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とある生徒会長の本音は日誌だけが知っている  作者: 『黒狗』の優樹
紅壱は、若手の成長を確認する
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第百六十八話 板割(break board) 剛力恋、紅壱に技を教えてもらうべく、板割りに挑む

生徒会で瑛をサポートするために、異世界で自分を慕ってくれる者を守るために

紅壱は、自身の持つ魔力をコントロールできるように、弧慕一が準備を終えるのを待つ

もちろん、ボケっと過ごし、時間を無駄にする事なんてしない

紅壱が成長を確かめてくれると言うので、若手の幹部らはやる気満々である

完二と剛力恋の即席ペアを苦戦することなく、圧倒した紅壱

彼は、負けた悔しさを噛み締める完二に、純粋なパワーを磨くだけでなく、相手がどんな技を使ってきても対応できるように知識を増やし、経験を積んでいけ、と助言するのだった

 「ま、いきなり、教えても使えるようになる訳じゃないからな。

 しばらくは、これまで通りに体を作って、スタミナを増やして、基本的な肉体性能を高める事に専念しろ、お前ら」


 ハイッ、と林二らの返事に、「おぅ」と返した紅壱に、彗慧骨らに手当てをされた剛力恋が歩み寄ってきた。


 「タツヒメ様、アタシも頑張るっす」


 「あぁ、存分に励んでくれ。

 で、具合はどうだ、剛力恋」


 「もう、大丈夫っす・・・と言いたいけど、まだ、痛いっすね」


 顰め面で、剛力恋は色が変わってしまっている腹部を擦った。

 彼女に、林二は心配そうな表情を向けるのだが、とある疑問で頭がいっぱいの剛力恋は気付かなかった。

 がっくりと落ち込む林二の肩へ、ニヨニヨと笑う完二と骸二が手を乗せる。


 「ほんと、何をされたんすかね?」


 困惑の表情で、その答えを教えてくれる事を求め、剛力恋は友人たちを見る。だけれども、攻撃を受けた当人が理解しえぬ攻撃が、林二らに分かるはずがない。

 内よりも外から観ている者の方が、事態を把握できている事はあるが、今回に限っては、それが適用されないようだ。

 分かったか、と剛力恋から逸らした目を交わし合う林二達だが、やはり、誰もが首を横に振るしか出来ない。

 仲間が推測すら出来ない以上は、正答コタエを紅壱に尋ねるしかない。

 物怖じなどせぬ剛力恋は、何の躊躇いもなく、紅壱へ質問する、「どんな技を使ったんすか?」と。

 彼女の凄い所は、その質問に、要望も付け加えられる所だ。


 「アタシにも教えて欲しいっす」


 「おいっ、剛力恋っ」


 慌てて、林二は剛力恋を諫め、代わりに頭を下げようとしたが、紅壱は苦笑こそしているものの、強くなりたい、と貪欲になれる剛力恋を好ましく感じているようだ。


 「秘伝って訳でもないから、お前に教えるのは、何ら構わないが、一朝一夕じゃ使えないぞ」


 「そんなの百も承知っすよ、タツヒメ様。

 けど、知らないままじゃいられないっす。

 次、チャレンジする時、喰らわないようにするためにも、ここで知っておかなきゃいけないっす」


 「まぁ、一理あるな」と顎を撫でた紅壱はしばし経過してから、口角を上げると、磊二へと目線を向けた。


 「磊二、魔力は回復したか」


 「はい、少しは」


 「じゃあ、疲れているとこ悪いんだが、俺の掌のくらいの大きさで、厚みはこれくらいの石板を出してくれ、十枚くらい」


 紅壱が手を合わせて頼んでくれたのだ、拒む気など起きようもない。


 「任せて下さい」

 

