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とある生徒会長の本音は日誌だけが知っている  作者: 『黒狗』の優樹
紅壱、魔弾の練習をスタートする
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第百九十八話 実践(practice) 紅壱、住魔らが見せてくれた魔弾の手本を参考に、実践してみる

様々な目的を持つ紅壱は、魔術師としての修行も開始した。

その最中で、魔王である条件とも言える膨大な魔力をコントロールする存在の制御分霊を獲得した紅壱は、それに「マナミ」の名を与える。

彼女の助言に従い、紅壱は攻撃魔術の基本である魔弾の習得を試みるべく、まずは、住魔らに手本を見せてくれ、と頼む。

クジによって選ばれた五匹は順に、自身の魔弾を紅壱に披露するも、知識不足である紅壱は、威力が足りない、と勘違いし、落胆してしまうのだった。

 その犬頭土精コボルドは、二匹目のゴブリンと同じく、両手を頭の上に掲げ、手指を広げている。

 違いは、一つの大きな魔弾を作成しているのではなく、左右の手に一つずつ、テニスボール大の魔弾を作っている事だ。

 魔弾を同時に二発、撃ってはいけない、と言ってはいないので、ルール違反ではない。

 だから、紅壱は彼に「待て」をかけなかったのだが、彼の予想とは異なり、コボルドはまだ、魔弾を撃たなかった。


 「ふっ!」


 腹に力を入れたコボルドは、二つの魔弾を頭上で合成あわせていく。

 同じ無属性の魔力だからか、二つの魔弾は大した反発もなく、一つになったのだが、紅壱が「おっ」と眉を上げたのは、コボルドが一つになった球状の魔弾を左右から、均一な力をかけ、押し潰して、円盤、いや、皿状にしたからだ。


 「・・・・・・シッ」


 細く鋭く速く、息を吐き出したコボルドは石柱を見据えるや、腕を鞭のように振って、魔弾、いや、魔刃を投擲げる。

 真っ直ぐに宙を迅走はしった皿状の円刃は、80km/hは出ていただろう。

 形状が球ではないからか、直撃した時の音も「ズドンッ」ではなく、「ズバンッ」であった。

 元から太い上に、闘気で守られている自分や修一は難しいにしても、普通の人間が標的ターゲットなら、首を半分くらいは簡単に切り裂けそうだな、いや、女子供なら易々と斬り飛ばせるかね、と石柱に付いた切断痕を見て、紅壱は思った。

