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とある生徒会長の本音は日誌だけが知っている  作者: 『黒狗』の優樹
紅壱の魔力、覚醒
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第百九十四話 制御(control) 紅壱、自身の膨大な魔力を制御してくれる疑似精霊を獲得する

アバドンを復活させる為、自分を王として敬ってくれる吾武一らの為、そして、瑛と一緒に戦う為に、紅壱は己の魔力を自在に扱う為の修練を開始した。

まず、弧慕一の誘導で、自分の魔力を感知する事に成功した紅壱だが、これまでの戦いで使ってきた自身の闘気が、魔力を制御するべく必要な、感知の維持を阻むことが判明する。

そこで、紅壱は一度、闘気を完全に遮断すべく、仮死状態に陥る。

暴走する危険も0ではなかったが、自分を止めてくれる仲間がいるから大丈夫だ、と吾武一らを信じた結果、彼は見事に魔力を魔術を扱えるレベルまで引き出す事に成功した。

その時だった、謎の声が、紅壱にスキルの獲得を告げてきたのは・・・

 『ナビゲーターの可視化は、My Lord 辰姫紅壱が解除の申請を行わない限り、永続されます』


 その姿が見えた事によって、紅壱は声の違いに気付く事が出来た。

 自分に取得した各種の技能スキルを告げてくれていた声は、自分の鼓膜と記憶に刻みつけられている、アバドンの声には確かに酷似にかよっていたが、同じではなかった。

 声に感情が籠っておらず、事実と結果を抑揚に欠けた声で淡々と告げてくるからか、色気が皆無だった。


 (アバドンさんを小さく、なおかつ、幼くしたら、こんな感じになりそうだな)