 本当は、少しキツかったのだが、紅壱の為と思ったら、魔力が増幅する磊二。

 彼に石板を任せ、次に、紅壱が頼み事をした相手は林二。


 「林二、お前は木の板を用意してくれるか。

 サイズと枚数は、磊二に頼んだ石板に合わせてくれ」


 「はいっ」と頷くや、林二は完二を伴い、森の中に走っていった。


 しばらくして、斧で木を伐る音が聞こえてきて、いくらも経たない内に、林二と完二は伐り倒してきた木を二匹で肩に担いで戻ってきた。


 「少々、お時間をください」


 林二は伐ってきた木、その太さは半径15cmほどか、の表面へ掌を押し当てる。指の腹の跡がくっきりと付くほどに力を込めながら、彼は木へ己の身に流れる、樹木属性の魔力を流し込んでいった。

 長さは、背丈が十分の林二よりもあった木は、彼の魔力によって、形状の変化を齎される。

 ほんの一瞬だけ、不気味に膨張したかと思ったら、木から一枚の板が飛び出してきた。

 サイズも厚さも、紅壱に指定された通りで、これは、林二が自身の魔力を巧みに制御で来ている事を意味していた。

 紅壱が、林二の「樹木ウッド操作コントロール」に感心しているのが伝わったのか、磊二は、友に負けられぬ、己も実力を再び示さねば、と気合が入る。

 並大抵のコボルドであれば、良い所を魅せたい衝動が先行し、地面へ流す魔力の量を誤ってしまうだろうが、磊二は欲しがろうとも、焦らない。

 より一層に、魔力のコントロールへ集中し、これから作りだす石板の質が、紅壱の求める物となるように意識を強めた。

 その甲斐もあり、磊二が地面から引き抜いた一枚目の石板は、紅壱を笑顔にする物となった。

 彼の反応に、つい、ホッとしてしまった磊二は、林二がこちらを見ている事に気付き、視線を向けた。そうして、彼の浮かべている表情で、林二もまた、己へライバル意識を燃やしていた事を察した。

 改めて、紅壱の配下として、切磋琢磨できる友がいる自分が恵まれている事を自認した二匹は、どちらからともなく頷き合う。そして、ぶつけた視線を外すと、己の作業に没頭する。

 三分ほどで、木と石の板は十枚ずつ、紅壱へ差し出された。


 「時間がかかってしまい、申し訳ありません」


 「次は、半分で作りだします」


 「気にするな。良い出来だぞ」


 紅壱は魔術に疎いが、その言葉は世辞ではない。それだけの時間が必要だったのは、二匹が自分の要求に120%で応えようとしてくれたからだ、と気付いていたのだ。

 彼は知らないが、実際のところ、これほどまでに形が整っている木と石の板を、たったの三分で作り上げるのは凄い事なのである。


 「さて、剛力恋」と、紅壱はウキウキしている剛力恋の方に向き直ると、おもむろに、木の板を一枚、渡す。


 「それ、パンチ一発で割れるか?」


 紅壱が相手とは言え、そんな質問をされ、剛力恋は鼻白む。


 「これくらい、簡単っすよ。

 林兄ぃ、持ってるっす」


 林二へ木の板を渡し、割りやすい様に持ってもらう剛力恋は、パキパキと指を鳴らすと、拳を作った。

 余裕綽々の色が浮かぶ笑顔で、剛力恋は木の板を一撃で割ろうとする。

 しかし、ふと、不安が芽生えたか、パンチを打とうとする体勢のまま、林二へ尋ねる。


 「林兄ぃ、その板、固さは普通っすよね?」


 一から魔力を作った木の板ではないが、林二の魔力により丸太から加工された物だ。その硬度が増しているのでは、と疑った剛力恋の用心深さに感心しつつ、林二は「大丈夫だ」と頷く。

