粟立たせ、その場に平伏する。
「も、申し訳ありません。
王様には、あれ以上の負担はかけられない、副村長として勝手に判断してしまいました。
如何なる罰でも、甘んじて受け入れます」
「・・・・・・いい。過ぎた事だ・
しかし、次から、不安要素があるなら、俺の都合に気を遣わないで、こまめに報告しろ。
翠玉丸か風巻丸なら、俺にちゃんと伝えてくれる」
「はい、次からは必ず」
吾武一の真面目な性格が出ている目をジッと見つめ、「頼むぞ」と紅壱は微笑んだ。瞬間に、剛力恋、影陰忍、彗慧骨は頬が熱くなってしまう。
女性陣の変化に疎い紅壱は、「そうか、エルフか」と考え込む。
(好戦的じゃないにしろ、やるとなったら徹底的な種族って、会長のレポートに書いてあったが、そこは間違ってないみたいだな)
「俺が帰った後、特には何もなかったんだな?」
「YES エルフは夜目が効かない種族らしいけど、万が一もあるから、スケルトン総出で見回りしてたです」
「そりゃ、ご苦労さん。疲れてるんだったら、別に休んでても良かったんだぞ」
「いえ、スケルトン族は疲労とは無縁ですし、交代で村の周囲を歩いただけで、そんな大層な警護が出来た訳でもありません」
再び、謙遜する輔一と骸二を労った上で、紅壱は天を仰ぐ。
「なら、エルフに動きがないのは、何らかの理由があるってことだな」
「これだけ、タイヤンが動いても、何のアクションも起こさないのは驚きですね」
唸る紅壱に、意見を出したのは剛力恋。
「きっと、紅壱様の強さにビビったに決まってるっす。
奴らもバカじゃないっすから、紅壱に逆らったらヤバいって解かったんすよ」
「逆らうも何も、王様はエルフに何もしてないじゃない」
「いえ、彗慧骨さん、疾風属性の精霊や、契約を結んだ妖精はエルフに対し、嘘こそ言いませんが、見聞きした事を誇張して伝える、と聞いた事があります。
もし、エルフが王の強さを大いに勘違いしているのなら、ありえます」
「妖精が、話を膨らませていなくても、タツヒメ様は警戒されるだろう、魔力の感知に長けているエルフであれば」
「いくら、抑制されていると言っても、完全に消えている訳じゃないですからね。
ワードッグはともかく、エルフは王様がこっちに来ている事に気付いているはずです」
「もしくは、コウイチ様に気付いていても、下手に動く訳にいかない事態が、エルフ族の中で起きているか」
林二の推測に、完二も腕組みをして、しきりに肯定する。
「ありえるぜ。
エルフは、今回の作戦に一体も参加しなかった。
あの女吸血鬼が差し向けた使者と、一戦交えて、それなりの損害が出たのかもしれない」
「やはり、潜入するでござるか」
「しなくていい」
忍者らしい仕事がしたくてしょうがない影陰忍を宥め、紅壱は虚空を睨み据えていたが、おもむろにパンと両手を打ち鳴らす。
「俺達は、エルフについての情報が圧倒的に足りてない。
議論は必要だが、正解に近づいているかも定かじゃない推測を積み重ねていちゃ、いたずらに時間を無駄にしちまう。
だから、今はエルフについては、脇に置く。
攻撃してきたなら立ち向かう、話し合いを求めて来たら快く歓迎する。
この方針を基本にする、いいな?」
「異論はありません」
「ハイ!!」と、腹からの返事が重なる。
そう決定を下し、幹部からの快諾を得られた事に安堵の笑みを見せつつも、紅壱は腹の中で、こんな事を思っていた、魔力の多いエルフを相棒らに食べさせたら、アバドンさんが復活する足しになるかな、と。
「とは言え、エルフに限らず、他の魔属が何もしてこないって保証もない。
お前らを一、二時間で強くするのも難しい。
なので、やはり、優先事項はこの村の防御力を上げる事だ」
紅壱は広げたノートに絵を描き出す。それは、彼自身が考えていた、この村の守りであった。吾武一らは、初めて見る紙に驚くも、それはぐっと堪え、その図を真面目な顔で覗きこむ。
「とりあえず、このアルシエルの北側は、しばらく歩くと岩壁がある。そうだな、吾武一」
「その通りです。確か、輔一たちは、その辺りに住処を構えていたな」
「YES その岩壁の亀裂の奥にある洞窟に、ミーたちは隠れ住んでいたです」
「なら、敵がまず、北側から、ここに攻めてくる可能性は、そんなに高くない」
「確かに、背後から襲撃するとなると、あの岩壁を駆け下りてくる可能性がありますね」
「だが、油断は禁物では?」
「勿論だ。だから、岩壁からアルシエルまでの間にある森はそのまま、道にはトラップを仕掛けようと思ってる」
紅壱は続けて、アルシエルの前と左右に描いた木々にペケ印を重ねる。
「切り拓くのはこの三面だ。
木を伐採すれば、家と柵を作る木材が手に入るだけでなく、見晴らしも良くなって、敵の襲撃にも早く気付ける。また、敵が隠れる場所も奪える」
「なるほど」
「ちなみに、個人的には畑、溜め池、牧場などは村の南側に作りたい」
食糧に関する重大なエリアは一カ所に集中させておけば、狙われるリスクも高まるが、その分、攻撃を誘導でき、敵の兵糧強奪も阻止やすい。
「東側にゃ、運動できるスペースを作ろう」
