第二十話 襲撃(raid) 天戯堂学園、「エーデル・ローゼ・ガルテン」に襲撃される
アルバイト、それを優先し、瑛に無断で紅壱は退院してしまった
怒り心頭な瑛は、紅壱に強烈なお仕置きを見舞うも、惚れた弱みか、最後まで冷酷に徹する事が出来ないのだった
しっかり反省した紅壱を許し、瑛が思い切ったコミュニケーションに出た矢先、何者かが学園を襲撃する
果たして、襲撃者の目的とは?そして、瑛率いる生徒会は生徒らを守りきる事が出来るのだろうか?
「敵襲!?」
予想外の単語が、顔色を失った瑛の口から飛び出た事に紅壱が驚いてしまった次の瞬間、真っ二つに割れた男。もし、近くにいてしまったら、その体が割れていく音はトラウマとなっていたに違いない。
その肉体から噴き出した血は、真っ黒に変色していた。腐敗した悪臭を共に、地面へ撒き散らかされた臓腑を踏み潰しながら、異形の軍団が出現する。
革や木を素材とした粗末な造りの鎧で肥えた身を守っている、その兵士達の顔は豚であった。似ている、と言うレベルではなく、文字通り、豚であった。
歪な歯が並んだ口から唾液を飛ばし、「ブヒブヒ」と耳障りな威嚇の声を発し、握っている斧や鉈を振り上げながら、学園に向かって歩き出してきた。
「オークか!!」
唖然としている紅壱を突き飛ばして、双眼鏡を覗いた愛梨の緊張した声には、確かに興奮が混じっていた。
微苦笑を漏らした紅壱の顔が、再び険しくなる。
それを見て、「まさか」と思ったのだろう、恵夢は双眼鏡を掴んで廊下へ飛び出す。そうして、すぐに血相を変えて戻ってきた。
「アキちゃん、スケルトンも三十体近くは召喚されてる!!」
その報告に、紅壱も廊下に出て、恵夢を驚かせた光景を確認する。
カタカタと上下の歯をしきりに打ち合わせている、真っ白な骨の兵は錆びている、もしくは刃が欠けている剣を手にしていた。
粗末な鎧こそ装着しているが、心臓を初めとして内臓はなく、切られても血が出ないというのに、身を守る必要があるのだろうか、と紅壱は呑気な事を考えながら、湧き出しているスケルトンを見つめる。
「ゴブリンもいるぞ、オイッッ」
監視カメラの映像をスクリーンに転写すると、そこに映されたのは、130cm強の背丈しかない小鬼。
肌の色は緑だが、中には焦げ茶けた個体もおり、それはある程度の実力を兼ね備えているようだった。
他の緑色のゴブリンの装備は最低限の防御力が備わっているもので、手にしている武器も棍棒がほとんどだ。
焦げ茶色のゴブリンは、ヘルメットと言うより、兜と表現する方がしっくり来るものを被り、なおかつ、手入れこそ雑なようだがカットラスを構えている。
いくらか青ざめている夏煌の目には、コボルドが映っていた。
男子中学生ほどの体格、煤や土で汚れている作業着だけ見れば、人間っぽいのだが、首から上は犬の頭があった。しかし、動物好きな紅壱でも、それらを撫で回したい、と思えない。
一見しただけでも、その茶色い肌はザラザラとしているようで、砂の感触と変わらなさそうだった。洞窟を住まいとし、採掘作業を得意とするイメージがある魔属らしく、背負っている得物はツルハシやスコップのようだった。
「こりゃ、やばい」
(コボルドの持ってる武器が、一番にエグいな)
刀や銃などの武器は、ある程度のレベルに至るまで、努力を要する。殺傷力は高いが、素人が戦闘で持つには向かない。しかし、ツルハシやスコップは違う。素人でも、全力で振れば、重さと硬さで十分に相手にダメージを与えられる。どちらも鋭利さも兼ね備えているので、刺さり所が悪ければ、大の男だってお陀仏だ。
「鯱縁先輩、直ちに五重渦巻防護結界を発動させてください・・・出力のレベルは任せます」
瑛の言葉に「了解」と力強く頷き返した恵夢はパソコンの前に座り、目にも止まらぬ速度でキーボードを叩いていき、広大な学園全体を覆っている結界の強度を高める。
「大神、豹堂」と瑛が明確な指示を出す前に、二人もまたパソコンを素早く操作し、昇降口や裏口のシャッターを全て下ろす。
「コウ、私らは地下講堂へ聖灰と浄水、清めの縄を取りにいくぞ!急げッッ」
事態が飲み込めない後輩の返事を待たず、あの分厚い扉を蹴破るどころか、人の形の穴をブチ開けるような勢いで生徒会室を飛び出した愛梨。紅壱は、慌てて彼女を追いかける。
瞬動法を使って、生徒会メンバー専用の隠し通路を駆ける愛梨を負うのは骨が折れたが、足の長さでは彼が勝っているので、大きく距離を開かされる事もなかった。
「全校生徒に告げる。防犯プログラムのエラーにより、出入り口の防火シャッターが下りてしまい、フェンスや門扉に流されている電流にも不具合が起こってしまっている。
