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とある生徒会長の本音は日誌だけが知っている  作者: 『黒狗』の優樹
紅壱の魔力、覚醒
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第百九十三話 境目(boundary) 紅壱、自らの魔力とアバドンの魔力の境目を知る

今後の戦いで、瑛の足を引っ張らないようにすべく、紅壱は自らの魔力を引き出すための努力に勤しむ

自らの魔力を感じ取る事に成功した彼だが、操作のために、魔力を感知し続けようとするも、闘気が邪魔をし、上手くいかない

そこで、紅壱は一度、己の心臓を止め、闘気を遮断するという無茶苦茶な手段に打って出る

暴走の可能相に備え、羅綾丸の糸で自分を縛って貰い、他の四匹も側に配置してから、紅壱は心臓を止めた

とは言え、いくらも経過せぬうちに、紅壱は魔力を見事に掌握してみせる

自分の精神世界で、湖に潜っていた事を紅壱は思い出す

 幸い、アバドンの魔力を取り込まずには済んだようで、紅壱は安堵する。

 あの時、取り返しのつかない失敗を犯してしまった己を守るために、アバドンは契約を果たした時から、少しずつ回復させていた魔力を使いきってしまった。

 色合い、深さ、どちらで判断して良いか、そこは判らないが、もう、紅壱はアバドンに魔力をむやみに消費させたくなかった。

 カガリ戦では、死ぬほどの傷を負った状態から蘇生し、なおかつ、カガリを倒す際に繰り出した燃える拳で、自分は恐らく、自分とアバドンの魔力、その境界線にある、混ざった魔力を使ったのだろう。

 例え、上澄み程度でも、アバドンの復活が遅れる要因となるのは、紅壱自身が許せなかった。

 これからは、自分の魔力だけで、どんなピンチも突破しなければ、と紅壱は決意する。

 エゴ丸出しの考えであるのは、紅壱だって承知している。

 アバドンは、太陽のように眩しい笑顔で、「気にするな、我が主」と笑顔で言ってくれる、それも解かっていた。

 だからこそ、彼女の優しさに、紅壱は甘えたくなかった。

 アバドンの魔力を使えば、確かに、どんな敵でも瞬殺できるかもしれない。

 しかし、それは、瑛に自分が魔王の封印者である事を知られるリスクも孕んでいた。

 わざわざ、窮地に追い込まれたい訳じゃない、紅壱だって。

 無駄なく、短時間で敵を倒せるのならば、それは大歓迎だが、瑛と敵対してしまう、または、瑛に野望を諦めさせるルートに入ってしまうのなら、ピンチに陥った方が、まだ、マシだった。