 あまりにも、微笑ましい想定外イレギュラーを目にしたおかげで、却って、動揺がすっかり鎮まってしまった紅壱。

 そう、ナビゲーターと名乗るそれの容姿は、アバドンの面影はあれど、別人であった。

 端的に言えば、全くエロくなかった。


 『My Lord 辰姫紅壱のスキル獲得の報告を続行しますか?』


 「あぁ、頼む・・・いや、待ってくれ」


 『要請を受け、My Lord 辰姫紅壱への報告を一時停止します』


 頷きかけた紅壱だったが、ふと思い止まり、ナビゲーターと自己紹介したそれの報告を遮ると、吾武一達を見やる。


 「お前ら、この、何っつーのか、ぶっちゃけ、幼女が見えるか?」


 紅壱の親指の先を全員が見つめるも、そこには、何も「ない」。

 だから、各々の動揺や不安、戸惑いなどが浮かんでいる顔を合わせた後に、「いえ、見えません」と、代表して、首を横に振った吾武一が答えた、きっぱりと。


 「そうか。じゃあ、翠玉丸達もか」


 「しっかりと見えてるわよ」


 「見えてるさ、ばっちりね」


 「・・・・・・見えるが、それがどうした、玄壱の孫」


 躊躇いのない肯定を示すように、羅綾丸が牙を一度だけ鳴らし、奔湍丸も尾で地面を一度だけ叩いた。


 「ふむ、なるほど、俺と契約して、名付けられている翠玉丸達は、俺の視覚と心理も共有できるから、見る事が出来てるんだな」


 納得した紅壱だが、このままでは、自分が何もない場所に向かって、独り言を発す、見た目がヤバい奴と思われる事に気付き、ハッとする。


 「あいつ等にも、君の姿が見えるようにしたいんだが、どうしたらいい?」


 『My Lord 辰姫紅壱が、彼ら全員と、魔力リンクを繋げば、可能です』


 「それは、どうすればいいんだ?」


 『配下との魔力マナ接続コネクトを実行しますか?』


 「吾武一らは配下じゃねぇんだが、頼む」


 『了解しました・・・・・・接続を完了しました。

 これにより、My Lord 辰姫紅壱に忠誠を誓う臣下に、私の姿の視認と会話が可能となりました』


 速いな、と軽く驚きつつ、再び、見えるかどうか、吾武一らに聞こうとした紅壱だったが、彼らの顔を見て、質問の必要性はなくなった、と理解した。

 唖然とした表情でざわめいていた彼らは、しばらくすると、落ち着きを取り戻す。


 「それは、タツヒメ様の制御分霊ですか?」


 安堵している紅壱へ、緊張を滲ませた表情で尋ねたのは、やはり、魔術に詳しい弧慕一だった。


 「制御分霊?」


 自分の魔力の扱い方も、紅壱は知らなかった。ならば、制御分霊についての知識が無くとも、何ら不思議ではない。

 驚愕おどろかず、呆然あきれず、侮蔑さげずまず、逆に、尊敬の念が強まったのが一目瞭然な表情の弧慕一は小さく頷き返す。


 「私も、あくまで噂に聞いただけなので、的確に説明できませんが、構いませんか?」


 「それでも大丈夫だ」


 「では、僭越ながら、説明させていただきます。

 まず、タツヒメ様に知っておいていただかねばならない事実が、いくつかあります」


 弧慕一の表情は険しくもなく、声も強張っていなかったが、つい、紅壱は緊張してしまう。


 「魔王の定義、魔王と名乗れる魔属に求められる、暗黙の条件は様々ですが、その一つには、保有する魔力量があります」


 「魔力量、か。

 つまり、ある程度、多くないと駄目なんだな」


 「そうです。

 タツヒメ様は、今、ご自身の魔力量が、どれほどあるか、把握していますか?」


 弧慕一からそれを聞かれ、紅壱は言葉に詰まった。

 彼は『解析』が出来る両眼があるが、未だに、自分の情報を視る度胸がなかったのだ。

 しかし、もう、視るべき時なのかもしれない。

 腹を括って、紅壱が自分の情報を『解析』しようとしたタイミングで、幼小アバドンが無機質かつ無感情な声で、数字を口に出す。


 『My Lord 辰姫紅壱の魔力量は、554万1988です』


 桁違いの数値に、全員が言葉を失う。特に、弧慕一は想像以上だったからなのか、気が遠くなっているようだ。愕然、その言葉のお手本にしていいくらいの表情になっている。


 「おいおい、俺、そんなに魔力が多いのか」


 以前、瑛らの情報を盗み見た際に、彼女達の魔力量も知ったのだが、とんでもない差が付いていた。

 ますます、バレる訳にはいかなくなったな、と渋い顔になってしまう紅壱。


 「タ、タツヒメ様」


 事態に備えて、多めに予想していた数値を簡単に凌駕されながらも、どうにか持ち堪えている弧慕一は、何とか、声を絞り出す。

 さすがに、吾武一が彼の心の変調を心配し、座らせようとするが、弧慕一は礼を言った上で辞退する。


 「彼女に、こう聞いて貰えますか?

 アバドン様の魔力量も含めた、総魔力量の数値は、どれほどか」


 訝しんだ紅壱だが、弧慕一にとっては、かなり重要な事なんだろう、と判断し、幼小アバドンにそれを尋ねた。

 彼女は、やはり、間髪入れず、驚愕の数字を告げた。


 『My Lord 辰姫紅壱が魂に保有する総魔力量は、10億5429万3476です』


 ドサッ、それは腰を抜かした弧慕一がへたり込んでしまった音。


 「何だ、その数値は?」


 『今、魔王・アバドンが取り戻した魔力量も合わせた数値です』


 「そうか、アバドンさんは、そこまで魔力を回復できてるのか。

 じゃあ、復活もすぐか」


 紅壱の心に灯った希望を、幼小アバドンは無慈悲に打ち砕く。


 『否定します』


 「え?」


 『魔王・アバドンの回復率は、現在、4%です』


 「よ、4%!?」


 『4%です』


 「じゃあ、アバドンさんの魔力量ってのは・・・・・・」


 幼小アバドンが告げた、天文学的な数値に、紅壱は「ハハハッ」と乾いた笑い声を漏らし、顔を覆うしかない。

 だが、不思議なもので、「もう無理だ」と、心が折れはしなかった。

 むしろ、自分など足元にも及ばないほど、魔力を多く持つアバドンへの尊敬が高まり、同時に、何が何でも、彼女を復活させてやるぞ、と野心が滾った。

 両頬を全力で叩き打った紅壱は、激痛で迷いが晴れるのを感じ取れる。


 「ともかく、俺がすべきは、強くなりつづけて、その時に備える事だけだ。

 弧慕一、どうだ、説明は続けられそうか?

