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とある生徒会長の本音は日誌だけが知っている  作者: 『黒狗』の優樹
紅壱は、若手の成長を確認する
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第百六十一話 苛虎(get irritated tiger) 雷汞丸、紅壱に苛立ちをぶつける

校外学習で訪れた山中に、偶喚されたデビル二匹と遭遇し、夏煌と共に撃破した紅壱

デビルが持っていた、謎の卵に不安を抱きつつ、彼は翌日、アルシエルを訪れた

食料や日用品を、吾武一に預けた後、紅壱は皆の前に立ち、演説をする事に

慣れない事はするもんじゃない、と緊張から出た汗を拭いた後、彼は吾武一らに、強くなりたいのならば、イメージトレーニングを徹底的に行え、とアドバイスを送ったのだった

 「では、我々も持ち場に戻ります」


 「おう、頼んだぞ」


 吾武一は日課の戦闘訓練の指導に、奥一と輔一は狩りを兼ねた、周辺の警備に出向いていく。

 その場に残ったのは、紅壱と若手幹部の面々だ。

 

 「じゃあ、弧慕一の準備が出来るまで、お前らと一緒に仕事でもするか。

 それとも、お前らの実力を確認しようか」


 その言葉に、素早く反応したのは、やはり、剛力恋と林二、完二だった。


 「アタシとやってほしいっす」


 「いや、俺とお願いします!!」


 「オレと戦ってくれッ」


 しかし、ここで意外な魔属が手をスッと挙げた。


 「王様、私と手合わせしていただけないでしょうか」


 磊二が、静かに、だが、しっかりと前に歩み出てきたので、紅壱に自分の今の強さをぶつけたがっていた三匹は戸惑ってしまう。

 他の魔属であれば、懇願を続けられただろうが、まさか、穏やかで、このような事態で、紅壱に自己アピールしてくるようなタイプではない磊二が意外な行動を起こしたのだ、剛力恋らが逡巡するのも当然だった。

 驚いたのは、紅壱も同じだったようで、ズレてもいない眼鏡を直してしまう。しかし、磊二の目を見れば、本気であるのは感じ取れた、しっかりと。


 「———————・・・じゃあ、最初は磊二とやるか」


 しまった、と言わんばかりの表情になった三匹だが、ここで割り込めるほど厚顔無恥ではないようで、多少は悔しそうにしていたが、素直に退いた。


 「王様、ここでは、さすがに手狭でしょう。

 あちらへ、広い修練場を拓きましたので、移動しませんか?」


 断る理由もないので、紅壱の首は縦に振られる。


 「では、ご案内します」


 紅壱が磊二に着いていこうとすると、怒気の籠った咆哮が轟いた。

 あまりの威圧感に、名は持っているとは言え、林二らは身動きが取れなくなってしまう。


 「玄壱の孫ォォォ」


 吼えながら、森の方からやってきたのは、雷汞丸だった。

 一応とは言え、両者同意のうえで、紅壱と契約が結ばれている彼なら、名を呼ばれずとも、自分の方から即座に紅壱の元に出現できるのだが、そんな事も忘れるほど、頭に血が上っているようだ。

 

 「貴様、よくもっ」


 何に怒っているのか、まるで察せない紅壱だったが、雷汞丸が爪を剥き出しにして振り降ろしてくる右足を回避よけると、その衝撃で仲間たちが傷付く。

 すぐさま判断した紅壱は、強烈な一撃を片腕で受け止める。

 雷汞丸の振り降ろし攻撃の怖さと破壊力を知っている剛力恋たちは、自分達の王が、その一撃を片腕だけで防いだ事に仰天する。


 「す、すごいっす」


 「さすが、拙者たちの殿さま」

 

 「とんでもねぇな」

 

