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とある生徒会長の本音は日誌だけが知っている  作者: 『黒狗』の優樹
紅壱は、若手の成長を確認する
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第百八十三話 不足(shortage) ゴブリン小僧は自分の努力が、まだ足りていない事を思い知る

自身の魔力を引き出す準備を、弧慕一が整えてくれている間、紅壱は若手らの実力を確認していた

ゴブリン小僧を倒した妖精の成長を、確かに感じ取った彼は、彼女へ「有翅」の名を与えた

無事に、ハイフェアリーに種族進化を果たした彼女は、紅壱は改めて、忠誠を誓う

そんな有翅を、攻撃魔術を使えない紅壱が、口と鼻が水の膜で塞がれた状態で、どう倒したのか、気になってしまう彗慧骨

快く、紅壱は彼女の願いを聞き、自分が使った攻撃手段を見せる事にする

 「ちょっと、完二さん、どうして、そんな近くにいるのに、気付かなかったんですか?」


 剣呑な雰囲気を発す彗慧骨の鋭い視線を伴った詰問に、完二は慌てふためく。打たれ強い彼も、美少女のジト目には慄いてしまうようだ。


 「いや、息をそんなに強く噴き出したような音は聞こえなかったんだ!」


 仲間から失望の目を向けられている、と思い込んでしまい、泣きそうな完二を擁護するように、紅壱は「実戦でも使うんだ、気取られるような音は出さないさ」と告げる。

 途端に、皆が「なるほど、確かに」と納得してくれたので、プレッシャーから解放された完二は安堵する。


 「じゃあ、アタシを吹っ飛ばしたのも、コオイチ様の息だったのね」


 「かなり、威力は下げてたけどな」


 その言葉に、有翅は軽く、青褪めた。

 今、石は木端微塵になった。もしも、紅壱が威力を下げてくれていなければ、自らの肢体も、石と同じようになっていた、と想像してしまったからか。


 「あの威力なら、有翅の水のマスクを簡単に貫通できるな」


 「いや、ホントのとこ、あれがなかったら、ヤバかったんだよな。

 自分じゃ、威力を落としたつもりだったんだが、水のマスクで威力が削がれてなかったら、有翅の内臓、いくつか、破裂させちまってた」


 ハハハハ、と気まずさを誤魔化すように、大きな声で笑う紅壱だが、有翅の顔色はより悪くなった。


 「手足が使えぬ状態でも、敵を倒せる技を備えている。

 さすが、我らが殿でござる。実に天晴」


 影陰忍から、尊敬の目で見られ、くすぐったそうにする紅壱。

 その動作も、巧あたりがすれば可愛いのだろうが、紅壱だと、禁煙中の闇金業者にしか見えない。


 「まぁ、実際は、口に含んだ小石や釘を息で飛ばすんだけどな、相手の喉や目玉に向かって」

 

 ただの息弾ですら、妖精を失神させ、石を木端微塵にする威力だ。

 もしも、小石が、彼の闘気によって強化された肺によって噴き出されたら、柔らかい眼球はもちろん、額の骨すら貫通し、脳味噌まで届くに違いない。

 それに思い到った完二らはゾッとしたが、一方で、紅壱への尊敬も強めた。

 ちなみに、この技は、紅壱が祖父から伝授された攻撃手段ではない。

 小石や釘と言った凶器と成り得る小道具を使う時点で予想は付くだろうが、カカシである、紅壱に暗殺の一手段を授けたのは。

 紅壱は、祖父の玄壱が編み出した、人を、今、思えば、怪異も攻撃対象に含まれているのかも知れないが、実に効率よく倒し、なおかつ、激戦を楽しむ為の技のほぼ大半を、この年齢で体得している。

 しかも、闘気だけでなく、闘氣まで会得した。

 それでもなお、研鑽を怠らず、技一つ一つの精度を高めている点が凄い。

 そんな領域に達しながらも、力不足と感じる彼は、接近戦の体技だけでなく、自分から距離を開けている相手にもダメージを与えられる技術も、祖父以外の師匠に、教えを乞うていた。

