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とある生徒会長の本音は日誌だけが知っている  作者: 『黒狗』の優樹
紅壱は、若手の成長を確認する
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第百七十一話 熱手(hot hand) 骸二は彗慧骨の手が熱い事にビックリする

弧慕一の準備が終わるまでの間、紅壱は自分がいない間も、地道に鍛錬を続けていた林二らの実力を確認しておくことに

剛力恋は、自分を倒した紅壱に『孤雲』を始めとした打撃技を見せてもらい、彼と、自分らの生活を脅かす外敵を倒すために、それらの技を必ず、習得して見せる、と意気込むのだった

続いて、紅壱へ挑んだのは、全身を炎に包んだ骸骨兵士たる骸二

剣技と炎の両方を駆使し、骸二は紅壱に立ち向かう

 「くっ」


 その拍子に足元がよろけた骸二を支えたのは、彗慧骨だった。名付けによる種族進化する前の種族が、同じスケルトンだったとは言え、今は体格が異なっている二体。

 それでも、彼女は太くはない足を踏ん張り、骸二と一緒に倒れはしなかった。一瞬、倒れた方がいいかも、と思ったが、そうなった時、接近に耐えられない、と気付き、ギリギリで止めたようである。

 骸二は自分が纏っている火で、彗慧骨の透き通るような肌を焼いてしまうのでは、と焦って体を離そうとする。けれど、紅壱に自分の全てをぶつけて敗れたために本調子ではない彼には、彗慧骨の小柄な体を押す力も戻ってはいなかった。


 「大丈夫よ、骸二」


 いつもの彼の骨体ボディに触れれば、動屍魔リビングデッドである彗慧骨は肉が焼かれ、深刻なダメージを負傷おっていただろうが、今の骸二は戦闘後で魔力が乏しい。その為、骨体が纏っている火も、さほどは熱くない。むしろ、密着していると、心地が良いほどだ。

 寄ってきた完二が腕を取り、立つのに肩を貸してくれると、骸二はホッとした。


 「助かった、彗慧骨」


 「はい、飲んで」と、彗慧骨は自分に礼を告げた骸二へ、栄養ドリンクの小瓶を差し出す。

 この時、彼女の声が、やけに冷ややかであるのに気付いたのは、骸二だけ。

 何故、彼女が急に苛立ち出したのか、訳が分からない骸二は、その栄養ドリンクを受け取って良いのか、困ってしまう。

 だが、彗慧骨が「飲まないの?」と、一層、声のトーンを下げたものだから、彼の右手は反射的に小瓶を掴んでしまう。

 その際、骸二の骨ばった、を通り越し、骨しかない手は、彗慧骨の手も一緒に握ってしまった。

 刹那、彼は火炎耐性(中)があるにも関わらず、「熱い!?」と驚いたのだが、すぐさま、彗慧骨は手を抜いてしまったので、骸二は俺の気の所為か、と思った。

 そうして、骸二は剛力恋に肘でウリウリとされ、影陰忍に温和な目で見られている彗慧骨を気にせず、栄養ドリンクを一気飲みした。


 「ぐはぁ」


 一気に、紅壱との手合わせで消耗した魔力は回復し、口から吐き出され、骨体を纏い、攻防一体を為す火は色味と勢いを取り戻した。いや、ギリギリまで使い、回復させた事で、骸二の保有魔力量はいくらか増したようで、紅壱に挑む前よりも火勢が、わずか、だが、確かに強まっていた。

 離れていた彗慧骨は、その火に顔が照らされたのだが、骸二は、やはり、気付かなかった。彼女の頬の色が、ほんのりと赤くなっていた事に。


 「おっと、危ねぇ、焼き豚になっちまう」


 慌てて、完二が骸二から離れたので、ドッと一同は笑う。


 「しかし、今の戦いは良かったな」


 「あぁ、興奮したぞ」


 慰めではなく、本心から、骸二の全力を労う林二と完二。


 「剣と火の使い方が、とても上手かったと思いますよ」


 磊二の褒めた点に、紅壱も頷いた。


 「特に、ラストの攻撃は良かった」


 紅壱は、骸二が最後に繰り出してきた、右腕の肩、肘、手首の関節を外し、火で繋ぐ事によって伸ばしてきた、ジャマダハルの刺突を褒める。


 「ありがとうございます」


 とっておきの技ですら、紅壱の不意は突けず、簡単に避けられてしまい、魔力切れを起こして降参してしまった骸二としては、やはり、複雑な気分だった。だが、自分が練った戦い方が誤っていないと認めて貰えたので、素直に喜べた。

