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とある生徒会長の本音は日誌だけが知っている  作者: 『黒狗』の優樹
紅壱と夏煌、デビルと戦う
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第百五十八話 醜妬(shameful envy) 一年男子は、紅壱と修一を妬んでいる、何も知らずに

校外学習も無事(?)に終了し、帰りのバス内で、紅壱と修一は雑談に興じていた

聞きたくはないが、バスはさほど広くはないので、彼らの声は、他の男子生徒の耳にも入ってくる

天義堂学園高等部には相応しくない不良と、二人の事を他の男子生徒は蔑んでいたが、実際のところ、自分らしく生きられる強さを持っている紅壱と修一に、憧れも芽生えていた

しかし、すっかり、捻くれてしまった、曇ったプライドは、それを素直に認める事を拒んでいた

 学校の成績、それで言えば、紅壱とは五分、修一には勝っているだろう。

 しかし、一般高であれば、成績上位者に名を連ねられる彼らも、天戯堂学園高等部では、良くて真ん中に位置する、さほど目立たないモブでしかなかった。

 同性に上回られていたなら、彼らも発奮できただろうが、自分らの努力が及ばない相手が女子だったものだから、彼らの高かった鼻はボキリと折られ、そのまま、くっつかずにいた。

 運動神経にしても、彼らは女子に歯が立たなかった。単純な力比べとなれば、まだ、分があるだろうが、そんな機会など、高校の体育で訪れるはずがないし、下手に体へ触れなどすれば、セクハラだ、と訴えられかねない。

 女子に触れぬよう、女子との関わりを避けるべく、校内で気配を殺すように、つつましく生きている上級生らの姿を、この一カ月で目の当りにして、彼らは改めて、この高等部の敷地で、男子の人権などないに等しい、と思い知った。

 自分らも、上級生のようになるのか、それは嫌だ、と絶望に慄きながらも、男子生徒らには自主退学する度胸もなかった。それでいて、上級生には出来なかった、男子と女子の壁を壊す変革を起こしてやろう、そんな気概もなかった。

 自分で決断もできず、行動も起こさず、仄暗い灰色の春を諦めて受け入れようとしているにも関わらず、彼らは紅壱と修一が憎かった。

 本当は、憧れているのだが、度量が小さいために、それが素直に認められず、憎悪である、と自分の心を嘘で塗り固めて守っていた。

 面と向かって食って掛かる勇気などない彼らは、心の中で、何度も、二人を徹底的に痛めつけていた。殺してしまった事も、一度や二度では効かない。

 自分の思い通りになる、心の中だからこそ、彼らは精神世界の中で、紅壱と修一を奴隷扱いできた。現実では、廊下で擦れ違いそうになれば、すぐさま逃げだす始末であるが。

 彼らは、二人が自分達の事を、これまでの者と同じように、パシリ扱いする、と思い込んでいた。当然だが、紅壱と修一に、そんな気など微塵もない。そもそも、自分らの視界に入って来ようともしない男になど、興味がない

 男子生徒らは、何も知らない。何故、自分達がまだ、他校のガラが悪い奴らから金銭を巻き上げられていないか、を。


 紅壱は、なるべく、高校生活では大人しくしていたかったのだが、自分から喧嘩は売らない、と公言している割に血気盛んな修一。彼は、入学式の翌日に、すぐ、他校の偵察に行こう、と親友を誘った。

 必ず、面倒な事、つまり、喧嘩になるから嫌だ、と紅壱は断固とした態度で断った。紅壱は、誰が相手であろうとも、NOとキッパリ言える男だ。

 しかし、付き合いの長い修一は、紅壱が嫌と返すのは予想していたに違いない。

 その場で、すんなり「分かった、止める」と口にした。この時、紅壱は、親友が、あまりにも潔く諦めた事を怪しむべきだったのだが、彼も、この女子だらけの空間に、どう馴染むべきか、悩んでいたので、そこに注意が行かなかった。

 近場に、どんな店があるか、把握したいから付き合ってくれ、そんな修一の挙げた代替案にも怪しさを感じる事が出来なかった。

 やられた、と気付いたのは、商店街を歩いていると、前から千田工業チダコーと一目瞭然の学ランを崩してきた男子生徒が数人、来た時だった。

 工業系の高校の生徒らしく、体格の良い不良だった。その数人の中で、一人、特に目立って、逞しい巨漢がいた。

 身長こそ、二人よりも頭一つばかり低いが、体重は重そうで、肩幅も広かった。

 耳の変形具合からして、柔道部員だ、と紅壱は推測した。それと同時に、その巨漢が、荒くれ者が多い千田工業チダコーを牛耳っている不良グループの幹部、もしかすると、頭である可能性がある事にも気付く。

 「おいっ」と、隣を睨みつければ、修一はニヤニヤ笑いを浮かべているではないか。

 修一は、いつの間にか、調べていたのだ、千田工業チダコーの不良グループ、しかも、頭ないしは幹部が率いる一団が、この時間帯に、ここを通る事を。

 何で、その情報を集める労力を、勉強には割けないのか、と紅壱は呆れるより他ない。

 紅壱と修一は、見た目からして目立つし、何より、雰囲気が別格だ。

 当然のように、談笑していた千田工業の不良らも、二人に気付いた。

 不良らの意識が、こちらに集中した事に気付いた二人の反応は異なっていた。紅壱の方はげんなりとし、修一の方は楽しそうになった。同じだったのは、表情に変化が生じた事で、顔が周囲の者が恐れを抱く作りへと変化した事と、前に歩き続けた事だ。