まだ校内に残っている生徒は復旧作業が終了するまで、各自の教室もしくは図書棟、体育館などで待機しているように。決して、強引に外へ出ないように。
違反者は、停学1日のペナルティとなるので、心しておくように」
倉庫でリストに記されているアイテムを探す最中、校内に響き渡る、瑛がかけた放送を聞き、随分と緊迫した状況らしい、と改めて察した紅壱。
(あぁ、ダメだな)
ピンチなのは百も承知で、浮足立っている場合じゃないのは頭と心で理解している。けれど、喧嘩屋って生き物は、闘争本能で物事を計る。そんな彼に、この状況で笑うのを我慢しろと言っても無駄だった。
足音が乱れないので、愛梨は紅壱が自分の後を追ってきているか、振り返って確認する必要はなかった。
しかし、百戦錬磨とは言えないが、五十戦は熟している彼女ですら、今の後輩の顔を直視する事はできなかった。こんな時でも笑える彼の胆力を讃えるほどの余裕も生じず、彼女は無意識の内に、紅壱の放つ鬼気に飲み込まれぬよう、速度を上げた。
「こんな大掛かりな奇襲を仕掛けられるとは、正直に言えば予想外だった・・・・・・私も、まだまだ、読みが甘い」
光属性の魔術の一つであり、基礎でもある『闇祓い』がかけられており、魔属のみに火傷に近いダメージを負わせる水が入った樽と、魔属・霊属の両方に通用する灰を固めた球体を詰め込んだ木箱を持てる限り持って、ウキウキとした態度をもう隠そうともしない愛梨と一緒に生徒会室に戻ってきた紅壱に濡れタオルを渡しながら、瑛は溜息を漏らした。
紅壱は、顔にこそ出ていないが、自分を厳しく責めている瑛を、彼女自身に代わって、許すように右肩に手を乗せる。そうして、ビックリし、肩に力が入ってしまった彼女に親指を立ててみせる。
月並みな励ましの言葉は一切なかったが、紅壱のエールで瑛は十分に己を鼓舞できたようだ。
「・・・・・・ありがとう」
瑛は紅壱が広げた掌へ、自らの掌をぶつける。ハイタッチに慣れていないのか、「パンッ」と良い音は鳴らず、「ぺしゃん」と気が抜ける音が両掌の間で響く。ただ、それで却って、瑛は脱力できたようだった。今一度、紅壱に礼を告げ、マニュアルの再確認を始めた。
「ランクはD・・いや、Cに相当するな、こりゃ」
自身の闘争心を萎えさせないためか、「思い切り、暴れてやんぜ」と愛梨は指をゴキゴキと鳴らす。虚勢なのは目に見えて明らかだったが、紅壱はあえて、そこを指摘しない。彼にも、ハッタリで自分の尻を叩いて、臆病の虫を追い出したい気持ちが理解できた。
「ランクってなんだ、ナツ?」
「・・・・・・」
夏煌は紅壱の声を顰めての質問にも、侮蔑の視線でを返さず、丁寧にランクについて説明してくれた、身振り手振りを交えながら。
「なるほど、任務の危険度か、ランクってのは。
Cってのは、どんくらいヤバい感じなんだ?」
「・・・・・・・・・」
「俺ら、生徒会の手に余るくらいか。そら、ピンチって言うしかねぇな」
コクリと頷いた夏煌は、唇をきつく噛み締めている。よく見れば、爪が掌の肉に食い込むほど強く握り締めた拳は、不安と恐怖で小刻みに震えてしまっていた。
大丈夫だ、と適当な言葉で励ますのも違うな、そう感じた紅壱は無言で、夏煌の頭を何度か、優しく叩いた。
「!!」
イケメンにしか許されぬ、女子へのスキンシップの一つ、頭ポンポン、これだけで夏煌の勇気はその心から諦めを追い出したらしい。
フンッ、と鼻息を荒くして、ヤる気を俄然、漲らせた彼女に目を丸めつつ、「頼もしいな」と紅壱は破顔した。
「やっぱり、森にある、例の物を狙っているんでしょうか?会長」
冷静に事態を把握できている自分は紅壱より使い物になる、そのアピールか、鳴は前に出ていく。しかし、瑛の視線は、すぐに彼女から他のランクについての確認を夏煌にしている、紅壱へと移ってしまっていた。
その目は、いつもよりも厳しい光が宿っているようだ。事態が事態なので、目つきが鋭くなるのは自然にしろ、どうも、それだけではないようだ。
「会長?」
「・・・・・・!! すまない、考え事をしていた」
心配そうな鳴に詫び、瑛は再び、彼女からされた質問に腕を組んで悩む。
「うむ、可能性は高いな。
恐らく、辰姫、君が見たのは斥候だったのかも知れん。
だがしかし、下位の魔属、霊属に、この学園の結界を擦り抜けられるとは思えん。仮に、結界を擦り抜けようとすれば、我々は気付けるからな」
一つの可能性に思い至ったのか、深刻な面持ちとなった瑛だったが、皆の不安は煽れない、と破断したのか、すぐさま頭を振った。
「まぁ、そこを今、考えても仕方ない。
君から話を聞いて、すぐに上層部に報告したんだが、緊急性は低いと判断されてしまってな・・・今更、言っても仕方ないが、もっと強く訴えるべきだった」
