第三十八話 万引(shoplifiting) 紅壱、万引き犯を見つける
命を救われた事で改心したゴブリンらに願われ、彼らの王となる事を承諾した紅壱
自分が快適に過ごし、なおかつ、住魔らの生活の質を高めるべく、紅壱はショッピングモールで大量の買い物に勤しむ
買ってきた荷物を幹部に預け、アルシエルから再び、店へ戻ってきた彼は小腹を満たしてから、本屋に向かうのだった
「おかえりなさいませ」
「うっす、王様」
「おっす、林二、完二」
手を上げた紅壱に頭を下げた二匹は、大きな体にたっぷりと汗をかき、肩を上下させていた。
「ランニングか、早速」
「はい、コウイチ様の元で戦うと思うと、昂ぶってしまいました。
なので、完二を誘い、コウイチ様と再会した場所まで走ってまいりました」
「王様、それは何だ? 食べ物か?」
「いや、食い物じゃねぇな、悪いけど」
あからさまにガッカリした完二に、紅壱は苦笑し、林二を目で宥める。林二は、ゴブリン族のナンバー2としての自覚からか、王である紅壱に対して、フランクな態度で接する完二に苛立ちが芽生えたようだ。
敬ってくれる林二の気持ちも嬉しいが、紅壱としては、学校の先輩に対する態度くらいで十分だ、と思っていた。
(あぁ、でも、吾武一たちには、また怒られるか)
気落ちしそうな自分を励まし、紅壱は完二にダンベルが入っている箱を持たせる。
「食えるものじゃねぇが、飯を美味くしてくれるものだ。
とりあえず、この荷物は吾武一の家の前に持って行ってくれ」
「わかったぞ」
大きく頷いた完二は、100kg近い箱を軽々と肩へ担ぎ上げ、ノシノシと力強い足取りで進んでいった。
「『剛力』・・・腕力を30%向上させるか。常時発動タイプか」
視線を移すと、林二のステータス欄には「怪力」のスキルが表記されている。こちらは、腕力の向上率が10%だった。しかし、林二は打撃スキルを強化する「打撃の心得・小」と、鈍器を用いた攻撃を強化する「鈍器の心得・中」、文字通りの効果を発生させる「攻撃見切」、こちらも文字通りの「回復促進・小」を持っているので、完二を相手として組み手を行っても、互角にやりあえるだろう。
(投げや極めの技を教えたら、吾武一や奥一相手でも善戦できるな)
自分を引き合いに出さないあたり、紅壱は己の戦闘力の高さに自信があるらしい。
「どうかなさいましたか?」
紅壱に注視されていたからか、林二は戸惑いながら、自分の顔に汚れでもついているのか、と手を伸ばす。しかし、ふと、体臭がキツいのか、と誤解し、「も、申し訳ありません」と土下座しようとする。
「馳せ参じる前に、汗は流すべきでした」
「あー、大丈夫だ、気にするな」
ステータスを覗き見していた罪悪感もあるので、紅壱は寛大な態度で林二を許し、土下座を止めさせる。林二が「なんと、器がデカい・・・」と陶酔しているのは気になったが、あえてスルーする。
「汗と言えば・・・・・・お前の弟のゴブリンは・・・・・・」
目をやると、例の小鬼は、もう、いなくなっていた。
「愚弟が、何か粗相を働きましたか!?」
「粗相・・・まぁ、やっちゃったと言えば、やっちゃったか」
その言葉で、林二の額に青筋が浮かび、角に魔力が集まっていく。
「あのバカモノめ!! 拳骨の一発くらいはくれてやらねばッッ」
「おい、止めとけ、ホブゴブリンになったお前がブッ叩いたら、ゴブリンの首の骨なんて、簡単に折れるし、頭がトマトよりも簡単に潰れちまう」
「し、しかし、コウイチ様に迷惑をかけたのであれば、罰を下さねば。
王に対しての不敬を、全て見逃していては、他の者にも良くない慣習が根付きます」
林二の言っている事は、至極マトモなので、紅壱としては口の端を歪めるしかない。林二の考えが正しい、と理解し、それを前置きとして告げた上で、紅壱は兄としても憤っている林二を再び、諫める。
「俺の顔に免じて、弟は許してやれ。
そもそも、俺がアイツに何かをされたって訳じゃない」
この言葉に、林二はポカンとする。
「そ、そうなのですか?」
