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とある生徒会長の本音は日誌だけが知っている  作者: 『黒狗』の優樹
異界への転移
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第二十八話 配下(subordinate) 紅壱、ネーミングセンスを試される

憧れの異世界にやってきた紅壱

吾武一の名を与えられたホブゴブリンに誘われ、紅壱は彼の村に出向く

到着早々に、吾武一の娘に敵と勘違いされるトラブルはあったものの、無事に彼は魔属に受け入れられた

吾武一らは、村に居心地の良さを覚えていた紅壱に、自分たちの王になってくれ、と望む

葛藤の末、紅壱は魔属の王となる事を決断する・・・

 「吾武一の娘・・・・・・あぁ、そろそろ、面倒臭くなってきたな、この呼び方」


 低い舌打ちを放った紅壱は、この場に揃っている魔属らの顔を見回す。

 その場のノリで、部下に名前を与えてはいけない、その忠告を忘れた訳ではない。

 魔力を注ぎ込まれ過ぎて、力のない魔属では破裂してしまう、その危険性に併せ、王になると決めた以上は、威厳を保つ為にも、 勲章や恩賞にも等しい「名付け」の栄誉を安売りするのもよろしくない。

 ただ、個人名を呼ぶことで、他者とのコミュニケーションを図り、関係性を深める事に慣れている人間の紅壱からすると、「吾武一の娘」や「そこのゴブリン」、これらの呼びかけ方は、どうにも、相手と壁を作っているように感じてしまう。

 王と臣、その距離感は大事だが、名前を親し気に呼び合うくらいはセーフだろう、と紅壱は自身を甘やかす。


 (そうだよな、側近にするってんなら、戦いでは部下の命を預かるって責任があるってのも自覚するべきだし、ちょっと特別ってコトを自分と、他の魔属に意識させるために、名前は必要だ、うん)


 それらしい言い訳を考えている紅壱に、翠玉丸は呆れ果てる。いくら、自分たちの間に思念伝達が働いていると知らないとは言え、こうも、自分の心の声を押さえもしないのは、王として問題がある。王の条件にも色々あるが、腹芸が下手なのは不味い。

 今は、アバドンに匹敵する魔王の気配こそ、彼女の察知可能範囲にないとは言え、他の魔王から実権を預けられている、もしくは、支配者がいなくなった空白の領地に我が物顔で居座っている、高位の魔属はいる。

 今は、様子見する気か、と言うよりも、実力不足の紅壱に興味がないのか、その魔属らは動かない。だが、ある程度まで力が育ち、軍と呼べるレベルまで数も増えれば、黙認もしていられない。確実に、接触してくる。

 武力行使に出る、魔属らしい対応なら、紅壱は思うままに行動すればいいが、策を巡らす、奸計に出る、こちらもある意味では魔属らしい交渉が起こる席に呼び出されてしまったら、紅壱では心許ない。

 冷静さと冷徹さが十分な紅壱だが、王や貴族の交渉と言うのは、それだけで円満に運べないのだ。

 周囲を黙らせる事が出来るだけの「暴」があれば、話も変わってくるが、やはり、こちらも紅壱に未だ備わってない。


 (私も早く、全盛期に戻って、ううん、全盛期も超えて、坊やの政を補助できるようにならないと)


 助言は与えられるが、蛇の体では自ら動き、相手の懐に潜り込み、篭絡する事も困難しい。王になる、紅壱の決断に合わせ、翠玉丸も強くなろう、と決意し直すのだった。

 そんな相棒パートナー想いな事を考えるのは、翠玉丸カノジョだけ。羅綾丸と奔湍丸は美味い餌を食べる事しか頭になく、風巻丸は何があっても紅壱と共に戦い、守ると考えているだけマシだが、雷汞丸はこれから見える強敵と鎬を削り合える、その興奮と、紅壱を喰う妄想だけが胸を躍らせている。

 アクの強い仲間ばかりだからこそ、一層に、翠玉丸には紅壱をしっかり支えねば、と言った責任感が芽生えるようだ。

 

 (・・・・・・まぁ、今回は筋も通ってるし、目を瞑ってあげる)



