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とある生徒会長の本音は日誌だけが知っている  作者: 『黒狗』の優樹
紅壱の魔力、覚醒
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第百八十七話 手渡(hand over) 紅壱、良い働きをした住魔にご褒美を手渡そうとして、吾武一に諫められる

若手らの成長を、スパーリングで確認でき、ご満悦の紅壱

今度は、自分の魔力を呼び起こすぞ、と彼は気合が入っていた

食事を取りながら、紅壱は住魔らへ、妖精へ「有翅」の名を与え、種族進化させた事を告げる

有翅は、紅壱に名を付けて貰ったおかげで得た強さで、この村の為に頑張る、と宣言し、住魔らは彼女を改めて、歓迎するのだった

種族の壁なく、和気藹々と食事を楽しむ皆を嬉しそうに見る紅壱へ、吾武一は他所のゴブリンが侵入しようとしたが、住魔がそれを阻んだ、と報告する

 「吾武一、侵入しようとしたゴブリンを取り押さえた、その住魔たちを呼んでくれ」


 「はいっ」


 吾武一は、すぐさま、その個体に「おい!」と呼びかけた。

 魔属同士は、思念の伝達、いわゆる、テレパシーが可能なので、個別の名が無くとも、相手は自分が呼ばれた、と判断わかるらしい。

 便利だとは思う、その一方で、どうにも、相手の個性を蔑ろにしているようで慣れないな、と紅壱は感じてしまう。

 自分以外の人間を奴隷どころか道具扱いし、番号ですら呼びそうもない、鬼ですら慄きそうな監獄のトップとイメージされそうな顔の作りを紅壱はしているのだが。


 「こっちに並べ」


 幹部に呼ばれただけでも、緊張はピークだと言うのに、まさか、村長である紅壱に、ここまで近づく事になるとは思っていなかったのか、その豚頭魔オークと二体の動骨兵スケルトンは平伏すら出来ず、ガタガタと震えてしまっている。