あぁ、と肯いた紅壱は小鬼が縛られていた木を見つめる。自然と、林二も彼の視線を追ってしまう。しかし、そこにあったのは、変哲もない木なので、彼は太い首を傾ぐ。
「俺も、ちゃんと叱っておいた。
だから、弟をあんまり怒鳴らんでやれ・・・・・・十分に罰せられたしな、アイツらに」
「アイツら?」
「うー、いや、何でもない。
とにかく、弟に拳骨はするな」
紅壱にそう言われてしまっては、林二は逆らえない。何をやったんだ、とモヤモヤしながら、彼は「わかりました」と怒りを飲み下すようにして頷いた。
「しかし、お前の弟は、大物になりそうだな」
唐突に、紅壱が自分の弟を褒めたので、林二は仰天した。だが、紅壱に言われるまでもなく、弟の将来性に最も期待しているのは、兄である彼なので、たちまち破顔した。紅壱の名付けによる種族進化が主因なのか、魔属よりは人に近い顔つきになっている林二だが、やはり、笑うと凶悪さが際立ってしまうようだ。
「えぇ、アイツは強くなります。もしかすると、俺を超えるかもしれません」
「おいおい、兄貴が、そんな簡単に弟の踏み台にされちゃ、マズいだろ」
「えぇ、簡単に追い越される気はありません。
しかし、弟はいつの間にか、兄より強くなっているもんなんです」
一人っ子(何があっても、紅壱に輝愛子を姉と認めるつもりはないので)である紅壱にはピンと来なかったが、林二の淋しそうながらも、どこか、その日が待ち遠しそうな顔を見ると、そんな無粋な事は言えないし、表情にも出せない。
「じゃ、お前の望みを叶える為にも、アイツは思いっきり、鍛えてやらないとな」
「はい、よろしくお願いします」
悪人と悪鬼が声を押さえずに笑う、子供は失禁し、老人は心臓が止まる、そんな光景だ。
残った荷物の運搬を、林二、戻ってきた完二に任せて、ショッピングモールへまたも戻ってきた紅壱は、目に入ったサンドイッチ専門店に入った。
その店は、ここ最近、朝や昼の報道番組の一コーナーで取り上げられている、人気が急上昇してきていた。なので、毎日、行列が出来ている。
しかし、今、紅壱は、すんなりと入店できた。丁度、客の波が落ち着いてきた時だったのか、いや、そんなはずはなかった。
人間、腹が減っていると、どうしても纏う雰囲気には鋭さが増す。紅壱は自覚もあり、威圧しないように気を付けてはいるのだが、彼だって、一応はまだ人間だ、ふと集中が緩んでしまう時だってある。小腹が空いていれば尚更だ。
一般人でも、紅壱が只者じゃない、その事実が理解できてしまう。彼が視線を見せに向けたと同時に、並んでいた客らは、とてつもない恐怖に支配された。ここにいたくない、いたら後悔する、客らは紅壱が足を踏み出す瞬間には、そんな考えで頭がいっぱいとなり、その場から足早に立ち去ってしまった。
行列がない事を不思議に思いながらも、店内から漂ってくる焼きたてのパンの香りで、疑問は吹き飛んでしまう。
(あー、あっちでもパン、早く作れるようになりてぇな)
店員らは行列が唐突なまでに解消された事に驚いたが、紅壱の入店で、その理由を本能で理解した。しかし、さすがは厳しい面接に合格し、雇用されている正規社員だけある。寿命を表す紐が半分に切り取られたような錯覚を得ながらも、店から我先にと逃げ出さないのは、さすがの一言に尽きるだろう。
彼らのプロ精神に気付かぬまま、紅壱は店で最もボリュームがあるサンドイッチを注文する。生ハム、ローストビーフ、ローストチキン、チャーシュー、炙りベーコン、厚切りハム、野菜はレタスにトマト、オニオンフライ、パプリカ、と大ボリュームの「ギガスサンド」は、ネタ系のサンドイッチとして人気がある。
実際、これまで、幾度も大食い自慢のタレントが挑み、好勝負を繰り広げてきていた。
運悪く、紅壱の接客を対応する事になってしまった副店長は、彼の注文に一瞬、ギョッとした。彼くらいの体格である男性客が、この「ギガスサンド」を注文しない訳じゃない。一人で食べるのは無理にしろ、数人が集まって食べるので、むしろ、高校生からの注文が多い。値段が¥1000、と中身に対して、良心的なのも学生には嬉しいのだろう。