 翠玉丸の許可が出たとは露も知らぬまま、紅壱は各々に名を与える、と理由も付け加えて告げる。

 途端に、小屋の中は騒然がしくなる。ゴブリン等の下位魔属の魔生にとっては、強者に名を与えられる機会など、まず有り得ない。そもそも、高位の魔属が目の前に来る、その事態が、レアケースだ。実際、吾武一たちも吸血鬼や修羅を、その目で見たのはゴブリン生で初であった。

 それだけでも驚きなのに、紅壱は己に名を与え、進化までさせてくれた。雄として、命を懸けるには、十分すぎる理由だった。その誇りが、奥一、弧慕一、輔一にもある、黒く染まった肌と質が高まった魂で感じるからこそ、戦場で背中を安心して預けられる、その確信も彼にはあった。当然、その三体も互いに、同じ気持ちであった。


 「落ち着け、お前たち。

 この世界を統べる御方の手足となって働くのだ、幹部が名無しでは、東はともかく、このオエステ、ガヌーブ、セーヴェルの実力者と相対する際、タツヒメ様の恥となってしまうではないか」


 紅壱や雷汞丸達、カガリには、未だ遠く及ばないにしても、種族進化している四体の気迫は、他の者を鎮静化させるには十分な重みがあった。途端に、喧騒は収まり、吾武一の言葉に彼らは腹を括る。


 「まず、ゴブリン族からでいいだろうか?」


 吾武一に、他の三人は頷く。紅壱を王とし、共同生活を始めるとは言え、ここはゴブリンの居住地である。ならば、これより対等な関係になる、それを証明するためにも、ここはあえて譲っておくべきだ、と判断したらしい。


 「じゃあ、吾武一の補佐をしてもらうお前から名付けるか」


 「よろしくお願いするゴブ」


 「リクエストがあるなら、今の内に頼む」


 「!? 王に要求するなど、とんでもないゴブ。

 王から賜うのであれば、どんな名であろうとも誇りにしますゴブ」


 強張ってはいるが、覚悟の決まっている表情で、右目が傷に塞がれているゴブリンは紅壱の前に歩み寄り、片膝をつく。

 却って、プレッシャーがかかってしまった紅壱は、真摯な面持ちで、名付けを待つ小鬼を見つめる。

 

 「なら、お前は林二りんじとする」


 (魔力を注ぎ込みすぎないよう、慎重に)


 魔力は感じられないけれど、蛇口を勢いよく開き過ぎないようなイメージを浮かべながら、そのゴブリンに固有の名を与えた。

 林、その一文字を付けたのには、特に深い意味があった訳でもない。吾武一に、ゴブリンの“ゴブ”を付けたのだから、ナンバー2は“リン”だろう、そんな軽い発想だ。

 吾武一の時と同じく、林二にも身体的な変化が生じる。林、その文字の影響か、肌の色は変化せず、濃い緑色のままだったが、その分、体格が吾武一よりも逞しくなった。

 元々、この小屋が小鬼ゴブリンが暮らしやすいサイズで作られているからか、中鬼ホブゴブリンに進化した瞬間に、彼の頭部は天井に激突してしまう。

 「いてて」と、頭を押さえて蹲った林二。大丈夫か、そう、紅壱に心配された彼が、ゴブリンよりも愛嬌が無くなった顔を上げると、右目の傷は消えているではないか。

 紅壱から借りた鏡に映り、視力が戻った林二の右目は、焦げ茶色の左目と異なり、トパーズのような色合いとなっていた。また、角も伸び、イッカクのようにドリル状となっていた。

 