そう悔しそうに言いつつも、瑛が既に頭を切り替えているのは、その瞳に灯っている熾烈な意志の光で読み取れた。
(やっぱ、一時の衝動でこの人を敵に回すのは、お利口じゃねぇな)
しみじみ思う紅壱の視線にむず痒さを覚えたのか、「汚れているか?」と小首を傾げた瑛。
「いや・・・カッコいいな、と」
おべっかではなく、本心で言ったからだろう、それを感じ取った彼女は撫でていた頬を一気に赤らめてしまった。
「せ、先輩をからかうな! ―――・・・・・・鯱淵先輩、結界は?」
「レベル3まで引き上げたよ」
「大丈夫っすか、その程度で? 結構な数ですけど。
なぁ、瑛、ランクはCなんだし、4まで上げた方が確実じゃねぇの?」
ナックルガードに指を通しながら、眉を寄せた愛梨。使い慣れているのが一目瞭然なほど、黒い染みやナイフによる傷が刻まれている。
「人海戦術は確かに脅威であるが、リザードマンやゴーレムの兵士ではない。
結界をあまり強くしすぎると、この一帯のバランスが逆に崩れてしまう。
レベル3がギリギリのラインだろう、今回の場合。
なに、ゴブリンやオーク、雑魚に破られるような稚拙な結界ではないさ」
瑛は鳴が運んできたホワイトボードに、校舎を示す凸の形をした磁石をくっつける。そうして、その磁石を中心にして二重の円を素早く描くと、ケースに入っていた豚頭魔と骨兵士、小鬼、犬頭土精を示す形の磁石を凸の右側と左側に置く。
魔属を表す四種類の磁石が大きな円の内側、小さな円の外側、つまりは、円と円の間に置かれたのを見て、外側の『結界』は入れない為ではなく、出させない為のものか、と察する紅壱。
確かに、校舎への攻撃に飽きて、集団を離れ、街へ向かってしまうオークやスケルトン、ゴブリン、コボルドがいたらマズいだろう。ゲーム脳の青少年が多いご時勢だ、最初こそ、精巧な被り物だ、と思われるかもしれない。写真や動画を撮影する者も出てくるだろう。だが、斧で頭を割られる、鉈で腹を掻っ捌かれる人間が出れば、大きなパニックになるのは間違いない。
紅壱的には、明らかに危険なのに、それを感じ取りもせず、不用意に近づいて怪我をしたのなら自業自得だと思うのだが、瑛の立場を慮り、その意見は口に出さない。
ここ一帯の安全維持を『組織』から任させている瑛としては、不要な混乱は避けたいところなのだろう。責任ある立場も大変だ、とやや他人事に感心しつつ、紅壱はいつのまにか、自分の傍に立っていた夏輝に尋ねた。
「ナツ、今、こっちに向かってきてる魔属どもってのは・・・強いのか?
会長が作ってくれた資料には載ってたけど、俺、その手のゲームやんねぇから、強さをイメージしづらいんだよな」
「・・・・・・・・・」
「なるほど、一匹一匹は、俺がブッ倒した蜥蜴男ほどじゃないか」
しかし、あの数である、快勝は難しくなるだろう。
ゴブリン1~3匹でランクは最低のE、これは腕に覚えがある学生ハンターでも、討伐が可能。
ランクDは、ゴブリンが5匹以上で、学生ハンターでもどうにかなるが、チームで当たるべき案件。専門職のハンターが出張ってくるべき、任務でもある。
今回、召喚されたのはゴブリン、オーク、コボルド、スケルトン、と魔属でも子の強さが低い個体ばかりではあるが、30体以上もいるため、ランクはCとなるのだろう。
不意に、夏輝の小さい手に袖を引かれた紅壱は、眉間に皺を寄せてから自分の口許を撫でた。
「笑ってたか?」と罰が悪げに聞くと、夏輝は珍しく、大きな動作で首を縦に振る。
「やっぱり、ケンカ脳なんだろうな、芯から。
普通なら、一対多数の不利な状況になるとビビっちまうんだろうが、俺はそれ以上に、ぶん殴れる相手がたくさんだって気持ちで、ついつい頬が緩んじまう」
見習い生徒会役員がこんな物騒じゃマズいよな、と後頭部を掻きながら苦笑った彼に鳴は噛み付く。
「あんまり調子に乗ってると、ピィピィ泣く羽目になるわよ。また、痛い目を見ても知らないんだから」
「———―――・・・股を濡らした女に乗っかられて、ヒィヒィ啼かれた事は多いが、調子に乗りすぎたことは片手で数えるほどもねぇよ。
あと、心配してくれるのはありがてぇが、豹堂、お前のツンデレじゃ萌えねぇよ、てんで」
紅壱の下ネタと挑発に耳まで真っ赤になった鳴。
「このぅ!!」
殺気を放った鳴が放ったビンタは空しい音だけを残して、虚空を切ってしまう。
スルリ、と鳴の脇を抜けた紅壱は瑛に声をかけようとしたが、彼女は水が濁っていないか、『闇祓い』の効果は十分か、を確認するのに忙しそうだったので、恵夢に質問をぶつけた。彼が「いいすか?」と前置きすると、彼女はキーボードを叩く指を止めず、画面を目から逸らさずに「なぁにぃ」と間延びした声を返してきた。
