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とある生徒会長の本音は日誌だけが知っている  作者: 『黒狗』の優樹
紅壱は、若手の成長を確認する
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第百八十二話 投石(threw stone) コボルドと戦う際は、まず、投石に注意すべし

弧慕一が準備を済ませるまでの空き時間に、若手らの成長度合いを確認していた紅壱

成長性には目を見張るものがあるゴブリン小僧を下し、妖精は紅壱へ挑戦する

全力を尽くし、紅壱の口と鼻を水の膜で塞ぐ事に成功した妖精だったが、力及ばず、完敗してしまう

しかし、善戦した彼女の努力を讃え、紅壱は妖精へ「有翅」の名を与える

種族進化に成功した彼女は、無事に完二らから仲間として歓迎されるのだった

 「有翅、アナタは知りたくないの?」

 

 「・・・・・・そりゃ、知りたいですよ、スケコさん。

 アタシも、本当に、どうやって倒されたのか、まるで分からないんですもん。

 何かが、こう、ズドンッと当たったような気はするんですけど・・・・・・痛いって思う前に、意識が飛んじゃったんですよね。

 だから、もうちょっと、自分で考えてからでなきゃ、聞いちゃダメかな、と思っていたんですけど」


 気まずげに有翅が漏らした言葉に、彗慧骨は真実への興味が逸りすぎて、出しゃばってしまった、とリビングアンデッド特有の青白い肌が羞恥心で変色する。それでも、まだ、彼女は少し、不健康そうに見えるのだった。


 「ごめんなさい、デリカシーが足りてなかった」


 「ううん、いいんです。きっと、アタシも我慢できずに、聞いちゃってたでしょうから」


 頭を深々と下げ、配慮が欠けていた事を彗慧骨は謝ったが、有翅は小柄な体からは想像も出来ないほどに大きな器で、仲間からの真摯な謝罪を受け入れる。

 そうして、紅壱に向き直るや、「教えて下さい」と、自らの頭を下げた。


 「彗慧骨、有翅もこう言ってるんだ、気にしなくていいぞ。

 気になる事があったら、しっかり質問する。

 テメェの頭で考えて、心で悩み、体で試して、答えに近づくのも大事だがな」


 「はいっ」


 紅壱の言葉で、いくらか、気持ちも立て直せたようで、彗慧骨は大きく頷いた。


 「さて、どうやって、あの状態で、有翅を倒したか、だったな。

 言葉で説明しても良いんだが、まず、一回、見せた方が手っ取り早いか」


 そう言い、紅壱は「磊二、これくらいの石、出してくれるか」と両手で、テニスボール大の大きさを示す。


 「これくらいで、よろしいですか」


 すぐに、磊二は掌の中に、テニスボール大の石を具現化させた。


 「おぉ、それくらいでいい。

 俺に向かって投げてくれ。全力でもいいぞ」


 「え・・・」


 当然だが、磊二は躊躇する。

 彼は細い体躯から察せる通り、腕力の値はさほど高くなく、名無しのオークにも劣る。名無しのゴブリンと腕相撲しても、勝てる相手は数匹だろう。名無しのスケルトンを相手にしても、連戦が続くとヤバいかもしれなかった。

 けれど、磊二は犬頭土精コボルド族だ。

 魔術師職とは言え、本気で投擲なげれば、プロ級とまでは至らないにしても、高校生のピッチャーに匹敵する球速と球威が出せる。

 実際、学生の術師は、教官から、コボルドと相対する際は、投石を警戒すべき事案から漏らすな、そう、キツく言われているほどだ。

 洞窟や地中に住まい、掘削作業に精を出す、そんな伝承がある魔属だけあって、コボルドの大半は、地土属性の魔術に適性がある。

 その為か、コボルドの投石は、ゴブリンなどよりも命中率が高く、当たった際のダメージも、他の下位魔属が投げた石が直撃した時よりも、わずかではあるが大きくなる。

 残念なことに、毎年、その忠告を失念し、コボルドを雑魚と侮って、投石の餌食となる新人の学生術師が出るくらいなのだ。

 偶喚もしくは、上位怪異による強制召喚で、人間界に出現してしまったコボルドは、異世界にいる時と異なり、魔術が思い通りに発動できなくなる。

 しかし、皮肉にも、人間界はそこらかしこにブロック塀があり、道はアスファルトで舗装され、電柱も立っている。異世界には存在しない素材であっても、石である事には変わりない。

