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とある生徒会長の本音は日誌だけが知っている  作者: 『黒狗』の優樹
異界への転移
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第二十六話 懇願(entreaty) 紅壱、集落の長になってくれるよう頼まれる

名も姿も知らぬ魔王の思惑により、自室の扉を異世界への入り口に変えられてしまった紅壱

予想外の事態に、紅壱は戦闘の疲れも忘れ、異世界の森を楽しく歩く

その折、自らに忠誠を誓ったゴブリンらと再会した彼は、パートナーら、下位魔属のリーダーらに名を与える

より強い個体に進化した魔属に驚きつつ、紅壱はゴブリンの村に向かうのだが・・・

 当初の予定通り、風巻丸は村が見えてきた距離で、一匹のゴブリンを背へ乗せ、空を翔けた。

 風巻丸が紅壱のパートナー、それもゴブリンらが騎乗する事に抵抗を示した理由の一つだっただろうが、それ以上に、彼らは高い場所への恐怖があるようだった。

 ゴブリンらが尻込みする中、ただ一ゴブ、自ら村への説明役を買って出たのが、この灰茶色の目をしたゴブリンである。金髪の小鬼が、てっきり挙手するかと思っていた紅壱は少し、意外に思う。聞いてみると、幼い頃、ハーピーに攫われかけたトラウマがあるらしかった。なら、無理強いは出来ない。トラウマを取り除くが、どれほど大変なのか、それは紅壱自身も知っているのだから。

 灰茶色の瞳に宿る気迫を見て、このゴブリンの部族には度胸がある奴が多いな、と感心した紅壱は他のゴブリンは出てこなそうなので、そのゴブリンに大役を任せる事にした。


 「落とすなよ、風巻丸」


 「任せるっす」


 紅壱に持ち上げてもらい、風巻丸の背に乗ったゴブリンは緊張の面持ちであったが、その灰茶色の瞳には、興奮ワクワクが浮かんでいた。

 大したもんだ、と紅壱はゴブリンの震えている背を「頼んだぞ」の言葉と共に優しく叩き、彼らを見送った。


 「さて、俺らもペースを上げるか」


 「ゴブ!!」


 紅壱が仕留めた一匹を協力して担いでいるゴブリンらは汗だくで、疲労の色が目や顔だけでなく、全身に滲み出始めていた。

 けれど、紅壱が「持つ」と言っても、「部下にしてもらった手前、これくらいせねば申し訳ないゴブ」と、顔にバッテン傷が入っているゴブリンを筆頭に、小鬼達は頑として、大猪を渡そうとはしなかった。彼らのやる気も大切にしたいので、紅壱は村への運搬を任せる事にした。


 「キツいなら、素直に言えよ。雷汞丸に背負わせるから」


 「何で、俺が持たなきゃならないんだ!!」


 雷汞丸の文句を聞き流し、紅壱は先を行く吾武一に目をやる。

 栄養ドリンクの効果はまだ切れていないようで、吾武一の足取りは勇ましい。村に生きて帰れる、その歓喜もあるのだろう。


 「申し訳ありませんでした」

 ゴブリンが住んでいる村の中央にある広場に残っていた住人らを集合させた吾武一は、直ちに紅壱に土下座で謝罪する。


 「別に気にしちゃいねぇよ。仕方ねぇだろ、ありゃ」


 「タツヒメ様のお優しい言葉はありがたいですが、それではゴブリン族としての筋が通りません。

 どうか、首長の私に罰を!!」


 その言葉に、紅壱を「歓迎」しようとしてしまったメスのゴブリンたち、後で聞いたが、メスのゴブリンはゴブリィナと呼ぶらしい、は慌て、自分たちも前に出てくると、吾武一の助命を乞う。


 「首長は、何も悪くないゴブ。あたい達の首で勘弁してほしいゴブ」


 「いや、そこまで大事じゃねぇって」


 紅壱は、ゴブリンらに土下座される、そんなシュールな状況に置かれている現状に困り果てる。どうするか、と頭を掻きながら、彼は数分前、村に到着した際の出来事を思い出す。


 要するに、吾武一は村を襲いに来た他の村のホブゴブリンだと勘違いされたのだ。そして、紅壱はそのホブゴブリンが雇った、もしくは逆にホブゴブリンを雇った、今回の一件で村から男衆を根こそぎ、兵隊として連れていった組織の者、と誤解された。

 見た目こそ人間ではあるが、紅壱の纏う雰囲気は尋常ではない。自分たちを油断させる、もしくは、逆に威圧するために、人間に化けているのだ、と誤解しても仕方ない。もし、眼鏡を外していたら、そう考えるだけで身の毛がよだってしまう。

 しかも、隣には雷汞丸までいたのだから、ゴブリィナらが自分たちを皆殺しにする気だ、と疑い、やられる前にやってやる、と勇んでしまったのも仕方のない話だ、そう、紅壱は思った。


 (・・・・・・風巻丸を行かせたのも、マズったよな、よくよく考えれば)


