表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
とある生徒会長の本音は日誌だけが知っている  作者: 『黒狗』の優樹
紅壱は、若手の成長を確認する
178/437

第百七十七話 盗呑(steal drink) 酒をこっそり呑んだ剛力恋は、その罰でデコピンされる

弧慕一の準備が済むまでの間、若手らの成長を、スパーリングを通して確認していた紅壱

続いて、彼に挑戦を申し出たのは、妖精だった

小さな体に、確かな実力と、紅壱への忠誠心を秘めている妖精は密かに、個人トレーニングに励み、紅壱への挑戦を幹部の彗慧骨に許可してもらえるほど、成長していた

彼女に素質あり、と判断した紅壱が妖精の挑戦を受けようとした矢先に、仲間を集めてチームを組んだゴブリン小僧が割り込んでくる

誰も、彼らに挑戦する許可を出していなかったのだが、チームの一員であるスケルトンが取り出した玉からは、何故か、剛力恋の声が聞こえてきた

 数瞬の後に、勢い良く、全員が一斉に見れば、剛力恋は判り易く青褪め、汗だくになっていた。

 顔には、明らかに書かれていた、「あれ、アタシ、やらかしちゃったっすか?」と。

 もし、この時、彼女のステータスを確認していたら、紅壱はステータス異常の一つである、「混乱」の二文字を見たに違いないだろう。


 「剛力恋、お前・・・」


 いつになく、険しい表情の林二に、剛力恋は慌てて、事態の説明を求める。


 「え、ちょっと待ってほしいっす。

 これ、どういう事っすか!?」


 「それは、俺達が聞きたいんだがな」


 「・・・・・・どうやら、彼はスケルトンにしては、珍しく、疾風属性が適性のようですね」


 「どういう事でござるか、磊二殿」


 「恐らく、剛力恋さんの発言を、空気の中に閉じ込めたのでしょう」


 磊二の推測に、紅壱も少し考えた後、「だろうな」と頷く。

 声は空気の振動だ。理屈で言えば、空気の玉に剛力恋の声を閉じ込める、つまり、録音が可能である。

 器用な真似をするな、と紅壱は感心の視線をスケルトンに向けた。

 それを感じ取ったのか、スケルトンは萎縮してしまったようで、カタカタと骨を小刻みに揺すりだしてしまう。


 「・・・・・・剛力恋、アンタ、もしかして、酔っぱらってたんじゃない、この時」


 「!?」


 「なるほど。

 お前、こっそり飲んだんだな、吾武一様達の目を掠めて、タツヒメ様が持ってきたビールを」


 完二の追求に、剛力恋の顔から流れる汗の量は増す。

 どうやら、正解のようだ。


 つい先日、紅壱は人間界から、いつもの食料や日用品と共に、ある物をアルシエルに持ってきた。

 それは、酒であった。

 アルシエルを発展させるべく、なおかつ、紅壱と共に戦うべく、努力している幹部らを労う意味もあったが、それ以上に、大きな意味もあった。

 以前、紅壱はティの葉を入れた水へ果実を漬け込んだ。

 その瓶を安置していた洞窟の温度や湿度が、丁度、良かったらしく、その水は果実酒になったのだ。

 紅壱の舌からすれば、まだまだの味だったが、その果実酒は、アルシエルの住魔にとっては、初めての酒であり、ある程度の年齢に達している魔属らは、その味に興奮した。

 そこで、紅壱は、果実酒をもっと美味しくするべく、吾武一らに研究させようと、ビールやカクテルを持ち込み、彼らに試飲してもらった。

 あまりの美味さに、彼らは呆けた貌で、黙るしかなかった。

 あれほどに興奮した果実酒も、紅壱が持ってきた本物の美味うまみを己の舌で知ってしまったら、三流品以下の質と思い知った。