 一同は驚き、紅壱への尊敬を更に高める。しかし、当の紅壱は、余裕綽々で雷汞丸の一撃をガードした訳じゃなかった。

 さすがに、常に発動させている薄い闘気だけでは不十分なのは判っていたので、即座に、闘氣で右腕を肩まで覆った。

 それでも、骨は軋み、痛みに眉は顰められた。地面に亀裂が走っているのは、紅壱が芳雲ほううんで衝撃を流したからだろう。


 「痛ってぇな」


 右肢を勢いよく弾いた紅壱だが、雷汞丸へ反撃する事はなかった。

 何故なら、既に、他の四体が集まり、雷汞丸を牽制していたからだ。

 雷汞丸も、四体から同時攻撃をされれば、自分も無傷では済まないのが分かっているのだろうが、苛立ちは、そう簡単に収まらないようで、紅壱を睨んできている。

 何なんだ、と呆れつつも、紅壱はアルシエルの村魔が強くなっている事を実感していた。

 雷汞丸の放つプレッシャーで、林二らは腰を抜かしかけたが、辛うじて、耐え切った。何より、全員、意識がしっかりしているのが、成長の証拠だ。


 「ちょ、何事・・・うっわっ」


 ゴブリン小僧が足取りはかなり怪しいも、動けている事実に対して、頼もしいな、と心中で満面の笑みを浮かべた紅壱は雷汞丸に、険しい表情で問う、「何のつもりだ」と。


 「貴様、何故だ」


 「だから、何がだ」


 「何故、昨日の戦い、俺をあそこへ召喚しなかった!?」


 「昨日?」


 すぐに、紅壱は雷汞丸が、デビル戦の事を言っているのに気付いた。

 原因が理解でき、紅壱は怒りではなく、呆れが湧いてしまう。


 「召喚よべる訳ないだろうが。

 あの時は、ナツが傍にいたし、そもそも、『組織』に無許可で、契約したパートナーを現世に召喚するのは禁止だ」


 言うまでもないことだが、紅壱は『組織』に従う気はない、一切。

 しかし、瑛には忠誠を捧げている。彼女の迷惑になるような行為は慎むつもりでいた。


 「あのデビルどもは、あっちに来た時点で、ズタボロだったんだぞ。

 仮に、お前を召喚よんでいたとしても、ろくに楽しめなかったんじゃねぇか」


 「お前が、俺を召喚していれば、デビルが喰えただろうが!!」


 その言葉に、味に文句は言いながらも、完食してしまった剛力恋らは気まずそうだ。


 「坊やにアナタ達に食べさせて、力を付けさせるつもりだったんだから、気に病む必要はないのよ」


 フォローを入れてくれたのは、雷汞丸と馬が合わない翠玉丸だった。


 「坊やだって、気付いてたでしょ、このバカ猫が、あの時に惰眠ねむりこけてたのに」


 まぁな、と紅壱は肩を竦めた。

 主従関係にあるので、紅壱は意識すれば、常にパートナーが、アルシエルで何をしているのか、把握している。 

 確かに、デビルが人間界に偶喚された時に、雷汞丸は熟睡していた。

 もちろん、翠玉丸らも紅壱が、どのような状況にあるのか、意識すれば、感じ取ることが出来た。

 実際、翠玉丸らは紅壱が森の中で、デビルと遭遇した事に気付いており、なおかつ、前記の理由で召喚される可能性が限りなく低い事も分かっていた。

 起きた後に、雷汞丸はアルシエルの住魔らがデビルを食べた事を残り香から知り、近場にいたスケルトンを脅し、紅壱が人間界でデビルを倒し、その死体をこちらへ送ってきた事も知ったらしい。


 「だから、坊やもお嬢さんたちも悪くないの。

 ろくでもないのは、このバカ猫だけよ」


 正論で絞め上げられた雷汞丸は、怒りと恥ずかしさで震えていた。


 「羅綾丸、いい」


 雷汞丸へ投網を吐きかけようとしていた羅綾丸を、ゆっくりと手で制した紅壱。巨翼を羽ばたかせ、空中から、雷汞丸に向かって風を叩きつけようとしていた風巻丸も攻撃を止めた。