 下位魔属である事に加え、人間界は呪素の薄いこともあって、まともに頭が働かなくなるにしても、いや、本能が曝け出されるからこそ、コボルドは、目に付く石製の人工物を砕き、敵に向かって全力で投げてくるのだ。

 普通の人間は、脆い。ドッヂボールで使用するボールが当たっただけでも、痛いのだから、そのボールよりも遥かに固く、しかも、スピードがある物が当たれば、その痛みは悲鳴が出るほどだ。

 当たり所が最悪わるければ、呻き声すら出せず、その場に倒れ、二度と動けなくなるだろう。

 紅壱のように投げられた石を打ち返して、逆にコボルドの顔面に穴を開けられる技巧者や、修一のように、どれほどの石礫を浴びようとも立っていられるほど頑丈ではないのだ、普通の人間は、残念ながら。

 また、コボルドで恐れるべきは、その投石と地土属性の魔術だけ、接近戦に持ち込めば楽勝、と思い込んではいけない。

 以前にも記したが、犬頭土精コボルド族はツルハシやスコップを装備している。

 それらの土木作業に用いる道具の殺傷力は、実に高い。

 素人は剣を剣として正しく使えないが、ツルハシであれば、思い切り、振るだけで相手を殺傷できてしまう。

 ツルハシの尖端、それが肉に突き刺されば死ぬ。

 人間、そんなイメージが思い浮かんでしまったら、近づく事など出来なくなってしまう。

 勇気を振り絞って、どうにか近づけたとしても、一瞬でも、体が恐怖で竦んでしまったら、その時点でお死舞だ。

 何故かって、コボルド族はツルハシやスコップなどを採掘の道具としてだけでなく、殺傷用の武器としても、しっかりと扱えるからである。

 例え、同じ武器を持っていようとも、熟練度に差があれば勝つのは、自分の体の延長として使えるほど、己に馴染ませている方だ。



 王の命令には、絶対的に従う、と決意きめてはいるが、石を自分に向かって投げろ、と言われて、ノータイムで投げられるほど、磊二は単細胞ではない。

 かと言って、投げられません、と言ったら、紅壱を落胆ガッカリさせてしまう。彼が、そんな事で自分に失望するような王ではない、と頭では分かっていても、一度、そんな不安が過ってしまうと、簡単には拭えない。


 (・・・・・・よしっ)


 磊二は、一度、ギュッと石を握り締めると投げる、自分が林二や完二と比べれば非力であり、紅壱ならば無様に当たるような事はない、と自分に強く言い聞かせるようにして。

 磊二の右手によって、サイドスローで投げられた石は、甲子園の二回戦に駒を進められるチームの一番打者でも空振ってしまうほどの速さで、放物線を宙に引いた。

 しかし、その石が紅壱の手にキャッチされる事はなかった。

 磊二が躊躇いながら投げたせいで、軌道が大幅にズレてしまったのだろうか。違う。

 目測を誤った紅壱が、石をキャッチし損ねてしまったのだろうか。これも違う。

 もしや、紅壱に石は当たってしまったと言うのか。いや、違う。

 投げられた石は、紅壱と磊二の間、その真ん中を通過しかけた時に、宙で突然、粉々に砕け散ってしまったのだ。


 「!?」


 少なくとも、全員の目には、石に何かが当たったのは見えなかった。

 本当に、いきなり、テニスボール大、正確に言えば、妖精と同サイズだった石は、空中で砕け散った。

 磊二以外は、紅壱に当たってしまう事を恐れた彼が、空中で石を魔力で自壊させたのでは、と推測した。

 だが、全員に見られた磊二は、慌てて、「違います」と否定する、驚きの表情で首を横に激しく振り乱して。

 その反応で、皆は「じゃあ、紅壱が何かをしたんだな」と判断する。だが、「何か」が分からなかった。

 目に映らないほど、迅速はやく殴ったのでは、と骸二は推測したが、同じ考えが思い浮かんでいた彗慧骨と影陰忍に目配せの後、小さく、首を左右に動かされた事で、その答えを飲み込んだ。

