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とある生徒会長の本音は日誌だけが知っている  作者: 『黒狗』の優樹
紅壱、魔弾の練習をスタートする
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第百九十六話 小石(small stone) 弧慕一、紅壱に魔弾の手本を見せる五匹を、小石を使ったクジで決める

魔術師としての修行を開始する紅壱

魔力を感じ取る事が可能になった彼は、自身の内にある膨大な魔力をコントロールし、状況に適した魔術の発動を補助してくれる制御分霊を獲得する

その制御分霊に、マナミと名を付けた紅壱は、新たに獲得したスキルの数と内容に戸惑いつつ、まずは、魔弾を習得する事に

手本を、住魔に見せてもらおうか、と気軽に考えていたのだが、どの住魔も紅壱に自分の努力の成果を見せたがる

 「この箱の中には、今、21個の丸い小石が入っています」


 弧慕一の言葉と軽く振られた箱から鳴る「カラカラ」と言う音に、紅壱に自分の実力をアピールしたい気持ちが膨らみ、ウズウズしているゴブリン達は、彼に続きを促すように、大きく頷いた。


 「その小石は大きさと形は全て同じですが、30個の内、5つは黒く塗られています」


 ここまで言えば、誰でも理解できる。


 「つまり、その黒い小石を引いた奴が当たりですゴブか?」


 「その通りです」


 一匹のゴブリンが発した推測を肯定するように、弧慕一は首を縦に振り、手を突っ込む穴から蓋を取った。

 

 「よし、お前ら、一列に並べ。

 もしも、ここで揉めるようならば、クジは引かせないぞ」


 吾武一が低く重い声で釘を刺したのだ、誰が一番に引くか、で再び、諍いを起こそうとしていたゴブリンらは途端に静かになった。

 そうして、彼らはいくらか躊躇いながら、一列を作る。

 先に並んだのは、後続にプレッシャーを与えたいのか。真ん中を選んだのは、なるようになる、と腹を括っているか、自分の強運に自信があるか、のどちらかだろう。後方に位置づけたのは、翠玉丸が教えてくれた「残り物には福がある」、この格言を信じている者のようだ。


 「当然ですが、引くのは一つだけです。

 二つ握り込んで、箱の外に出せば、重さですぐに分かりますよ、私は。

 もし、イカサマをしたら、その住魔に標的役をお願いしましょうかね」


 良い意味で調子が良い奥一あたりが言うと、効き目のあるハッタリに聞こえるが、真面目な弧慕一が言うと、逆に奥一よりも信憑性があった。

 元より、誰も、そんなイカサマなどする気はなかったが、「はいっ」と返事を揃えた。


 「取った小石は、すぐに見ていいブー?」


 「全員が引くまで見ないのは、プレッシャーだコボ」


 「はい、すぐに確認してください」


 「良かったホネ。

 待ってる間に、心臓が止まるトコだったホネ」


 どうやら、種族内では、中々にエスプリが効いたジョークらしく、カタカタ、と動骨兵スケルトン達は可笑しそうに、骨の体を揺らす。


 「では、まず、貴方からどうぞ」


 さらりと、スケルトンの冗談を流し、弧慕一は列の一番前にいたオークへ箱を差し出す。

 穴は、オークの手がギリギリ出し入れできるほどの直径で、中を覗く事は難しい。

 一抹の期待が叶わず、心中では落胆したが、そのオークは気を取り直して、「当たれブゥ」と念じながら、手を入れる。しばらく、中をまさぐっていたが、触感で違いが判らなかったのか、潔く、一つだけ握って、箱から手を抜き出した。

 そうして、恐る恐る、手を開いた豚頭魔オークは、その中にあった小石の色が白であったので、愕然とし、その場に膝を落としてしまう。


 「残念でしたね。では、次は貴方」


 二匹目のゴブリン、三匹目のゴブリン、四匹目のコボルドも、そのオークと同様に膝が落ちたり、尻もちを突いてしまった。

 最初に、一つ目の黒い石をゲットしたのは、七匹目のスケルトンだった。

 

 「ホネッ?!」

 