では、何故、この副店長はギョッとしてしまったのか、それは彼の想像力が仇になってしまったのだ。副店長は、目の前に立つ紅壱が「ギガスサンド」に暴を剥き出しにして齧りつく様を想像し、自らの首筋を噛み千切られる錯覚に陥ってしまったようだ。
危うく、貧血を起こしそうになった副店長だが、プロとしての矜持、それに加え、店長になると言う野望が、彼の笑った膝に喝を入れ、床に近づきそうになっていた背中を支えた。
「Mサイズのお飲み物が無料になりますが、如何なさいますか?」
「あ、じゃあ、烏龍茶ください」
「畏まりました」
「あと、タマゴサンドとハムサンド、カツサンド、ホットチョコバナナサンド、アボカドとカニ、二十個ずつお願いします」
「お、お持ち帰りですか?」
「もちろん。飲み物は、そうだな、オレンジジュース、リンゴジュース、サイダー、コーラ、そんで、ジンジャエール、二十個ずつ」
「ご用意するのに、40分ほどいただきたいのですが」
「じゃあ、とりあえず、『ギガスサンド』と烏龍茶だけ、先にお願いします。
30分くれぇ、どっか、適当に時間を潰してくるんで」
卒倒寸前の副店長は、もはや、無意識で紅壱から、ギガスサンドとサンドイッチ100個分の代金を受け取る。そうして、厨房の店員らに注文を伝える。出来上がった「ギガスサンド」を、紅壱に渡した時から、もう、彼は記憶がなかった。
紅壱について忘れた事が、彼にとって幸せだったのか、それは誰にも分からない事だけれど、喰われる立場の恐怖と最後まで戦った副店長を、店中の者が尊敬したのは言うまでもない。
だが、その尊敬の念は胸の中へ収め、店員らはすぐさま、100個分のサンドイッチを作り始める。もし、1分でも遅れたら、自分達の身の安全はない、そんな強迫観念は、彼らの仕事のスピードを上げ、クオリティも高めた。
バラエティ番組で活躍する大食いファイターですら、20分を完食に要した、冗談が過ぎる巨大なサンドイッチを、二つの世界の行き来で空腹感が増していた紅壱は半分の時間で平らげた。
「ん、味はまぁまぁだな。テレビで紹介されてるだけあるか。
柚子、いや、仏手柑か、ドレッシングに入っているのは」
手に付いたドレッシングを舐め、店長以外は知らない隠し味を見破った紅壱は、包み紙をギュッと握り締める。
これだけのサイズの食べ物を包んでいたので、紙も相当な大きさになる。しかし、紅壱の開いた掌中で、それはピンポン玉よりも小さくなっていた。とんでもない握力が為せる技と言えるだろう。彼は、それをちゃんと、ゴミ箱へ捨てたが、もし、人に向かって投げ、直撃させていたら、痣で済まなかったのは間違いない。
「さて、40分か・・・」
ようやく、服を買いに行く気になったか、と思ったら、大間違い。紅壱は、寄り道が大好きだった、困った事に。
今回、彼がふらふらと入ってしまったのは、大型の本屋だった。
毎週、欠かさずにチェックしている漫画の新刊を数冊、定期購読している格闘技の雑誌、気になっていたライトノベル、瑛が読んでいたエッセイ集、同じく瑛が勧めてくれた数学の練習問題集を抱え、紅壱はブラつく。
最上階は、漫画喫茶になっているので、そこで時間を過ごしても良かったが、しばらく悩んだ末、紅壱はスポーツの関連書が置かれているコーナーへ歩む。
直々に鍛えてやる、と部下らに大口を叩いてしまったが、紅壱が培ってきた強さの根幹は、並みの方法で得たものではない。そんな指導をしたら、人間より基礎的な体力が高い魔属であっても、途中で脱落してしまうのは目に見えている。ヘバってしまうだけなら、まだいいが、本当に命を落としかねないのだ。
万が一に備え、短期間で強くしたいのも本音だが、焦っても仕方ない。
配下思いの紅壱は、正しい鍛え方を一から勉強しよう、と決めていた。元々、学ぶことが嫌いではない紅壱、その理由が仲間の為なら、余計にやる気も出る。
(しかし・・・・・・どんな本を買ったもんかね)
