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とある生徒会長の本音は日誌だけが知っている  作者: 『黒狗』の優樹
紅壱は、若手の成長を確認する
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第百六十四話 地均(level the ground) コボルト達、凸凹になった地面を術で均す

自身が魔力を自在に使えるようになる儀式の準備が済むまで、若手幹部の努力が、どれほどのものか、確認する事にした紅壱

まず、最初に挑んだのは、コボルド族のナンバー2である磊二

彼は得意とする石弾や石柱を用いた地土属性の攻撃魔術を駆使し、紅壱へ猛攻を仕掛けていく

そして、磊二は修練場に仕込んでおいた落とし穴へ紅壱を追い込み、勝利を確信したのだが、残念ながら、紅壱は落とし穴に気付いており、落ちたと見せかけ、変わり身の術を使い、磊二から「参った」の言葉を引き出すのだった

落ち込む磊二に、紅壱は負けた理由、自分に何が足りなかったのか、考えてみろ、と告げる

 「自分を殺す気で来いってことっすか、タツヒメ様」


 恐る恐る、剛力恋が確認すると、紅壱は「あぁ」と微笑み、己の胸をトントンと打った親指の先で、喉を掻っ切る動作を行った。


 「この前、剛力恋と林二は、俺に煽られていたから、殺意はなかったにしろ、怒気はあった。

 あれは、良い怒気だったな、うん。

 だが、磊二は出来るだけ、感情は抑え、俺を落とし穴にはめ、降参を促して勝つ気でいた」


 そうだな、と問われ、磊二は気まずそうにしながらも、ハッキリと頷いた。


 「だめでござるか?」


 「悪いとは言わんが、甘いな、考えが。

 ハッキリ言って、お前らの今の実力じゃ、俺は殺せない。傷一つ付けられないんだからなァ。

 だから、安心して、俺を殺せる攻撃をしてきて良いんだぞ」


 朗らかに、己の命を脅かしてこい、そんな物騒な事を言い、紅壱は変わり果てた修練場を見回す。


 「磊二、お前が得意としている石の弾、これは、まぁ、悪くなかった。

 確実に当てに来ていたからな」


 「まさか、額に当たったのに、倒れもしないとは思いませんでした」


 「俺らなら、確実に死んでいたな」


 「死なないにしても、戦闘の続行は厳しかっただろう」


 彼らの弱気な発言に、紅壱の眉は顰められる。それに気付き、若手の幹部らは竦んでしまう。


 「おいおい、そんな情けない事を言っちゃ困るな。

 他の群れが攻めてきて、磊二のように、いや、今の磊二よりも強力な、石の塊を飛ばしてくる術を使う奴がいても、無理だ、と諦めて、戦いに勝つのを諦めるのか。

 アルシエルの主戦力となるべきお前らが弱腰になっちまったら、誰も守れないぞ」


 壊滅させられた村や、皆殺しにされた村魔を思い浮かべ、つい、生温いにもほどがある事を口にしてしまった自分達への怒りが湧き上がったのか、剛力恋らは一斉に頭を下げる。


 「もう、言わないっす。

 絶対に、村を守ってみせるっす」


 「あぁ、絶対に、皆は殺させない。

 体に当たったらヤバいって分かっているなら、当たってもヤバくないように鍛えればいい」


 「俺は盾で守る技を覚える」


 「私は、皆を守れる大きさと硬さの壁を作ります」


 「俺はコイツでぶった切ってやる」と、骸二はジャマダハルを構える。


 「拙者なら、術を使われる前に仕留めるでござるよ」


 「そうね、遠距離攻撃専門の魔術師を無力化すれば、完二さん達が、攻めに集中できるものね」


 各々が決意を新たにしてくれたのを見て、満足気に微笑んだ紅壱は、磊二への助言を再開した。


 「石の柱、これが惜しかったな」


 紅壱の指先にある石柱を睨んだ磊二は、どうするべきだったか、を考えようとしたが、独りでは限界がある、と剛力恋らにも、自分達がどうされたら嫌だったか、意見を出してもらうことにした。