 「わかった。

 次に、人間界で怪異が出て、どうにか一人になれそうだったら、お前を召喚する」


 約束する、と口にしてしまった紅壱に、翠玉丸は「ちょっと、坊や」と諫める。


 「本当だな、玄壱の孫」


 「ああ、誓う、アバドンさんの名のもとに」


 天使の元締めである神には誓いを立てたくない紅壱は、何の躊躇いもなく、魔王の名を口に出し、雷汞丸に頷いた。


 「だがな、次、人間界に何がやってきちまうか、俺一人になれるか、それは保証しないぞ。

 例え、ゴブリンでも、文句はないな。

 それと、出た怪異を倒したら、大人しく、こっちへ戻れ。

 物足りないからって、会長らを襲うのは無しだ」


 紅壱が出してきた条件に、雷汞丸は渋面となった。しかし、ここで妙にごねれば、召喚しない、と言いかねない。

 不安はあるが、呑むのが得策だ、と自分に言い聞かせた雷汞丸は、声の調子を低くして、「いいだろう」と受諾した。


 「二言はないな」


 「くどい」


 「よし」


 頷いた紅壱は右親指の腹を犬歯で噛み切ると、血を滲ませ、突き出す。

 その動作に、五匹は一瞬だけ、呆気に取られた。

 そのリアクションに、紅壱は首を傾げ、その理由を尋ねようとしたのだが、先に溜息を吐いた雷汞丸は、彼の元へ足早に歩み寄るや、真っ赤となっている右親指の腹へ、自らの肉球を軽く押しつけた。

 「しゃー」と翠玉丸は溜息を吐いたが、舌は楽しそうに動いている。「ハハッハ」と風巻丸は笑いながら、空に円を描く。羅綾丸は牙を鳴らし、奔湍丸は尾で地面を打ったが、その音はどちらも可笑しそうだ。


 「味な真似を」


 「何だよ、お前ら」


 「気にするな、玄壱の孫。

 気は済んだ。さっさと行け」


 苦虫を食い潰したような表情はしながらも、腹の虫は収まったようで、雷汞丸は紅壱の親指から肉球を離すや、森に駆け戻っていってしまった。


 「何なんだ、アイツ。いや、お前らも」


 疑いの目をパートナーらへ向けようとした紅壱だが、追及を逃れるためか、既に翠玉丸らは、そこにいなかった。

 目の届かない場所に行かれようとも、「来い」と言う命令を込めて、名を呼べば、この場に出現させられる。

 しかし、彼らが話したくないのであれば、それでいいか、と割り切った紅壱は肩を竦めた。


 「待たせちまったな、磊二。行くか」


 「いえ、構いません」


 近場にいたコボルドを介抱していた磊二は、彼女へ何やらを指示を出すと、紅壱の元へ寄る。彼に何かの仕事を頼まれたらしいコボルドは、魔数を集めるべく、他のコボルドの手当てを始めた。


 「何を頼んだっすか、ライさん」


 「あそこを、あのままにはしておけないので、回復してから良いので、均しておいてくれ、と」


 磊二が指さしたのは、先ほど、紅壱が雷汞丸の一撃を受け止めた箇所。

 確かに、亀裂が入りっぱなし、深く窪んだままでは、通った誰かが転倒ころびかねない。


 「悪い。本来なら、雷汞丸のパートナーである俺がやるべきなのに」

 

 申し訳なさげな表情に、紅壱がなってしまったものだから、磊二は大慌てだ。


 「いえ、王に、そんな後始末などさせられません。

 それに、地面の修繕は、コボルドのトレーニングになりますので、都合はいいのです」


 「確かに、魔術は頻繁に使った方が、発動時間の短縮に繋がりますものね」


 食々菜の指摘に、紅壱は「そうなのか」と顎を撫でた。


 「けど、無理はさせるなよ」


 「はいっ」


 紅壱は磊二に頷き返しながら、他の幹部にも、村魔が度を越えて頑張り過ぎないよう、ある程度の休息時間を取らせるように徹底しろ、頑張り過ぎている者がいれば、しっかりと注意しろ、と釘を刺しておく。当然ながら、剛力恋らも、良い返事であった。


 「いってらっしゃませ」


 食々菜は、深々と頭を下げ、修練場に向かう紅壱らを見送った。

 自分も行って、紅壱の強さを眼へ焼きつけたかった彼女だが、昼食の準備があった。

 悔しさを噛み殺し、食々菜は新作の料理を紅壱に味見してもらおう、と気概を漲らせる。

紅壱と共に戦うためには、自分達が何をすべきか、を学んだ吾武一らは、それぞれの仕事に向かう

若手の幹部と、その場に残された紅壱は、弧慕一の準備が済むまで、彼らと軽く、模擬戦を行うことにする

喜んだ若手の幹部らは、紅壱に、自分と最初に、と強く迫るも、ここで意外にも、磊二が「やりたい」と前に出る

珍しい、と感じながらも、彼の決意を感じ取った紅壱は、まず、磊二と模擬戦をする事にしたのだが、そのタイミングで、突如、キレている雷汞丸が襲ってきた

雷汞丸が、自分をデビルと戦っている時に召喚しなかった事に怒っている、と理解した紅壱は、次のチャンスには召喚してやる、と彼に約束してやる

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