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とある生徒会長の本音は日誌だけが知っている  作者: 『黒狗』の優樹
紅壱の魔力、覚醒
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第百九十話 縛上(tie) 羅綾丸、糸で紅壱をキツく縛り上げる

食事の後、ついに、紅壱は自らの魔力を、自分の意志で制御し、操作するための特訓に挑む。

まずは、自分の中に魔力を感じ取れなければ始まらない。

そこで、弧慕一は自分の魔力を、紅壱の中へ流し込み、その違和感を利用して、紅壱に自らの魔力を感じ取ってもらおうとする。

当然ながら、ノーリスクな行為ではない。弧慕一は、自分の命を懸けていた、紅壱の特訓が成功するために・・・

そんな弧慕一の覚悟を汲めない男じゃない紅壱は、いつになく、集中力を研ぎ澄まし、わずかな時間で、自身の魔力を感知する事に成功してみせる。

あまりにも早く、紅壱が自身の魔力を感じ取る事に成功してしまったので、唖然としながらも、弧慕一は改めて、自分の主は凄い、と感動を噛み締めるのだった。

 「では、次のステップに早速、進みましょう、辰姫様」


 弧慕一の言葉に、魔術師らしい事をしている今にワクワクしている紅壱は唇の両端を上げたが、ふと、険しい顔になる。


 「そんで、どうすりゃ、自分の魔力を操作できるんだ?」


 「やはり、まずは、自分の魔力を安定して感じ取れ、コントロールしやすいポーズを見つけるべきか、と」


 「ポーズ?」


 「自分がリラックスできる、体に無駄な力を入れずに済む、そういう体勢で、最初は、魔力を感じ続けてください。

 どんなポーズでも、魔力を感じ取る事が出来れば、全身の回路に巡らせるコツも掴めるはずです」


 弧慕一の丁寧な説明に頷き返すと、紅壱は顎に握り拳の角を当て、魔力を感じ取るのに最適な、完全脱力リラックスできる格好を考え始めた。

 しばらく動かなかった紅壱は、唐突に、空気椅子の体勢を取った。

 脱力するには、最も不向きなポーズなのでは、弧慕一はそう感じたが、紅壱の集中力を乱す訳にはいかないので、口を噤んだ。

 紅壱は、十分ほど、空気椅子の体勢を保持した。

 その間、彼は顔色も変えず、汗も浮かべず、息遣いも乱さず、足も小刻みに震わさなかった。

 しかし、おもむろに目を開いた彼は、「ダメだな」と嘆息する。

 息が吐き出される音を聞き、弧慕一は、「早合点だったのだろか」と思った。

 尊敬する紅壱にも、焦りから間違える、そんな普通の部分もあるのだな、と彼は妙に安堵した。

 けれど、弧慕一だけじゃなかった、紅壱が「やる」と決めたら、最後までやりきり、しかも、手段を選ばないタイプの男である事を、まだ知らなかったのは。

 空気椅子の体勢を止めた紅壱は、しばらく考えた後、「これしかねぇか」と、やけに硬い声で呟いた。

 何やら、不穏な気配を感じ取った吾武一が、彼へ何をする気なのか、問う前に紅壱は、その名を呼んでいた。


 「羅綾丸らりょうまる奔湍丸ほんたんまる翠玉丸すいぎょくまる風巻丸しまきまる・・・・・・雷汞丸らいこうまるッ」

 