 紅壱の役に立つどころか、逆にトラブルを引き起こしてしまった自責の念から、酷く意気消沈している風巻丸に聞こえぬよう、紅壱は溜息を噛む。

 事情を説明させておこう、そう考えて、ゴブリンに伝言を頼んでいた紅壱。しかし、そのゴブリンは急降下と着地のショックで失神してしまった。高い所を飛ぶのは問題なかったが、大地が迫ってくるあの感覚に、さすがのゴブリンの神経も耐えられなかったようだ。

 ゴブリィナらが、紅壱に恐怖したのも、風巻丸がいきなり、村の入り口に降り立ったのもあるのだろう。弱小種族、そんな自覚のあるゴブリンでなくとも、こんなに大きい鷹が目前に着地したら、落ち着いていられない。

 なので、紅壱らが村に近づいてくるなり、精一杯の投石攻撃を仕掛け、怯んだ瞬間に手製の槍や斧を持って、特攻してきた彼女らを紅壱は責める気はなかった。雄がいない今、子供らを守れるのは自分たちだけだ、と勇気を奮い立たせたゴブリィナ達は、実に勇敢だ。これくらいでなければ、眷属にする甲斐がない。

 しかし、その旨を何度も伝えたのだが、吾武一らは頭を上げてくれない。


 (仕方ないな)


 罰は与えたくないが、それで彼らの気が晴れるならやむなし、と潔く諦めた紅壱は「わかった」と頷く。


 「吾武一、そんで、そこの赤い目のメスゴブリン、前に出ろ」


 吾武一と、真っ先に村から飛び出してきた、恐らくは首長不在の間、村を守っていた臨時のリーダーで、ゴブリィナの纏め役と思わしき一匹を、紅壱は手招きする。

 許されるために罰を求めていたが、いざ、紅壱の前に出るとなると、怖くなるらしい、赤い目のゴブリィナは瞳に怯えを滲ませる。けれども、仲間を守ってこそ、と己を昂ぶらせると、彼女は吾武一を守るような体勢で紅壱の前に立つ。


 「どかんか、娘よ」


 「お父は下がってるゴブっ」


 押し問答する父娘ゴブリンに、丸くなる紅壱の目。


 「何だ、吾武一、お前の子どもか」


 「はぁ、生き残っている子供の内の一人なのですが、どうも、母親に似て、気性が強く」


 「そうみてぇだな。じゃあ、吾武一の娘から、罰を与えるぞ」


 自分が先に、と吾武一は紅壱相手でも抗議しようとしたが、彼の娘は父親を押し退け、紅壱の前に出てしまう。


 「じゃ、罰を与えるぞ・・・いいな」


 「ゴブ」


 紅壱は躊躇なく、ゴブリィナにデコピンした。ピンッ、そんな音が額に指が当たった瞬間に上がったのだが、威力はデコピンのそれではなかった。

 さすがに、闘気を練らず、指加減もしたので、頭部が吹っ飛んだり、首が真後ろに折れたりするような事はなかったが、彼女は1mばかり宙を舞い、その三倍ほどの距離を土煙を上げながら転がっていった。


 「ゴブウウウ」


 じんわりと出血している額を押さえ、吾武一の娘は悶え転がる。


 「大した頑丈さだな。気絶するくらいの強さで弾いたんだが」


 「私の娘ですので」と、自慢げに胸を張る吾武一。

 そんな彼の額にも、紅壱はデコピンを喰らわせた。

 不意打ちで、娘へのそれより力も入れた一発。しかし、吾武一は耐えた。1mは後ろへ下がったが、膝も落とさない。額からの出血も娘より少なく、吾武一は「ふぅ」と息を吐き、眩暈を強引に沈めた。


 「お、お父、凄いゴブ」


 見た目以上に、打たれ強さまで段違いに高まっているのを目の当りにし、娘は痛みも忘れ、呆気に取られている。


 「これを罰にする。いいな?」


 威圧され、有無を言わさぬ聞き方をされ、反論したり、首を横に振ったりできるだろうか。いや、できまい。


 「よし、なら、この件は終わりだ。今後は何も言わないように」


 吾武一を筆頭に、ゴブリン達が跪いたうえで頷いてくれ、紅壱は内心で安堵する。だが、それはおくびにも出さず、威厳たっぷりに見えるように表情を取り繕う。


 「遅くなってしまい、すいません」


 弧慕一が少ない生き残りを連れ、吾武一の村に到着したのは、紅壱らから遅れ、30分後であった。

 紅壱に謝罪し、続いて、彼は仲間にも頭を下げる。


 「奥一殿と、輔一殿も待たせてしまい、すまない」


 「オイラも、さっき来たところだぞ」


 「ミートゥー。ノンプロブレム」


 仲間に気を使わせてしまい、弧慕一はますます、頭を上げられなくなってしまう。そんな彼に、紅壱は「気にするな」と一声かけてやる。


 「全員、無事に集まれて良かったじゃねぇか」


 吾武一は申し訳なさそうに、吾武一の住む小屋に集まった、それぞれの種族の主だった者へ首を垂れる。


 誰も口に出さなかったが、皆、似たような事を考えていた、狭いな、と。

 集落の長である吾武一の小屋は、他のゴブリンの住む小屋に比べれば大きい。しかし、吾武一は黒中鬼に進化し、奥一はより巨体となっている。弧慕一は進化前と体格が変わらないし、輔一は愛馬を外に繋いでいる。それでも、密度の高さから考えると、焼け石に水に近かった。