「やっぱり、あの死んだ魚みてぇな目をしてた襲撃者で、てめぇを犠牲にして、あの数の魔属を召喚したんですか、メグ副会長」
「・・・・・・あのサラリーマンさんは生贄にされちゃったんだ、と思う」
指の動きこそ変わらなかったが、恵夢の声のトーンが酷く落ち込む。あの距離では、救えなくても仕方ない。しかし、悔やむ思いは、どうしても湧き上がってきてしまうのだろう。
「術者が人間とは限らんが、生贄にされた事は間違いないな」
「魔属が他の魔属を召喚する事って、可能なんですか?」
ランクCの任務は、例のゾンビ殲滅、その一回だけだからか、強張った表情を見せた鳴に頷き返した瑛。
「高位の魔属・霊属なら、イメージを強制的に意識へと刷り込んだ人間を犠牲とすることで、下位の魔属・霊属を手駒として召喚できる。
その高位の怪異が召喚されたものか、かなり以前に偶喚されたものか、で対処は分かれる所だが、今回は後者である可能性が高いな」
数々の現場を経験してきた瑛ならではの勘で、根拠はあるんですか、と聞くのも野暮だな、と紅壱はその質問の代わりに、「じゃあ、あの魔属どもを召喚した魔属か霊属を、直にブチのめせば、万事解決なんすか」と確かめる。
「そんな簡単な話な訳ないでしょ。あんた、バカ?」
「豹堂、そう簡単に人をバカ扱いするんじゃない。
辰姫は、君と違い、場数をそんなに踏んでいないんだ。推測が間違うのも、仕方ない」
シュンと鳴が肩を落とすのを見て、さすがに紅壱も同情する。
「しかし、辰姫の指摘も、あながち間違いではない。
あの下位魔属の軍勢を召喚した一匹を、どうにかして退帰させる事が出来れば、ゴブリンらは増やされないはずだ」
大元を断つ、それを目的とし、瑛は作戦を立てているようだ。
「既に、敵が召喚したスケルトンとオーク、ゴブリン、コボルドは混成軍を分散させて、校舎を丸く囲み出している。
本来なら、二度三度の模擬訓練を積んだ上で、この手の事はじっくりと話し合いをして決めたかったんだが、今、それを言っても仕方の無い話だ。
では、各々の配置と役割を発表したい」
まず、瑛は恵夢と夏輝の名を書いた長方形の磁石を、四種類のマークが貼られている西側に置く。
「鯱淵先輩は裏門の守備をお願いします。
大神は先輩の指示をよく聞いて、攻守の補助に徹するんだ。自分が出来る事だけに全力で当たれ」
いつになく、頬が強張っている夏煌の緊張を解してやるように、恵夢は彼女を抱き締める。
ミルクケーキに顔が埋まり、わたわたと両腕を動かす夏煌を、つい羨まし気に見てしまう紅壱を誰が責められようか。
んんっ、と威嚇の咳払いで、紅壱を我に返らせた瑛は指示出しを続ける。
「エリと豹堂はテニスコート側に」
同様に、南側に置かれる愛梨と鳴の名前入りの磁石。
「おぅ、任せとけ!」と愛梨は左の掌へ右拳を勇ましく叩きつける。鳴は瑛と同じペアでない事に落胆しつつも、頼れる先輩が一緒で気が楽になったのだろう、安堵の息を漏らす。しかし、すぐに残っているメンバーが瑛と・・・紅壱なのに気付き、血相を変えた。
「コイツと会長は、どこを担当するんですか!?」
「辰姫は一度、リザードマンを倒しているからな。
少し負担が大きくなってしまうが、一人でここを担当してもらう」
そう言い、瑛は紅壱の名前を書いた磁石を、通用口付近に貼った。だが、彼女は自分の名を書いた長方形の磁石を、正門部分に貼る。
「そして、私はここだ」
明らかに、敵勢が強い箇所だ。しかも、単騎でそれを食い止める肚らしい。
さすがに無茶が過ぎるだろう、と呆れつつも、経験値も含めた戦闘力のバランスを考えると、闘い慣れしている恵夢、愛梨は一年生女子と組ませるべきと判断したのだろう。
男だからか、それとも、言葉どおり、実戦を経験済みだからか、自分の戦闘力に全幅の信頼を置いて単身の配置にしてくれた事を嬉しく思う紅壱。多勢相手の喧嘩は、近所迷惑な走行を毎夜、繰り返していた暴走族にお灸を吸える際に何度も体験しているので、不安や恐怖はあまり感じていなかった。
「もう時間がないな」
瑛は腕時計を確認すると、己も含めたメンバーの戦意を高めるべく、おもむろに右手を前に真っ直ぐと伸ばした。
彼女の意図を最初に理解した愛梨は「ニヤッ」と健康的な色の歯茎を見せるように笑うと、自分の手を彼女の手の甲に重ねた。続けて、恵夢、夏輝、鳴、そして、紅壱も手を伸ばす。彼は意識せずに、瑛の手の下へ自分の手を出したのだが、二人の手が密着するのを嫌がったのか、鳴は強引に掌を捻じ込んできた。
「全員、自分の命を第一に考えろ。自分独りの力でどうにかしよう、と思わなくていい。
キツくなったら助けて、と叫べ。仲間がいることを忘れるな!