 吾武一は、その三体の態度に厳つい顔を険しくし、平伏させようとしたが、紅壱はそれを留めた。


 「お前らか」


 「?」


 「昨日、この村に忍び込もうとした、よそ者のゴブリンを発見して、拘束したんだろう」


 萎縮しきってしまっている三体は、紅壱からの確認で、余計に緊張してしまったのか、震えは一層に増す。

 首を縦に振っているのか、判断しきれない紅壱が目線を向けると、吾武一は「そうです」と肯定する。


 「よくやってくれた」


 「!!」


 紅壱が、自分達の働きを褒めてくれた、その事実を彼らの脳、いや、魂は刹那にして理解した。

 その理解は、彼らの体を震動ふるわせていた緊張を吹き飛ばす。

 そうして、空いたスペースは、紅壱への尊敬が埋め、彼らは自然と、その場に正座し、頭を地面すれすれまで下げていた。

 幹部は強制せず、促してもいなかったが、皆は自然と、その三匹へ惜しみない拍手を贈った。


 「これからも、仕事に励んでくれ」


 紅壱は、彼らを激励し、自ら、鞄に入れていた小袋、中身は彼手作りのビスケットだ、を手渡そうとした。

 だが、吾武一はそれを手で制した。

 良い働きに褒賞を出す、それは正しいが、この程度で、王自ら臣下に寄り、手渡すのは過剰やりすぎである。

 配下との距離が遠くない事は悪くないにしても、威厳を保ち、十分な畏怖を抱かせ続けるには節度が大切である。

 吾武一は、言葉で説明したわけでもなく、首を横に振ったわけでもなかったが、洞察力が優れている紅壱は彼の目を真っ直ぐに見据えた。

 それだけで、彼は自分がヘマをしそうになった、と悟った。

 上げかけていた腰を下ろし、紅壱は「吾武一、これをこいつらに」と三つの小袋を、歩み寄ってきた吾武一が差し出したトレイへと乗せる。


 「おぅ・・・村長様からの褒賞品である。ありがたく受け取るがいい」


 あまりの感動で、頭も上げられぬオークとスケルトンたちは、吾武一の言葉で、慌てて、体を起こした。

 そうして、トレイの上の小袋を目にも止まらぬ動きで受け取ると、すぐさま、再び、地面へ頭を擦りつけ出してしまった。


 「もしも、お前らが、余所者を捕まえられていなかったら、他の奴らが傷付けられていたかもしれない。

 よく、立ち向かったな」


 「あ、あの時は無我夢中でしたブー!」


 「剛力恋様や林二様の方が、よっぽど、怖かったですホネ」


 「訓練を受けていなかったら、そう思うとぞっとするホネ」


 三匹の言葉に、紅壱は「そうだ、努力すれば、その分、強くなれるんだ」と口の端を上げた。


 「けどな、今回は運が良かったんだぞ」


 「え?」


 「忍び込もうとしたのが、名無しのゴブリンだったこと。

 そのゴブリンが、二匹だけだったこと。

 お前らと違って、訓練を受けていない素小鬼トーシロだったこと。

 大した怪我もせずに、取り押さえられたこと」


 紅壱は指を曲げながら、それを数えていく。今の今まで、褒められて上がっていた気分が冷めていくのを感じ、三匹は真面目に、紅壱の説教に耳と心を傾けていた。


 「お前ら三匹で、ゴブリン二匹を押さえ込んで、このアルシエルの危機を救った、これは事実だ。

 そのゴブリンが、ここの情報を自分たちのボスに伝えていたら、攻め込んできていたかもしれないからな」


 ハッとしたのは三匹だけでなく、他の住魔もだった。

 自分達が毎日、行っている体力作りと戦闘訓練が試される実戦が、いきなり、来ていたのかも知れない、と気付き、今更ながらに慄いたのか、彼らは「ゴクリ」と喉を鳴らす。


 「ゴブリンと言えど、ナメちゃならん相手だってのは、お前らも毎日、一緒に訓練しているから、承知しているだろう」

 

 三匹は、その通りだったので、首をしきりに縦に振った。


 「今回は、お前ら、三匹だけで、どうにかなかった。

 もちろん、お前らの努力があったからこそ、なるべくしてなった結果だ。

 しかし、無茶はするな。

 自分達だけじゃ無理だ、と感じたのなら、無理に捕まえようとせず、仲間を待つ、その選択肢も、今後は用意しておけ。

 このアルシエルの為に何かしたい、アルシエルに害を為す奴は許せない、その気持ちは、俺も嬉しい。

 だからこそ、お前らに何かあったら、本当に悲しいんだ。

 だから、最優先すべきは、自分の命だ」


 並みの者なら、ここまで言われれば、すっかりと自信が喪失してしまうに違いない。

 だが、日々、紅壱が考えたプログラムで、吾武一達に鍛えられている彼らの精神力は打たれ強くなっていた。

 打たれれば打たれるほどに、心は強さを増していき、前を向く気概を抱かせ続ける。

 紅壱が「命を大事にしろ」と言うなら、その通りにする。

 命を大事に、その意識を持ったからこそ、彼らが、これまで以上に、村と仲間を守る事に命を懸けて戦おう、そんな気持ちを固めたとは察知かず、紅壱は説教は終わりだ、と言わんばかりに、両手を打つ。