百冊近い、様々なトレーニング方法が綴られた教本を前にし、さすがの紅壱も首を傾げてしまう。祖父達から実地で強くなり方を教わってきたので、この手の本は読んだ事が無く、どの本が自分の目的に適しているのか、察しも付かない。
何冊か適当に買っていってもいいが、結果が出ないと、それはそれで悔しい。
「しゃあない、今回は見送るか」
恵夢か、愛梨なら、良い物を見繕ってくれるだろう、と紅壱は考え、今日は購入を断念する事にした。
真っ先に、瑛の思案顔が浮かび、彼女と一緒に本屋へ来る光景も想像した紅壱だったが、軽く頭を振って、それを打ち消す。デートしたい気持ちも本音だが、彼女に根掘り葉掘り、質問責めに会うのも困りものだ。
(会長に問い詰められたら、ゲロっちまうだろうしなぁ)
惚れた弱みか、と嬉しそうな苦笑いしか出てこない。いつまでも、この秘密は隠し通せないのは承知している。正直に白状するにしろ、思わぬタイミングでバレるにしろ、今ではない。今は、その時に備えて準備をする期間だ。
「できりゃ、会長たちにゃ、俺の仲間になって欲しいけどな」
豹堂は無理か、と分かり切っている事に対し、乾いた笑いを漏らすと、頭を切り替えた紅壱はそのコーナーを離れ、今度は料理本の区画へ向かう。
「食々菜に渡すなら、これかな」
紅壱が手に取った一冊は、初心者と言うよりも、子供向けの料理本だった。
言語は、アバドンもしくは「扉」を貸与てくれている魔王のおかげで通じている。だが、昨夜、確認したところ、吾武一らは人間界の文字が読めないようだった。また、少なくとも、下位魔属は文字の存在すら知らなかったようだ。生きるので精一杯で、文字に触れる機会など、これまでになかったのだろう。
なので、その料理本は多くの挿絵や写真で、食材の切り方、火の通し方、料理の過程を説明していた。これならば、文字が読めなくても、料理のセンスに長けている食々菜なら、問題ない、と紅壱は判断したのだった。
「さすがに、魔術の関連書は、普通の書店じゃ置いてないよなぁ」
それは考えなくても分かる事なので、ふと漏れた呟きに、紅壱は自嘲し、頭を掻いた。
魔術に関しては、自分も学びたい部分があるので、瑛に貸してもらえばいいか、と肯いた紅壱はレジへ向かう。
「ぁ」
一歩二歩と踏み出した時だった、首筋に「チリッ」と表現するのが的確であろう、空気に混じる乱れを、紅壱が鋭敏く感じ取ったのは。
臨戦態勢を咄嗟に取らなかったのは、漂う異変の兆しが警戒に値しないのも理由だ。だが、祖父の玄壱とその友人らから、あらゆる状況を想定した戦い方を、その身に叩き込まれていたので、敵に気付いた事を気付かせず、先手をこちらから打つべく、常に自然体でいる習性が構築されていたのだ。
(・・・・・・この雰囲気は、万引きか)
嘲りと呆れの失笑を噛み潰した紅壱は、さりげなく、周囲に視線を巡らし、首筋にむず痒さを与えてくれている原因、つまりは、これから盗むと言う意識から緊張を強め、周りへの警戒感が強まっている、または、現在進行形で本を盗んでいる真っ最中か、もしくは、既に盗んでいて、あとは店から逃れるだけの状況まで来ている為、安堵と興奮で動作や息遣いに異変が出ている者がいるか、を探す。
(木槿)
爪先で床をさりげなく、二度三度と打ち、薄めた闘気を波紋として店内全体に広げていき、それに対するリアクションを繊細に感じるべく、意識を集中する紅壱。もちろん、あからさまに万引き犯を探していると判るような仕草はせず、レジに向かう道すがら、面白そうな書籍がないか、見繕っている風を装っていた。
変装が大得意のカカシだけでなく、超辛口の評論家が死ぬ間際、「一万年に一人」と、唯一の大絶賛の評価を下した、ありとあらゆる役柄を完全に演じ切り、普通車から戦闘機まで最高レベル、まるで一心同体であるかのような“運転”ができる武闘派女優から、演技からわざとらしさを消し拭う特訓を受けていた紅壱に観察されていると察知できる者は、素人にはいない。
発見は容易だった。
(学生?)
