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とある生徒会長の本音は日誌だけが知っている  作者: 『黒狗』の優樹
紅壱の魔力、覚醒
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第百九十一話 愕然(be shocked) 剛力恋ら、紅壱がやろうとしている無茶を理解して、愕然とする

しっかりと食事を食べた後、紅壱は弧慕一の指導で、魔術師としての修行をスタートする

まず、基礎かつ初歩として、弧慕一は紅壱に、自分の魔力を内部に感じて貰うべく、危険なのも承知で、自らの魔力を彼の中に流し込み、その際の違和感を察してもらおうとした

しかし、弧慕一の予定に反し、紅壱は簡単に自分の魔力を感知できてしまう

紅壱の才能に驚かされつつ、弧慕一は紅壱に出来るだけ長く、自分の魔力を感じ取って貰おうとしたのだが、ここで、ちょっとした問題が起きる

この年齢で、闘気を扱えることが仇となり、紅壱は魔力を感じ取り続ける事が難しい事を理解する

闘気に阻まれず、魔力を感知するために、紅壱は羅綾丸に糸で自分の体を縛って貰うのだった

 「え、どうすれば?」

 

 自分が頭を使うことが得意でないのは自覚しているが、今は、そんな事を言い訳に出来る状況ではない。言い訳したら、どうなるか、判ったもんじゃないのだ。

 彼女は必死に推測し、自分の思い付きを口から漏らす。


 「魔力を感知するのに邪魔な闘気を取り除く・・・っすか」


 「そうね、そうするしかない」


 翠玉丸が、違う、と言わなかったので、ホッとする剛力恋。

 しかし、ここで、有翅も理解できたらしく、呆然のあまり、飛んでいられず、地面に落ちてしまった。


 「そ、それしかないんですか」


 「少なくとも、我らが主は、そう判断したようね。

 特例的な彼だからこそ出来る、いえ、やろうとしない、お手本に出来ないやり方。

 リスクが高いからこそ、彼なら成功する」


 声に呆れと苛立ちは滲ませながらも、翠玉丸がそう断言でき、他の四匹も口を挟まないのは、紅壱が、この無茶で、更なる強さに到る、と確信しているからなのか。

 全力で、紅壱が守りたい存在を守るために戦う、と口にしながらも、まだまだ、自分は彼に対する忠誠が低かった、と思い知り、有翅は首筋まで赤くなってしまう。


 「ちょ、どういう事っすか」


 必死に説明を求めてくる親友のおかげで、いくらか、自己嫌悪も薄まったのか、有翅は再び、宙へ浮かび上がる。


 「さっき、ゴリコは魔力を自分で感じ取るには、闘気が邪魔だから、取り除けばいいって言ったわよね」


 「言ったっすよ」


 「闘気を生み出しているのは、何?」


 「何って、鼓動と呼吸って、コウイチ様から聞いてるっすね、アタシは」


 「じゃあ、鼓動は何?」


 「心臓の動きじゃないっすか・・・・・・!!」


 やっと、剛力恋らは事の重大さが分かったらしい。

 全員が、ようやく、「愕然」の表情になったので、つい、有翅は溜息を吐く。


 「ちょ、大変じゃないっすか。

 じゃあ、コウイチ様は、自分で自分の心臓を止めようとしてるって事っすか」


 「だから、皆、慌ててたのよ」


 察しの悪さを責める目を有翅に向けられ、剛力恋は気まずくなる。


 「闘気を、限界まで抑えるだけでは駄目なのでござるか?」


 下忍である己よりも、完全に気配を殺して隠れる事が可能な紅壱であるなら、闘気も一分として体外へ漏らさず、体内へ秘めるだけでも十分なのでは、と考えた影陰忍は指摘した。