 もちろん、そうならない為の努力は、これから、していく。

 魔術が自在に扱えるようになれば、戦いの幅が広がり、選べる手札が増し、どんな事態にも対応できる。

 力と打たれ強さで無敵となっている親友と祖父のおかげか、紅壱が目指している戦士像はオールラウンダーだった。

 肉弾戦であれば、どんな怪異であろうと負ける気はない。

 だが、魔属は、吾武一、奥一や完二、また、カガリのように、自分の力と技、速さ、を全身で受け止めてくれる者ばかりではあるまい。

 離れた箇所から、自分を接近させず、魔術でネチネチ攻めてくる敵に対しては、いくら、頭に血が上らないように気をつけても、勝つ事は厳しい。

 相手がそう攻めてくるのであれば、こっちも、そうするだけだ。

 闘気が万能でないのは、この年齢で闘気だけでなく、闘氣まで到達している事が有り得ない紅壱が、最も知っている。

 忍者やスナイパーと違い、闘気を自分の肉体から切り離し、敵に向かって撃つのが苦手である紅壱としては、魔術で、その弱点が解消されるのはありがたい。

 自分も愛梨のように、肉体強化系の魔術しか使えない、なんて事は考えない、紅壱は。

 また、どの属性に適性があろうとも、使いこなしてみせる、そんな自信も紅壱にはあった。

 彼がそう確信しているのは何故か、答えは簡単だ。

 自分は、あの魔王・アバドンの主なのだから、どの属性の魔術であろうとも使いこなせるに決まっている、と信じているからだ。

 後悔があるからこそ、紅壱は自分の才能を疑っていなかった。

 「音桐荘」の管理人を務める洲湾や、自分の雇い主である多部の存在も、彼の自信の耐震性が異常に優れている点に繋がっていた。

 もちろん、彼だって、お年頃の男子高校生だー例え、頭の中で、前日の夜に視聴した動物系のバラエティを反芻しているだけなのに、弾みで殺してしまったOLを埋める場所を考えている様な顔、と周りから誤解されていてもー、瑛にマンツーマンで指導されたい、そんな甘い欲だってある。

 鳴に嫌がらせをしたい訳じゃない、そんな綺麗事が口から出せるほど、聖人君子でもない。

 自分に、瑛が付きっきりで、魔術の指導をする、時には、ボディタッチもある、となったら、きっと、鳴は悔しそうにするに違いない。そんな表情をするだけで、胸がスッとするだろう、と断言できる。

 その上で、彼が、その願いと天秤にかけ、選択したのが、こっそり努力して、実戦で披露する事で瑛を吃驚させ、「凄い」と褒められたい、そんな功名心だった。

 瑛の驚きから喜びに変わった顔を思い浮かべた事で、わずかにだが、集中力が乱れたのか、紅壱はいくらか、息苦しさを覚えたようだ。

 わずかに眉根を寄せると、紅壱は上を見る。

 かなりの距離を潜ってきたので、この透明度でも水面は、全く見えない。

 ここまで潜ってくるのに使った時間と気力、今の精神状態を考えると、余裕はそれなりにある、と見栄も含めて言えるくらいだな、と判断した紅壱。

 よし、戻るか、と頷くと、紅壱は一度だけ、足元の赤い水に目線を向けた。


 (アバドンさん、俺、必ず、貴女を復活させます)


 そして、紅壱は水を強く蹴ると、慎重に慎重を重ねて、浮上を始めた。

 この時、紅壱は境界線を崩さないように、細心の注意を払っていた。

 けれど、彼が気を付けていても、相手もそうとは限らない。

 紅壱は水面に手が届く距離まで到達しても気付いていなかった、目には見えず、羅綾丸が吐く糸よりも細い赤い筋が、あの境界線から、ずっと、自分の足首に絡まりついていた事に。



