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とある生徒会長の本音は日誌だけが知っている  作者: 『黒狗』の優樹
異世界生活の改善開始
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第四十話 追及(accuuse) 紅壱、万引きグループのリーダーを追い込むも、少しドジる

恩魔王・アバドンの為になるならば、と魔属らの王になる事を決断した紅壱

彼は異世界の探索の拠点と定めた、アルシエルの生活を豊かにすべく、潤沢な資金を惜しまずに使い、大量の食料品、日用品を買い込み、村と店舗の往復を精力的に繰り返す

そんな中、書店に入った紅壱は、学生による万引きに気付き、それを穏便な方法で解決する

だが、何故か、紅壱は無関係に見えた女子高校生を呼び止めたのだった

 「お客様、大変、申し訳ありませんでした」


 女性店員は、紅壱が呼び止めた女の子に対し、騒動について真摯な態度で詫びを入れる。彼女は、女子高校生が紅壱の強さに恐れを為し、こんな店にはいたくない、足早に店を出ようとしている、と判断し、騒動を未然に防げなかった事への謝罪を行ったようだ。

 紅壱は、彼女の頭の下げ方に、美しさすら覚え、胸の内で賞賛の拍手をしばらく続ける。


 「だ、大丈夫ですから」


 ぎこちなく笑って、女子高校生は店員からの謝罪を受け取る。その間、彼女は紅壱から、ずっと目を逸らしていた。怯えている理由は、見た目だろうか、それとも、雰囲気だろうか。


 「また来ます」


 頭を下げ返し、女子高校生は出口へ急ぐ。しかし、紅壱はいつの間にか、前方に回り込んでおり、長い腕で通せんぼをする。いきなり、視界を凄まじい圧を放ってくる掌が覆ったからか、女子高校生は面食らってしまったようで、二歩三歩と後ずさる。

 背中が誰かにぶつかり、女子高校生は女性店員だと思ったのだろう、「ごめんなさい」と振り返りながら謝ろうとした。だが、そこにいたのは、自分の逃走経路を塞いだ不良だったものだから、飛び退いた彼女は咄嗟に口を押さえた。もし、押さえなければ、そこから悲鳴と一緒に、毛の生えた心臓も飛び出てきてしまっていただろう。

 紅壱の意図が読めず、自然と注視していたのに、動きがまるで見えていなかった女性店員も発すべき言葉が見つからない様子だった。

 唖然とした様子の二人の顔に、少し満足しつつ、紅壱は女子高校生に笑いかける。もっとも、歪んでいるのは口元だけで、目は間抜けな獲物を前にする野獣めいた光を携えていたが。


 「随分と薄情だな、手下が捕まったってのに、助けようともしないなんて」


 「え?」


 女性店員は、紅壱が指した方向、他の店員に支えられなければ歩く事も出来なくなっている少年二人に目が行く。

 女子高校生は彼の指を追わず、目を自分の前に立つ紅壱から外さない。と言うよりも、外せない。怒りと苛立ちの色こそ濃く滲んでいたが、それが恐れや気まずさ、不安を隠しているのは明らかだった。

 汗も出さず、息遣いもさほど乱していない点には感心したが、紅壱の目は誤魔化せない。


 「それとも、最初から、あいつらは囮だったのかな」


 「何の話ですか?」


 声も何ら震えないので、「ひゅう」と紅壱はわざとらしく、口笛を短く吹き、動揺を押し殺す女子高校生の精神力を賞賛する。その動作が、彼女を挑発し、ボロを出させようとしているのは言うまでもない。


 「君が主犯ってことさ。

 素人のあいつらが店員に捕まりそうになって、騒ぎを起こし、店の中が混乱している隙に、しれっと店から出ようとしたんだろうが、そうは問屋が卸さないなぁ」


 「証拠があって言ってるんですか!!」


 「ん、証拠?」


 「彼らと私が仲間って証拠です」


 「・・・・・・俺としちゃ、仲間ってのは尊敬し合える間柄、いざって時に助け合う絆があって当然の奴らの事だから、アンタみたいに利用するだけ利用して、価値がなくなればポイする輩が、その単語を使うのは実に気分が悪いね」


 「何を訳分からない事を言ってるんですか!?