勝て、とは言わん・・・・・死ぬなッッ、生きろッッッ、そして、負けるな!!」
「了解!」
「ハイッ」
「応ッ」
(コクリ)
「うっす」
「少し、負担が大きくなるね・・・・・・」
通用門の前で腕組みをし、仁王立ちしていた紅壱は思わず、重々しい溜息を吐き出してしまう。
「期待されてる、と喜んじまってバカみてぇだな、俺ぁよぉ」
苛立ちを隠そうともしない彼は、半ば八つ当たりするように、手斧を振りかぶりながら向かってくるオークの顔面へ、水鉄砲の狙いを定める。
どんな改造を施してあるのか、その水圧は凄まじい。スチール缶にすら、穴を貫通るのではないだろうか。そんな圧で放たれる水が、鼻の穴に入る。どうなるか、想像してほしい。陸上で溺れるような錯覚に陥り、もがき苦しむのは火を見るより明らかだ。
苛立っている紅壱は、オークの歩みを止めた程度で済ませない。鼻を押さえ、「ビギィ、ビギィ」と鳴いているオークに対し、容赦ない攻撃を加える。
時速150kmは超えていたであろうストレートを避けられる筈もなく、鼻に水風船がぶつかったオークはゴムが割れた瞬間、浄水を顔に浴びてしまい、肌が焼け爛れる痛みに甲高い悲鳴を発し、転がりまわる。
紅壱が瑛から一人で守るように任された通用門には、確かに一瞬では数を正確に把握できないほどの魔属が押し寄せてくる。
しかし、そこは結界が他の所よりも明らかに分厚く、わざわざ人員を割く必要性が感じられないポイントだった。
例え、無人でも、オークやスケルトン、ゴブリン、コボルドと言った雑魚では結界を力づくで破って、校内に侵入するなど不可能に等しかった筈だ。
ムカムカ、と雑音を混じらせながら膨れ上がっていく苛立ちをぶつけるようにして、隙あり、と不用意に近づいてきていたスケルトンの頭蓋骨にハイキックを見舞う紅壱。
格闘技をある程度、齧っている人間には釈迦も説法だが、脳を守っている頭蓋骨は固い。そもそも、骨自体がカルシウムの塊だ。よほどの衝撃でなければ、折れたりはしない。
しかも、スケルトンは骨の兵士。人間の骨とは、一線を画す。プロならまだしも、魔力の扱いを知らぬ素人では、鈍器はおろか軽トラックで撥ねても、その骨を壊す事はできない。また、仮にバラバラに出来ても、ある程度のダメージならば、魔力での再結合を果たし、戦いに復帰できてしまう。
確かに、スケルトンは単身であれば倒す事は難しくないが、集団で襲ってこられると厄介な魔属の一種だった。
にもかかわらず、既に紅壱の拳と足、投球は、スケルトンを十体近く、粉砕していた。カタカタと地面の上で動いている点を見る限り、死んではいないようだったが、ダメージが深刻過ぎて人型に戻れないようだった。もしくは、再び壊される事を恐れ、その心理が再形成を阻んでいるのかも知れない。
今、ゴブリンやオークと対峙している紅壱の背後には、結界が張られていた。少し下がって、結界の中に入れば、紅壱の攻撃は通るが、相手の攻撃の一切が阻まれる。これは「戦い」ではない。単なる弱い者イジメになってしまっている。
やろうと思えば、敵勢に突っ込んでいける。なのに、彼は歯軋りを漏らしながらも、結界から離れ過ぎず、水風船や聖灰を投げつけ、近づいてくる敵だけに物理攻撃を加えていた。
もちろん、臆病風に吹かれてしまっているわけではない。
(会長のことだ、俺があんまり結界から離れたら、どんな無理をしてでも、ここに救援しに来ちまう)
それでバランスが崩れ、他のメンバーが大怪我をすれば、瑛は強い罪悪感に苛まされ、苦しむだろう。
「だぁぁぁぁぁ」
自分に嘘を吐いた瑛に対する怒りでなく、彼女に実力を示せなかった、とまるで勝ちに餓えている中学生のように独り善がりな考えが、一瞬でも頭を巡った事に対しての強い自己嫌悪で叫んだ紅壱は、ゴブリンに断頭刃台を連想させるような踵落としを容赦なく叩き込み、鼻血の海に沈める。