 主の呼びかけに応じ、彼らは目前へと瞬時に出現する。


 「お呼び?」


 あぁ、と翠玉丸に頷き返した紅壱は、おもむろに、自分の胸板へと、いっぱいまで開いた右掌を密着させた。


 「羅綾丸」


 紅壱と羅綾丸達は、主従契約を名付けによって結んでいる。なので、紅壱が命令を言葉にせずとも、名を呼ばれるだけでも、彼らは理解が出来た。

 だからこそ、羅綾丸は躊躇ってしまう。

 傍目からしたら分かりづらいが、羅綾丸がこうも躊躇するなど、相当に稀有な事態だ。


 「お前にしか頼めないんだよ」


 そこまで、紅壱に言われてしまっては、断りようがない。

 諦めたと言うよりは、紅壱を信じる事にしたのか、羅綾丸は「ガチッガチッ」と牙を鳴らすと、紅壱へ尻を向ける。


 「!?」


 一瞬もかからず、紅壱の体は首から下までが、羅綾丸の糸に隙間なく縛り上げられた。

 蜘蛛の糸、その強度は、自然科学をテーマにしたテレビ番組や、虫の能力を使う改造人間同士が戦う内容の漫画で、頻繁に紹介されているので、今や、有名だ。

 ここまで、ガチガチに縛られてしまったら、単純なパワーなら紅壱に勝っている修一でも、全力で引き千切ろうとしても、最低三分は要するに違いなかった。


 「タツヒメ様!!」


 「騒ぐな」


 雷汞丸が静かに、だが、威圧しながら呟くと、住魔らは水を打ったように静かになった。それは、黙った、と言うよりも、何も言えなくなった、と表現するのが正しい静けさだ。

 日々の努力で、着実に成長していると言っても、まだまだ、名無しの魔属達は雷汞丸の迫力に負けてしまう。

 体は震えてしまったが、それを根性で抑制え、吾武一は名持ちの幹部を代表して、前に一歩、出た。

 彼の胆力に、雷汞丸は忌々しさを覚えたのか、「グルルル」と唸り、自らも、彼へ寄ろうとした。

 もし、糸に縛られている紅壱が「雷汞丸、止めろ」と命じていなければ、吾武一へ噛み付いていたかも知れない。

 ただ、吾武一だって、ただ噛まれるだけじゃなかっただろう。痛みを覚悟していた彼はそれに耐え、雷汞丸に渾身の一撃を叩き込んでいたに違いない。それに、吾武一に合わせ、他の副村長も全力の攻撃を繰り出していたはずだ。そうなれば、雷汞丸だって、それなりのダメージを負うだろう。