 紅壱は、自分は闘気を飛ばす、放出系が苦手だ、と自覚を持っていた。

 自身の肉体もしくは手に持つ武器や、履いている靴に纏わせ、攻撃の威力を高め、同時に耐久性を上げる方面に特化しているようだ、と祖父譲りの戦闘センスと体格の良さで気付いた。

 なので、魔術を覚えられれば、自分の手札で欠けていた遠距離攻撃をガッツリ補充できる。

 だからこそ、紅壱は、こんなにも魔力の使い方を覚えたがっていた。

 

 他人は、闘気と魔力の両方を支配下に置かんとする彼を、戦闘狂の強欲者グリードだ、と見下し気味にからかうだろう。

 しかし、考えて欲しい、アバドンを復活させようとしているのだから、彼の力に対する欲が弱いはずがない。

 彼にとって通るべき過程、必要な道具の一つは、最強である事実。

 彼が考える「最強」は、祖父・玄壱のように武術家、いや、喧嘩屋として地上最強の座に君臨し続ける事ではなく、肉弾戦でも、魔力戦でも無敵となる事だった。

 闘気を、アニメや漫画のように球状にして飛ばしたり、光線として発射できないのだから、魔力も同じなんじゃ、と不安に囚われて、自身の可能性を狭めないのが、彼が強い理由である。

 

 息で暗器を飛ばす暗殺技術をカカシから教わりはしたが、紅壱は人間相手に使った事はなかったし、今後も使わないだろう、と思っていた。

 その理由は、相手を殺してしまうからだ。

 自分を殺すつもりでかかってくる怪異が相手なら、針を噴いて殺す事も躊躇いなしだが、さすがに、家出少女を言葉巧みに自宅へ誘って強姦するようなクズリーマンや、借金と薬漬けにした大学生を特殊詐欺の駒にするヤのつく自由業の従事者でも、殺す事を前提にしているテクニックは使い辛い。もっとも、それは建前だ。何せ、紅壱はデコピン一発でも、素人の命を狩ってしまえるのだから。

 どうして、使わないのかと言えば、その手の外道は、一瞬で苦しませずに逝かせるのではなく、己の拳打で痛い目に遭わせたい、これが答えである。

 常に、冷静に徹するようでいて、紅壱もまだまだ頭に血が上りやすく、怒りの感情で動いてしまう。

 神威かむい玄壱げんいちの孫なら、仕方ない、とカカシ達や翠玉丸なら言うだろうが、微笑まし気に。


 「一瞬でも、魔力の操作が緩めば、口から水が剥がれるって考えてたんだが、まさか、一発で気絶しちまうとは思ってもなかったから、殺っちまったかと焦ったぜ」


 「名前を貰えて、上位妖精になった今なら、あんな事にはなりませんよ」


 紅壱の悪気の無い物言いに、ムカッと来た有翅は「試しても良いですよ」と煽った。

 それを流せるほど、紅壱も大人ではない。


 「!!」


 自ら挑発しただけあってか、有翅は紅壱の不意打ちに見事な反応をした。

 彼女が両腕を咄嗟に突き出し、目の前に出現させた水の壁が「バシャンッ」と砕け散った事で、皆は紅壱が有翅に向かって、息の弾を飛ばした、と分かった。


 「本当に、出力を抑えていたんだな」


 「いや、もしかしなくても、今の一発も本気じゃないんじゃない?」


 「・・・・・・有り得るな」


 有翅が展開させた水の壁、それの防御力を疑う訳ではない。しかし、水の壁だけが粉砕され、有翅は恐怖と安堵で冷や汗こそ大量に掻いているが、無傷である事からして、紅壱が全力で、息の弾を口から撃っていないのは明らかだ。