 速度や威力には、やはり、足りない感が拭えないものの、工夫に関しては面白い。

 まずは、もっと、魔力の円盤刃弾を作り上げるスピードを上げよう、と紅壱の瞳で奮起したコボルドは小さな一礼をしてから、元の位置へ戻る。

 魔力の消費と過ぎた緊張で足取りは軽やかではないものの、背に絶望や悲壮感は、欠片も漂っていなかった。


 「次、誰が直す?」


 「任せてください」


 標的の修繕に向かったのは、まさかの磊二だった。

 これまでの三匹に触発されたのだろうか。

 ジッと、標的に刻まれた切り傷を見つめた磊二は、おもむろに、その箇所へ左手を密着させた。

 離すまでは、約10秒ほど。手を遠ざけた時、磊二の顔は汗だくとなっていた。


 「凄い、直ってるコボ」


 「弧慕一様の魔力に競り負けなかったコボ!?」


 驚いたコボルドらは、衝動的に標的へ駆け寄り、注視する。

 切り傷が付けられた場所は、しっかりと覚えている。だが、今、こうして見ても、本当に、ここに魔力の円盤刃弾が当たったのか、と己らの記憶を疑ってしまう。

 それほど、見た目は完全に直されていた。

 もしや、と思いながら、標的に触ったコボルドたちは、更に愕然とさせられる。

 触れても、弧慕一と磊二が直した箇所、そこに違いは感じ取れなかったのだ。


 「さすが、我らがコボルド族のナンバー2コボ」


 「鼻が高いコボ」


 仲間からの賞賛にくすぐったそうな表情を浮かべた磊二に、穏やか、しかし、厳しさも滲む表情の弧慕一は口を開く。


 「遅いですよ」


 てっきり、弧慕一も褒めるのだ、と予想っていたコボルドらは、彼の固い調子の一言を聞き、ギョッとした。


 「あれほどの傷ならば、今の貴方なら、7秒で塞ぐ事が出来たでしょう。

 10秒もかかったのは、私の魔力の流れを把握するのに、慎重すぎたからです。

 次は、7秒を目指しなさい」


 「はい」


 弧慕一の指摘は正しく、それ以上に、自分への期待が詰まっていたので、磊二は言い返す事など出来なかった。

 褒められる事よりも喜びを感じながら、磊二は静かに頷く。

 二匹の間にある信頼関係を茶色い毛の生えた肌に感じ、弧慕一に文句を行ってしまいそうになっていた自分達が恥ずかしくなったコボルドたち。

 彼らがすごすごと戻っていくのを見届けてから、紅壱はトリのスケルトンへ、アイコンタクトを送る。

 無言で、首を縦に振った動骨兵スケルトンは元通りとなった標的に狙いを定めた。

 一体、どのような撃ち方をするのか、否応なく、皆の興奮ワクワクは高まる。

 それを剥き出しの骨に感じ取っているが、スケルトンは緊張を膨らませない。

 落ち着いて、魔力を集中させていく。

 スケルトンは、口の前で左右の親指と人差し指で円を形作った。

 その中心に、無属性を示す、乳白色の魔力は収束していき、ピンポン玉になる。

 紅壱は、このサイズの魔弾を発射するのだ、と読んだ。確かに、小さくはあるが、実際は、他の四匹が放った魔弾と同じエネルギー量を、大胆さと繊細さが両立したコントロール力で凝縮させているのが、彼には感じ取れた。

 しかし、紅壱の推測は外れた、実に珍しく。

 スケルトンは、いきなり、その魔弾を大きく開けた口の中へ放り込み、奥歯で噛み砕いた。

 声も出ぬほど驚かれた直後に、スケルトンの頭蓋にある全ての穴から閃光が溢れ出す。

 そして、スケルトンは再び、大きく開いた口から、己の魔力を放つ、光線にして。

 爆発音は轟かなかったが、スケルトンが放ったビームは、十円玉サイズの孔を開け、あと10cmほどで貫ける所まで達していた。


 「・・・・・・これは、魔弾と言っていいのか?」


 当然のように紅壱の口から漏れてしまった疑問に、マナミは淡々と答えてくれる。


 『魔弾とは、体のどこにも触れておらず、属性を変質させていない精神エネルギー、つまりは、無属性の魔力を用いた遠距離攻撃ですので、光線状にして放ったものでも、広い意味では魔弾に該当します』