 証拠を出せないなら、私、帰りますッッ。

 無実の人間を万引き犯の仲間扱いするような店には、もう二度と来ません!!」


 女子高校生はわざとらしく、怒りを表に出し、店から出ていこうとするが、またしても、紅壱は一瞬で前方に移動して、彼女の逃走を阻止する。

 瞬動法など知らぬ彼女達は、一体、何が起こっているのか、紅壱が何者かが理解できず、眩暈を起こしかけていた。しかし、直後、二人は我に返る事になる。


 「俺は、アンタとあのガキ二人が繋がっている証拠は出せない。

 けれど、君が万引きをしたって証拠なら出せるんだな、これが」


 「じゃあ、出してくださいよ!!」


 強気に叫んだ女子高校生が一歩、紅壱に迫った瞬間だった、それが床にドサドサと落ちたのは。


 「「え?」」


 女子高校生と女性店員の目が、床に落ちた数冊の漫画へ釘付けとなる。


 「鞄の底が二重、いや、三重にでもなってるのかね。

 仮に、鞄の底を調べても、盗んだ商品は底敷きの下に隠されているから、店員は見つけられなかったかもな」

 わなわなと血色が悪くなっている唇が震えている女子高校生に、紅壱は尋ねる、「自作かい、それとも、専門サイトで購入したのか?」と。


 鞄の中に、漫画が隠されていた、そこまでは分かった。だが、何故、その漫画が床に落ちたのか、そこが理解できない女性店員は何も考えられず、自然と、その手はレジを通っていないと思わしき商品を拾い上げていた。

 女性店員の声に出ない疑問に対する答えは、シンプルだ。紅壱が、女子高校生の鞄の底部を切ったからに過ぎない、先ほど、折って床に埋めたナイフで。

 常人の力では、深く突き刺さったナイフは勝利を確約する聖剣(エクス・カリバーン)と同じくらいに、抜くのは困難を極めただろう。だが、祖父や、彼のライバルである槍士が指で挟んでいるとなれば、闘気を全開にした状態の全力と本気で引っ張っても抜けない紅壱にとっては、この程度なら羊羹から楊枝を引き抜くのと、さほど変わらない。また、彼はこの事態を想定し、床に刺す際、特に柔らかい場所を選んでいた。つくづく、用意周到な男である。

 安物であっても、紅壱が闘気で覆えば、その切れ味は斬鉄剣や黒刀に匹敵する、たった一度きりではあるが。

 世界最強の女剣豪から、モノの切り方を実地で教わった紅壱には、鞄の仕掛けの部分だけを切り裂く事など、そんなに難しい事じゃない。


 「この期に及んで、買った物だって言い訳ができないのは承知してるよな。

 ねえ、店員さん、それ、未購入の商品だって調べれば、一発ですよね」


 まだ事態が飲み込めていない女性店員は、首を縦に振るのがやっとだった。


 「さて、証拠も出ちまったことだし、アンタも諦めて、あのガキと一緒に店の奥で、警察官を待つんだな。

 関係性を素直にゲロるも、頑なに無言を貫くのも、アンタの自由。

 ぶっちゃけ、俺としちゃ、何ら関心はないんだがね」


 ギリっと奥歯を噛み締めた女子高校生は、眼鏡のレンズの奥から、紅壱を睨みつけてくる。だが、気の脆い子供なら威嚇できても、紅壱は頬に痒みすら覚えない。

 ちょっと尖がっている女子高校生のメンチなど、「カッ」と見開くだけで、不埒な輩を物理的な衝突で吹き飛ばせる瑛の眼圧に比べれば、鼻で笑えてしまうほど薄っぺらい。


 「ほれ、潔く諦めな」


 紅壱は女子高校生の手を掴もうとするが、彼女は「ちょっとでも触ったら、セクハラで訴えますよ!!」と怒鳴る。


 「そりゃ、困るな」


 この期に及んでも、強気な態度を崩さない女子高校生に苦笑いが浮かぶ紅壱。

 訴えたいなら訴えろ、と一昔前なら言えたが、今の自分は見習いとは言え、生徒会の一員だ。つまり、風評被害を生徒会も受け、瑛も対応に追われる事になりかねない。

 瑛ならば、「我が生徒会の役員に、そんな不埒者はいません!!」、そう、紅壱の退会を強いる教員の圧力を、敢然と突っぱねるだろう。とっくに、ボロボロの自分の脛に傷が付くのは構いもしないが、自分を庇って、瑛の経歴に汚点が残るのは胸も痛む。