 「これがホブゴブリンに進化した俺・・・」


 「カッコ良くなったゴブ!!林二兄ぃ」


 「偉大なる王様、この感謝、万の敵を討つ事で証明いたします」


 肉体の変化と同時に増えた魔力が具現化したクラブ、いや、丸太を己に捧げ、忠心を示した林二。何故、丸太なのだろう、と誰もが訝しむ。

 彼へ名を与えた紅壱は、「林」の一文字が、最も彼の膂力を活かせる武器を具現化させたのだろう、と当たりを付けた。


 林二の肩を軽く叩いた後、紅壱は期待に小鼻をしきりにひくつかせている吾武一の娘に視線を移す。


 「コウイチ様、お願いがあるゴブッッ」


 「お、おぅ、何だ?」


 「アタシ、強くなれて、カワイクなれる名前が欲しいゴブ!!」


 「・・・・・・強さと可愛さが両立する名前、ね」


 彼女からの、実に難易度の高いリクエストに紅壱は考えていた名前を消し、新たなモノを考え始める。

 

 数秒後、ポンと手を打った紅壱が口より発したのが、次の名だった。


 「、これからは、そう名乗れ」


 その名は、吾武一の娘、剛力恋の望みを叶えた。


 一言で言い表すのであれば、野性的ワイルドな美少女。

 腰まで伸び、ボサボサではあるものの、余計な手入れをしていなかった故に、美しい艶が出ている楓色の髪。瞳は向日葵色で、彼女の生命力が豊富である事を如実に示すかのようだ。

 角も疣かと思うほどに小さくなり、その顔つきも人間的に変化しているので、赤茶けた肌も日に焼けたのだろう、と勘違いされ、誰も彼女の種族が小鬼ゴブリン族とは分からないだろう。


 「お父、美少女っすか、アタシ!?」


 具現化したクレイモアを突きあげて興奮する、ホブゴブリィナの剛力恋は父に尋ねるも、当の吾武一は、あまりの変わり様に厳めしい牙が並んでいる口をあんぐりと開け、応える事が出来なくなっていた。

 人間目線からすると、美少女と言っても差し支えないが、ゴブリンの美的感覚からすると、醜いんだろうか、と紅壱は不安になるも、林二の反応を見て、「そういう訳でもないのか」と安堵する。


 「剛力恋、これから頼むぞ」


 「任せて下さいっす!!」


 グッと力瘤を作った剛力恋は、真っ白な歯を剥き出して、自信満々に笑顔を咲かす。


 「次は、オーク族。前に」


 ブヒ、と鼻を鳴らし、二匹のオークは剛力恋と入れ替わるようにして、紅壱の前に出る。


 「モヒカン、中々にイカしてるな」


 「自慢の髪型ブヒ」


 「では、お前の名は完二かんじだ」


 モヒカンのオーク、完二もまた、ハイオークとなる。背丈と筋肉量が増しており、奥一と手四つで組み合っても、そう簡単には潰されそうもない。

 自慢の髪型はそのままだが、赤茶けていた髪色は金色と変化しており、迫力が増している。しかも、顔全体が豚を模したマスクが隠しているからか、見た目が悪役プロレスラーだ。太い鎖を首から下げて闊歩すれば、間違いなく、他の住民は逃げ惑うだろう。


 「マッチョになったな」


 「王様」と、完二は逞しい右手を紅壱に差し出してきた。もちろん、紅壱は笑顔で握手に応じてやる。

 直後、苦痛に奥歯を噛み締め、汗だくとなったのは完二だった。

 筋肉、骨、関節が悲鳴を発し、完二はその場に這い蹲りそうになるも、それが出来ない。紅壱が力を入れているのは、自身の右手だけではなかった。

 エネルギーの動きを見抜くのが得意であるコボルドの三匹だけが、完二を握り締めている手が見えていた。だからこそ、それが魔力ではない、未知のものなので驚きに、口が開いてしまう。

 それは、紅壱が自らの闘気を操って作った、完二の巨体をも難なく包める巨大な手。

 瑛に受けたお仕置きで、紅壱は覚えていた、全身を握り締められる苦痛を。

 当然だが、呪文や術式などは全く知らない。それ以前に、自分の魔力すら、ろくに操れない。

 だが、効果と理屈が理解できれば、闘気での再現は容易いのだ、紅壱にとって。自分の身で、その痛みを知っているのも功を奏す。


 「どうした、完二。その筋肉は飾りか?」


 その挑発に、完二は行動で自身の実力を紅壱に示そうとするが、彼の握力と膂力では、二つの右手を外す事が叶わない。


 「ブギィ」


 甲高く鳴く完二の心は、後悔の苦味で一杯だった。

 彼は奥一に、自分こそが次の族長に相応しい、と常にアピールしてきた。

 紅壱の戦闘力は知っていたが、これだけ近づき、不意を突いて、自慢の握力で右手を砕けば、自分の強さを証明できる、と考えた。だが、それは浅はかだった、それを思い知るには、この痛みは少しばかり強すぎた。