 ちなみに、この時、骸二よりも嬉しそうにし、つい、してしまったガッツポーズを、ニマニマ笑いの剛力恋と影陰忍に見られ、反射的に彗慧骨は目潰しを繰り出そうとしていた。

 友人の放った、本気の殺意に冷や汗が滲み出るのを感じながら、余裕を持って、指突を回避した剛力恋は、半ば盾にするようにして、紅壱へ話を振った。


 「けど、タツヒメ様、ほんと、強いっすねぇ」


 剛力恋は、切り傷も火傷も負っていない紅壱を上から下まで見て、しみじみと呟く。

 体の方が無傷なのはともかくとして、髪の毛一本すら切られず、焦がされず、服も傷つけられていない紅壱に、彼女は「凄いっすね」と繰り返す。


 「まぁ、火の方はともかくとして、剣攻撃の方は、骸二の場合、先読みのヒントになる骨の動きが丸分かりだからな」


 その言葉に、彗慧骨は不安を覚えるも、当の骸二はショックを受けていない様子だ。

 実際、彼だって、紅壱に指摘された、自身の急所に気付いていた。だからこそ、剣に注意されないよう、火で牽制し、フェイントも織り交ぜて戦っていた。その工夫も、まだまだ甘く、紅壱には歯が立たなかったのだが。


 「拙者らは、骸二殿と戦うと、火に惑わされてしまうのでござるが、さすが、タツヒメ様」


 「そんな褒めても、何も出ないぞ」


 その言葉に、気恥ずかしそうに鼻を掻きながらも、紅壱はポケットに入っていた、一口大のチョコレートを投げる。いきなり、王から菓子を貰ってしまい、影陰忍は恐縮してしまう。


 「火で敵の動きを鈍らせて、惑わしたその隙をジャマダハルで攻める、そのスタンスは骸二、お前に合っている」


 「はいっ」


 「ただ、まだ、その切り替えがスムーズじゃないな。

 このままだと、林二らにも、見切られるぞ」


 ハッとする骸二。どうやら、自分では、剣と火の意識の切り替えが潤滑に出来ている、と思っていたようだ。無自覚の慢心を見抜かれ、骸二は反省する。


 「あとは、防御力も上げた方がいいぞ」


 「防御力ですか」


 「お前は筋肉こそないが、骨の硬度は相当だ。

 ダイヤモンドは大袈裟にしろ、鉄くらいはある」


 紅壱の誉め言葉に、嬉しそうな表情を浮かべたのは、骸二ではなく、むしろ、彗慧骨だった。


 「けど、俺の玉梓たまずさを喰らって分かっただろ。

 ある程度、強い奴の攻撃じゃ、お前の骨は耐えられない」


 お前みたいに強い奴が、そうはいないだろう、とツッコミが入るかも知れないが、骸二は神妙な面持ちで頷いた。紅壱が、自分の手合わせの最中に、たった一発だけ放った玉梓たまずさが本来の威力でないのは、受けた彼が一番に感じ取っていたからだ。