 「なるほど、深いな」と、紅壱は顎を撫でた。

 眼窩や耳から白煙が噴き上がっているスケルトンは、紅壱に下げていた頭を戻した。

 その拍子に、彼女の下顎は外れてしまい、ブラブラと揺れた。

 慌てて、動骨兵スケルトンは顎の骨をはめ直し、列へ戻っていく。


 「手本を見せてくれて、お前ら、ありがとう。

 実に参考になった」


 紅壱が求める質には達せていなかったが、彼が今より強くなる事に、自分達が微力とは言えども、役立てた事に、ゴブリンらの体は歓喜に震動えた。


 「じゃあ、早速、俺も魔弾の試し撃ちをしてみようか」


 『My Lord 辰姫紅壱、漲っている気合いに水を差してしまうようですが、今しばらく、お待ちください』


 マナミは紅壱からの答えを待たず、弧慕一へと念波を飛ばす。

 いきなり、マナミから語りかけられ、弧慕一は一瞬、その細身に緊張を走らせた。

 だが、彼は断らず、マナミに頼まれた通り、杖を一突きした地面に魔力を流し、標的を更に大きく、そして、固くした。


 「わざわざ、作り直す事はないだろ」


 『あの程度の耐久性では、My Lord 辰姫紅壱の場合、練習になりません。

 欲を言えば、もう少し、固くして欲しい所ですが、これ以上は無理を強いる訳にはいきません』


 冷徹ゆえに、弧慕一が限界寸前である事を把握したマナミは妥協したようだ。

 彼女の言葉に、紅壱の役に立てない己の力不足を痛感し、弧慕一は奥歯を噛み締める。だが、どれほど悔しくとも、もう、魔力は絞り出せない。

 栄養ドリンクを飲用ば、体力も魔力も回復はするが、全回復とはいかない。魔力が半分ほどしかない状態、しかも、あれほどの「壊せない」イメージを具現化した後では、術がまともに発動する自信がなかった。


 「弧慕一、今は休め」


 「・・・・・・はい」


 ありがとさん、と彼を労うと、紅壱は大きくなった標的を見据える。

 触れずとも、先程の五倍は固くなっているのが理解わかった。


 (あれを素手でぶっ壊すとなると、二発はブチ込まないと厳しそうだな)


 つまり、今から放つ魔弾には、右のジャブ二発分の威力を詰め込む必要がある。

 マナミが発現していなければ、難しいかも、と不安が過っていたに違いない。


 「じゃ、試し撃ちしてみるか」


 『My Lord 辰姫紅壱は、気負う必要はありません。

 必要な魔力の量、魔弾の威力、軌道、着弾時の作用、周囲への影響は、私が全て計算します。

 My Lord 辰姫紅壱は、あの標的が破壊こわれる“結果”のみ、イメージしてください』


 「結果のイメージか」


 その辺りは、肉体を用いた技を繰り出す時と、大きな差は無いようだ。

 

 「となると、俺は何か、ポーズを取った方がいいのか、マナミ」

 

 『その方が、鮮明なイメージが出来るのならば、賛成です』


 「あのデカくて固ぇ石の的をぶっ壊す魔弾、それを撃つフォーム」


 しばらく、虚空を睨んで思考していた紅壱は、ポーズを思いついたようで、パンッと手を打った。

 鉄砲を連想させる形にした右手の手首を、紅壱は狙いがブレないようにか、しっかりと、左手で握り締めた。足は右足を前、左足は後ろ、肩幅ほどに開いて、地面をがっしりと踏み締める。

 紅壱がポーズを取ると同時に、マナミは彼の代わりに、彼の魔力で魔弾の術式を構築した。

 小さい、皆は、紅壱の指先に集められた魔力が集束して出来た弾を見て、そう思ってしまった。

 確かに、その魔弾は、ビー玉ほどしかない。

 だが、考えてみて欲しい、その魔力は、辰姫紅壱のモノである。

 小さいからと言って、威力はない、と侮るのは早合点なのを、アルシエルの住魔が自省し、紅壱への忠誠心を感じた恐怖の分だけ強めたのは、この後すぐだった。

 魔弾が、いつの間にか、紅壱の指先から消えている事に、彼らが気付いたのと同時に、標的は今までのものとは規格外の轟音と共に、粉々に吹き飛んでいた。

紅壱を満足させる魔弾を撃てなかった自分の力不足に悔しさを覚えながらも、彼らは気持ちを切り替え、もっと頑張り、次は求められたラインを越える、と決意するのだった。

四匹目は標的を切るタイプの魔弾を繰り出し、五匹目はビーム状の魔弾を放ち、紅壱をビックリさせる事に成功する。

こうして、手本を見終えた紅壱は自らも、魔弾を撃ってみる事にした。

マナミに「結果」だけを思い浮かべ、イメージしやすい格好をすればいい、と言われた紅壱は、魔弾を銃の形にした指から放ってみる事にした。

しかし、彼は未だに、自分が規格外の常識外れである事を自覚しきれていなかった。

弧慕一が苦労して硬化させた石柱は、呆気なく、粉々になってしまうのだった。

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