 「アタシは、あのまんまでも、結構、脅威っす。

 威力もそうっすけど、出てくるスピードがヤバくないっすか」


 「顎や鳩尾と言った急所に直撃すると、危険でござるな」


 「速さはともかくとして、太さが足りないんじゃないかしら」


 「真っ直ぐに一本だけ伸びてくるから、地面から出てくる瞬間さえ察知できれば、回避は出来るな」


 「当たる前に壊す事も出来る」


 「当てるんじゃなくて、敵の動線を断つ事に重きを置くべきかもな」


 「先端が尖っていたら、どうでしょう」


 磊二の出した意見に、一同は「怖いな」と同意する。


 「石弾だけじゃなく、石柱も撃ち出されたら、結構、おっかないっすね」


 「当てるのが当然にしろ、仮に外れても、相手の動きは制限できるな」


 「敵が多くて、ゴチャゴチャしているトコなら、地面から生やしても、撃ち飛ばしても、効果的だぞ」


 「一理あるな。破片が周囲の奴に飛んで、広範囲の攻撃にもなる」


 積極的に意見を出してくれる仲間達に感謝しながら、磊二はそれをメモしていく。

 かつては、自分で作った石板に魔力で彫っていたのだが、紅壱が持ってきてくれた荷物の中にあったボールペンと紙のメモ帳の便利さを知ってからは、それを愛用していた。

 コボルドの頃であれば、ペンは持てなかったが、名付けにより、ハイコボルドへ進化した磊二の手は人間に近づいており、練習により、人並みに扱えるようになっていた。

 ちなみに、魔属には文字の文化がないようで、磊二は皆の意見を図として、メモしていた。

 吾武一達から、その事を聞いていた紅壱は戦闘訓練の合間に、希望者へひらがなやカタカナ、漢字、余裕があれば、アルファベットを教えようか、と考えていた。

 磊二が、これから、どう成長していくか、それは彼自身の努力次第だが、紅壱としては、戦える文官になって貰いたかった。

 王として、彼らを守るために戦い、良い未来に導くための努力は惜しまないつもりだが、吾武一らが成長して、仕事が丸投げできるようになれば、それはそれで助かる、と期待している紅壱。

 自分一人で、何でも出来る、と驕るほど、彼は若くない。

 いや、高校生なんだから若いだろ、とツッコミが聞こえてきそうではあるが、紅壱の目指す王は、助け合える王だった。


 「石柱の反省かつ改善点は、見えたようだな、磊二」


 「はい、皆のおかげです」


 「じゃあ、落とし穴の方は、後で話し合ってみろ」


 コクリと頷いた磊二だが、ふと申し訳なさそうな表情になった。


 「すみません、皆」


 「何が?」


 「修練場をボロボロにしてしまいました」


 「いやー、王様相手にして、この損害に抑えたってのは、凄いんじゃないか。

 まぁ、そのセーブを叱られちまったんだけどよ」


 「早速、村から道具を持ってきて、直そう」


 「手伝ってくれるんですか?」


 「当たり前じゃないっすか。

 タツヒメ様相手に、あんだけ出し切って、魔力がスッカラカンのライさんに修繕を押しつけたら、仲間失格っすよ」

 