 しかし、紅壱は彼女の期待を裏切るように、首を横に振った。


 「抑えこむだけじゃ、駄目だ。

 むしろ、内に籠めちまうと、余計に、魔力を掴めんと思う。

 かと言って、闘気を全開で放出しながらじゃ、感知できねぇ、今の俺じゃ」


 まだまだだな、と紅壱は苦笑して肩を竦めた。

 だが、彼に命を預けて、敵と戦う覚悟が出来ている部下としては、笑い事じゃない。


 「心臓が止まったら、さすがのコウイチ様も死んじゃうじゃないっすか」


 「止めると言っても、一時的にだ。

 俺の使える技の中に、蘆笙ろしょうって名の、相手を仮死状態にして、5分後に自動で蘇生するモノがある。

 それを、今から、自分に使う」


 爽やかな表情の紅壱が、言っている事は嘘ではない。ただ、今まで、自分に使った事は一度もない、それだけは言っていないだけだ。


 「なんだ、5分したら、勝手に生き返るなら安心じゃないっすか」


 お気楽なことを言ってくれる親友ゴリコの顔面に、水球をぶつけたくなった有翅だが、ここで彼女に苛立ちを浴びせても、何ら意味がない、ただの八つ当たりだ、と自制する。


 「闘気を遮断するには、心臓を止め、同時に呼吸も止める、その必要があるのは理解できた。

 だが、どうして、体を羅綾丸様の糸で縛り上げる必要があるんだ?」


 骸二の疑問に、紅壱の代わりに、弧慕一が正答を口にする。


 「万が一に備えて、ですね、タツヒメ様」

 

 「そうだ。

 俺は、二度と暴走する気はない。

 だからこそ、出来る備えは全てしておきたい」


 紅壱の決意が滲む言葉に、吾武一は彼が自縄自縛の状態に陥った理由を理解し、大きく頷いた。

 このエリアには、サイズが大型犬ほどもある蜘蛛がいる。

 人間界に棲息する蜘蛛の糸ですら、相当な強度を誇るのだから、大気に漂う呪素を表皮から吸収、または蟲を捕食する事で取り込んでいる、その大蜘蛛が吐く糸の強度は、今の人間では再現が不可能だろう。

 その大蜘蛛を喰らっている羅綾丸の糸は、当然、人間の武器では切れない。瑛ほどの実力者でも、この糸を燃やす事すら叶うまい。

 10時間も火を浴びせ続ければ、多少は焦げてくるかもしれないが、現実的に、そんな長時間も火を、瑛だって出し続ける事は出来ない、絶対に。

 幹部の中でも力自慢である吾武一、奥一、林二、完二が四匹がかりで引っ張っても、羅綾丸の本気の糸は千切れないのだ。

 彼らが全力以上でで引っ張っていないはずがない。何せ、ギブアップした後の、吾武一は汗だくで、息も乱れ、全力を振り絞りすぎて、立ち上がる事も出来なくなってるのだから。

 そんな糸で己の体を縛り上げた、その事実に、吾武一らは彼がこの事に、全てを懸けている事を理解し、ますます、止められなくなった。

 羅綾丸が牙を鳴らすと、奔湍丸も尻尾で地面を叩いた。

 

 「確かに、紅壱の魔力が暴走したら、羅綾丸さんの糸は十秒くらいで消し飛んじゃうかもしれないね」


 事態の深刻さを契約によって、しっかりと理解している風丸丸の声は気楽だ。しかし、その声に、翠玉丸も肯定を示す。


 「でしょうね。

 だから、十秒ちょっともある、そのチャンスを無駄にせず、私達が止めるしかない」


 本気・・で止めるけどいいわね、と翠玉丸に尋ねられた紅壱。


 「あぁ、本気で殺す気で来い」


 「こ、殺す気!?」


 驚いた食々菜を他所に、風巻丸は「当然、そのつもりさ」と翼を広げた。


 「魔力が暴走し、糸を引き千切って、動き出すまでの数秒間に、殺すつもりで全力をぶつけなければ、あの紅壱は止まらないからね。

 もう、彼女には頼れないし、紅壱も頼りたくはないんだろう」


 「当たり前だッッ」


 いつになく、切羽詰まった雰囲気の紅壱が声を荒げたので、皆は仰天してしまう。

 彼女、それが、紅壱の中に封じられている、魔王・アバドンである事は、容易に覗える。

 なので、吾武一は紅壱にとって、アバドンの存在が、どれほど大きいのか、逆に計りかねた。


 「微力なのは百も承知ですが、その時は、我らも加勢させていただきます」

 