 しかも、握力だけでなく、見えない手が自分の耐久性が増した体躯まで潰そうとしてきている。

 完二が恐怖したのは、その手の握力ではなく、自分を握り殺せるどころか、一瞬で球体に変えられるほどの力を繊細にコントロールしている点だった。

 奥一は必死に巨体を捩って、手から脱出しようとしている息子に対し、「やれやれ」と溜息を溢す。

 息子の強さは、彼自身はちゃんと認めているし、跡目を継がせる気もあった。しかし、それは、過ぎた高慢さを彼自身が認め、努力して削ぎ落としてからだ、と決めていた。

 この場に、彼を連れてきたのも、紅壱であれば、自分が何度言っても矯正しなかった息子に、圧倒的な強さを見せつけ、自省を促してくれると思ったのだ。

 そんな奥一の親心に気付いていたからこそ、紅壱は握手に笑顔で応じ、遠慮なく、力の一端の切れ端を完二に突きつけた。

 ぜぇぜぇ、と完二が息を乱し、その円らな目から一筋の涙が流れ落ちたタイミングで、紅壱は拘束を解いてやった。

 

 「完二、思い知ったか?」


 「・・・・・・ブウ」


 父の声に、完二は項垂れる、がっくりと。

 しばらく、痛みと力負けしたショックで、地面にへたりこんだまま動けなかった完二。だが、心の整理が付いたのだろう、紅壱が差し出した手を借りて立ち上がると、忠誠心を父と王に示す。


「この筋肉、王様と皆の為に揮うぞ!!」


 完二はグッと、腕に大きな力瘤を作る。


 「おぉ、頑張ってくれ」と、紅壱は完二が膨張させた大胸筋をピシャンと叩いた。


 「幼馴染みが調子に乗って、すいません」


 構わねぇよ、と紅壱は頭を下げたオークの少女に、笑顔で手を振る。


 「完二くらい、負けん気が強い奴の方が、村の警備を任せられる」


 「任せるんだぞ!!」


 「じゃあ、君へも名前を付けるが、何か、リクエストあるか?

 剛力恋みたいに、戦闘力が上がる名前にするか、君も?」


 「いえ、私は性格的に戦いには向きませんので、役には立てませんブヒ」


 その言葉に、奥一と完二は「え?」と表情を顰めたが、その気配を感じ取った彼女が「何か?」と睨みを利かせた途端、ブルブルと首を振り乱し、許しを乞う。


 オークはメスの方が強いらしい、と力関係を垣間見た紅壱は失笑を噛み殺しながら、「なら、どうする?」と確認を重ねる。


 「王様の御心にお任せしますブヒ」


 (逆に難しい事を言ってくれるな、このオークナ)


 しかし、難題に燃えるのが、彼の性格だ。無精髭がちょぼちょぼと生え始めた顎を擦って思考速度を上げた紅壱。


 「なら、君の名は、これから、()だ」


 オークナからハイオークナとなった食々菜の外見、それは農家の肝っ玉姉ちゃん、そんな印象が、自然と浮かぶ体型となっていた。人によっては、給食室のお姉さん、と答えるかもしれない。

 美人、美少女、その表現は似合わないが、愛らしさは十分に備えており、癒し系と言い換えても良さそうだ。

 全体的にふっくらとした体の中でも、特に胸と尻の主張は著しい。

 本魔が強さを求めていなかったからだろう、腕力と魔力の上昇値も、大した事はない。だが、それを補うだけの、特異な能力と職業が与えられているようだった、食々菜には。


 「これは何でしょうか?」


 自分が持っていた道具に、食々菜は少し太い首を傾ける。


 「鍬って農耕具だ・・・・・・まぁ、人もぶん殴れるけどな」


 「まぁ、凄いですね」


 「使い方は追々、教える」


 「はい、よろしくお願いします」


 ペコリと下げた頭を戻すと同時に、食々菜のバストが揺れる。紅壱は、微塵も動揺しなかったが、剛力恋とスケルトンの少女は己の平たい胸を悲哀そうに見下ろした。

 

