表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
とある生徒会長の本音は日誌だけが知っている  作者: 『黒狗』の優樹
紅壱は、若手の成長を確認する
166/437

第百六十五話 攻強(strengthen attack) 剛力恋と完二、攻撃強化魔術を発動させる

弧慕一の準備が済むまで、若手らの実力を確認する事にした紅壱

まず、磊二が挑戦者に名乗りを上げる

彼は得意とする石弾攻撃を駆使し、紅壱へ猛攻を仕掛ける、事前に用意していた落とし穴へ追い込むように

しかし、最初から、紅壱は磊二の作戦を読んでおり、落ちたと見せかけて、石柱を変わり身に使い、磊二の背後を取って、降参させた

奮戦するも、策と力が及ばず、落ち込む磊二へ、紅壱は淡々と助言する、俺を殺す気が来なければダメだ、と

己の本気が足りなかった、と反省する磊二の成長に期待しつつ、紅壱は次の相手を求める

 殺す気で来い、と紅壱に言われていた事もあって、躊躇なく、全力フルパワーで彼の顔面に殴りかかろうとしていた剛力恋。

 彼女は、いつの間にか、眼前へ迫っていた紅壱の指を、咄嗟に交差させた両腕で防ぐ。

 デコピンの音とは思えない破裂音が、指の直撃した腕から上がる。観戦していた林二らは、輔一が放ってくる放電エレキング貫槍・ランスの痛みを思い出した、その音を耳にして。

 剛力恋は、紅壱のデコピンの威力が、林二の丸太突きや完二のナックルアローよりも強い事を知っていたからこそ、反射的に踏ん張らず、後ろへ跳んで威力を逃がそうとした。それでも、数mは着地の予想地点からズレてしまった。


 「ぐべっ!?」


 けれど、それが功を奏す。もしも、そこに着地していたら、剛力恋は紅壱に投げ飛ばされてきた完二に圧し潰され、その時点で戦闘不能リタイアになっていただろう。

 掴みかかろうとしていた自分が、紅壱にどうやって投げられたのか、理解が出来なかった完二だが、混乱は宙を飛んでいる間に鎮めた。彼は彼で、精神的に、しっかりと成長しているようである。

 ノーダメージとは行かなかったが、受け身で痛みと体力の目減りは最小限に抑えた完二は、自分の脇に立った剛力恋と目配せを交わす。

 言葉はなかったが、紅壱に一発入れる、その野心が燃えている二匹には、アイコンタクトを一つ交わすだけで十分だった。


 「うらあっ」


 「シャッ!」


 すぐさま駆けだした剛力恋と完二は、悠然と歩いてくる紅壱へ同時に殴りかかる。

 前から迫る二つの拳、並みの格闘者ファイターであれば、どちらを先に対応すべきか、迷って、動けなくなる状況であるが、紅壱にとっては、慌てるような事ではない。

 判断を誤れば、大怪我に繋がりかねないスパーリング中だとは思えないほど、柔和な微笑み(スマイル)を浮かべたままで、紅壱は両掌を顔の位置まで上げる。

 掌に拳が当たった、パンチを受け止められた感覚は、二匹になかった。

 防御ふせがれる事は、解かりきっていた事なので、容易に受け止められたくらいじゃ、怯まない、と決めていた。

 止められてからが、むしろ、チャンスだ、と考え、剛力恋は止まらずに連打を繰り出すつもりでいた。

 完二の方は、剛力恋へ向く意識を自分の方へ少しでも割かれるよう、紅壱へ受け止められた拳を力任せに、そのまま押し込む。または、拳を解いて、掌と掌を合わせ、再び、握力勝負を仕掛けようとしていた。

 だが、二匹の思惑は外される、そりゃ、ものの見事に。

 気付いたら、剛力恋と完二は土を食べていた。

 パンチの軌道を、驚くほど滑らかに変えられた二匹ですら、何をされたか、理解が出来ないのだ。真面目に観戦している林二達からしたら、もっと訳が分からない。

 林二らの目には、剛力恋と完二が、紅壱が手を上げたら、勝手に倒れたように映っていた。

 拳が掌に上がった瞬間に、破裂音の一つでも響いていれば、紅壱が二匹の攻撃をズラし、転倒を誘った、と推測も叶っただろうが、本当に、不気味なほど無音で、彼らの耳に入ったのは、剛力恋と完二が地面にぶつかった音だけだった。