 あくまで、吾武一らが忠誠を誓っているのは、アバドンではなく、紅壱だ。だから、彼らは紅壱がアバドンの為に命懸けで魔力を修得しようとするなら、自分達の命を紅壱の為だけに使う、そう、心に決意きめていた。


 各々の武器を掲げた仲間に、紅壱は感極まりそうになる。しかし、ここで涙を見せてしまうと、吾武一らに「王の威厳を保ってください」と叱責られてしまうので、何とか堪えた。


 「じゃ、やるぞ」


 あえて宣言し、目を閉じると、一つ、二つ、三つと深呼吸をする紅壱。

 彼が心中に思い浮かべるは、既におぼろげな父母、自分に戦い方と逝き残り方を実地で叩き込んでくれた師匠達、優しさと厳しさを併せ持った祖母の朱音、打倒すべき目標の祖父・玄壱、自分達をメンバーとして迎え入れてくれた恵夢たち、そして、この世で初めて、恋愛感情が芽生えた瑛の顔。

 そして、開眼した紅壱は、掌中へ集めた最大濃度の闘氣を胸中へ叩き込んだ。

 背中で跳ね返った衝撃波は、心臓へと直撃し・・・その動きを停止させた。

 ビクリッ、と痙攣し、硬直した紅壱の逞しい体躯は、しばらく、動かなかったが、心停止によって体内に流れていた闘気が消えると同時に、緩慢とした動きで倒れていく。

 咄嗟に、吾武一と食々菜が飛び出しかけるも、奔湍丸が威圧して、二匹を制止とめた。

 もしも、羅綾丸が慌てず、後頭部と地面の間に、糸の塊を飛ばしていなければ、紅壱は後頭部を強打し、地面には血が広がっていただろう。

 普段であれば、地面の方が陥没するが、今、彼は仮死状態であるから、体表も闘気で覆われていない。

 つまり、彼の防御力は、一般人より、少し優れている程度だ。鍛えている分、ある程度は頑丈だが、それでも、ゴブリンのパンチを受ければ、骨折してしまうだろう。

 吾武一達は得物を一切の隙もなく構えたままで、仰向けに横たわっている紅壱を見守り続けた。

 心臓が動き出すのが、止めてから5分後と聞かされていたからこそ、逆に、彼らはその時間を異様に長く感じてしまった。もっとも、5分と知らなければ、緊張と不安は、その比ではなかったに違いないだろうが。


 「・・・・・・!!」


 真っ先に、周囲に漂う呪素のわずかな変化に察知きづいたのは、アルシエル一の魔術師である弧慕一だった。

羅綾丸の糸は、並大抵の実力者じゃ、全力で挑んでも引き千切る事が出来ないし、燃えもしない

そんな糸で、自らを縛り上げ、何が起きても動けない状態にしたのは、万が一に備えて、だった

魔力の感知を、闘気が邪魔するのであれば、それを取り除けばいい

闘気を完全な0にすべく、紅壱は自らの魔力と呼吸を5分間だけ停止させる判断を下す

もちろん、仮死状態が長く続けば危険だし、魔力が暴走しても危険だ

必ず、誰も傷付けぬまま、己の魔力を扱えるようにする、と覚悟を新たにし、紅壱は自らの心臓を停止させた

果たして、紅壱は、この分が悪い賭けに勝ち、魔術師としての一歩を踏み出せるのか。それとも、魔力が暴走し、周囲のモノを破壊してしまうのか

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