 「コボルドのお二人、お待たせしました」


 「ご丁寧にどうもボル」


 食々菜に会釈を返した、コボルドらは紅壱の前に跪き、「王様、これから末永く、よろしくお願いしますボル」と挨拶を述べる。

 

 「あぁ、お前らの魔術には期待している。

 地面を操作する術が、得意らしいな」

 

 瑛が作ってくれた資料で覚えた、彼らについての情報を口にする紅壱。彼が自分らについて知ってくれている事が嬉しかったのか、コボルドらは額を床に擦りつけ、礼を繰り返す。


 「じゃあ、オスの方から行くか・・・・・・得意な術はあるのか?」


 「我が得手とするのは、硬石ストーン散弾ショットと言う攻撃魔術ですボル」


 石の散弾、それは魔力によって具現化した、もしくは、地面から浮遊させた複数個の小石を相手に向かって発射する攻撃らしい。

 他のコボルド・メイジの「硬石ストーン散弾ショット」が10個で、石壁にメリ込む程度の威力である一方、このコボルドは数秒の溜めこそ要するも、30~50の小石を地面から魔力で持ち上げ、威力も子供の胴ほどの太さまでの木へ全弾命中させ、幹を穿って倒してしまうほど、とメスの方が彼の実力を紅壱へ訴えてきた。


 「お、おい」


 自分を強引に売り込もうとするコボルナに、コボルドは困惑している。


 「・・・・・・なら、お前は磊二らいじだな」


 紅壱の予想していた通り、名を得た若いコボルド、磊二にも外見の変化は大きく生じなかった。

 背丈も頭どころか拳一つ分ほどしか伸びておらず、筋肉量は増すどころか、むしろ、減ったのではないか、と思うほど、磊二の体つきは少し絞られていた。

 だが、内包する魔力の量は、林二と完二どころか、奥一すら上回っていた。弧慕一と同じく、大地に属する精霊と契約を交わしている精霊使いの職を獲得したようだ。

 また、元から得意とする魔術と、石を三つ重ねる、「磊」の字を与えた影響が色濃く出ているのか、地面全体ではなく、石を操る術に長けていそうな雰囲気が、その身に羽織った灰褐色のローブから立ち上っていた。


 「か、かっこいいボル」


 彼を紅壱に売り込んでいたコボルナは、無事に進化した磊二にうっとりしている。

 見惚れられている磊二は強くなった事で、ある程度は雄としての自信が付いたのか、その熱い視線を受け止めていた。

 どうやら、この二匹は付き合っている、もしくは、両片思いの間柄であるようだ。瑛の顔がふと思い浮かんだ紅壱は、ちょっとだけ羨ましくなる。


 「石のような意志で、必ずや、王様のお役に立ちます」


 「あぁ、お前のスコップが、どう役に立つのか、楽しみにしてるぞ」


 杖の代わりとなるスコップを、己に対し、剣のごとく捧げた磊二に惚れ直している真っ最中の牝コボルドを、紅壱は苦笑しながら手招きする。

 

 「さてさて、お前は・・・・・・ん、それ、クナイか?」


 コボルナが蔦を縒ってベルトに何本か挿している得物を見て、紅壱は眉を寄せた。

 ただ、それだけで、彼の表情はオーガにも引けを取らない凶相となってしまう為、慣れ始めていた一同も恐れで身を竦ませ、「逃走」の二文字が頭にチラついてしまう。少し距離がある吾武一達ですら恐怖、混乱、緊縛などと言った「状態異常」に陥りかけたのだ、彼の目前にいた牝のコボルドの精神にかかった重圧は、言葉に出来る物ではない。