 無理そうなら、いいぞ」


 そんな言い方を、紅壱にされて、呆けたままではいられない。


 「問題ありません」


 根性で立ち上がった弧慕一は、深呼吸を繰り返す。


 「醜態を晒してしまい、申し訳ありません。

 では、説明を続けます。

 重ね重ね、私の無知さを晒すようで情けない限りですが、聞いた話によれば、魔王として認知されるのに、必要とされる魔力量は、最低でも、1億からだそうです」


 「じゃあ、俺は全然、足りてないな」


 『現在、My Lord 辰姫紅壱の第一職業は魔王見習い(仮)、第二職業が学徒となっています』


 どこからツッコんでいいのか、紅壱は判断わからくなる。


 (魔王が職業扱いってのもアレだが、見習いに仮までくっついちまってるのか、現在の俺は)


 「今は、全く足りていませんが、タツヒメ様であれば、1億など、すぐに到達する、いえ、それどころか、最強の魔王になれる、と我らは確信しんじております」


 世辞やゴマスリではない、吾武一の言葉は。


 「最強の魔王くらいにならなきゃ、アバドンさんは復活させられないんだからな。

 だが、その為には、俺一人が努力したくらいじゃ、どうにもならん。

 だから、お前ら、俺に力を貸してくれるか?」


 勿論です、と気合の入った肯定が重なった。


 「それで、弧慕一、何が言いたい?」


 「系統は何であれ、高度な魔術を発動させる上で、最も、必要な要素はご存知ですか、タツヒメ様」


 「・・・・・・魔力の制御、緻密なコントロールか」


 一瞬、彼は「魔力量の多さ」と答えかけたのだが、「違う」と直感がフレーキをかけた。


 「その通りです。

 魔力量が単純に多ければ、高度な魔術を使えるか、と言うと、そうではありません。

 むしろ、逆なのです」


 「逆?」


 「魔力量が多いほど、魔力を正確にコントロールする事は困難になるのです。

 高度な魔術を、莫大な魔力量任せで発動させようとすれば、失敗のリスクは高まり、己の身を己で滅ぼす事になります。

 いえ、術を使う以前に、ただ、存在するだけでも、自分の身を危険に晒しているのです」


 恐れをベースにした尊敬の色が滲む、弧慕一の言葉を聞き、紅壱は、ようやく腑に落ちた。


 「なるほど、自滅のリスクを下げる為に存在、いや、作りだすのが、この制御分霊なんだな」


 恐らく、その制御分霊は、使いたい魔術に必要な量、効率の良い魔力の循環、小さな術の無数の組み立て、などを自動かつ高速で演算し、実行するプログラムを分離させたものなんだろう。


 『その通りです』


 「ご明察、お見事です」


 こそばゆさを堪えながら、紅壱は首を傾げた。


 「いや、でもよ、俺、そんな事も知らなかったんだから、制御分霊を作りだすって、発想もなかったぞ」


 ここで、幼小アバドンは紅壱の口が開きっ放しになるような事実を、淡々と無感情に告げてきた。


 『私を作り出し、マスター権限を辰姫紅壱へ譲渡したのは、アバドンです』

突然、謎の声にスキルの獲得を告げられた紅壱は、いつになく、面食らってしまう。

何故なら、その声は、アバドンに似ていたからだ。

謎の声の主は、紅壱が、姿を見せてくれ、と要求すると、何の抵抗もなく、その姿を彼の前に出現させた。

姿を見せた小躯の少女は、アバドンに姿がどことなく似ていたが、まるで別物であった。

どこか、安堵した紅壱に、弧慕一は、その少女は、魔王が、己を害しかねないほど、膨大な魔力を制御し、魔術を発動させるために作成する疑似的な精霊ではないか、と指摘した。

弧慕一の考えは正しかったようで、この少女は紅壱の魔力をコントロールすべく、出現したらしい。

だが、直後に、紅壱は自分の意志ではなく、アバドンが自分の為に生み出してくれた事を知り、表情は固まり、言葉も出なくなってしまうのだった。

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