 「やはり、広場を広げて、全員が入れる集会所を作るべきか」


 「いや、わざわざ、全員が集まる事が出来る広さにする事はないだろう。

 今のように、有事の際は、主要メンバーだけが集まるだけでも、問題あるまい」


 輔一は、弧慕一の意見に首を縦に振った。


 「意見を言い合うのは大切だが、住人全員が集まっては、舵取りが利かなくなってしまう」


 「オークは、冷静に話し合うのが、特に苦手だからな、会議を喧しくしてしまうだけだ」


 「スケルトンは逆だね。シャイだから、無言になりすぎる」


 「まぁ、会議の前に、種族の方針は決めておく必要はあるが、会議は私たちリーダーで行うべきか」


 「なら、これから、他の種族が加盟する事も考えた方がいいな」


 力が必要となる大工仕事を担当する気でいる奥一は、実に張り切っている。


 「デザインは、皆で話し合うとしよう。何せ、全員、サイズが違うからな」


 「――――――・・・いや、待ってくれ、お前たち。

 集会所も大事だが、先にやる事があるぞ」


 「何だ、吾武一、大事な事とは?」


 吾武一の真剣な顔に怪訝な表情を浮かべる面々と、何やら妙な不安が芽生える紅壱。


 「集会所よりも先に、まずは、タツヒメ様のお住まいを作らねばならないだろう」


 その言葉に、頭の上へ「!」が飛び出る奥一、弧慕一、輔一。


 「申し訳ありません、優先順位を間違えておりました」

 

 リーダーたちから頭を床に擦りつけるようにして謝られ、紅壱は口をへの字にしてしまう。


 「別に、俺の家なんかなくてもいいぞ。

 野宿も慣れてるし、雨露が凌げる屋根と壁がありゃ、十分だ」


 紅壱は軽い気持ちで言ったのだが、吾武一らは焦りと怒りを剥き出しにする。

 

 「いえ、そういう訳にはいきません。

 お言葉ですが、主人にみずぼらしい小屋に住まわれては、部下としての沽券に大きく関わります。エルフやワーウルフの部族にも、嘲笑されてしまうでしょう。

 可能であれば、城に住んでいただきたいほどです」


 弧慕一の放つ圧迫感に、紅壱はたじろぐ。


 (こりゃ、命令だ、従え、って言っても折れそうにないな)

 

 となると、こちらから程好い妥協案を提示するしかない。腕組みをし、紅壱はしばし、思考の歯車を回転させる、高速で。


 「わかった、野宿とボロ小屋暮らしは止める。

 だが、城はなしだ。魔王の力を完全に引き出せているなら、まだしも、俺は今、単なるお前らの主だ。城じゃ、釣り合いが取れない。むしろ、居心地の悪さを覚えちまう。

 けど、お前らが俺の立場を慮ってくれるのは、素直にありがたい。

 だから、ここを手打ちにしてほしい」

 

 「どうすればいいんでしょうか?」

 

 発端の吾武一が聞く耳を持ってくれた事にホッとしつつも、紅壱は冷静かつ慎重に考えを打ち明ける。


 「お前らは、さっき、集会所を建てよう、と言っていたな。

 なら、それを二階建てにして、上階を俺が、こっちに来た時の居住スペースにしてくれ」


 「集会所の二階を、BOSSのROOMに」

 

 「そうだ。集会所の二階で暮らしていれば、何かあって、幹部に集まってもらう時、俺も楽だ」


 「ふむ、一理ありますね・・・・・・

 タツヒメ様、城はどうしても、却下ですか?」


 「断固拒否だな。貧乏性が染み付いちまってるから、広い部屋は落ち着かないんだよ」


 吾武一、奥一、弧慕一、輔一の四体は困惑し、どことなく残念そうな顔を見合わせ、目で語った末にガクリと項垂れる。


 「畏まりました。では、集会所の二階を、タツヒメ様が過ごしやすい環境に整えます。


 ですが、今後、この集落が発展し、国と呼べるまでの規模まで発展しましたら、城に移住していただきますが、よろしいですね?」


 「うっ・・・・・・わかった、国と周囲が認めるようになったら、お前らが建ててくれた城に住む」


 先程、体裁がどうのこうの、と理由をつけてしまった事を軽く悔いながら、紅壱は渋々と言った風で、首を観念したように縦に振った。


 (そん時になったら、強権でも何でも発動して、城はデカく作らせないようにしよう)


