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とある生徒会長の本音は日誌だけが知っている  作者: 『黒狗』の優樹
紅壱は、若手の成長を確認する
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第百六十七話 同類(the same kind) 紅壱、完二が修一のようになってしまったら困るな、と不安がる

これからの戦いに向け、自分も魔術を使えるようになる必要がある、と考えていた紅壱

準備を、アルシエルで最も、魔術に造詣が明るい弧慕一に任せ、彼は林二ら、若手の実力を確認するべく、手合わせをする事に

罠を仕込んで善戦するも完敗してしまった磊二に続き、完二と剛力恋が急造タッグで紅壱に挑む

二匹は覚えた自己強化の魔術を使い、紅壱へ果敢に立ち向かうも、実力の彼我は、あまりにも大きかった

健闘虚しく、完二と剛力恋は再び、紅壱に敗北してしまう

 「い、痛かった・・・」


 「悪かったな、完二。ちょい、やりすぎたか」


 すまなそうに頬を掻く紅壱に、林二がキッパリと物申す。


 「王様、完二に謝る必要はありません。

 これは、同意あっての腕試しです」

 

 「そうだぞ、王様・・・油断してたオラが悪いんだ」


 つい、泣き言が漏れてしまった気恥ずかしさから、再び涙ぐんだ完二は誤魔化すように、目元を乱暴に擦った。そんな意地っ張りな友人に、磊二は「どうぞ」とハンカチを手渡す。


 「けど、一体、何をされたか、全然、分からなかったぞ」


 「倒された完二さんが、サッパリなら、外から観ていた私達には、もっと、全然でしたよ」


 「気付いたら、突っ込んでいたカンジが倒れていて、王が腕に技をかけていた」


 うんうんと頷き合う磊二と骸二に、完二は自分が何をされたのか、を思い出そうとする。

 そんな完二の傍らへ、おもむろにしゃがみこんだ紅壱。


 「一応、腕、確認するぞ」


 しばらく、彼の腕を揉んだ紅壱は、動きを指示する。

 完二が指示通りに腕を動かせたのを見て、紅壱はホッとしたように、唇の両端を上げた。


 「大丈夫だな。

 けど、今日は、もう、筋トレや力仕事はするな、念のために」


 何をされたか、分からないからこそ、モヤモヤを吹き飛ばすべく、体を使おうと思っていたのか、完二はショックを受ける。けれど、紅壱の言葉は絶対だ。

 「わかったぞ」と頷いた完二の内心が判るのだろう、紅壱は苦笑し、彼の肩に手を置く。

 

 「壊しちゃいないが、無理すれば、腱を痛めちまうかもしれない。

 俺の為に使ってくれるんだろう、お前の剛力パワーを」


 「!!」


 「なら、俺の為に、今はしっかり休んで、ダメージを抜け」


 今度の「わかったぞ」には、嫌々と言った雰囲気は微塵もなかった。


 「まぁ、気持ちは察するよ。

 俺も、訳分からねぇくらいの強さで、ズタボロにされた時は、そりゃ、もう、悔しくて、今度は負けねぇって気持ちで、一から鍛え直そうとしたからよ。

 結局、それも止められちまったけどな」


 「王様でも負けるのですか!?」


 驚く林二達に、「当たり前じゃないか」と、逆に目を見開く紅壱。


 「むしろ、俺のこれまでの人生は、白星より黒星の方が遥かに多いんだぞ」


 信じられない、と慄く林二らだが、紅壱が「けど、そんな俺でも、支えてくれるお前らがいるなら、かなり心強いけどな」と、笑顔で告げると、たちまちにシャキッとする。


 「任せて下さい」


 「俺らは、もっと強くなるぞ」


 「精進します」


 「決して、失望はさせない」


 「あぁ、期待してるぞ」


 彼らの力強い言葉に満面の笑みを浮かべながらも、紅壱は尊敬の眼差しを向けられ、少しばかり、こそばゆくなる。そんなむず痒さを誤魔化すように、完二へ紅壱は一つ、アドバイスを送る。


