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とある生徒会長の本音は日誌だけが知っている  作者: 『黒狗』の優樹
紅壱の魔力、覚醒
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第百九十五話 意味(meaning) 制御分霊は、自分に与えられた個体名の意味を、紅壱に問う

魔術師としての鍛錬を開始した紅壱。

自らを仮死状態に陥らせ、自分の心にダイブした彼は見事、魔力を発現させる。

そんな紅壱に突如、話しかけてきた声の主は、制御分霊と呼称される疑似的な精霊だった。

弧慕一曰く、魔王は膨大な魔力での自壊を防ぎ、無駄のない魔術を発動させるために、この制御分霊を生み出すらしい。

それを喜びつつも、どうして、制御分霊が勝手に作成されたのだろうか、と首を傾げた紅壱は制御分霊から、自分を生み出したのは、アバドンだ、と聞かされ、面食らうのだった。

 「はぁ!?」と、つい、引っ繰り返った声が出てしまう紅壱。きっと、この声を聴いて、最も驚くのは、瑛や夏煌ではなく、修一に違いない。


 『My Lord 辰姫紅壱用にカスタマイズした私を創造した事で、アバドンの魔力回復率は14%から4%に著しく低下しました』


 「・・・・・・マヂか」


 『残念ですが、私には、My Lord 辰姫紅壱へ虚偽を報告する機能が搭載されていません。

 仮に、戯れで、搭載されていても、騙したりはしません』


 「アバドンさんは、何を考えてるんだ。

 俺の事より、自分の回復を優先しろよ」


 アバドンが自分の事を憂い、こんなにも心強いサポーターを用意してくれたのは、素直に嬉しいが、それ以上に、苛立ちも湧く。


 『My Lord 辰姫紅壱は、私が不要ですか?』


 相変わらず、声の調子は無機質だったが、紅壱に限らず、吾武一達にも、幼小アバドンが捨てられる、消去される事に不安を抱いているのが伝わった。


 「そうは言っちゃいない。

 そんな風に聞こえちまったなら、俺のミスだな。

 悪かった」


 心から、紅壱は己の浅い発言を反省し、彼女へ頭を下げた。


 「俺からも頼む・・・・・・俺に、君の力を貸してくれ」


 『My Lord 辰姫紅壱を、立派な魔王へと成長させるために、私は構築されました。

 その依頼は、意味を成しません。

 私の力は、私の物ではなく、My Lord 辰姫紅壱の物です』


 アバドンの面影がある顔と声で、冷淡な事を言われると、紅壱は、つい、苦笑いが浮かんでしまう。


 「じゃあ、言い方を変えよう。

 俺を、魔王の中の魔王にしろ、その為だけに君の全力を尽くせ。

 今日から、君の名はマナミだ」

 

 『言われずとも。

 ところで、My Lord 辰姫紅壱、質問してもよろしいでしょうか?

 何故、マナミなのでしょうか?』


 「マナミって、名前は、最高で最強で最善な“魔”王って目的地への、“ナ”ビゲーターと“み”ちびく、あと、“”力の“ナミ”から思いついたんだが、嫌か?