 それを誰よりも痛感しているのは、水の壁が砕け散った際の衝撃で、両腕が痺れている有翅だろう。


 「やるじゃねぇか、有翅」


 紅壱が皮肉や揶揄ではなく、本心でガードが間に合った事を褒めてくれる言葉を口から出した事で、有翅は今後、安易に彼を挑発しないようにしよう、と自戒した。


 「オイラ達も頑張って、早く、村長から名前を貰おうゴブ」


 自分であれば、ガードも出来ず、無様に直撃を喰らい、瀕死状態に陥ったであろう、紅壱の目に見えず、目で追えぬほどに速い息の弾を、辛うじてでも確かに止めた有翅の姿に気合が入ったゴブリン小僧。

 リーダーである彼の言葉に、仲間も「あぁブゥ」、「はいコボ」、「もちろんホネ」と頷き返す。


 「まずは、もう一回、ちゃんと、剛力恋さんに実力を見せて、挑戦して良い、って許可を貰いましょうホネ」


 スケルトン小僧の言葉に、ゴブリン小僧は気まずそうな表情で首を縦に振り、「やるゴブっ」と左ジャブを繰り出す。

 「ふむ」と、彼の左ジャブを見て、紅壱はまたも、顎を撫でる。


 「おい」


 いきなり、紅壱に呼びかけられ、ゴブリン小僧が直立不動になってしまうのは当然と言えた。


 「な、何ですゴブか、村長」


 「もう一回、やれ」


 「え?」


 「左ジャブだ。

 目の前に、敵、他の縄張りに住んでる小鬼ゴブリン族がいるつもりで打ってみろ」


 一瞬、キョトンとしてしまったゴブリン小僧は、紅壱が顎をしゃくって促すと、慌てて、ファイティングポーズを取る。

 そうして、深呼吸を繰り返して、気持ちを落ち着かせたゴブリン小僧は、紅壱に教えて貰った通りの打ち方で、左ジャブを放った。


 「・・・・・・どうでしたゴブか?」


 恐る恐ると言った風に、ゴブリン小僧が声の震えを努めて抑えながら尋ねると、「悪くない」と、紅壱は素直な評価を口にする。

 人間にしても、小鬼ゴブリンにしても、嬉しさのあまり、呆けてしまうと、咄嗟にガッツポーズすら出来なくなるのは同じようだ。もちろん、心中でダイナミックに喜びを表現している点も似通っているらしい。


 「毎日、しっかり、反復練習をしているみたいだな」


 「ハイッ」とゴブリン小僧は嬉しそうに返事をしたが、直後に、その努力で培った自信が崩れそうになる。


 「大したもんだ」


 何故かって、それは、紅壱が自らも、左ジャブをゴブリン小僧と正対し、打ったからだ。もちろん、拳圧や闘気で彼を失神させないように注意は払って。

 たった一発、それを見ただけで、紅壱がこの域に達するまで、どれほどの日数をかけ、何発のパンチを型通りに黙々と打ち続け、そして、維持するために、その密度を保っているか、が理解できるだけ、ゴブリン小僧の実力は確かに上がっていた。

 けれど、その事実で自信を取り戻す余裕が、今のゴブリン小僧にはない。

 さすがに、名持ちの幹部たちも顔色を失ってしまっているゴブリン小僧に同情を覚え、紅壱の意図を掴みかねた。

 懐の大きい彼が、自分のパンチを見た事で、ゴブリン小僧がショックを受ける事を予想できないはずがない。

 それが解るからこそ、完二らは戸惑い、事態を静観するより他なかった。

磊二が投げた石は、紅壱の飛ばした息によって、空中で粉々に砕け散っていた

祖父の玄壱と互角の戦闘が行える、凄腕の忍者・カカシから、紅壱は様々な暗殺術を指南されており、強烈な息で小石や針を飛ばし、相手の急所へ当てるこれも、その一つだった

紅壱の引き出しの多さに、今更ながら、完二らは感服させられる

その一方で、紅壱は、名前の獲得に向けて、やる気満々のゴブリン小僧が何の気なしに繰り出した左ジャブに注目する

ゴブリン小僧が、真面目に、左ジャブを練習している事を察した紅壱は、果たして、どんな行動に出るのか

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