 「よし、もう、いいぞ。下がっても。

 本当に、よく頑張ったな」


 「はい(ブー)(ホネ)っ」


 紅壱の言葉で、つい、安堵の息を漏らしてしまった三匹。彼らは、急いで、自分達がいた場所へ戻った。


 「すごいゴブ、お前ら」


 「羨ましいぞブー」


 「汗が出まくってるコボ」


 「そりゃ、そうホネ」


 仲間に褒められ、羨ましがられ、オークとスケルトンは誇らしげだ。そんなリアクションをした彼らを、仲間達はますます囃し、肘先で小突く。


 「いいか、お前ら。

 我らが村長は、我らの仕事を正しく評価してくださる。

 皆、これからも、各々が割り振られた仕事を忠実にこなすように。

 また、休日も気を抜き過ぎず、有事に備え、心身を鍛えるのだ!!」


 「おうっ」


 幹部の立場に胡坐をかき、高圧的な態度で、名無しの住魔を恫喝するだけの雄であれば、ここまで、皆、返事に腹から力を入れないだろう。

 住魔は知っているのだ、吾武一が自分達に隠れ、気付かれていないつもりで、自分達よりも鍛錬に励み、その実力を確かに高めている事を。

 命を救ってくれただけでなく、誇りまでも与えてくれた紅壱を、唯一の目標にしている、それが努力を続ける支えとなり、成長を促進しているのは間違いない。

 まだまだ、紅壱や彼のパートナーである雷汞丸たちの本気を引き出すまでには達せていないが、一握りの「本物」だけが到達できる領域、その扉に繋がる道に入る門、それがはるか高みに見える階段を、吾武一は上り始めていた。

 もちろん、奥一、弧慕一、輔一も、ほぼ同じペースで階段を上っていた。

 この四匹が協力して、雷汞丸らと戦う様は、ほぼ、「大怪獣大決戦」だ。

 大剣を装備し、また、攻撃魔術も習得し始めた吾武一が攻撃役に徹する。

 奥一は仲間の盾となって、剛力で繰り出す斧で相手の動きを止める。

 弧慕一は適度に離れた位置から、土や岩を魔力で操作して、攻撃、防御、補助役の全般を器用にこなす。

 骨の馬を乗りこなして、輔一は敵を牽制し、攻撃を自らに引き付ける事で、仲間が攻撃を繰り出すチャンスを作る。

 全員が、自分の長所を活かせる役目に徹していた。

 鍛錬を欠かさぬ自分の強さと、仲間との間にある友情を疑っていない四匹のチームワークには、一分のほつれもなかった。

 紅壱も、彼らの相手をしていないパートナーの視界を借り、その戦いを観たが、見応えが実にあった。

 瑛がリーダーを務める生徒会チームを相手にしたら、さすがに厳しいだろう、無傷で勝つのは。

 愛梨一人が相手で、骨折、その程度のダメージを負う覚悟で臨めば、十五分で彼女を制圧できるだけの地力が育っているようだ。

 今でこそ、翠玉丸らは一匹でも彼らに勝てる。だが、当初と比べれば、余裕は薄まってきた。

 連携の精度が敗戦を重ねる事に良くなっていき、しかも、個の強さもまた、上昇しているのだから、苦戦までには行かないにしろ、楽じゃなくなってくるのは当然だ。

 雷汞丸は強がって、俺一匹で十分だ、と大口を叩いているが、翠玉丸は、そろそろ、二匹で相手をした方がイイかも知れない、と考え始めていた。

 そこには、このまま、一匹ずつで戦い続けた場合に、吾武一達が勝ってしまった場合に、彼らの成長が、そこで止まってしまう恐れがあった。

 紅壱から、吾武一たちを強くする事を頼まれている以上、壁として高くあり続けねばならない、と考え、彼女はタイミングを計って、紅壱に相談するつもりでいる。良い意味で、「お前らに任せる」と丸投げされるのは承知していたが。

報告を受けた紅壱は、吾武一に手柄を上げた住魔を、自分の前に呼んで貰う

今回、他所のゴブリンの侵入を阻止したのは、オーク族とスケルトン族の若者だった

こんなこともあろうか、と紅壱は用意していた手作りのクッキーを、自分で彼らに手渡そうとしたが、吾武一は王が臣下に手づから褒賞を下賜するのは良くない、と目で諫める

王としての意識が甘い事を反省しつつ、紅壱はお手柄だった住魔を褒めながらも、次も上手く行くとは限らない、と諫める事も忘れない

紅壱の言葉に気を引き締め、住魔らは今後も、彼の為に全力を尽くす、と誓うのだった

また、住魔らは副村長の座に就きながらも、自己鍛錬を怠らず、全力ではないにしろ、真剣になった翠玉丸らとチームワークで渡り合えるようになっていた吾武一らにも憧れていた

まだまだ強くなる吾武一らの活躍にも、ご期待ください

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