 不満だって言うなら、ミニドンかプチドンにするが。

 まぁ、ロリドンってのもあるな」


 『・・・・・・My Lord 辰姫紅壱専用の制御分霊の個体名を、マナミに設定しました。

 これは、以降、マスター権限を行使しても、改名できません』


 よほど、「ミニドン」と「プチドン」、「ロリドン」が嫌だったのだな、と吾武一らは幼小アバドン、いや、マナミの必死さを察した。

 一方で、もしかすると、紅壱は、あえて、避けたい名を羅列する事で、自分が与えたい名を選ばせたのではないのか、と深読みし、尊敬の念を深めた吾武一らだった。


 『My Lord 辰姫紅壱、中断していた報告を再開しても構いませんか?』


 「そう言えば、途中だったな」


 重ね重ね悪い、と頭の後ろを掻いた紅壱は「マナミ、続きを報告してくれ」と促した。


 『My Lord 辰姫紅壱が獲得した、「体内魔力制御」と「体外魔力操作」が、《任意発動スキル》「技能融合」できます。

 成功率は99%ですが、実行しますか?』


 「実行してくれ」


 『実行します・・・・・・・・・「体内魔力制御」と「体外魔力操作」の合成に成功しました。

 「体内魔力制御」と「体外魔力操作」は消失し、新たに、「呪素支配」を獲得しました』


 よくは解らなかったが、紅壱は「よしっ」と拳を握って喜んでおく。


 『「魔力感知」、「魔力量計測」、「属性看破」も、「魔王乃瞳マオウノリョウメ」に統合され、以降は自動表示されます。

 現在の有効範囲は、「魔力感知」が1km、「魔力量計測」、「属性看破」が共に10mです。

 これで、獲得スキルの報告を一時完了します』


 「サンキューな、マナミ」


 最強の魔王に近づけた一歩、それを実感し、紅壱はつい、笑顔になってしまう。

 喜色満面の紅壱に、吾武一らも気合が入る。


 「我ら、命を賭し、タツヒメ様の覇道邁進を微力ながら支えて参りますッッ」


 「あぁ、頼む。だが、前にも言ったが、負けて死ぬなよ、生きて勝て」


 「応ッッ」


 以前までは判らなかったが、吾武一らが放つ気合には、微量ながら魔力が含まれていた。個々の量は少なくとも、雑魚扱いされる種族であったとしても、毎日、目的を持って、自らを鍛えている者らが50匹以上もいれば、相当な圧となる。

 ただの魔王でなく、最強の魔王になる覚悟と、人知も魔知も越えた魔力量を有す紅壱でなければ、後ろへ20~30mは吹き飛ばされるか、その場に踏み止まれても全身の血管が破裂していたに違いない。


 『My Lord 辰姫紅壱と兵の信頼度の向上を確認。

 [常時発動スキル]兵数比例強化を獲得しました。

 [常時発動スキル]自軍完全統率を獲得しました。

 [常時発動スキル]自軍激励鼓舞を獲得しました。

 [常時発動スキル]常時最適指示を獲得しました。

 《任意発動スキル》自兵暴猛狂化を獲得しました」


 「な、何だ、その最後の物騒なスキルは」


 察しが付いてしまうだけに、正確に把握しておく必要がある。


 『兵数比例強化は、兵の数が多ければ多いほど、マスターと部下の身体能力は上昇します。

 現在の上昇値は、+13%です。

 自軍完全統率は、王として率いる軍を、効率よく動かし、被害を最小に抑えます。

 自軍激励鼓舞は、兵を励ます事で、士気を上げ、戦闘力を一時的に上げます。

 常時最適指示は、その場で最も適した指示を、最速で出せるようになります。

 自兵暴猛狂化を発動させますと、忠誠を誓っている兵は、痛みも死も恐れぬ狂戦士となり、自分か敵が肉塊と化すまで、戦い続けます』


 物騒なスキルに、紅壱は絶句する。


 (絶対、使わないようにしねぇと)


 発動が任意で良かった、とホッとし、紅壱は他のスキルは役立ちそうだ、と顎を撫でた。


 「便利なスキルも獲得できたのはいいが、そろそろ、魔力を使ってみるか」


 彼の呟きに、弧慕一は「では、まず、基本である魔弾を撃ってみたら、いかがでしょうか」と提案した。


 『弧慕一様のご提案を、私も支持します、My Lord 辰姫紅壱』


 「そうするか」


 紅壱へ頷き返した弧慕一は、杖の先で地面を打った。

 一瞬で、50m先の土が盛り上がり、的が作られた。


 「なるほど、魔力感知が発動しているからか、地面に含まれている魔力と弧慕一の魔力がくっついて、弧慕一の意思で動かせるようになったのが感じ取れたな」


 今は、自分の魔弾が撃つので、弧慕一は的を用意してくれるのだろう、と彼の性格に基づいた予想があったからこそ、魔力の動きと結果が正確に分かった。

 しかし、自分の魔力を制御する意識などしていない、人間の術師ならば、もっと分かりやすいだろう、と紅壱は思った。

 格闘技であろうと、魔術であろうと、大事なのは、先読みだ。相手がどんな攻撃をしてこようとしているのか、逆に、自分の攻撃をどう防ごうとしているのか、それが先読みできれば、有利な攻守が可能になる。