 「心配かけちまったみたいだな、お前ら」


 紅壱が暴走の危機を、自力で脱した事は頭が受け入れたものの、いつでも、攻撃に移れる状態にあった体を動かせずにいた吾武一たち。

 そんな彼らの様相を見ただけで察した紅壱は、「ありがとう」と頭を下げた。

 すぐさま、吾武一らは得物を収め、その場に跪いた。


 「魔力の修得、おめでとうございますッ」


 代表して、祝いの言葉を述べた吾武一。

 その仰々しさに、「大袈裟だな、おい」と苦笑しながらも、紅壱は魔力を自身の意思で使えるようになった事に、嬉しさを堪えられないようで、口の端がピクピクとしていた。


 「本当に良かった」


 安堵から、涙ぐんでいる弧慕一に紅壱は歩み寄る。

 彼の接近に、弧慕一は焦りながら、目元を拭う。


 「お前のおかげだ、弧慕一。お疲れさん」


 「そ、そんな、私が出来た事など、些末です」


 「いや、お前が徹夜して、方法を考えてくれたから、俺は自分の魔力を把握できた。

 改めて、お前に、このアルシエルを守る魔術師の頭目としての役目を命じるが、いいか?」


 「!! 若輩者ですが、謹んで拝命いたします」


 より激しく震え出した弧慕一の肩を、紅壱は「頼んだぜ」と軽く、数度、叩いた。

 吾武一らは、弧慕一へ「おめでとう」、「任せたぞ」と称賛や信頼を籠めた拍手を贈る。

 そうして、今一度、ぐるりと、王としては未熟な己に忠心を示してくれる住魔らを見回す紅壱。

 目には、その姿が映り、気配も肌に感じる事が、これまで通りに出来る。

 しかし、これまでとは異なり、彼らの心身を構築する魔力そのものを、紅壱は今、感知できるようになっていた。

 気配だけでなく、魔力が形作るシルエットの大小で、個体の強さを計測れた。


 (魔術師ってのは、こういう景色が日頃、見えているのか)


 そう考えた紅壱だったが、おもむろに頭を振った。


 (いや、違うか。

 今、俺が、こうやって、魔力を視る事が出来ているのは、視ようとしているからだ。

 人間の魔術師は、呪文を正確に詠唱する、それにしか重きを置いてないから、自分と周囲の魔力を精密に感じ取ろうとしていない。

 恐らく、そうする事を考えた事もないんだろうな)


 推測しながら、魔力を視ていた目を凝らすと、次第に、シルエットの中央に色も見えるようになってきた。

 何だ、この色は、と首を傾げながら、紅壱が他の個体を見れば、色が同じ者、個となっている者がいる、と気付く。中には、シルエットと変わらぬ色の個体もある。

 この色の違いは重要そうだ、そう、紅壱が認識した時だった、彼の耳に「ポーンっ」と軽やかで涼やかな鉦の音が聞こえたのは。


 『My Lord 辰姫紅壱は、[常時発動スキル]体内魔力制御を修得しました』


 『My Lord 辰姫紅壱は、[常時発動スキル]体外魔力操作を修得しました』


 『My Lord 辰姫紅壱は、[常時発動スキル]魔力感知を修得しました』


 『My Lord 辰姫紅壱は、[常時発動スキル]魔力量計測を獲得しました』


 『My Lord 辰姫紅壱は、[常時発動スキル]属性看破を修得しました』


 普通ならば、いきなり、こんな声が聞こえたら、誰だって驚く。

 もちろん、紅壱の顔も驚きで固まった。しかし、彼を仰天させたのは、誰もいない、見えないのに声が聞こえたからじゃない。

 教本として読んだライトノベルには、「世界の声」と表現される、レベルアップやスキル獲得を知らせるシステムが登場していた。なので、紅壱は、それを予想していた。

 そんな推測が的中した事にも喜べぬほど、彼が珍しくも絶句したのは、自分へ(一方的に)語りかけてきた声に聞き覚えがあったからだ。正確に言えば、紅壱は、一度だって、その声を忘れた事などありはしない。


 「アバドンさん・・・・・・」


 信じがたい事態が起きた時、人は叫ぶのではなく、搾りだすように声が漏れる。

 刹那にして、顔面が冷や汗で覆い尽くされた紅壱の呼んだ名に反応したのか、それは彼へ唐突に問い掛けてきた。


 『ナビゲーターを可視化しますか?』


 紅壱は躊躇いなく、「あぁ」と頷く。


 『My Lord 辰姫紅壱の要請を実行します・・・可視化を完了しました』


 その言葉の直後だった、紅壱の目前に、それがいきなり、出現したのは。

 それは、アバドンであり、アバドンではなかった。

湖に潜っていた紅壱は水中で、あるラインから水の色が変化している事に気付き、そこから下がアバドンの魔力である事を理解した

紅壱の魂の奥底で、今、体を休め、傷を癒し、復活に備えているアバドン

もう二度と、彼女に迷惑はかけまい、と決意を新たにし、紅壱は意識を取り戻すべく、水上を目指す

その際、赤い糸が彼の足首には絡みついていた

目覚めた紅壱が、吾武一らの魔力を、これまでよりも鮮明に捉えられている事に感動を覚えていると、唐突に謎の声が響いた

果たして、声の正体は何者なのか!?

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