 「完二」


 「お、おう」


 紅壱が微笑みながらも、声のトーンはいくらか真面目にして、己の最大の誇りにして、闘争心の拠り所となっている名を口にしたので、完二は自然と居住まいを正す。


 「お前は体格が良い。パワーもある。

 なおかつ、動きは鈍重にぶくない。その体格から考えれば、十分にスピーディだ」


 唐突に褒められ、完二は戸惑うが、続きが重要そうだ、と気付いたようで、表情は崩さず、無言で傾聴の意思を示す。


 「ただ、戦い方が、中途半端にパワーに頼り過ぎている」


 「・・・・・・中途半端に」


 「悪い訳じゃない、とことん、パワーを付けるのが。

 むしろ、お前に小技は求めない。

 その大きい体で皆を守り、敵をパワフルに薙ぎ倒す、そういう役目を任せたい訳だからな」


 「今のままでは、その大役が務まらない、と」


 林二の言葉に、紅壱は鷹揚に頷く。


 「力は鍛えろ、でもな、頭を使うのは止めるな」


 「?」


 直に言われた完二はポカン顔だが、聡明な磊二は紅壱が、親友に求めている事が理解できたのだろう、ポンと手を打った。


 「完二さん、王様は多くの技を知り、考えろ、と言っているんですよ」


 完二はまだ、首を傾げていたが、他の二匹も理解が及んだようで、「なるほど」と首を盾に振った。

 置いてきぼりの完二は、ますます、困惑してしまう。


 「つまりだな、お前は知識不足なんだ、完二」


 「知識不足」

 

 「そうだ。

 王様が、お前を倒した技術、あれはともかくとして、関節を極めたあの技は、もし、事前に知っていたら、かけられても腕を抜く事が出来たんじゃないか。

 もしかしたら、あの技をかけられる事もなかったかもしれない」


 「!!」


 やっと、合点がいったらしい、完二も。

 フォローを入れてくれた林二と骸二へ、紅壱は目で礼を言いつつ、説明を続けろ、と促す。

 まさかの事態に焦った二匹だが、やはり、拒めない。


 「王様は、お前にパワーが自慢の戦士になる事を求めている。

 だが、それは、ただ力だけの戦士じゃないはずだ。

 敵が、どんな攻撃を仕掛けてこようとも、冷静に対処ができて、鍛え上げたパワーで叩き潰せる戦士にならなきゃいけない」


 「そういう戦士になるには、技の事も知らねばならない。

 相手が、自分のパワーを封じる為に、どんな技を使ってくるか。その技を、自分はどう対処するべきなのか、それを知り、考え、身に着けて、初めて、王の為に力を磨いた、と言えるんじゃないか」

 

 二匹が、完二に、自分が言ってほしい事を溢さずに説明してくれた事に安堵する紅壱。


 「完二、お前が頭を使うのが苦手なのは、俺も知っている。

 だがな、パワーを活かすには、無知のままじゃいけねぇんだ。

 知っている、それはアドバンテージとしてデカいぞ。

 関節技への対応を、体に覚え込ませたとなったら、更に大きい」


 そうか、とだけ呟き、押し黙った完二は自らの、硬く握り締めた拳を凝視する。

 だけれども、自分がすべき事を見据えた彼の存在感は、紅壱へ挑む前よりも、力強さが増している、と仲間は感じた。

 

 「絵や写真が多い本なら、お前らでも読めるよな。

 それに、俺も時間を作って、関節技サブミッションをレクチャーしてやる」


 紅壱の提案に、林二らは喜びを覚えるも、ふと気付く。つまり、それは自分達の体で、関節を極められる痛みを教え込まれる事なのでは、と。

 微妙に顔が引き攣った一同に、「どうした」と心配そうに問いかける一方で、紅壱が頭に思い浮かべていたのは、今、完二へ送った助言を引っ繰り返してしまう親友ライバルだ。


 (アイツは、別格の例外だからな)


 括りを広くして言えば、完二と修一は同類だろう。

 けれども、修一は関節技の知識がない。覚えようとも、誰かに教わろうとしたこともない。

 だが、彼にサブミッションを仕掛け、成功できる者は数少ない。紅壱であっても、修一が相手では、成功確率がグンッと低下る。

 修一は、関節技のイロハを本当に知らないはずなのに、野生の勘で危険を察知するのか、関節を相手へ取らせない。しかも、仮に、相手が関節技を仕掛けたとしても、修一は痛みやダメージなど無視して、力任せで技を強制的に外させてしまう。