 (いざって時は、俺の事は躊躇せずに切り捨てて欲しいんだけどなぁ)


 そんな事を思う本人は、何があっても仲間は見捨てない、と決めているのだから、もし、瑛が知れば、「勝手な事を言うな」と怒っただろう。

 とは言え、どちらとも、そんな選択を強いられる事態にならぬよう、回避するための手は事前に全て打っておくタイプ、つまり、似た者同士、お似合いと言う事だ。

 紅壱があっさり手を退いてしまえば、女子高校生は逆転のチャンスを失う事になる。

 彼女は、紅壱を見た目で、挑発すれば頭に血がすぐ上るバカ、と判断したようだ。確かに、紅壱は激高しやすいタイプだ。

 しかしながら、相手と煽られ方による。鳴に、同じ挑発を受けたのなら、喧嘩を買っていただろうが、目の前の女子高校生は思惑が分かりやす過ぎた。狙いが読めていれば、怒りなど湧いてこない。

 憮然とした表情の女子高校生は、目の前の男が自分の放つ怒気を難なく受け流された事で、観念したのか、力なく項垂れた。


 「えっと、じゃあ、行きましょうか」


 いつまでも呆けちゃいられない、自分の仕事をせねば、と我に返った女性店員は女子高校生の震えている肩に手を置き、店の奥に連れていこうとする。

 けれど、紅壱は知っている、この手のタイプは諦めが悪い意味で良くない、と。

 もしも、彼が咄嗟に女性店員の視界を、近くの柱から剥がした資格取得を促すポスターで満たしていなければ、彼女の目には女子高校生が隠し持っていた催涙スプレーが直撃していただろう。

 女子高校生は催涙スプレーのトリガーを引き、噴射すると同時に、その場から踵を返し、全速力で出口に向かって走っていた。しかも、彼女は紅壱らの追走を妨害するためか、鞄の中身を足を動かしながら、背後に向かって、躊躇いなく投げてきた。

 恐らく、学生証や財布、スマフォなど、身元が知られそうな物は鞄に入れず、制服のポケットに入れているのだろう。

 案外、冷静だな、と感心する紅壱は迫ってくる荷物を全てキャッチする、女性店員に当たらぬよう。そして、逃げていく女子高校生を追う、目で。

 元から身体能力は低くないのか、それとも、このような事態を想定して、日頃から逃げ足を鍛えているのか、彼女の足は中々に速い。女子高校生は、既に書店から出て、一つ目の角に到達しそうになっていた。

 ただし、瞬動法が使える紅壱相手では、大した意味のない距離だ。

 けれど、紅壱は瞬動法で、女子高校生の前に回り込まなかった。

 彼が女子高校生の足を止めるのに使ったのは、気圧。魔力で、彼女の周囲の空気を薄くした訳ではない。

 闘気による威圧である。気当たり、とも言う。これを極めると、所謂、「覇O色の覇気」と呼べる域に達せるものとなる。

 当然だが、玄壱は使いこなせる器だ。そう、カカシを雑踏の中から発見みつける際に使ったアレである。朱音にこそ、こっぴどく叱られた玄壱であるが、彼なりに気加減はしていた。そうでなければ、そこにいた者は、カカシ以外が全て、息絶えていただろう。

 玄壱の孫であり、彼と友人らに鍛えられていた、紅壱が気当たりを使えても、何ら不思議ではない。


 「あ、やべ」


 ただ、この瞬間、彼は己のミスを悟る。

 紅壱は把握し損なっていたのだ、自らの闘気が多く、大きく、強烈はげしくなっている事に。

 自分のコンディションの確認は毎朝、怠っていない。だから、紅壱は自分がレベルアップしている事は、ちゃんと気付いていた。なので、女子高校生に向かって発した気も、これまでより抑えていた。

 しかし、足りなかった、加減が。アルシエルに住み、紅壱からの恩恵を受けている事で、種族ランク進化アップこそしていなくとも、レベルアップは果たしているゴブリン一匹が眩暈を覚える程度の気圧は、並みの人間にはショックが強すぎた。