そのゴブリンが落とした棍棒を、地面に落ちる前にキャッチした彼は怯んでいる個体に「ぉらぁ」と投げつけた。
茶色い肌をしたゴブリンは反射神経が優れていたらしく、向かってきた棍棒をギリギリで躱したが、後ろにいた緑色のゴブリンは目の前の仲間が避けた事で反応が遅れ、凶器を口の中に突っ込まれる羽目となった。前歯が砕ける音をゴブリンが聞いた時、既に棍棒は先端をゴブリンの後頭部から飛び出ていた。
どんな猛獣よりも恐ろしい咆哮を放つ、目の前の人間に気圧され、わずかながらも後退してしまう魔属。しかし、彼らにも退くという選択肢はなかった。
浄水で練ってギッチギチに握り固めた聖灰のボールが、コボルドの胸部を陥没させるも、他の個体は痙攣して倒れ込んだ仲間を助けることなく、進んでくる。紅壱も恐ろしかったが、彼らにとっては、召喚者も恐ろしかったのだ。
「辰姫は怒っているだろうな・・・・・・」
悲しげに眉を顰めつつも、瑛の動きは鈍らない。数々の戦場を渡り歩いてきたのが判るほど顔も鎧も傷だらけで、他のオークとは一線を画す格上の闘気を放つゴブリン・ソルジャーの鼻より上を難なく切り飛ばす。
丁度、その頃、紅壱は吼えていたのだが、瑛がいる正門とは相当、離れていたので、彼女はそれを聞き拾えなかった。
任せる、と自分が告げた時の紅壱の嬉しそうな顔を思い出し、更に胸が痛くなる瑛。その痛みは、紅壱が他の女生徒と仲良さげに話しているのを見てしまった時に心臓へ刺さるものよりは軽いが、不快である事には変わりない。
突き出されたスケルトンの長槍を、トップクラスのバレエダンサーを思わせる一回転で避けた彼女はそのまま相手の懐へと潜り込み、大きく開けられていた口の中へ聖灰を叩き込む。
歯と歯の間から鼠色の粉末がわずかに舞った途端、スケルトンは青白い炎に包まれ、ものの数秒で一握の砂になってしまう。
瑛はこの戦いを終えたら、ともかく、今度は自分が紅壱に謝り倒すしかあるまい、と思案を廻らせる。
何だかんだで気の良い男である紅壱は一度の謝罪で瑛の小さな嘘を水に流すつもりでいたが、当の瑛は妙に頑固な一面がある。彼女は自分が納得できるまで詫び、彼に尽くすつもりでいた。当然、それが鳴を怒らせ、彼女と紅壱の関係を余計に険悪化させてしまう、とは想像もしていない。
一瞬、怯みこそしたが、止まっては切られる、と考えたのか、茶色い肌をしたゴブリンが錆の浮いた斧の柄を両手でしっかりと握り、魔属言語で何かを喚きながら突っ込んで来た。
いかに天才である瑛でも、さすがに魔属語までは理解できない。恐らく、自分の名を名乗った上で、部族の誇りが云々など、お約束の口上だろう、と頭の片隅で思いながら、彼女は自身に速度上昇の補助魔術を使うと、瞬時にゴブリンとの距離を詰め、相手が反応するより先に、剣を一閃させる。
スパンっ、音と同時にゴブリンの首に赤い線が走った。二の太刀いらず、身長こそ子供並みだが首の太さは成人男性に劣らぬゴブリンの頸部に致命的な傷を与え、瑛は次の敵に迫り、目にも映らぬ速さで剣を振る。
年頃の男の子である紅壱にどんな要求をされてしまうのか、思わず頭の中に鮮明な映像を浮かべてしまった瑛の足が滑りそうになる。そこを見逃さず、近づく事に成功していた一匹のコボルドがスコップを振り上げた。天性のバランス感覚で体幹を真っ直ぐに戻したのと同時に、彼女は相手の手首を切り裂く。そうして、スコップが地面へと落ちるよりも速く、喉を刺し貫いた。
攻撃を終えた瞬間にこそ隙は生じる、その教えは魔属サイドにもあったようで、控えていたゴブリン・メイジは粗末な造りの杖を頭上で振り、「魔力の矢」を瑛に向かって放つ。
(三本。ゴブリンの割にやるな!!)