 それを聞き、一安心の剛力恋は、遠慮なく、木の板を左ジャブで真っ二つに割った。フォームが様になっているのを見る辺り、正しい動きを体が覚えるまで反復したのだろう。


 「これでいいんすか、タツヒメ様」


 「じゃ、今度は、こっちだ」


 剛力恋が木の板を一撃で割れるのは解かりきっていたので、大袈裟に褒めたりなどはせず、紅壱は戸惑い始めている彼女へ石板を突き出す。

 自分の得たい「強さ」を持つ男が、自分に何をさせたいのか、それが言葉で説明してもらえないのは歯痒かった剛力恋。しかし、自分だって、言語で気持ちを伝えるのが得意な方ではない。だから、ここは素直に受け取る事にした、石板を。


 「林兄ぃ」


 「あぁ」と林二が石板を持ち、構えるや否や、剛力恋は先程よりも、勢いのあるパンチで石板を打ち割った。

 彼女のパンチ力に、仲間からは「おぉ」と小さな歓声が上がった。石板を作った磊二は一瞬だけ、悔しそうに唇を歪曲ゆがめた。けれど、彼はその感情を抑え、心から、剛力恋の打撃力を賞賛するように拍手を送る。


 (磊二は大人だな)


 「石くらいは簡単か、やっぱり」

 

 「次は、どうすればいいっすか?」


 半ば自棄で聞きながらも、剛力恋は内心で、「鉄板を割ってみろ、と言われたら困るっすね」と危惧していた。

 幸い、ここには、鉄板を出せる、つまりは、錬金属性に長けた魔属はいない。だが、紅壱は、人間の世界と怪異の世界を自在に行き来できる、と知っているので、不安は払拭しきれない。とは言っても、「やれ」と命じられたら、挑むしかない。


 「林二、次はな、木と石の板を重ねて構えろ。

 木の板が表に、剛力恋の方になるように持て」


 「は、はい」


 混乱しつつも、林二は言われた通りにする。


 「この二枚を一緒に割ればいいっすか?」


 そうだ、と紅壱が頷いたので、「うっす」と剛力恋は頷き返すが、今度は、いきなり、パンチを放ちはしなかった。本当は、焦燥イライラに任せて、殴打なぐりたかったのだが、木の板二枚ならまだしも、木の板の後ろには石板がある。

 力任せに殴ると、板だけでなく、自分の掌の骨も割れかねない。

 パンチを打つ事に躊躇していた剛力恋は、気まずそうな面持ちで、紅壱に尋ねる。


 「魔術で、パンチ力をアップさせてもいいっすかね」


 「おぅ、魔力を回復させて、使えるなら使っていいぞ」


 ならば問題ない、と鼻の穴を少し膨らませた剛力恋は、栄養ドリンクで回復した魔力を使い、攻撃力を向上させる。


 「攻撃アタック強化アップ


 魔術を使っていいのであれば、石板の二枚重ねであっても恐れる事はない。


 「やっ」


 一つ、気合の声を出し、剛力恋はキレの良いパンチを繰り出し、木と石の板を打ち割った。スッと胸に染み渡る快音が、一帯に響き、剛力恋は笑みを浮かべた。

 どうだ、と言わんばかりに、剛力恋は紅壱を見るも、彼の方は剛力恋を見てはいなかった。

 彼は林二から割れた二種類の板を受け取ると、その断面を見て、指で擦った。それで、剛力恋の打撃力が、自分の求める水準に辛うじて達している、と判断した紅壱。

ダメージはまだ残っていたが、自分がどんな技で、紅壱に負けてしまったのか、剛力恋は気になって仕方ない

分からない時は聞くのが一番、彼女は恥ずかしがることなく、紅壱にどんな技を使ったのか、を尋ね、その技を伝授してほしい、と懇願する

教えて自分が不利になるわけではないし、当中鬼も気合が漲っているので、教えてやることにする

とは言え、彼女の強さが、その技を使える可能性を掴めるか、そこを確認せねば話は始まらない

紅壱は、林二に木板、磊二に石板の作成を頼む

謎の技を教えてほしいのに、どうしてか、板をパンチで割らされる事に剛力恋は疑問と焦燥を募らせていく

果たして、剛力恋は紅壱から、技を教えてもらえるのか?!

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