 紅壱が発した気が衝突ぶつかったことで、女子高校生の全身がビクンッと震え、その足が唐突に止まる。いつもなら、そのまま、腰が抜けるだけで済んだだろう。

 しかし、女子高校生の体は、その場で小さく左右に揺れ始める。


 「え?」


 ヒュッ、と音をその場に残し、紅壱が目の前から消え去ったので、女性店員は皿のように広げた目を動かし、彼の姿を探る。

 偶然か、もしくは、立て続けに起きた、自分の常識を破壊する事態で刺激を受け、過敏になった直感が働いたのか、女性店員の視線が女子高校生に向いたと同時に、紅壱の姿はその先に出現していた。

 この時、あまりに驚いた女性店員は一瞬だけ気絶し、驚きによるショックから再覚醒を果たしていたのだが、女子高校生の停止した心臓と呼吸を呼び戻すのに集中していた紅壱はスルーする。


 「・・・・・・ッシ」


 仮死状態でいるなら、セクハラと訴えてくる事もないだろう、紅壱は半ば請いながら、女子高校生の仰け反っている背中の二カ所を指先で軽く打つ。

 微量の闘気が流し込まれた体は、AEDによる処置を受けた時に近い衝撃を受けた。


 「がはっ」


 一回の刺激で、女子高校生の心臓は動きを再び始め、自発呼吸も戻る。

 紅壱はホッとする。己の気当たりで、彼女を殺さずに済んだ事も安堵した理由だが、点穴への刺激が成功した事も小さくはなかった。

 基本的に、指の力が紅壱は強い上に、このツボは気を流し込みすぎると、逆に心臓と肺が破裂してしまう。しかも、たった1mm横には、肋骨が内側に向けて折れる効果が齎されるツボまである。

 セクハラまでならまだしも、さすがに、そんな無惨な状態にしてしまったら、弁解のしようがない。もっとも、正直にツボへの突きが失敗してしまった、と言ったところで、一般常識しか信じていない人は信じないだろうが。

 良かった、と胸を撫で下ろした紅壱は、意識は戻っていない女子高校生の体を胸の中に受け止める。


 「・・・・・・ん」


 その刹那、彼女の耳から、何やら微量の黒い靄が噴き出し、宙で幾度か膨張したのちに霧散したのだが、他の事に気を取られていた紅壱は気付かなかった。


 (このJK,煙草と酒もやってるのか)

 

 見た目や体臭では分からずとも、紅壱ほどになれば、触れただけで気脈の乱れから、女子高校生の喫煙と飲酒の事実を察する事が出来る。さすがに、ドラッグまではやっていないようだが、いずれにしても、時間の問題だっただろう。


 (まぁ、乗り掛かった舟だ。

 ちょっとくらいは、天戯堂学園高等部の生徒会役員らしい事はしておこう)


 紅壱は苦笑を浮かべると、魘されている女子高校生の髪を二本ばかり抜かせてもらう。あまりの早業だったからか、痛みはなかったようで、彼女は呻きすらしない。

 抜かれた茶髪は弛み切っていたが、紅壱が気を通すと、まるで針のように固くなり、真っ直ぐに伸びた。そうして、彼は一本を女子高校生の右耳と右こめかみの間、もう一本を左鎖骨の中央、そこから指二本下へ深く突き刺した。もちろん、痛みは全く感じさせず、女子高校生に起こる素振りはない。

 このツボは、アルコール中毒者の飲酒、ヘビースモカーの喫煙をぴたっと止めさせる効果があった。もちろん、この女子高校生はそこまで依存していないのは気脈の乱れから分かるが、これからそうならないように事前に手を打ったのだ。

 前者のツボへ針を刺されたアルコール中毒者が、酒を飲んでしまう。すると、ドリアンの搾り汁を口いっぱいに注ぎ込まれたような衝撃が襲うのだ。そうなると理解していて、酒が飲める者はいない。当然、ぴたっと飲酒を止める事になる。

 後者のツボは、ニコチンやタールに反応するもので、喫煙すると、喉へ牛乳を拭いた後、洗濯せずに一か月ほど放置した雑巾を奥まで突っ込まれたような感覚に陥る。もちろん、喫煙は出来なくなる。