なので、居住地は現在地の西側の森を拓き、確保するつもりでいる紅壱。
専門的な知識があれば、風水の知識に拘って決めるのだが、人間界の統計学と常識が通じない異世界で、それを持ち出しても効果が同じか、分からないので、自分がしたいようにする事にした。
「どこまで村、いや、国の領土を広げるかは、今後、仲間がどれほど増えるかにもよるが、当面の目標としては、一家に一軒の家を与えても、十分なスペースが出来る程度にしたい」
そうだな、東側はあの少し高い木まで広げたいな、と紅壱は一本の木を指す。
「逆は、どれくらいっすか?」
「同じくらいだな。前もそれくらいだ」
ふむふむ、と首を小刻みに振った剛力恋は「よーし、頑張るっすよ」とやる気を漲らせる。
「オイラも頑張るぞ!!」と、完二が雄叫びを上げる。
「よし、すぐにゴブリンとオークからメンバーを選べ」
林二は「うっす」と力瘤を膨らませた。
「吾武一は、万が一に備えて、村に残ってくれ・・・役に立つかどうかは微妙だが、雷汞丸を置いていく」
「留守はお任せください。奥一、いざという時は王を頼むぞ」
「お前に言われずとも、この巨体は王を守るためにある事は自覚している」
眼光が宙で衝突し、スパークを発生させながらも、表情には互いへの信頼が鮮明に浮かんでいた吾武一と奥一。
「穴の修繕、手伝えなくて悪いな、吾武一」
「いえ、あれは私達が逸って、開けた穴。
自分で塞ぐのが筋なのに、材料と道具まで買って来て頂いただけでも、十分でございます」
恐縮しきりの吾武一の肩へ手を置き、「じゃ、頼む」と仕事を任せ、紅壱は寄ってきた弧慕一に向き直る。
「コボルド族は、何を?」
「コボルド達には、北の岩壁に行ってほしい」
「トラップを仕掛けるでござるか?」
既に、自身らの魔術で、どんな罠を仕掛けるか、思い浮かべているのだろう、影陰忍は鼻息が荒い。
スキルに、「危罠作成・小」、「危罠設置・小」を持っている恩恵のようだ。
彼女の態度に、少し慄きながらも、弧慕一と磊二は紅壱の役に立てる、と握る手に力が入っていた。
「トラップもそうだが、輔一たちが住んでいた洞窟を、いざって時の避難場所になるよう、拡張できるか、確認してくれ」
コボルドは鉱石を見つける嗅覚に長けている魔属、と資料にはあった。拡張が可能と判断し、作業を始め、加工もしくは換金できる鉱石が見つかれば、重畳だ。その仕事は、弧慕一に任せる。
万が一に備え、紅壱は彼らの安全を、空中から見守るように、自分の遥か頭上を羽ばたいている風巻丸に念を送る。すぐに、「お任せっす」と答えは返ってきて、一際に大きく羽で大気を打ち、北に先行する。
「昼飯を食べ終わったら、メイジか、メイジの職に就けそうな見込みのある個体を何匹か、森に寄越してくれ」
察しのいい弧慕一は、木の根っこを掘り出した後に土を埋め、地面を均すためだ、と紅壱が求める事を、言われる前に理解したらしい。
「見繕っておきます」と恭しく首を垂れる彼に、紅壱は「頼む」と告げ、磊二に指示を続けて出す。
「磊二は、奔湍丸と一緒に、この村周りの水脈を探してくれ。
川から水路も引くが、井戸も欲しい」
「かしこまりました」
よろしくお願いします、そう、磊二は紅壱が召喚した奔湍丸の傍らに跪く。ガチガチ、牙を鳴らした音は、「任せろ」と言っているようであった。
「輔一は弧慕一たちの案内、骸二は他のスケルトンと一緒に周囲の警戒を頼む。翠玉丸も一緒に行かせる」
「イエッサー」
「翠玉丸、悪いが、いざって時は、こいつらを守ってやってくれ」
「お姉さんに任せなさい。ドラ猫より役に立つんだから」
どうやら、翠玉丸は何気に、雷汞丸の爪がカガリに重傷を刻み、彼が紅壱の役に立っていた事を妬んでいたようだ。
「私は?」
「彗慧骨は、猪か鹿の住処を探してくれ。できりゃ、子持ちが良い。
羅綾丸に同行してもらう」
「任せて下さい」
足は引っ張りませんので、彗慧骨に一礼された羅綾丸は目を爛々と光らせた。どうやら、彼女は朝の一件で、彗慧骨を気に入ったようだ。
皆に役割を与えた紅壱は腰を上げ、「よし、いっちょ、気合入れるか」と掌を突き出す。
一瞬、彼が何をしたいのか、分からなかったようだが、勘の良い剛力恋が自らの掌を、そこへ重ねると、皆も倣う。
「注意一秒、怪我一生。慢心せず、仕事に当たれ」
「はいっっ」
「やるぞ、お前ら」
「はいっっっ」
「踏ん張ってくぞ!!」
押忍ッ、と気合の入る声を重ねた吾武一らは解散し、各々の仕事場へ駆け足で向かう。
森の賢者と称される、エルフがアルシエルに対して、何の接触を図ってこない事に対し、紅壱は一抹の不安が芽生えるも、なるようにしかならない、と頭を切り替える
当面、アルシエルのためにすべきは、森を切り拓き、家を建てるスペースを確保し、同時に、襲撃者への対策を万全にすべき、と結論をまとめた紅壱たちは、すぐさま、そのための行動に映る
着実に、アルシエルは人と魔が共存できる国に向けて、前進を始めていた
その歩みは、まだ遅い。だが、少しずつでも目的地に向かう、その意志が大切だ、と紅壱は知っている