 集会所と紅壱の住まいについての問題が一つ片付いたタイミングで、吾武一の娘と、彼女の妹分がお茶を運んできた。


 「タツヒメ様のお口に合うか、分かりませんが。

 こちらの木の実も、お口に合うか分かりませんが、お茶請けにどうぞゴブ」


 壺から木の椀に注がれた茶の色味は橙色で、その香りは白ワインに近い。

 折角、ゴブリンらが丁寧に淹れてくれたのだ、断って自前の飲み物を飲むわけにもいかない。紅壱は己の胃腸の強さと、解毒能力を信じ、橙色の液体を一口だけ含んだ。


 「――――――・・・・・・味は玄米茶に近いか」

 

 ただし、相当に水で薄めてしまった玄米茶のようだ。味覚の鋭敏な紅壱でなければ、この橙色の液体の乱雑な味から、その風味を見つけ出すのは難しかっただろう。

 毒ではない、しかし、この大きくない茶椀の半分も飲めば、舌が音を上げそうだ。

 チラッと、この場に集まっている者を見れば、不味いとは感じてはいないようで、平然と喉を鳴らしながら飲み干している。

 

 「では、これからの事を」


 口が潤った吾武一が話し合いを始めようとしたが、紅壱は「すまん」と手で制した。驚きこそしたが、吾武一が気を害す訳もなく、「何でしょうか?」と不安げに問う。


 「この茶葉を見せてくれ」


 何故、とは紅壱に問うたりなどしない吾武一に目配せされ、彼の娘は小屋を出た。そうして、いくらも経過しない内に、壺を小脇に抱えて戻ってきた。


 「これゴブ」


 壺の中に入っていたのは、数百枚はありそうな葉。菫色で、名刺大のそれは乾燥させていないようだった。匂いは淹れた後と同じだが、舐めてみると、渋さがあり、紅壱は「グッ」と呻いてしまう。


 「だ、大丈夫ですか、タツヒメ様」


 「問題ない」と、水で口の中を濯いだ紅壱は鋭い目つきで、生の茶葉を睨む。

 

 「吾武一の娘」

 

 「ゴブ?」

 

 「この茶は、どうやって淹れているんだ?」


 すると、彼女は困惑の表情を浮かべた。どうやら、茶は運んできただけで、彼女が手ずから淹れてくれた訳ではないようだ。また、その反応で、普段から、お茶を父親に頼まれても淹れていない事が察せられた。

娘のズボラさを知られ、父親の吾武一は赤くした顔を伏せる。


 「なら、悪いが、これを淹れたヤツを連れてきてくれ」


 ゴブ、と良い返事で彼女は小屋を飛び出していった。


 「重ね重ね、申し訳ありません」


 深々と頭を下げた吾武一に、紅壱は「気にするな」とも言えず、苦笑を浮かべるに留めた。

 

 「本当に母親にそっくりだ。

 いつまで経っても、女の仕事は覚えず、狩りに出向いてばかりなのです、娘は」

 

 (父さんも生きてたら、俺の喧嘩三昧の生活を嘆いていたのかねぇ)


 ボヤいた吾武一は、ふと、何かを思い出したようで、おもむろに笑いを噛み殺している奥一に体を向け、謝罪の言葉を潔く発した。


 「奥一殿、いつぞやは済まなかった」


 「ヌ」

 

 一瞬、彼に何を謝罪あやまられているのか、分からなかったらしく、奥一は突き出ている鼻を鳴らす。数秒ばかり考え、記憶を放り込んでいる籠の中を漁った彼は目当ての物を見つけ、「おぉ、あの事か」と逞しい両手をバンと鳴らす。

 音は凄まじく、レベルの低いゴブリンやオークでは、失神はしないにしろ、「恐怖」の状態バッド異常ステータスに陥っていただろう。音だけでも効果的なのだ、もし、両手の間に頭などがあったら・・・想像しただけで頭痛がしてきそうだ。


 「いや、あれはオラのとこの若造が調子に乗った所為だ。

 おめぇんとこの娘は悪くねぇよ、ちっとも」


 奥一の手は、あれだけの音を出すだけあり、実に大きい。彼本魔が軽く動かしているつもりでも、それだけで、数m先の蝋燭の灯は揺らめく程度の風は起こる。隣に腰かけていた弧慕一のフードが、バサバサとはためいた。

 紅壱は、何があった、とは聞かなかった、あえて。謝られた奥一が演技ではなく、本当に気にも留めていないのだ。基本的に部外者たる自分が、吾武一の弱味を穿り返すのはマナー違反だ。それに、聞かずとも、吾武一の娘が何をやらかしたのか、それは彼女の言動や吾武一の態度から、何となくは想像できた。


 (どこにでもいるもんだ、お転婆娘ってのは)


 目があった(と言っても、眼窩の中は空だけども)輔一と紅壱が双肩を小さく竦めた時、件の元気花丸娘が何者かを連れ、小屋に戻ってきた。


 「彼女が、このお茶を淹れてくれたオークだゴブ」


 吾武一の娘は、元からどんな状況でも緊張しない性質なのか、もしくは、先ほどのデコピンで紅壱の強さに心服しているのか、堂々としている。

 しかし、事情も説明されず、いきなり腕を引っ張ってこられたオークの牝は、各部族のリーダーだけでなく、人間とは思えぬほどの魔力を宿している紅壱を前にし、すっかり萎縮してしまっている。