 もっとも、これは、紅壱が優れた目と洞察力、なおかつ、読みの通りに動かせるよう、体を鍛えているからだが。

 この世で、最も、理解が難解であるのは、自分の事。

 師匠らが規格外すぎて、自分は、普通よりちょっと強いだけ、と思い込んでいる紅壱が、やって当然、出来て当然、と考える先読み、その有効性を説かれても、実践できる者は多くない。

 瑛を初めとした生徒会メンバーは出来るだろうが、そのレベルは、紅壱と比較にならないだろう。

 自分の強さが、異常にズレている自覚が微塵もない、ある意味、瑛よりも性質が非道ヒドい紅壱は、「じゃ、まず、誰かにお手本を見せて貰うか」と、何の気もなしに呟いた。

 途端に、住魔らは我先にと挙手し、自分の努力の成果を、紅壱に見て貰おう、と張り切った。

 吾武一ら幹部も参加したそうだったが、さすがに自重しているようだ。

 好戦的な剛力恋や完二が手を挙げず、下唇を噛んでいるのは、彼らが魔弾を撃つのが苦手だからか。


 「じゃあ、五匹くらい、お手本を見せてくれ」


 今、手を挙げているのは、吾武一らがチェックして、才があると判断し、戦闘力を重点的に上げるトレーニングを毎日、積んでいる者ばかり。その数は、ゴブリンが7、オークが6、コボルドが4、スケルトンも4だった。

 このままだと殴り合いで決めそうだな、と空気から感じた紅壱。

 彼に、住魔が仲違いする姿は見せられない、と判断した吾武一は彼らを拳骨で引き下がらせようとする。

 友が大失敗をしそうなのに気付き、弧慕一は慌てて、制止した。


 「落ち着いてください、吾武一さん。

 君たち、ちょっと待ってなさい」


 弧慕一は、おもむろに林二と磊二を手招きし、小声で指示を出す。

 小さく頷き返した二匹は、皆の目が届かない場所に移動し、何かを始めた。

 何をする気かね、と期待しながら、紅壱が待っていると、彼らは一分ほどで戻ってきた。

 林二が手に15㎤ほどの箱を持っており、その中から、「コロコロ」と音が聞こえたので、紅壱は弧慕一の意図を理解した。

 紅壱が自分の意図を理解してくれたのを、目配せで分かったのか、弧慕一はギュッと表情を引き締めた。本当は、嬉しさから飛び跳ねたかったが、他の住魔の前で、名持ちの幹部がはしゃぐ姿は見せられない。

 嬉しさで頬が緩んできそうなのに耐えながら、弧慕一は林二から箱を受け取った。


 「待たせましたね」


 奥一と輔一が睨みを利かせてくれていたおかげで、不平不満を口に出さず、待ってくれていた住魔らの前に立った彼は、箱を小刻みに揺らす。

 林二が作った木箱の中には、磊二が加工した小石が入っているようで、ぶつかり合う音が小気味良い。

紅壱は、アバドンは自分の中で、ゆっくりと、だが、確実に魔力を回復させ、復活に備えているのだろう、と信じていた。

しかし、制御分霊を自分の為に作ったアバドンは、せっかく、回復させた魔力を相当に消耗してしまったようだった。

何をしているんだ、と嘆く半面、紅壱はアバドンの優しさを噛み締め、彼女の期待に応えるべく、もっと強くなろう、立派な魔王になろう、と決意する。

制御分霊に「マナミ」の名を与え、紅壱は早速、魔弾を撃つ練習から始める事にするのだが、手本を見せてくれ、と住魔に軽い気持ちで言った事から、何やら、トラブルが勃発してしまう?

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