 単純すぎるパワーの前には、スマートさが足りない関節技など通じない。

 紅壱にしても、修一相手に関節技を時に仕掛け、勝利を得た事はあるが、それも、彼を降参させた訳じゃない。

 骨が外れた痛みくらいで、修一は負けを認めないので、紅壱は仕方なく、彼を銅銹どうしゅう-足で頸動脈を絞める―を使った。しかし、それ以降は、銅銹だけでなく、他の首を絞める技まで行けなくなってしまった。

 修一は、肘が外れても殴ってくるし、膝が外れても立ち上がるのだから。

 修一ほど、頑丈で頑健となれば、対応など知る必要はない、と言えるだろうが、完二がその域に到達できる可能性は低い、著しく。肉体性能ならば、人間よりも魔属の方が優れていても。

 むしろ、なられては困る、修一のような、喧嘩バカに。

 

 何度も言うようだが、傍からすれば、紅壱も同じ穴の狢である。けれども、紅壱は自分の事を棚上げしていた。

 紅壱も、それなりの人数の、同年代の不良や、血の気の多いヤクザと、様々な理由で小競り合いをしてきた。その中には、格闘技の経験がある者もいたので、関節技を仕掛けてこようとする者もいた、無謀にも。

 紅壱は、その技の激痛いたいかけ方を知っていたので、かけられない方法も、技の解き方も熟知していた。

 関節を極めて、折るならまだしも、降参の二文字を相手から引き出して、勝つなど女々しい、と思っている修一は、手練れに関節技をかけられてしまう事も多かった。

 けれど、先にも書いた通り、修一は自分のダメージなどお構いなしで、戦い続ける。

 紅壱は修一以外には知らなかった、肘を完全に極められているのに、腕力だけで相手を持ち上げられる中学生を。しかも、そのまま、地面に全力で、揺れた、と錯覚するほどに、叩きつける、そんな漫画の中でしか見た事がないような勝ち方をした奴は。

 君には出来ないのか、と尋ねられたら、修一にだけは負けたくない紅壱は、「出来る」と答えはする。

 実際に、闘気で腕力を底上げし、その腕を相手のかけてきている関節技と自らの無茶で壊れぬよう、闘氣で硬質化させた状態ならば、相手を腕にくっつけたまま立ち上がって、壁や地面へ叩きつけられる。

 とは言え、紅壱のスタンスは、寝技が得意な相手には、何もさせず、立ったままで倒す、なので、わざわざ、やったりはしない。

 修一にとって、喧嘩は殴り合いを制する事だが、紅壱の中で、喧嘩は、なるべく効率的に勝つべき事なのだ。

 相手が、全てを乗せている攻撃に感じる痛みが心地よくない訳じゃないが、痛みや傷は少ない方が良い。

 常に、相手がお行儀よく、一対一を続けてくれる訳じゃない。半グレや武闘派のヤクザ相手では、多人数の乱戦が相手だ。体力を温存しなければ、最後まで立ってはいられない。

 並みの不良では、例え、100人がかりであっても、紅壱の体力を空には出来ないし、紅壱自身もスタミナは豊富だ、と自負しているが、彼は常に万が一の事態を考慮して戦う癖が備わっていた。

 アルシエルを守るために戦う魔属たちが、修一のような戦いを好んでするようになる可能性は、限りなく、0に等しい。

 そうだとしても、今後、修一をこちらに連れてくる予定がある以上は、彼から悪影響を受けないよう、頭で考えて戦う、このスタイルを今の内から、徹底的に指導おしえ、彼らがどんな敵とも戦えるようにするのが、トップである自分の仕事だ、と紅壱は真面目に考えていたのだ。

紅壱に関節技を決められ、惨敗を喫した完二

落ち込む彼に、紅壱はアドバイスを一つ送る

負けから目を逸らさず、自分の長所であるパワーを更に高めると同時に、多くの技を知り、その対処も覚えろ、と

無知のままでは、無駄な負けが嵩んでいくだけであり、成長しない、と知った完二は、もっと知識を得て、強くなろう、と決意する

前を見据える彼に頼もしさを覚える一方で、紅壱は完二が修一のようにはならないでほしい、と望む

もちろん、紅壱だって、人であろうと、怪異であろうと、修一の純粋かつ天然な最強性に到達できるはずがない事は理解している

だからこそ、紅壱は、完二に技への対応を覚えるようにアドバイスを送ったのだが

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