自身もサボっている事を棚上げし、紅壱は視界の端に捉えた、二人の少年に眉を顰めた。
学校の催しか何かで、今日は代休になっているのか、そんな事を脳の片隅で考えつつも、そこは大した問題でない、と紅壱も分かっていた。問題なのは、あの少年二人が万引きをしたと言う事だ。
初犯ではないだろうが、少なくとも、万引きに慣れておらず、見つかって捕まる事を恐れているのが、忙しなく周りを見ている目で見抜ける。盗みのスリルに恍惚としている風もない。恐らくは、やりたくてやった万引きではないのだろう。
どちらの少年も、平均的な身長、体重のようだが、その顔つきは幼いと言うより、気の弱さと、暴力に対する恐れがハッキリと出ていた。
(大方、クラスのガラが悪い奴か、ろくでもない先輩にでも恐喝されたか、ギッて来い、と命じられたか、だな)
自分が不良のレッテルを貼られている事は、紅壱も重々承知している。少年時のほとんどを、破天荒すぎる祖父と、やる時はド派手な祖母に育てられた事もあって、紅壱は自然な流れで、外見と思考が不良寄りとなっていた。
だからこそ、同級生や後輩に暴力をチラつかせ、自分らが楽しむ目的で盗みを強要する、そんな睾丸が腐り落ちるような真似は、一度だってした事がない。
やっても精々、テリトリーに挨拶もなく入ってきた上に、平穏を乱すような真似をしてくれた礼儀知らずの不良の体にマナーを教える、色眼鏡で自分ら不良を見ただけでなく、女生徒の盗撮や下着泥棒、給食費の盗難の罪を押しつけてきた、頭でっかちで根性の欠片もない教師にヤキを入れる、値段と美味さが見合っていないだけならまだしも、客を素性や見た目で判断し、サービスの質を変える飲食店を半壊させる、その程度だ。
紅壱としては、やらせている不良に怒りも芽生えるが、抗わずに言いなりになっている少年らにも腹が立った。同情もあるが、その程度の脅し、毅然とした態度で断れよ、と怒りも湧き上がってきてしまう。
一瞬、自分の勇気を拳骨落としで分けてやろうか、硬派な不良としての気質が疼いた紅壱だったが、動くのを止めた。
当然ながら、臆病風に吹かれたわけではない。
(店の人も気付いてたな)
気配を探ると、とある店員が、棚や柱の陰に身を隠し、少年らの一挙一動に集中していた。レジに立っている店長へ襟元のマイクで報告をしているようだから、店長からの信頼も篤い店員なのだろう。感知能力が高く、範囲も広い紅壱にはバレているが、気配の薄め方は一般人レベルで測れば、決して悪くない。
店員が気付いて、声をかけるタイミングを窺っているならば、自分が出張る必要はない。あの二人組が商品を盗んだのは、周囲に対する過剰な警戒反応から確信できる。
気も強くなさそうなので、店員が声をかけたら、すぐに観念するだろう。そうは思ったが、直感が妙に働いた紅壱は、もうしばらく、事態を静観する事にした。
食々菜に頼まれた服や布は置いていない本屋で買い物を、紅壱はしていた
目当ての書籍を購入した彼は、今度こそ服屋に行こう、と心の内で己に言い聞かせながらレジへ歩く
その最中、紅壱は気付く、店の中で盗みを働いた者がいる、と
硬派な不良としての気質が疼いた彼は見つけた万引き犯の動向を、しばらく窺う事に
果たして、彼の野生の勘が鳴らす警鐘は、何を予見しての事なのか・・・・・・