 そのスケルトンは、先ほど、ジョークがスケルトンには大受けだった個体だった。


 「おめでとうございます」


 あまりに嬉しいのか、呆然としてしまっているスケルトンを祝い、すぐに、弧慕一は次の者に箱を差し出す。

 好運なスケルトンの後ろにいたコボルドは、今の当たりを、すぐ近くで見ていたからか、物欲センサーが働いてしまったようで、ハズレを引いてしまう。

 こうして、21匹が即席のクジに挑戦し、紅壱に魔弾のお手本を見せられる者が決定った。

 ゴブリンが2、オーク、コボルド、スケルトンが1ずつ、そんな結果になった。

 ハズレを引いてしまった小鬼ゴブリン犬頭土精コボルドは悔しそうにしてしまったが、次は必ず、自分が、と決意したようだ。そんな彼らは、今回、栄光を掴めた仲間に「おめでとうゴブ」、「頑張れブー」や「リラックスしていけコボ」と励ます。

 エールを送られた者らは緊張しながらも、気合は入ったようで、「任されたホネ」と差し出された拳に、自らの拳を当てる程度の余裕は取り戻せたようだ。


 「では、誰から行く?」


 「俺からやるゴブ」


 真っ先に、手を挙げたゴブリンに、残りの四匹は尊敬の目を向ける。


 「彼からでいいですか?」


 弧慕一に尋ねられた四匹は、躊躇いなく、首を縦に振った。


 「ブッ?!」


 仰天したのは、挙手したゴブリンだ。やる気はあったが、本当に、一番手になってしまうとは予想外だったらしい。彼は、自分に負けじと、他の四匹も手を挙げるだろうから、ジャンケンで決める事になるだろう、と考えていたのだろう。

 ジャンケンなら負けて、一番手を他の者に譲ってしまっても、違和感はない。よしんば、本当に一番手になってしまうにしても、それはそれで腹も据わる。

 だが、まさか、自分一匹しか挙げないとは思いもよらなかったようで、冷や汗が滲み出ている。

 彼が、自分の思惑が外れ、動揺している理由が分かるのか、紅壱は微苦笑した。


 「お手本、見せてくれるか?」


 彼に、そう言われて、「嫌だ」、「無理です」、「変わって良いですか」と言える者が、このアルシエルにいるだろうか。いや、いない。

 「はいゴブっ」と反射的に答えたゴブリンは、腹が据わったようで、標的に魔弾を放つべく、ギッと睨みつけた。


 「ちょっと、待ってくれな」

 

 やる気を出している小鬼ゴブリンに断りを入れ、紅壱は標的に近づいた。


 「え!?」


 たった一歩、前に踏み出しただけなのに、紅壱が自分達の目前から消えた。

 それだけでも驚くしかないのに、自分達なら、5秒はかかる距離に弧慕一が出現させた標的の所へ、一瞬で移動したので、ゴブリンらは狼狽える。

 平然としているのは、彼の凄さに、少しずつではあるが慣れてきていた吾武一ら幹部くらいだ。


 「・・・結構、堅いな」


 標的を指先で叩くと、「コツッコツッ」と音がした。

 自分であれば、一打もしくは一蹴りで粉砕が可能だ。

 修一もラリアットやドロップキック、ベアハッグで粉々に出来るだろうし、瑛達も肉体強化の呪文を詠唱すれば、一分ほどで、この固さの的は壊せそうだ。

 だが、毎日、努力しているとは言え、名を持たず、種族進化もしていないゴブリンらが、これを素手で壊すとなると、十数発は必要となりそうだ。

 この標的に、魔弾を直撃させて、どれほど傷つけられるか、楽しみだ、と思いながら、紅壱は再び、一歩で元の位置へ戻る。


 「弧慕一」


 「はい」


 「良い出来だ」


 ニカッと笑った紅壱に親指を立てられた弧慕一は、歓喜から緩みかけた両頬を叩くと、「お褒めの言葉、ありがたく頂戴いたします」と首を垂れた。

 嬉しいならば、素直に笑うなり、飛び跳ねればいいものを、素直じゃないな、と吾武一達は苦笑した。

 幹部たちが肩を竦め合う一方で、標的の具合を確認していた紅壱が、またしても、一瞬で戻ってきたので、名無しの住魔らは腰が抜けたまま、立ち上がれない。

 このゴブリンも仰天していたが、紅壱に「いいぞ」と言われ、気持ちを立て直す。

 彼は魔弾を撃つべく、まず、足を肩幅に開くと、腰を低く落とした。

 どうやら、このゴブリンは、右掌をいきなり、標的へは向けず、上に向けて大きく開いて、魔弾を形成するスタンスのようだ。

 若干の集中は要すにしろ、やはり、人間の術者とは大きく違い、呪文を唱えずとも、魔力を一カ所に集め、発射するまで留められるからか、数秒で、気合を入れるように唸っていた小鬼ゴブリンの右手、その数cmほど上に魔力が球状に形成された。大きさは、バレーボールほどだ。