 「「ッッ」」


 訳は分からない。だが、自分達は今、紅壱を挟める形になっている事に気付いた剛力恋と完二の立ち直りは迅速はやかった。


 「「自己攻撃アタック強化アップッッ!!」」


 剛力恋と完二は、同時に、自身の攻撃力を魔術で高めた。

 パシュンッ、と音が鳴り、二匹の体を余さずに覆ったオレンジ色の光、それが発散ハジける。


 「おっ」


 二匹が自分で補助サポート系の魔術を使った事に軽く驚いた紅壱は、つい、彼らへの攻撃を止めてしまう。それは、魔術により、剛力恋と完二が、どれほど強くなったか、興味があったからに他ならない。

 前衛の戦士タイプである二匹は所持魔力量こそ低いが、それでも、自らを強化できる。と言うよりも、今後も紅壱の下、いや、周囲で戦うには、最低限の強化魔術は使えるようにならねばならない、と彼の実力を知った事で思い知ったのだろう。

 紅壱は、現時点で、背中すら見えず、影すら踏めないほどに強い。にもかかわらず、魔力の扱いを弧慕一から教わって、更に上の強さに到ろうとしている。

 王が自分に限界はない、もっと強くなる、と誰よりも自分の伸びしろを信じて、努力しているのだ。

 幹部の自分達が、ちょっと進化したくらいで、現状に甘んじている訳にはいかない。

 確かに、紅壱は自分達が守らなくても強い。しかし、その紅壱だって、アルシエルにいる全ての非戦闘員の魔属を守れる訳じゃない。今後、彼が魔術を習得したら、可能になるとしてもだ。

 なれば、紅壱の負担と心労を減らせるよう、彼の力に少しでもなれるよう、彼のアルシエルを守りたい、そんな純粋な王としての願いを支えられるよう、自分達がもっと強くなる必要があった。

 これまでは、魔術など覚えなくても、体を鍛えれば、それで事足りると決めつけていたが、魔術を扱う仲間らを見て、剛力恋らは考えを改めた。

 筋肉馬鹿な自分達の強さを、より引き出してくれるのは、魔術師だ。そんな彼らに、大逆転の魔術を使わせるために、戦う盾となるのが自分達の役目。それを果たすには、自分達も必要最低限の魔術は使えるようになる必要がある、と思い知った。

 弧慕一は悩む彼らへ助言した、覚えるべきは一つ二つの補助魔術で良い、ただし、そのスキルをとことん高めよ、と。中途半端に覚えた弱い十の魔術よりも、とことんまで極めに極めた一つの魔術が打ち克つ事もある、と。

 彼のアドバイスに従い、剛力恋らは自己強化の魔術を極める、と決意した。


 怪異は、人間の魔術師とは異なり、長い呪文を唱える必要がない。

 人間の魔術師は、自身の有する魔力を、呪文や陣形によってエネルギーを任意のポイントへ集め、イメージ通りの形状に固定しなければならない。

 だが、怪異は、そもそもが魔力や妖力の塊であるから、呪文で集める、形を固定する、その過程を必要としない。使いたい術の結果に一直線で結びつき、発動させてくれる、その術の名、スキルを口にするだけで良いのだ。

 人間の魔術師よりも、魔力を使いきってしまうのが速い、そんな弱点もあるが、それでも、速効性は十分すぎるアドバンテージであった。

 また、怪異は、同じ呪文を発動つかえば発動つかうほど、威力が上がる、もしくは、持続時間が長くなっていく。加えて、魔力の消費も抑えられていくのだ。

 もちろん、術のレベルは、人間と同じく、一朝一夕で上がる訳ではないにしても、やはり、呪文の短縮に苦労しないで済む分、有利ではあった。

 しかも、『組織』の許可がなければ、実戦でも使えない術がある人間と違い、怪異は常に、生きるか死ぬかの日常に身を置き、魔術を頻繁に使う。なので、成長速度は人間よりも上、と言えた。当然、死ぬ確率も高い訳だが。


 魔力量は少なく、強化系の補助魔術を使い始めた剛力恋と完二の術の熟練度は、まだ低い。今の二匹では、せいぜい、自分達の攻撃力を約3分ほど、二倍まで高められるだけだ。

 それでも使わねば、紅壱に、今の自分達を見て貰う事、全力をぶつける事も叶わない。


 「行くっす」


 「おぉ!!」


 魔術により、すぐさま、自身の体に力が漲ったのを感じ、、二匹は両サイドから、怒涛の連打を繰り出す。

 剛力恋と完二は、紅壱が両方からの攻撃に対応できる、と理解わかっていた。

 だからこそ、紅壱が自分達の攻撃を同時処理できる集中力を失うまで、攻め続ける、と決意していた。

 挟み撃ちの状態から逃がさないようにしつつ、二匹はお互いの繰り出す攻撃の種類が被らないように気を付けた。異なる攻撃が左右から迫れば、紅壱も対処に苦慮するはずだ、と頭を使ったようである。