 「あ、あの」


 オークナの潤んだ目を見て、紅壱は胸が痛くなる。

 奥一のように種族ランク進化アップしておらぬ彼女の面は豚そのものであるが、女の子である事には変わりない。そんな彼女を怖がらせてしまっている事に、紅壱は罪悪感が疼くも、リーダー格四体の前で、甘い態度を見せる訳にもいかない。


 「――――――吾武一の娘が運んできたコレ、君が淹れたんだな?」


 途端に、オークナは顔を引き攣らせた。しかし、怯えて返事を出来ないのは無礼にあたる、と己を鼓舞した彼女は「そうですブヒ」と、細くはない首を縦に振った。


 「な、何か、問題がありましたかブヒ?」


 不味かった、そう、紅壱がハッキリと言いきった瞬間、そのオークナの青褪めっぷりは漫画のようだった。

 危うく、そのまま気を失ってしまいそうになるも、吾武一の娘が素早く動いて、彼女の体を支える。オークはゴブリンより体が大きいが、吾武一の娘はパワーがあるようで、顔に全力の色こそ濃く滲ませているも、どうにか、オークナを元の体勢に押し戻してみせる。


 「言い方を変えよう。少なくとも、俺の舌には合わなかった。

 お前らは美味く感じるのか?」


 唐突に質問を振られ、驚いてしまう吾武一ら。

 「美味いのか?」、そう聞かれても、今まで口にしてきた飲み物は川の水か、このお茶だけだ。美味さを判断するには、基準が不足してしまっていた。

 狼狽えている彼らを見て、「そうか」と嘆息する紅壱。


 「は、腹を切りますブヒ!!」

 

 「待て、そこまでしなくていい」


 焦りを押し殺しながら、半泣きな彼女の謝罪を制した紅壱は「何で、切腹なんて文化が、魔属に伝わってんだよ」と呆れる。


 「君を詰るつもりで、彼女に連れてきてもらった訳じゃない。

 ・・・・・・吾武一の娘から、聞いていないのか?」

 

 オークナは、顎下の肉をブルブルと揺らしながら、首を激しく横に振った。紅壱にジト目を向けられた吾武一の娘は、「てへっ」と赤紫色の舌を突き出し、誤魔化すように首を傾ける。

 娘の不遜な態度に、吾武一は怒りが湧き過ぎ、頭に血が上ったようで、顔色が形容しがたい色味になってしまっている。

 憤死しそうな仲間の頭へ、弧慕一は得意とは言えない、氷属性の魔術で作りだしたチョコレート大の氷板を乗せる。

 吾武一の顔を掌で扇いでやっている奥一の隣では、輔一が「クールダウン、クールダウン」と言葉で、彼の昂りを鎮めようとしていた。


 「これを、君はどう淹れているんだ? 大雑把でいいから、教えてくれ」


 紅壱は椀の中身を一口啜り、顔を顰めてから問う。

 牝オークは豊かな胸部を五回ほど膨らませて、気持ちを鎮静つけてから、丁寧な口調で返答えた。


 「その葉は、この森の西側地帯、オスエテの至るところに生えているティーと言う名のものです。

 私達は寝る前に、一握り分のティーの葉を適当に千切って、この壺を満たす程度の水に、タイヤンが出てくるまで浸しています」

 

 「なるほど、水出しか」


 頷いた紅壱は、しばらくの間、ティーの葉と、それの水出し茶が満ちた壺を険しい顔でジッと見つめる。無言となった彼の威圧感が自然と増し、小屋の中は重苦しい空気に満たされる。しかし、熟考している紅壱に声をかける度胸など、誰も持ち合わせていない。

 一同は乾いた喉を、ティーのエキスが滲み出ている水で潤す。

 オークナも飲むが、この味が変だとは感じない。ただ、オークの本能として、美味しいものを食したい、その気持ちもあった。


 「よし、いっちょ試すか」


 普段から、自分で茶を淹れる習慣のある紅壱はティーの葉で美味い茶を出す方法を、豊富かつ重厚な経験則より導き出したらしく、おもむろに腰を上げた。


 「鍋はあるか?」


 家事をしないらしい吾武一の娘に聞いても、鍋の置き場所は知ってないだろう、と察した紅壱は父親に問う。その判断は間違っていなかったようで、吾武一はすぐに片手鍋を紅壱へ差し出す。

 当然だが、胴や鉄の鍋ではない。彼本人か、もしくは比較的に手先の器用なゴブリンが白粘土を練って自作したらしい鍋の作りは無骨と表現するには、少し、粗末さが際立ってしまっている。ただ、火に当ても割れそうもなく、水も漏れそうもない。なら、問題はない。

 紅壱はティーの葉を一掴みすると、鍋に入れる。そうして、鍋を火に当て、葉を炒り、水分を飛ばし始めた。彼の思いがけぬ行動に、吾武一らは目を丸くしてしまうが、例によって、何も言えず、緊張と不安の気配をあからさまに出している。