感心しつつも、瑛の反応は迅速だ。コボルドの首から剣を抜くのは間に合わない、と判断するなり、剣の柄から離した左手を向かってくる「魔力の矢」に狙いを合わせ、彼女は指鉄砲を作る。
「火弾!!」、この圧縮された呪文と共に指先から撃ち出されたのは、火の弾丸。それは、小気味良い破裂音を立てて、「魔力の矢」を消し飛ばす。
ゴブリン・メイジは、渾身の「魔力の矢」を相殺された事に驚いている場合ではなかった。何故なら、瑛が放った「火弾」は四発。
残りの一発が、真ん中の「魔力の矢」を打ち消した一発の後ろから現れた事に、ゴブリン・メイジが醜い形相を引き攣らせた時には遅かった。凄まじい音を上げて、ゴブリン・メイジの頭部は吹き飛んだ。立ち昇る赤黒い煙には、肉ではなく、ゴムが焼けているような悪臭が混じっていた。
(だが、一体の質は落ちるとは言え、これだけの数を召喚できるとなると、召喚主は並みの怪異じゃないな。
強さによっては、ランクがB、いや、B+になってもおかしくない)
そんな不安が頭の片隅で小さな泡となって弾けた刹那、一匹のオークが罅割れた絶叫を絞り出した。
その大音量に、瑛は両手で耳を塞ぎたくなるが、それは致命的な隙になってしまうので堪えるしかなかった。眉を寄せ、そちらを見た瑛は絶句する。顎が外れるほどに開かれたオークの上を向いた口から、華美な指輪をいくつも指に通した細い腕が生えていたからだ。
粘着的な音を上げながら伸びていく腕からは、歴戦の退魔士である瑛の肌を粟立たせるほど、危険な魔力が漂っている。
今、オークを扉として、こちらに顕現しようとしている魔属は自分がこれまで退化させていたモノとはレベルが違いすぎる、と瞬時に判断した瑛の行動は素早かった。先程まで、どうやって、後輩に許してもらおう、そんな情けない事に悩んでいたとは思えないほどだ。
(全身が出る前に、オークを叩き切るしかない!!)
理性的な恐怖に背中を押され、魔力で強化した足で地面を蹴って、もがき苦しむオークへと迫る瑛。
彼女の剣呑な雰囲気を、次元越しにでも感じたのだろう、自分の顕現を邪魔させてなるものか、とばかりに指を振って、周囲の駒へ瑛の足止めを命じた。
強力な洗脳により、肉体の限界を外されているのか、魔属の勢いは凄まじい迫力を伴っており、さしもの瑛も一瞬、怯んでしまう。それでも、怖気を勇敢さで踏み台にし、瑛は目前の敵を切り伏せながら、オークへ近づいていった。
ぶわっ、と全身の毛が逆立ったのを感じた紅壱。
(――――――・・・・・・会長がいる辺りか)
これだけ離れていても、自分に弱くはない悪寒を感じさせるほどだ、かなり強い魔属が出現したのか。
ゴブリンにアイアンクローを仕掛けながら、左のミドルキックでスケルトンの胸骨を粉々に砕いた紅壱は、意識を目の前の敵から逸らさないまま、視線をそちらへと動かす。
(どうする、様子だけでも見に行くべきか? 助っ人として入るべきかもしれねぇ)
しかし、奇声を発して突き出されたオークの鉈を一瞥もせず、皮膚を掠めさせることなく避けながら裏拳をブチこんだ彼は、自分の思い付きをすぐに却下した。瑛は自分の手を拒絶し、持ち場を離れた自分を叱咤するだろう。
そうだ、俺は生徒会役員の見習いだ、トップの瑛なら難なく勝つ、と信じなくてどうすんだ!! と自分の中の不安を掻き消すように舌打ちを漏らし、首根っこを掴んで持ち上げたオークを突っ込んでくるスケルトンへ全力で投げ飛ばした。
「!!」
軽量級なスケルトンが、重量級のオークをその細腕で受け止められる道理がない。オークのデカい尻に下敷きにされ、粉々になってしまうスケルトン。
「次はどいつだ!!」と、膨らむ焦燥感をぶつけるようにして吼えた紅壱。ちなみに、彼のアイアンクローを受けていたゴブリンは、とっくに激痛が耐えられる限界を越え、絶命ばっていた。
腕から出るのは難しい、と判断したのか、一度こそ引っ込めたものの、すぐに今度は足からコチラへ顕現しようとする魔属。
既に腰まで見えてしまっている。それに焦った瑛は強引に突破しようとしたが、雑魚でも本気で抵抗すれば厄介であった。しかも、攻撃力強化の魔術が発動している。瑛はレッドオークの肉厚な体と、スケルトン・ソルジャーの堅牢な剣技に行く手を阻まれてしまう。
一刀両断されるも、スケルトン・ソルジャーが捨て身で作った、瑛の視界の死角へ潜り込んだレッドオークは全力で樫の棍棒を振り抜いた。風切り音に耳を打たれ、咄嗟に魔術で小さくしていた円盾を元の大きさへと戻し、ガードしなかったら左腕を粉々にされていたかもしれない。