 針ではなく、本人の髪を使ったので、数日もすれば、効果は消えてしまうだろう。だが、その数日で飲酒と喫煙が、自分の体にどんな悪影響を及ぼすか、嫌ってほど思い知れば、女子高校生も懲りるだろう。

 

 (まぁ、盗癖を諫めるツボもあれば、突いてやりたいけどな)

 

 紅壱が教わったのは、カカシの極めた鍼灸術の初歩だけだったので、もしかすると、カカシさんなら知っているかもな、と考える。


 (けど、こんだけの目に遭ったんだ、もう、万引きなんかしないだろう)


 女子高校生の反省と改心に、紅壱は期待を寄せる。顔こそ兇悪だが、紅壱は人の善性を信じたいタイプであった。もっとも、自らの期待を裏切ってくれた相手に、二度目は容赦しないあたり、周囲のイメージも、あながち間違っている訳じゃないだろうが。



 紅壱がぐったりしている女子高校生を、まるで縛ったカーペットか敷布団のように、肩へ担いで、軽い足取りで戻ってきたのを見て、女性店員はホッとして良いのか、ギョッとして良いのか、分からなくなってしまう。

 行きは良い良い、帰りは怖い。紅壱であれば、女子高校生を担いだままでも、瞬動法により一瞬で、女性店員の前に戻って来られる。しかし、それをすると、今度は女性店員の心臓が止まってしまうかも知れない。次も上手く行く保証もない、だから、紅壱は普通に歩いて、店へ戻ってきた。


 「どうしたんですか、この子」


 「さぁ、気絶してるみたいです。もしかすると、良心の呵責に耐えられなかったのかもしれませんねえ」


 そんな繊細さは持ち合わせていないだろう、さすがの女性店員も紅壱の誤魔化しに、何となく気付いていたが、真相を問い質す術を彼女は持っていなかったし、知るのも恐ろしかった。何より、自分を庇ってくれた紅壱には感謝しかなかったので、彼女は紅壱の小さな嘘に目を背けた。


 「救急車を呼んだ方がいいかしら?」


 「頭は打ってないですから、そこらへんは何とも。

 とりあえずは、警察には引き渡すべきだとは思いますけどね」


 「じゃあ、ともかく、彼女はこちらで引き取ります」


 「よろしくお願いします」


 女性店員に呼ばれた、体格の良い男性店員が顔色を失ったままの女子高校生を受け取る。彼は紅壱が無表情で担いでいたので、体重はそれほどでもないのだろう、と思っていたのだが、予想より5kgほど重かったのか、つい、「重っ」と本音を漏らしてしまう。

 書店員としては、万引き犯は許せないが、同じ女子として、そのデリカシーに欠ける発言はカチンと来たらしく、彼女はフラついている男性店員を横目で睨む。体重の事が逆鱗に触れた女性の眼光と言うのは、実に恐ろしいものだ。つい、男性店員が謝ってしまったのも無理からぬ話だろう。


 「本当にありがとうございました」


 「いや、もうちょい、穏便に片付けられりゃ良かったんですけど」


 こうも、真摯に感謝されてしまうと、瑛のようには出来なかった、と勝手な負い目で胃が痛い紅壱としては実に気まずかった。なので、ここは情けなく、撤退することに決定きめる。


 「あの、そろそろ、いいですかね、お会計」と、紅壱は店に置いたままでいた品物を指す。

 ほんの少しだけ、女性店員は残念そうな表情を浮かべたが、一人の女性の感情ではなく、店員としての職務を優先しなきゃ、と自分に言い聞かせたのか、小さく頷くと、「はい、こちらへどうぞ」とレジへの移動を促したのだった。

紅壱は見逃さなかった、万引きグループの主犯を

彼に万引きをした証拠を突きつけられた女子高校生は一度こそ、潔く諦めたように見えたが、悪足掻きから逃走を図る

もちろん、紅壱が逃がす訳がない。しかし、カガリとの戦いを経た彼の強さは、当人が自覚しているより上がっていたらしく、気絶手前で済ませるだけのつもりが、心臓まで止めてしまった

どうにか、蘇生処置に成功した紅壱は安堵を覚えながら、彼女の身柄を動揺している女性店員に渡すのだった

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