 そんな中、オークナだけは興味津々で丸い瞳を煌めかせ、紅壱の動きを一つも見逃すまい、としていた。それは、鼻息の荒さに出ており、紅壱は苦笑を噛み殺す。


 鍋を揺らしながら炒ること三分、ティーの葉はすっかり、カラッカラッとなった。墨色は桜色に変じ、匂いも消えていた。

 

 「それを水に入れるのですかブヒ?」

 

 「いや、もっと細かくする」

 

 その言葉を受け、オークナは吾武一に何かを尋ねる。しかし、彼が困ったように首を振ると、紅壱に「少し待っててくださいブヒ」と声をかけてから、小屋を出ていった。

 戻ってきた彼女は、すりこ木とすり鉢を、吾武一の娘より大きな胸に抱えていた。


 「コボルドの方に借りてまいりましたブヒ」


 「おぅ、ありがとう」


 紅壱に笑顔で礼を述べられ、豚頭魔オークの少女は戸惑う。その気になれば、自分を殺せる相手の機嫌を損なわないよう、丁寧かつ低い腰で尽くすのは、魔属として当たり前であり、礼を言われないのも普通の事なのだろう。


 参ったね、と呟きつつ、紅壱は熱によって脆くなったティーの葉を擂って粉微塵にしていく。荒く砕かれたティーの葉は、次第に甘さと酸っぱさを含んだ、レモンに近い匂いを立ち昇らせる。


 (カモミールに近いか、味は)


 小指の先に少しだけ付けたティーの葉の粉を一舐めした紅壱は予想通りの結果に、「ニヤリ」とする。その横顔を見て、最も近くにいたオークナは卒倒しそうになるも、結果を出るまでは意識を失っている場合ではない、と蹄で大地をしっかり掴んだ。


 「鍋に水を」


 「はいゴブ」


 オークばかり、紅壱の役に立たせられない、と吾武一の娘は勇んで、水瓶を運んできた。

 紅壱は豚頭魔の少女の胆力に続き、小鬼の少女の腕力に感心する。ちなみに、吾武一は鍋を持って水瓶の所へ行くのではなく、水瓶そのものを持ってきた娘に呆れ、溜息しか出ないようだ。


 「ど、どうぞゴブ」


 吾武一の娘も、紅壱からの感謝に一瞬、驚いたようだったが、「そんな、えへへ」と照れ臭そうに身を捩らせた。

 2リットル程度は入りそうな鍋の半分まで水を入れ、紅壱は再び、鍋を火にかけた。そうして、沸騰する寸前に、ガーゼで包んだティーの粉末を放り込んだ。急須や茶漉しの類があれば、それに越した事はない。 しかし、メスのオークに聞いてみたところ、そのような道具はありませんブヒ、と申し訳なさそうに頭を下げられてしまった。紅壱は、「ないものはしかたない」と、すんなり頭を切り替えられる男なので、清潔で水に濡れても問題なく、なおかつ、中からティーの味を出せるガーゼをティーパックに抵抗なく使う。

 豚頭魔オークの少女は、自分たちの技術では絶対に織れぬガーゼに、驚きの表情を隠せていない。

 オークと言うと、力自慢で細かい作業が苦手、そんなイメージが付きまといがちだが、中にはこういう事に関心を持つ個体もいるんだな、と紅壱は考えを改める。


 (やっぱ、『組織』の資料ってのは、意図的に怪異のイメージを捻じ曲げてるんだな)


 怪異が人間に近い、そう感じてしまうと、頭では「駆逐対象」と思っても、心が体にブレーキをかけてしまう。そんな「優しさ」を学生らから取り除き、最悪の事態を避けるためなのだろうが、やはり、どこか悪意や恣意があるように思えてしまう。

 そんな事を考えている間に、即席のティーパックを躍らせていた湯はエメラルドグリーンに変化していた。

 香りはダージリンに近い。色から玉露を想像していた紅壱は、自身の鼻が感じ取った良い香りに裏切られ、少し焦る。ただ、その香りは味も最高だ、と教えてくれていた。

 紅壱は気を取り直し、空になっていた椀に、その翡翠色の液体を注いだ。

 そして、息を幾度か吹きかけ、ある程度まで冷ましたそれを慎重に、口へ含んだ彼は直後、カッと両目を見開く。刹那、彼の体躯から放たれた気迫は空気を揺らし、進化していた四匹をたじろがせ、ゴブリィナとオークナの腰を抜いてしまう。


 「っと、すまん」


 ドサリ、その音で我に返った紅壱は彼女らの震えた手を掴むなり、難なく起き上がらせてしまう。

 ゴブリィナの方はともかく、牝と言えども、豚頭魔オークの体重は、人間の女子プロレスラーに匹敵している。なのに、スッ、そうとしか表現しようがないほど簡単に、腕へ大した力も入れていない風だったのに、体の重い自分が起こされたものだから、オークの少女は仰天してしまう。