 剛力恋が右ジャブを繰り出せば、完二は左ショートアッパーを。

 剛力恋が右ミドルキックを繰り出せば、完二は左下段回し蹴りを。

 剛力恋が手刀の突きを繰り出せば、完二はラリアットを。

 剛力恋が引っ掻きを振り上げれば、完二は拳槌を振り降ろす。

 作戦としては悪くなかった。甘かったのは、ひとえに紅壱の強さに対する見通しか。

 二匹の繰り出す攻撃は、どれもが鋭く、重い。完璧には程遠いとしても、息はしっかりと合っている。通常種のオーガでも仕留めきれる協力攻撃だったのではないか。


 「いいぞ、お前ら」


 しかし、二人の猛攻を愉悦たのしむ紅壱はノーマルの大鬼オーガよりも、遥かに強い。

 そんな彼には、彼らの攻撃は初期動作が丸分かりだったので、対応するのは難しくなかった。

 繰り出すタイミングに一瞬のズレすらもないほど、日頃から、コンビネーションを剛力恋と完二が磨いていれば、多少の苦労もあっただろうが、二人は手合わせして、互いの強さや攻撃パターンは知っていても、即席で呼吸を一致させられるほど親密ではない。

 二匹とも、かなり、我が強い。相手が自分の攻撃に合わせるのが当たり前だ、と心の奥底では思っているので、どうしても、ドンピシャのタイミングに攻撃を合わせられない。

 そうなれば、紅壱は左と右を一度に防ぐのではなく、どちらか先を捌いてから、もう片方も防げばいい。

 良い意味で自分を殺し、空気が読める林二であれば、剛力恋だろうと、完二だろうと、相手に自分の攻撃を合わせられたかもしれない。

 剛力恋も完二も、自分の攻撃で、紅壱を倒すとしか考えていないので、お互いの攻撃が活きる攻撃を繰り出していない。林二であれば、ペアの攻撃が紅壱に当たる確率が上がるよう、紅壱の集中にノイズが走るような、威力ではなく牽制を意識した、嫌らしい攻撃をしてきていただろう。

 まだまだだな、と溜息を噛み殺し、紅壱は剛力恋のエルボーを掌で、完二の膝蹴りを脛で防ぐ。

 紅壱の集中を削ぐつもりでいたのに、二匹の体力が先に尽きてしまいそうである。

 このままではジリ貧だ、ほぼ同じタイミングで、その結論に達したのか、剛力恋と完二はすぐさま、挟み撃ちの立ち位置を崩した。


 「ゴリコ!!」


 「了解っす」


 名を呼ばれただけだったが、剛力恋は完二の作戦を理解し、それを受け入れた。

 その作戦は、完二が危険に陥るものだった。けれど、完二はリスクを承知し、自分に任せろ、と言葉に出さず言ってくれたのだから、剛力恋は彼の強さを信じて、自分が出せる全力のちょっと先を振り絞るだけだ。


 「自己防御ディフェンス強化アップ自己防御ディフェンス強化アップ自己防御ディフェンス強化アップッッ」


 完二の残存魔力は、第一階梯の「自己攻撃アタック強化アップ」が四回分だった。その三回分を、完二は防御力の強化へ充てた。スキルを三度、連呼したからか、完二の体を覆った黄土色の光は三回、弾けた。

 見た目からは分からないけれど、今の完二の防御力は、奥一すら一時的に上回り、吾武一の拳打ですら、一撃で倒せない頑強さに到っていた。

 もちろん、完二だって、その程度で紅壱の攻撃にいくらでも耐えられる、と調子には乗れない。

 だからこそ、間を置かずに魔術を使い、防御力を上限まで高めた事で、逆に悲鳴が漏れだしている肉体に無理強いをする、ただ、紅壱から一本を取る為だけに。

紅壱の挑発で、カチンと来た完二と剛力恋は二匹がかりで彼へ挑戦する

普段から、組手をしているだけあって、二匹の連携はそれなりに質が高かった

しかし、共闘を意識した鍛錬を積んでいない事もあり、完二と剛力恋の猛攻は届かない

魔力切れになるのも覚悟で、二匹は覚えたての自己強化呪文を使い、更に紅壱へ激しい攻撃を加える

出し惜しみしない二匹に、紅壱の顔には自然と笑みが浮かぶ

果たして、完二と剛力恋は勝つ事が出来るのか!?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