 「拙者も、忍術の修行になるでござる」


 「・・・・・・残念だけど、修行はお預けのようね」


 彗慧骨の言葉に、皆が同じ方向を見ると、アルシエルの方から、十体ほどのコボルドがやってきた。


 「どうした、緊急事態か」


 紅壱の言葉に、最も前にいたコボルドが「違いますコボ、村長」と、緊張しながら首を横に振った。


 「弧慕一様に言われてきましたコボ」


 「弧慕一様に?」


 「はいコボ。

 磊二様が、紅壱様に挑めば、修練場はボロボロになる。

 だから、次のチャレンジャーが、すぐに紅壱様へ挑めるよう、魔力に余裕のあるコボルドは修練場に行って、地面を均してきてくれ、と」


 「さすが、コボルドの長。何でもお見通しか」


 「パないっすね」


 父かつ上司である弧慕一にやり過ぎる事を見抜かれ、フォローまでされてしまい、磊二は気恥ずかしそうだ。


 「地面や穴はともかくとして、石柱はコボルドじゃ無理だろ」


 「では、我らが」


 紅壱が率先して手伝いに動こうとしたのを察したのか、林二はすぐさま動く。完二と骸二も彼を追う。


 「よいしょ」


 そこらかしこに生えている石柱を根元から倒し、三匹で担ぎ上げ、邪魔にならない場所へ運んでいく。あとで砕き、通す予定の水路の底へ敷く気らしい。


 「拙者達も、負けてられないでござるよ」


 「そうっすね」


 「さすがに、私は重い石は持てないから、一度、村に戻って、タオルと飲み物を取ってくるわ」


 よろしくっす、頼むでござる、と彗慧骨に頼んだ剛力恋と影陰忍は、石弾の破片を修練場の端に積んだり、コボルドが持ってきてくれたスコップを借りて、穴へ土を放り込んでく。

 紅壱も手伝いに行きたいのだが、その度に、林二が目で諫めてくるので、仕方なく、その場で腕組みをしているしかない。

 悶々としていても仕方がないので、紅壱はコボルドらの動きに注目する。

 弧慕一と磊二が、自らの努力も兼ねて指導しているからか、コボルドらの土を操る術は上達しているようだ。目を見張るほど速い訳じゃないが、丁寧だ、と感じる仕事をしている。

 前線には出せないにしろ、自陣の防塁や、敵の経路へ仕掛ける罠の設置は任せてもいいかもしれない。


 「均し作業、完了しました」


 約15分で、磊二の術により荒れてしまった修練場は、元通りに戻った。

 整列したコボルドらは汗だくの顔を土で汚していたが、一仕事を終え、達成感に満ちていた。

 そんな彼らに、紅壱は感謝の気持ちをたっぷりと込め、「ご苦労さん」と労いの言葉をかけた。ただ、それだけでコボルドらは報われ、紅壱が自分達の村長で良かった、と感じ入った。


 「ありがとう、助かった」


 磊二からも頭を下げられ、コボルドたちは恐縮しきりだ。

 村へ戻っていく彼らを見送り、紅壱は若手の幹部たちを見回す。


 「さて、誰がやる?

 剛力恋、リベンジマッチしてみるか?」


 「本当っすか」


 「他の奴らがやらないってんならな」


 剛力恋は期待するように、仲間達の顔を見る。しかし、彼らだって、紅壱に自分達の成長をアピールできる機会を待っていたのだ。剛力恋の、雪辱を果たしたい、その気持ちも理解するが、それはそれだ。


 「今度は、俺の番だ」と、太い腕を挙げたのは完二。


 「剛力恋、俺は譲る気はない。

 どうしてもって言うなら、まず、俺が相手だ」


 手加減はしねぇぞ、と力瘤を作る完二を、剛力恋は睨み返す。


 「別に、お前ら二匹がかりでも構わないぞ」


 「「・・・・・・は?」」


 「剛力恋と完二、二匹でも俺一人分の強さには達してないから、両方いっぺんにやってもいいぞ」


 二匹の喧嘩を止めるべきか、ハラハラしていた林二達は紅壱の煽りに唖然とするしかない。


 「何だ、二匹がかりでも自信がないのか」


 「やるっす」


 「やってやらぁ」


 「良い気迫だ」


 楽しそうに頷いた紅壱へ、先制攻撃フイウチを仕掛けようとした剛力恋。だが、百戦錬磨の紅壱が気付かないはずがない。


 「丸出しだぞ、闘争心が」

紅壱はハッキリと告げる、俺を殺す気でかかってこい、と

確かに、若手幹部は日々の努力で、その強さが高まってきているが、紅壱に勝つには、まだまだ足りない

だからこそ、本気で攻撃してこなければ、模擬戦をやる意味がない、と紅壱に言われ、自分達の温さを自覚した若手幹部たち

磊二の攻撃をどうすれば、紅壱の命に届いたか、を少し話し合った後に、剛力恋と完二が次の挑戦者に名乗り出る

二匹は、どっちが先に、紅壱へ挑むか、拳で決めようとしたのだが、紅壱は、どうせなら、二匹でかかってきて、俺を楽しませろ、と挑発するのだった

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