 そのため、つい踏ん張り切れず、彼女は紅壱の胸に顔を埋める形になってしまう。

 すぐさま、オークナは彼から離れたが、その顔は真っ赤になっていた。


 (やべ、臭かったか)

 

 彼女が忙しく、特徴的な鼻を動かしていたのを見て、紅壱は己の体臭は、嗅覚が鋭いオークにはキツかったか、と考えてしまう。

 彼は、シャワーで汗を流す前に、二つの世界の隔たりを越え、また、吾武一らと再会を果たした場所からこの集落まで歩いてきているので、その考えに行き付くのは、何ら間違いではない。ただ、それは豚頭魔の少女が、頬を赤らめてしまった理由としては、正しくなかった。

 すまんかった、と誤解から詫びた紅壱に、オークナは必死に「大丈夫ですブヒ」と、彼の罪悪感を拭う。まだ、彼女の顔が赤いので、紅壱は気まずさを覚えたままだったが、気持ちを切り替える。


 「よし、味見を頼む」


 コクリと肯いた少女たちは、全く恐れることなく、紅壱の作ったお茶を受け取り、それを口に含んだ。


 「・・・・・・お、美味しいですゴブ」


 「同じ葉っぱを使っているのに、こんな味に違いが出るブヒか!?」


 あまりの美味しさに、二杯目をゴクゴクと飲み、テンションを高くしているメスのゴブリンの隣で、メスのオークは驚きを隠しきれていない。


 「味は、黒烏龍茶に近いな。

 今は急いでいたから、葉を炒って乾燥させたけど、天日干しにすりゃ、もうちっと、味が柔らかくなると思うぞ」


 「私は、この渋味が好きですけど」

 

 「お、通だな」


 紅壱の賛辞に、豚頭魔オークの少女は頬と鼻が赤らむ。彼女の反応に、小鬼ゴブリンの少女はニマニマと両頬を緩めた。


 「では、皆さまにお茶をお運びしますブヒ」


 オークの少女が運んできたお茶を飲み、吾武一らも表情を一変させる。


 「これは美味い」


 「爽やかな味だ」


 「心の靄が晴れるようですね」


 「少量だが、魔力も回復するな」


 四人の舌にも合ったようで、紅壱はホッとする。


 「明日から、早速、ティーの葉を自然乾燥させますブヒ」


 「あぁ、そうしてくれ」


 「じゃあ、私はコレを捨ててくるゴブ」


 「いや、待て、吾武一の娘」


 紅壱はティーの水出し茶が入っている壺を持ち上げようとした小鬼ゴブリンの少女を呼び止め、それを持ってくるように、と手招きする。


 「捨てるのは、もったいないだろ、折角、作ったんだから」

 

 「けど、もう、誰も飲まないゴブ。こんな美味しいお茶を飲んじゃったら、無理ゴブ」


 昨日まで、野山を駆け、汗だくで帰ってくるなり、壺から直に飲んでいたモノに、吾武一の娘は嫌悪感をハッキリと出す。「ねぇ、お父」といきなり、子供から同意を求められ、吾武一は危うく茶を噴いてしまいそうになる。


 「いや、このまま飲む気はねぇよ、さすがに」

 

苦笑した彼は、吾武一の娘がお茶請けに持ってきた、と言うより、オークの娘に持たされた木の実を口に含み、その甘酸っぱさに目尻を緩めた。美味い木の実に幸せを覚える一方で、紅壱は以前、覚えた違和感の正体に気付き、得心していた。


 (なるほど、あのミックスベリーは、こっちで採取したものだったのか)


 あの時、ミックスベリージャムを作り、その味に違いを感じた。

 それは、ベリーが痛んでいた、作り方が悪かった、または自身の舌に不調が出ていた訳でもなかった。五体の霊属と契約を結んだことで、恐らくは心と体に小さな変化が生じたのだろう。故に、あの時、舌が無意識に、人間界の種ではない木の実の味を感じ取った。

 どうやら、この木の実も、ティーの茶と同じく、食した者の魔力を微量ではあるが回復させる効果があるようだ。『うみねこ』に来る客が、この木の実を使ったジャムを好むのは、故郷の味に懐かしさを覚えると同時に、魔力も回復できるからなのか、と紅壱は納得する。

 頷きつつ、この野苺に似た木の実で、紅壱は二つの推論を立てる。

 一つは、人間の世界と、この異界は気軽に行き来できない、と言う事。

 もし、常時、「出入り口」が二つの世界を繋いでいるのなら、『うみねこ』に足を運んでくれている客たちが、この実を使ったジャムを、瓶まで舐めるような勢いで味わうはずもない。自在に行き来できるなら、こちらへ戻った際に食べているだろうから、いくら、ジャムに加工しても、あんなにテンションを高くする事はないだろう。