 玉梓たまずさ、この打撃技は、先ほど、紅壱が剛力恋らに見せた「弧雲こうん」の派生技であり、相手の体に触れず、相手へ殴られた時と同等のダメージを与えられるものだ。

 拳または掌を、攻撃する対象に触れさせず、寸止めするのだが、相手は、その瞬間にえげつない殴打の衝撃を受け、後方へ吹き飛ぶ事になる。

 寸止めしたのに、どうして、と思う方もいるだろう。

 この玉梓たまずさは根幹の技である「弧雲こうん」よりも、闘気の扱いが重要になってくる。

 寸止めすると同時に、攻撃者は拳または掌から、溜めていた闘気を放出する。

 放たれた闘気は、拳または掌と相手の隙間にある空気を押し込む。

 空気だからと言って、侮ってはいけない。高密度の闘気によって、高速で押し出された空気は一気に圧縮され、相手の体にぶつかって爆散する。

 圧縮と爆散の間隔は、刹那にすら満たないので、敵は防御も回避も出来ず、当たっていないはずの攻撃で大ダメージを、訳も分からぬまま、その身に負う事になるのだ。

 紅壱が、骸二相手に「玉梓たまずさ」を使ったのは、彼が炎を纏っているから、素手では触れられないからだ、と林二達は推測していた。

 けれど、それは正解ではない。

 確かに、紅壱と言えども、骸二を剥き出しの拳のままで殴れば、火傷を負ってしまう。

 しかし、知っての通り、紅壱は闘気を練る事で闘氣を纏う事が適う。

 闘氣が魔力攻撃から、自分の身を守れる事を、紅壱は既に確認していた。

 では、何故、闘氣を纏った拳で、骸二を攻撃しなかったのか。

 それは、骸二に再起不能となるダメージを与えない為だった。

 自分の身を守れる、それは裏返せば、魔力の塊である魔属を攻撃できる、と言う事だ。

 名前が与えられ、なおかつ、努力している骸二は強くなっている。だが、紅壱の闘氣を纏った拳で殴られて、ノーダメージとなれるほどの域には、未だ達していない。

 骸二を闘氣で覆った拳で殴る事が出来なかったからこそ、紅壱は「玉梓たまずさ」で彼へダメージを与えた、大切な事を気付かせるべく。

 あの威力ならば、吾武一と奥一も再現できる。つまり、このアルシエルから少し離れた、危険度の高いエリアに棲息している中級の魔獣、住処にしている魔属と戦闘に突入してしまった場合に、窮地となる可能性が高い、と言うことだ。

 敵の攻撃一発で瀕死になってしまうような防御力しか持たないのでは、攻撃にも集中が出来なくなってしまう。


 (我らがボスの覇道を塞ぐ物を排除とりのぞける一振りの剣で、俺はいたい。

 その為には、何から始めるべきだ?)


 仲間からの助言に耳を傾ける、これも強くなる上で大事だが、まずは、自分の頭で、「これから」を考えなければ、真の強さに到る事は出来ない。

 背中すら見えないほどに遠い紅壱の傍らで戦いたい、それを望むのであれば、奇をてらった手段で、強くなろうとしてはいけない。焦りや苛立ちを覚えようとも、一歩ずつ、自分の足場と現在地を確認しながら、前に歩んでいくしかない。

 それを再自覚した骸二は、強くなりたい、その願望を噛み締めると、「鍛え直し、再び、チャレンジします」と、紅壱へ頭を下げた。

 彼の眼窩の奥で燃える火に、強者特有の熱を感じ取った紅壱は「あぁ、いつでも来い」と破顔わらった。その笑みは、実に魔王的だ。


 「お前らも、遠慮せずにかかって来いよ。

 名持ちだから安心していると、他の奴らは、どんどん強くなっちまうぞ」


 「油断はしませんよ。と言うより、出来ません。

 実際、タツヒメ様への挑戦権を得ようと、私達に強さを示しに来る者も、日に日に、その力を高めています」


 「だが、俺らは、タツヒメ様に名を貰っている。

 その誇りは、決して、穢せない」


 「彼らが一の努力をするのなら、私達は十の努力をするだけです」


 「意気は買うが、あんまり、無理はするな。

 しっかりと食べ、ちゃんと休むのも、強くなるには必要だぞ」


 ハイッ、と重なった返事に頷いた紅壱は心配になったが、もう一本、釘を刺すのも、彼らの気概を削ぐだけだな、と自省する。


 「ところで、剛力恋、さっきから何か、言いたげだな」

 

 先程から、剛力恋が唇を尖らせている事には、紅壱も気付いていた。


 「タツヒメ様、それだけ凄い技と言うか、体術が使えるんすから、もう、魔術を覚えなくても良くないっすか?」

全力以上を振り絞っても、骸二は紅壱に勝つ事が叶わなかった

届かなかった事への悔しさもあったが、骸二は紅壱が本当に強い事を肌に感じる事が出来て、喜びも覚えていた

炎と剣をバランスよく使って攻める戦い方は悪くない、と骸二を褒めつつ、紅壱は固い骨をもっと硬くし、多少の攻撃じゃ、揺るがないようにしろ、と助言を送る

そんな中、剛力恋は、ふと、紅壱に聞いてしまう、今現在でも、十分に強いのに、魔術を使えるようになる必要があるのか、と

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