全力で盾を殴られた瑛はそのまま、地面を滑っていってしまう。
追撃しようとしていたレッドオークの鳩尾へ凹んだ円盾をぶつけた瑛は、ついに全身を自分の前へ見せた高位の魔属に、細く整えている眉の根元に女子高生らしくない皺を作った。
「・・・・・・デーモン、いや、ヴァンパイアか」
官能的、そんな表現が異様にしっくり来るスタイルの女吸血鬼は肉厚な唇の両端をわずかに上げた。サーモンピンクのルージュが引かれた唇から、人の柔肌を突き破るに適した形状の牙の尖端が覗き、不気味な光を灯す。
「噂は他の魔属から聞いてるわ・・・獅子ヶ谷瑛でしょ」
艶っぽくも凶々しい雰囲気に気圧され、隙を作らないように柄を固く握り締めた彼女を値踏みするように舌なめずりをした女吸血鬼。
「どのような噂かは知らぬが、貴様ら魔属を恐れさせているのなら嬉しいな。
名を聞いておこう、女吸血鬼」
「カーミラ・D・ヴィオーラよ」
「・・・・・・〝エスタンピー”か」
「そうよ、人間にしては、好いセンスの称号だと思うわ。気性が激しくて、美しい私にぴったり」
そう思うでしょ、と問われるも、瑛は無反応で返答する。ご丁寧な態度に鼻白みつつも、カーミラは口を閉じない。
「立場としては、『エーデル・ローザ・ガルデン』の三番隊副長。
つまり、半年前、アナタ達が倒した、ブラックデーモンより強いの。
そう言えば、貴女のお友達はお元気かしら?
役職は確か、庶務だったわね。貴女を庇って呪いを受けたって聞いたけど」
結果を知っているはずなのに、わざわざ、神経を逆撫でする言葉を発した女吸血鬼に瑛は怒りを覚える。 しかし、彼女は踏み止まった。瑛を止めたのは、彼女自身の理性でもなければ、自分に魔属・霊属の倒し方を叩き込んだ祖父の教えでもなく、紅壱の笑顔だった。
怒りで目の前が真っ赤になりかけた瞬間に、瑛の眼前に紅壱が姿を見せ、「らしくないっすよ」と笑ってくれたのだ。途端に、女吸血鬼への憎悪は霧散する。また、怒りは体内を巡る魔力を高めてくれ、術で集中力を高める必要もなくなった。
(まさか、戦力外と見做した後輩にブレーキをかけられるとは、私もまだまだだな。
この戦いの後、礼を言わねばならん)
覚えのない理由で、自分に礼を言われた紅壱が、どんな顔をするだろうか、それを想像した瑛はこれから、死闘を繰り広げるとは思えぬほど脱力できる。
「でも、今、ここで再起不能になるのに、名を聞いて意味があるのかしら・・・あぁ、そうね、奴隷になった時、ご主人様の名前が分からないと困るものね」
リーダー格なのか、二本角が生えた兜を被る、オーク・サージェントが恭しく差し出したレイピアを、「ありがと」と投げキッスをし、受け取ったカーミラ。彼女のフェロモンを浴びすぎたか、興奮が極限に達したオークは突き出た鼻から血を勢い良く流し、その場に倒れこんでしまう。
「他の退魔士に自慢をする時、討ち取った高位の魔属が名無しの権兵衛では、カッコがつかないからな」
瑛の勝気な挑発に、カーミラは淫靡な微笑をまるで崩さなかった・・・あくまで、顔の上では、だが。彼女は口の端を緩く吊り上げたままで、地面に伏したままのオークの出っ張った腹にレイピアの尖端を突き刺した。
快感が混じった小さな痛みに声をオークが上げかけた寸前、カーミラの魔力は彼を体内から焼いた。
数秒後、紫色の炎がレイピアに吸い込まれた時には、オークは骨すら残っていなかった。
「吸血鬼にしては珍しい、炎属性か」
本気になるべき相手と改めて判断したのだろう、瑛は口の中で噛み砕くように呪文を唱えると、刀を深紅の炎で包み込んだ。
二つの口から気合の入った声が発せられたと同時に、ぶつかりあった色の異なる炎。それは、一瞬後には、殺し合いが始まるからこそ、余計に美しかった。
突然の襲撃にも、リーダーである瑛は慌てふためかず、冷静な作戦を立てる
そんな彼女への好意を更に高め、紅壱は今後も彼女に力を貸す、その決意を強める
しかし、紅壱の身を気遣った瑛は、彼を最も安全な場所に配備してしまう。瑛に見縊られた事に、地味ながらも大きいショックを紅壱は覚えてしまう
紅壱に悪い事をした、と早くも悔いる瑛の前に出現したのは、今回の主犯である女吸血鬼・カーミラ
怒りを炎に変え、瑛は強者を討つべく、今、戦う!!