 肉弾戦が得意とは言え、魔力の揺らぎが、全く感知できない訳ではないので、完二も磊二や有翅、ゴブリン小僧の仲間であるスケルトン小僧と同じく、小さな魔弾を撃ち出して、空中の石を砕いた訳じゃない、と理解わかった。

 彼らが言葉も出せぬまま、目の前の事態に戸惑い、頭をフル回転させているのを見て、紅壱は、「こりゃ、もう一回、見せた方がいいか」と顎を撫でた。


 「磊二」


 頷いた磊二は、再び、今度は、何の迷いもなく、石を投げようとする。

 だが、ふと思いついた紅壱は彼を止め、「完二」と手招きした。


 「う、うっす」


 「お前、ちょっと、俺の手、後ろで掴んでいろ」


 パンチは使っていない事を証明する気だ、と理解した完二は「おっす」と力強く頷くと、紅壱の背後に回る。

 とあるSSS級スナイパーと同じく、己の背後へ、不用意に近づいた者へ、必殺の一撃を見舞ってしまう紅壱。だが、強いからこそ、彼は、実戦で砥がれた、その脊髄反射を意思で抑制できた。

 己が運良く、紅壱に殴られずに済んだとは気付かず、完二は紅壱が後ろでクロスさせた手首をしっかりと掴む。普通の人間ならば、手首の骨が一瞬で砕け、手術で再建できぬほどの力で。

 当然ながら、常に全身を余す事なく闘気で覆い、防御力を高めている紅壱は、完二に手首を掴まれても平気だ。

 「しっかり掴んでろよ」と言ってから、紅壱は待っている磊二へ目で合図を送った。

 彼からのアイコンタクトに頷き返し、磊二は石を投げる。先程よりも、ゆっくりと、緩やかな軌道を描くようにして。何故、そうしたかと言えば、何が起きるか、をしっかりと自分達の目で見る為だ。

 皆は、目を皿のようにして、空中の石を凝視した。

 けれど、やはり、石は空中で木端微塵に砕け、誰も何が当たったのか、解らず、困惑と混乱が渦巻く、一層に。


 「完二殿」


 「お、俺は、ちゃんと手首、持ってたぞ!! 嘘じゃねぇってッッ」


 「・・・・・・降参です、タツヒメ様。

 一体、どのようにして、手足も使わずに、己に迫る空中の石を砕いたのですか?」


 代表して、白旗を掲げたのは骸二であった。

 有翅とゴブリン小僧は、もう少し粘り、いっそ、もう一度だけ、紅壱に見せて欲しい、と頼もうとしていたようだ。


 「息だよ」


 「息?」


 「まぁ、正確に言うなら、空気の塊を口から飛ばして、石に当てた」

 

 そんなバカな、と思う者はいなかった。

 これだけの戦闘力だ、肺活量も凄まじいはずだから、息一つで、そう言う事が出来ても、何ら不思議ではない。

 むしろ、何故、それが思いつかなかったのか、と皆は悔しそうにする。

妖精が「有翅」の名を賜り、ハイフェアリーに進化できたことを仲間全員で喜ぶ完二ら

そんな折に、遠距離攻撃を得意とする彗慧骨は、紅壱が、どうやって、有翅を失神へ追い込んだのか、疑問を抱く

彼女の問いに気を悪くする事なく、紅壱は快く、正解を示す、実際にその技を見せる事で

磊二が紅壱に向かって投げた石が、空中で木端微塵になったのを目の当たりにし、仰天する若手たち

紅壱は物理・魔術攻撃を放ってもいないのに、何故、と不思議がる彼らは、もう一度、それを見せてもらうが、やはり、何が起きているのか、理解できない

困惑する彼らを詰らず、紅壱は「息で壊したんだ」と正解を告げるのだった

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