 しかし、彼らはショックを受けながらも、紅壱が人間の酒を自分達に飲ませた理由を、正確に受け止めた。

 すぐさま、吾武一らは、果実酒の味を、このレベルまで上げるべく、酒作りの仕事を志願者へ与えた。

 もちろん、自分達が美味い酒にありつきたい、それもあった。

 だが、彼らは、美味い酒に、交渉する際のカードとして、相当な強みがある、と分かったのだ。

 今は、小鬼ゴブリン族、豚頭魔オーク族、犬頭土精コボルド族、動骨兵スケルトン族、一匹の妖精フェアリー族しか、このアルシエルの住魔にはいないが、今後、他種族が輪に加わる可能性がある。むしろ、積極的に迎え入れるべきだ。

 けれど、好意的な態度で接してくれる種族ばかりでないのは、この大森林で生活いきてきていた吾武一達が、紅壱よりも知っている。

 特に、耳長森精エルフ族などは面倒臭い相手だ。

 見た目が優れ、頭が良く、魔術にも長けている、自分たちエルフ族こそが、この大森林の西側を支配するに相応しい魔属だ、と驕っている。

 そんな性悪魔属のエルフを篭絡するには、この果実酒が美味くなる事が必要不可欠だ、と気付けたのは、吾武一らの舌が優れており、なおかつ、アルシエルを、どう守っていき、領地を着実に拡張ひろげていくか、を真摯に考えているからだ。

 人間も、満足できる一杯を作りだす為に、年単位の努力をするのだから、魔術と言うアドバンテージがある魔属であろうとも、そう簡単には行かない。

 しかし、紅壱は期待し、吾武一らはそれに応えてみせる、と決意していた。

 紅壱が持ってきたビールは、250ml缶で24本。なので、剛力恋がこっそりと一本を持ち出していても、誰も気付かなかった可能性はあった。何せ、全員がアルコールの虜になって、熱い論戦を繰り広げていたのだから。


  

 「酔っ払っている時に、たまたまなのか、いや、録音している所からして、確信犯的な部分もあって、コイツらはお前に会いに来て、俺と戦う許可を求めた訳だな。

 そして、アルコールで判断力が鈍っていたお前は、コイツラの実力を特に試しもしないで、二つ返事で許可しちまった、と」


 「す、すんませんでしたっす」


 盗み呑みがバレ、その上、ゴブリン小僧がリーダーを務めるチームに、酔った勢いで、安易に出してはならない許可を出し、言質までしっかりと取られてしまっている。

 これで、言い訳が出来るはずなどなく、剛力恋は素直に謝罪あやまるしかなかった。

 ここまで、潔く謝られてしまうと、紅壱としても、叱責がしづらい。

 何より、ゴブリン小僧のチームが、全くの力不足と言う訳でもない。剛力恋であれば、素面であっても、彼らの強さを確認し、OKを出していた可能性はあった。

 酔っている彼女の失言を、ちゃっかり録音していた強かさも高評価できる。


 「まぁ、酔っていたとは言え、幹部の一人が、良いと言った以上は、良いんじゃないか?」


 「タツヒメ様が、そういうのでしたら」


 林二が険しい表情ながらも、首を縦に振ってくれたので、ゴブリン小僧らは安堵の表情を見合わせた。

 実際、自分達の策が上手く行くか、不安はあったのだろう。

 一か八かの賭けに挑む胆力に、紅壱が感心する裏で、剛力恋は必死に、林二へ「親父には報告しないでほしいっす」と拝み倒している。

 林二は「駄目だ」と、にべもない態度だが、何だかんだで、剛力恋に甘く、彼女からの頼みに折れやすい彼なら、口にチャックしてしまうだろう、と他の幹部は未来を予想する。

 「はあ」と溜息を溢すと、紅壱は剛力恋を手招ぶ。

 