 もう一つは、多部の強さ。客らは、人間界に来る際に、二度と故郷に戻れない、と言った制約が課されている、もしくは、単純に「扉」を押し開くだけの実力が足りていないようだ。だが、多部はそんな制限などないのか、少なくとも、週一回のペースで、こちらに戻り、なおかつ、人間界にもやってこられるのだろう。多部が、週に一回、バスケットに山盛りで、この木の実を持って帰ってくるのだから、その可能性は高そうだ。


 (となると、俺にこの「扉」を開閉する能力を貸してくれた魔王と、店長は同レベルって事だな)


 改めて、一時の衝動で敵に回すような真似をしなくて良かった、そう、己の判断を惜しげもなく賞賛したくなる。


 「この実は、結構な量が採れるのか?」


 「はい、この時期に多く、実が生りますブヒ」


 「なら、今、この村にある木の実を、そうだな、この壺半分くらい、持ってきてくれ」

 

 紅壱の言葉に、オークの少女が首を横に振る訳がない。鈍重そうに見えながらも、機敏に動ける彼女は、すぐに小屋を出ていった。


 「お前らは、これをよく食うのか?」


 紅壱の作った茶と、木の実の相性の良さに、またも驚いていた吾武一らは、その質問に一瞬、対応が遅れてしまう。首肯したのは、丁度、杯が空になった弧慕一だった。


 「はい、食べます。何せ、私たちは、さほど強くない種族ですので、狩りが常に成功する訳ではありません。

 なので、口に出来るのは、この木の実か、土の中にいる芋虫、また、他の種族が食い残した獲物の肉片程度なのです」


 なるほどな、と頷きながら、紅壱は、やはり、安定した食糧を得るためにも、魔属らには農業や酪農をやらせるべきだな、と考えた。豚や牛が、こちらにもいるかは分からない。だが、猪がいるなら、可能性はある。


 「久しぶり、ううん、初めてゴブ、あんなご馳走を食べられるなんて」


 ウットリしている吾武一の娘が想像しているのは、今、他のゴブリンやオークらが協力して解体している大猪の肉だろう。


 「こーいち様は凄いゴブ。あんな大きい魔猪を、一発で倒しちゃうなんて。

 きっと、俺は森の主の眷属か、その血を引いている個体ゴブ」


 「お前の親父も、一匹は仕留めたぞ」


 「もちろん、お父も凄いゴブ。尊敬したゴブ」


 娘に憧れの眼差しを向けられ、吾武一は照れ臭そうに、茶を啜る。そんな彼を、他の三体は「良かったな」と祝う。


 「持ってまいりましたブヒ」

 

 「ありがとさん」


 そうして、紅壱は輔一が「どうするのですか?」と問うのに頷き返し、オークの少女から渡された籠いっぱいの木の実を、壺に全て投入した。多くは沈んだが、十数個は水面に浮いたままだった。熟しきっていないそれらを、紅壱は取り出してしまう。


 「木の実から甘味と酸味が水に溶けて、ティーの角のある味がまろやかになるはずだ。

 一日、いや、三日は暗くて涼しい場所に保管してくれ。あと、一日、一回は壺を振ってくれ」


 「わかりましたブヒ」


 オークの少女は恭しい態度で、紅壱からその壺を、まるで神の宴で振る舞われる代物であるかのように受け取った。

 ちなみに、紅壱は出来上がりがベリーティーのようになるはずだと予想していたのだが、どんな化学変化が働いたのか、出来上がったモノは、果実酒となっていた。しかも、酒精の強いもので、その味はキュラソーに近いものだった。

 味見をした紅壱は予想外の展開に落ち込むも、喜んでいる成年の魔属らを見ては何も言えず、幼年の魔属には決して飲ませるな、と強く釘を刺すに留めたのだった。

 そして、この偶然に出来上がった地酒が、思いもよらぬタイミングで、この集落の危機を救うのに一役買うのだが、それは紅壱を始め、まだ、誰も知らない。



 「お前ら、悪かったな、話し合いを中断しちまって」

 

 「いや、構いません。そのおかげで、このように美味い茶を飲めたのですから」


 頭を気まずそうに下げる紅壱に、またも吾武一らは焦りを覚える。そうして、彼らは顔を合わせると、アイコンタクトで考えが一致している事を確信する。


 「タツヒメ様、折り入って、私達からお願いがあるのですが、聞き入れていただけますでしょうか?」


 「何だ、急に畏まって、お前ら」


 一抹の不安を覚えた紅壱だが、相手の出方も分からぬ内に背は見せられない、と不良独特の発想から、彼は「言ってみろ」と話の続きを促す。


 「この集落の長に、なっていただきたいのです」

 

 紅壱に出来たのは、目を見開く事だけだった。人間、こうも予期せぬ事を言われると、何の言葉も口から発せなくなるらしい。

道中で猪を狩りつつ、紅壱らは無事にゴブリンの村に辿り着く

やや手洗い歓迎を受けてしまう、そんなトラブルも許す、器のデカい紅壱に魔属らは尊敬の念を強め、忠誠心も増す

自身の味覚を満たさぬ茶を改善でき、満足していた紅壱は、とある難題に直面する

果たして、紅壱は部下の頼みに首を縦に振るのだろうか?

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