 チッ、と舌打ちを放った雷汞丸から、吾武一は視線を外すと、話が通じる翠玉丸に顔を向けた。

 雷汞丸が自分から目を逸らしてくれた事に安堵してしまった、己の弱さを示すものに対する苦々しさは吾武一の胸に広がった。

 だが、今は自己嫌悪に陥っている場合じゃない、と自分に言い聞かせ、グッと堪えた彼は落ち着いた声で、真剣に尋ねる。


 「翠玉丸様、タツヒメ様は何を為さろうとしているのでしょうか?」


 翠玉丸に見られた紅壱は、好きに答えろ、とでも言うように頷いた。


 「バカげた事をしようとしているのは、まぁ、確かね」


 「それが解っているのに、皆さんはお止めしないのですか?」


 「残念だけど、私達の言葉くらいで止めるような男じゃないでしょう、貴方たちの王様は」


 諦観している翠玉丸の透き通っている言葉に、幹部らは何も言い返せない。


 「止めはしません。

 ですが、何を為さろうとしているのか、それくらいは説明してください」


 吾武一が平伏すと、奥一らも続き、他の住魔も倣う。

 ここまでされ、何の説明もしないまま、自分が思いついた手段を実行できるほど、紅壱も我儘にはなれない。

 分かった、と頷いた紅壱、彼の姿は糸でぐるぐる巻きにされているので、実に滑稽なのだが、誰も噴き出しはしない。ゴブリン小僧ですら、真面目な顔をしていた。


 「俺が、闘気を使うのは知っているな」


 「はい」


 大剣士として目覚ましい成長を遂げている吾武一は、紅壱の胸を借りる際、彼から闘気についての説明を一通りは受けていた。

 ある程度の実力に達していれば、紅壱が意図的に集中させた闘気を目視できた。当然ながら、吾武一らは「見える」者だった。

 淡い白の光を帯びるこれが、紅壱の強さの要と納得した吾武一達。

 当然、彼らは自分達にも使えないだろうか、と試行錯誤した。

 しかし、闘気は、魔力の塊とも言える魔属とは相性が良くないのか、吾武一達は自分の中に闘気を感じる事が出来なかった。

 その為、彼らは闘気の体得に、早々に見切りを付け、肉体を強化する魔術の持続時間を伸ばす努力に時間と努力を傾けていた。


 「以前にも説明したが、闘気ってのは、人間の生命エネルギーだ。

 人間が呼吸と鼓動によって、無自覚に発生させている生命エネルギーを、俺達は意志の力で自在に制御している。

 魔力も同じ理屈だな、弧慕一」


 「大まかに言えば、同じでしょう」


 肯定してくれた弧慕一に頷き返した紅壱は、何拍か置いてから、衝撃的な発言をかます。


 「だから、俺は今から、心臓を止める」


 「・・・・・・は?」


 思ってもいなかった事を、紅壱が言い放ったのだから、目と口をOの形にしてしまった吾武一らを責める権利は、誰にもない。

 彼らが、聞こえなかった、聞いていなかった、そう判断したらしい紅壱は、同じ言葉を繰り返した。


 「だから、俺は今から、心臓を止める」


 「ちょ、ちょっと、お待ちください、タツヒメ様。

 何故、心臓を止めるのです!? そんな事をすれば、死んでしまいますッ」


 怪異にも、心臓はある。その心臓が停止すれば、人だろうが、怪異だろうが、死んでしまうのは同じ、と彼らは理解しているので、紅壱の言葉に混乱するのは当然である。

 どうして、魔力の使い方を習得するための方法の実践中に、心臓を止める必要があるのか。

 もしもの話になるが、生徒会メンバーの中に、紅壱には大きく劣るにしても、闘気を扱える者がいたのなら、彼のしようとしている無茶の真意に、察しが付いた可能性はある。


 「闘気は、生命エネルギーだ」


 「はい」


 「イメージの正確さと揺るがなさに左右される魔力は、いわば、精神エネルギーだ」


 「はい」


 「闘気が使える俺の中には、膨大な魔力がある」


 「・・・はい」


 「まずは、その魔力を自分で感じ取らなければ、話は始まらない」


 「・・・・・・はい」


 「だが、魔力を感じ取ろうにも、俺の闘気が邪魔をする」


 「だから?」


 「魔力を感じ取るには、一度、闘気を0にするしかない」


 やっと、吾武一は紅壱の説明が理解できた。故に、彼の目と口は、ますます、大きく開かれた。

 彼が、これから、どれほどの無茶をしようとしているか、理解が出来てしまった彼は驚き過ぎて、制止の言葉すら出せない。

 しばし遅れて、弧慕一と磊二も解かったらしく、血の気が引く音が周囲に聞こえるほど、一気に青褪め、震え出した。


 「おい、吾武一、どういう意味なんだ」


 「Mr.弧慕一、YOUも解かったのでしょう? 説明プリーズ」


 「ど、どうしたっすか、磊兄ぃ」


 まだ、紅壱が何をしようとしているのか、理解が及ばない奥一と輔一は顔を見合わせ、親友らに説明を求める。

 けれど、三匹が口をパクパクとさせるだけで埒が明かないので、奥一は翠玉丸に尋ねた。紅壱に直接、質問なかったのは、彼がこれ以上、説明してくれない、と思ったからだ。


 「何をしようとしているんだ、タツヒメ様は」


 「闘気は、生命エネルギー。

 それは、鼓動、つまり、心臓が動く事で生み出されている。

 ここまでは、解かっているのよね、貴方たち」


 「はい、存じ上げております」と頷く幹部たち。


 「私達の主は、闘気が使える。

 魔力も、これから、同じように、努力次第で使えるようになる。

 つまりね、スゥゥゥゥパァァァァレアな逸材なの」


 その言葉を否定する幹部は、一匹としていない。


 「闘気も、まず、自分の内に、鼓動と呼吸のリズムに合わせて流動する闘気を、集中して感じ取る事から始まるの」


 「じゃあ、魔力の感知も、タツヒメ様にとっては、楽チンだな」

 

 「集中しての感知、同じだからこそ、厄介なの」


 気楽に言ってくれた完二に、翠玉丸は頭を横に振った。


 「魔力を感じ取ろうとすると、彼の中にある、桁違いに多い闘気が邪魔するのよ。

 じゃあ、魔力を感じ取ろうとするには、どうすればいいかしら」

 

 剛力恋ちゃん、いきなり指名された剛力恋は慌てふためく。

自分の中にある魔力を感知した紅壱。

自身の魔力を完璧に制御し、自在に操作するためには、魔力を感じ取り続ける事に慣れる必要があった。

その為に、紅壱は、より集中できる姿勢に空気椅子の体勢をチョイスする。

しかし、リラックスできる体勢を取っても、魔力を感知し続ける事が出来ない。

その原因が闘気にある、と察した紅壱は、羅綾丸に糸で自らを縛らせ、身動きの出来ない状態になる。

そして、一度、心臓を止め、体内の闘気を0にしようとする。

まさかのムチャクチャな手段の選択に、吾武一らは慌てふためき、翠玉丸らに紅壱の制止を懇願するも、ある意味、彼らよりも紅壱の頑固さを知っている翠玉丸らは諦観の姿勢に入ってしまう。

果たして、紅壱の賭けは上手くいくのか、それとも・・・・・・

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