 「え、何っすか」


 この時、剛力恋は吾武一の説教から逃れたい気持ちでいっぱいだったので、紅壱が「来い」と言ってくれ、気が緩み、警戒をしていなかった。

 不用意に、紅壱の攻撃有効範囲へ足を踏み入れてしまっただけでなく、彼は攻撃の兆しを隠す「雲屯うんとん」を習得している。

 なので、剛力恋がデコピンをまともに喰らってしまったのも、仕方のない話だ。

 人差し指だけで弾くデコピンであれば、剛力恋も痛みを額に覚えても、その場に踏ん張れただろう。

 後ろへ吹っ飛ばされたにしても、無様に転がるような姿は見せなかったに違いない。

 だが、紅壱は剛力恋が強くなっている事と、罰の意味合いも加えて、彼女の額へ人差し指と中指の二本を当てた。

 当然、直撃した際の音は、とんでもなかった。

 そして、音に見合って、威力も凄まじく、剛力恋の足は地面から離れ、その体は真っ直ぐに数十m近く、吹き飛んでいった。

 途中で、地面に落下し、バウンドする事もなく、剛力恋の背はぶつかった、彼女と大木の間へ割り込んだ林二の分厚い胸板へと。

 魔術で防御力を上げずとも、ハイゴブリナである剛力恋の額は固く、木製のバットで全力で殴られても、傷一つ付かない。けれど、紅壱のデコピンが直撃した額からは、血が大量に流れ出ていた。


 「おい、大丈夫か!? 剛力恋ッッ」


 青褪めた林二が焦りの色が強い声で呼びかけると、剛力恋は目こそ覚まさなかったが、低い唸り声を漏らした。息はある、安堵した林二は紅壱に「生きてます」と伝えた。


 「よく間に合ったな、林二」


 自分が追いつける速度と方向へ、紅壱が剛力恋をデコピンで弾き飛ばした事が分かっていた林二は微苦笑を浮かべるしかない。


 「これで、剛力恋の盗み呑みと失言はチャラにしてやれ」


 「はい」


 「じゃあ、手当てしてやれ、村に戻って」


 紅壱が頷き、剛力恋を抱きかかえて、アルシエルに戻っていく林二の背から外した視線を向けると、他の面々も「分かりました」と、吾武一らにバラさない事を約束した。


 「さて、妖精の方は彗慧骨が、ゴブリン小僧がリーダーのチームは剛力恋が、俺と手合わせして良い、と許可を出した。

 つまり、どちらにも、俺と戦う権利がある」


 コクリと頷く妖精、「オッス」と意気込むゴブリン小僧ら。


 「どっちも、俺と手合わせする順番を相手に譲る気はない、と」


 再び、睨み合い、体から発した魔力で押し合う妖精とゴブリン小僧。


 「話し合いで、どうにもならないってんなら、もう、実力で決めるしかないな」


 「え、オイラが、この妖精と戦うゴブか!?」


 「戦えないなら、妖精に順番を譲ってやれ」


 「嫌とは言ってないゴブ。

 わかった、やってやるゴブ!!」


 望むところだ、と妖精が眼光を強めて笑えば、ゴブリン小僧も不敵な笑みで、拳を握り込んだ。

偶然に出来上がった果実酒の味を、もっと上質にし、他の種族との交渉時に使えるようにしよう、と考えた紅壱

彼は人間界から、各種の酒をアルシエルへ持ち込み、吾武一らに試飲させていた

あまりの美味さにショックを受けながらも、紅壱の目的を正しく汲み、吾武一らは果実酒のレベルアップを決意する

その酒を、こっそり呑み、酔っ払っていた剛力恋は、つい、ゴブリン小僧らに、紅壱へ挑戦してもいい、と言ってしまったらしい

呆れつつ、紅壱は王としての務めで、剛力恋に罰を与える

そして、彼は譲り合いの精神を一時、捨てている妖精とゴブリン小僧に、挑戦権が欲しければ相手を倒せ、と告げる

果たして、紅壱に己の力を示せるのは、妖精なのか、それとも、ゴブリン小僧になるのか

この喧嘩は、楽しいものになる!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