 そうして、ゴブリンは腰の位置を上げ、右手を標的へと向けると、「ハッ」と叫び、魔弾を撃ち出した。

 ズドォン、着弾と同時に炸裂音が響く。

 砂煙が晴れ、標的を見れば、魔弾が直撃あたった箇所には陥没痕が出来ていた。


 「おぉ」


 「さすが、兵士さんゴブ」


 「凄い威力だブッ」


 体力作りのみで、戦闘訓練はしていない住魔らは、ゴブリンが撃った魔弾の威力に驚き、賞賛の言葉を、それぞれの口から発す。

 仲間の成長を素直に喜べる彼らがゴブリンに送る拍手を聞き、笑顔を浮かべる紅壱。

 照れ臭そうにしていたゴブリンは、「どうでしたゴブか?」と、紅壱へ尋ねようとして、ハッとする。

 紅壱は笑顔で、目も笑っていた。けれど、ゴブリンには見えていた、紅壱の瞳、その奥に宿る微かな落胆を。

 ゴブリンが積んでいる努力の質と量、彼がどれほど成長しているか、は今の一発を見れば、紅壱にも伝わる。だからこそ、彼はガッカリした。

 このゴブリンが、弧慕一が作った石の標的を破壊こわせる魔弾を撃てるとは思っていなかったが、まさか、あのサイズの陥没しか作れないとは予想外だった。


 (せいぜい、60km/hくらいしか出てなかったぞ。

 何より、魔弾を作るのが遅い。

 無詠唱で、魔術をある程度は使えるのが、怪異の強みだってのに。

 一発を作るのに立ち止まってたら、逆に格好の餌食にされちまうぞ。

 そんで、威力がしょぼすぎる。

 あれじゃ、人間の術師が作る結界を貫通ぶちヌけないぞ)


 もちろん、紅壱が抱いた失望ガッカリは、的外れなのである。

 ただのゴブリンが、あの硬さの石に傷を付けられる、それを瑛らが知ったら、青褪める事態だ。

 そもそも、紅壱は先ほど、標的の頑丈さを確認めた際、瑛らなら、肉体強化の術を使えば一分、と予想したが、まず、それが間違っている。

 聡明な彼の推測を、珍しく鈍らせているのは、瑛への恋心ではない、単に魔術に対する知識が不足しているからだ。

 仮に、瑛らが、あの標的と同じ固さの壁が、討伐対象の魔属を守るように、地面から出現し、破壊しなければならないとなったら、一分じゃ無理である。少なくとも、五分は必要だ。

 いや、それ以前に、瑛ならば、素手や鈍器、もしくは、魔弾程度を用いた破壊は不可能だ、と判断するはずだ。その五分間、足止めされている自分達を、敵が攻撃してこない保証も皆無なのだから。

 地土属性が得意であれば、怪異が作り出した土や石の壁に、自らの魔力を流し込んで脆くも出来る。

 しかし、今の弧慕一が作った的を、変形させる事は、瑛らの地土属性の適正が低いと言っても、まず、無理だ。

 さすがに、愛梨の師匠であるハイジのようなトップランカーは招集されないにしても、『組織』が選出する五〇人の実力者が、間違いなく出張ってくる。

 蛇足ではあるが、修一に関する予想、こちらは正解だ。

 『組織』のトップが注目している瑛らでも破壊に手こずる石を、自分の肉体一つで粉砕ぶちくだく、本当に、矢車修一は立派な剛の者だ。

見苦しい内輪揉めを、紅壱に見せる訳にはいかない

弧慕一は小石でクジを作り、紅壱へ手本を示す五匹を選出する事に

己の運に全てを託し、住魔らはクジを引く

ガッツポーズを決める者もいれば、膝から崩れ落ちて愕然とする者もいた

一匹目のゴブリンは、気合を入れ、魔弾を放ったのだが、紅壱としては諸々と不足を感じてしまう

しかし、それは紅壱が魔術についての知識と経験が足りない為であり、現時点で、このゴブリンの強さは、人間界に出現したら、危険視されるレベルに達していたのである

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