 それでも、コボルナの中で二番手、その矜持が意識を繋ぎ止めたようだ。彼女は弛緩してしまった口から垂れ落ちていた唾液を拭うと、自作の得物を紅壱へ恭しい態度で、「どうぞボル」と差し出した。


 「悪いな・・・うん、やっぱ、ダガーじゃなく、これは苦無だな」


 脅かしてしまった事を真摯に謝り、紅壱は彼女から受け取った投擲用の武器を観察し、小さく頷く。黒曜石を叩いて削り、研いで作ったそれのデザインは不格好ではあったが、苦無にそっくりだった。


 「この形は、自分で思いついたのか?」


 そう問われた、コボルナは戸惑いがちに目を伏せた後、意を決したように頭を振った。


 「違いますボル。私がまだ小さかった頃に、ウルフから助けてくれた東の住人さんが使っていた物を真似たんですボル」


 それを聞き、紅壱の脳内に、一つの職業が浮かんだ。これを職業に入れていいのか、そんな疑問を覚えながら、紅壱はもう一つだけ、彼女に確認した。


 「そいつは、こういう武器も使ってたんじゃないか。あと、コイツを召喚したかもしれねぇな」


 紅壱が地面に棒で描いたのは、手裏剣と大蝦蟇おおがま。瑛と違い、紅壱はそれなりの絵心があったので、それらは誰でも一瞥して、正解を見抜けるクオリティであった。

 途端に、コボルナの目が歓喜と興奮で光り、彼女は紅壱に迫ってこようとする。


 「あの方とお知り合いなのですか?!」


 あまりの剣幕に、紅壱はたじろいでしまう。その反応で我に返ったらしい、コボルナは恥ずかしそうに、体を縮めた。


 「申し訳ありませんボル」


 「いや、気にするな」


 紅壱に許してもらえ、ホッとする一方で、彼女は答えが欲しいのか、チラチラと目をしきりに向けてくる。

 彼女の期待を削いでしまうようで、逆に罪の意識を覚えてしまう紅壱。しかし、ここで嘘を吐いたって、何のメリットもない。


 「残念だけど、お前をピンチから救ってくれた命の恩人、いや、恩怪異については、俺は全く知らない」


 瞬間、ガクッと項垂れたコボルナ。予想通りのリアクションに、紅壱の胸は痛くなる。


 「ただ、そいつの職業は、検討がつく」


 一気に落ち込んだ分、急上昇の具合も凄まじかった。またもや、紅壱に迫ってこようとした少女を、磊二が物静かに諫める。


 「何と言う職業なのですボルか? 皆さんに聞いても、誰も分からなかったんですボル」


 彼女は相手の容姿と得物、使用した術を自分なりに必死で説明したんだろうが、魔属である吾武一らが連想できないのも無理からぬ話だ。東、それが紅壱の考える通りのエリアであるなら、彼女の挙げたポイントで正解に辿り着けるのは日本に住んでいる者、もしくは、日本の文化に詳しい外国人だけだ。


 「お前を救ったのは、霊属の種類までは知らないが、忍者と言う職業だろうな。

 ウルフが、それなりの強さの獣ってなら、下忍ではなく、中忍ってとこか?」


 「忍者・・・・・・それが、あの方の職業」


 忍者、と呟きを繰り返している彼女を見ながら、「妖怪の総称である霊属なら、日本風の職業だろうが、まさか、忍者に就いている霊属がいるのか」と、半ば呆れていた。

 男の子なら一度は憧れる、忍者、それ自体は祖父の友人におり、頻繁に、顔を合わせているので一笑に付す気にはならない。

自身の意志で、魔属を束ねる地位に就く、と決めた紅壱

見た目に因らず、気性の良い彼は魔属らを名前で呼ばない事に抵抗感を抱く

そこで、彼はもっともらしい理由、建前を用意し、この場に集まっていた各種族のNo.2、牝の纏め役に名前を与える事にする

名付け、し慣れぬ作業に苦心しながらも、紅壱は配下に名を与えていく。彼から名を授けられ、魔属らは新たな姿と強さを得ていく

そんな中、紅壱は一匹の牝コボルドを前にし、祖父の友人の事を思い出すのだった

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