 修一はともかく、紅壱は喧嘩がしたくないのなら、相手と揉める前に道を変えればいい、と思っただろう、皆さんも。

 何だかんだで、それが出来ない男なのだ、辰姫紅壱は。

 揉め事は起こしたくない、けれど、そこらの不良に侮られるのも嫌であった。難義で面倒な性格だな、と笑ってやってほしい。

 目の前から向かってくる同類が、不機嫌そうな表情と好戦的な笑みを浮かべて歩いてくる。不良としては、喧嘩を売ってきている、と判断する状況である。

 このまま進めば、彼らがぶつかる、と予想できた、周囲にいた人々は、それに巻き込まれないよう、自然と間隔を作った。近隣の店の者らも、警戒を始めていた。

 けれど、最悪の事態とはならなかった。

 巨漢の男が、自分と肩が当たらないよう、さりげなく進路を修正しようとしているのに気付いた紅壱も、彼の動きに合わせ、絶妙な空間を作り、ギリギリで擦れ違ったのだ。


 「アイツが、頭の佐々《ささ》だってよ」


 「やっぱり、アイツがトップか」


 修一の言葉に頷く紅壱。巨漢は、紅壱と修一の強さを見抜き、数では勝っていても、大きなダメージを負わされるのは自分達の方だ、と判断し、必要のない争いは避けるべく、一歩だけ横に逸れた。それでいて、他の不良と異なり、擦れ違うまで、紅壱から目を逸らさなかった。

 それだけの胆力がある男が、トップでない方が驚きだ。


 「思ったより、やれる奴だな、佐々ってのは」


 「お前なぁ、入学翌日で退学になる気か」


 「噂通りの、つまらない喧嘩はしない奴なら、この場で俺らと揉めないって分かってたんだよ」


 その言葉に、紅壱は罵倒の代わりに、溜息を吐き出す。


 「ほんと、勘弁してくれよ。

 俺は、こっちで普通の高校生として暮らしたいんだよ。

 喧嘩みたいな血生臭い荒事は、もう卒業だ」


 紅壱の決意表明は、修一に鼻で笑われる。


 「二足歩行する災害みたいなお前が、喧嘩をしないってのは無理だろ」


 大丈夫だ、と言い返せない紅壱。

 実際、揉めたら、先に手を出させてからだな、とまで考えていた、無事に擦れ違えるまで。

 喧嘩を売られたら買ってしまうのは、紅壱も同じなのだ。肩がぶつけられ、因縁を付けられなかった事に、紅壱は安堵の片隅に、落胆も覚えていたのだから。


 「安心しろ。あっちが、何かしてこない限り、俺の方から千田工業チダコーには乗り込まねぇから」


 「その台詞、信じて良いんだろうな」


 おう、と修一は返事だけが良いので、紅壱は疑心暗鬼だ。

 その後に、銀髪のリーゼントが特徴的な船津商業フナショーのトップ・福田ふくだ、背丈は小さいのに暴力の匂いを、誰よりも濃く纏う世蘭高校セラコウの頭・信濃川しなのがわとも出くわせば、疑いも深まってしまう。

 福田は佐々と同じく、取り巻きと共にいたからか、ギリギリの所で道を譲りはしたが、やはり、紅壱と修一の強さを正確に計れるよう、睨んできていた。

 信濃川だけは一人で、彼は道を譲らず、そのまま、直進してきた。

 修一とぶつかる寸前で止まった信濃川は、同様に歩みを止めた修一を下から睨んでいたが、二対一は現実的に厳しい、と現実を見た判断を下したのか、「悪ぃ、ボウッッとしてたみたいだ」と、頭を小さく下げ、自分から進路を譲った。

 見ようによっては、ビビった、と思われる行為ではある。しかし、紅壱と修一は逆の印象を受けた。

 単純な個の戦闘力で測れば、信濃川が佐々と福田よりも上であり、信濃川も自身が強い事に自信を持っている、と見抜いた。

 そんな彼だからこそ、当たりそうになる近さまで迫った上で、この場での喧嘩は不利だ、と判断し、不良としてのプライドを軽く曲げる事を選んだ。もちろん、信濃川は、彼らが二人がかりで自分に攻撃するような卑劣漢でないのも察していただろう。それでも、二連続で喧嘩するのはキツい、と考えたようだ。

 同タイプの喧嘩屋として、紅壱と修一が彼に好感を抱くのは道理だった。

 今年の、天戯堂学園高等部には、敵に回しちゃならない男子生徒が入学はいった、と知った彼らは舎弟に、しばらく、高等部の生徒にはちょっかいを出さないように厳命した。

 佐々はカリスマ性が、福田は金の力で舎弟を完全に支配していたので、トップの言葉に逆らう者はいなかった。世蘭では、反対意見も上がったようだったが、最終的には、信濃川の拳骨が黙らせたようだ。

 これにより、自然と、天戯堂学園高等部には、三高による一時的な非暴力条約が締結され、安全が保障される事となった。

 つまり、紅壱と修一は知らない間に、全校生徒を他校の不良から守る防波堤的な、イイ働きをしていたのだ。

 当然、他の生徒らは、紅壱と修一によって守られている、そんな認識すらなかった。

 中には、悪名高い他校の生徒を、不自然に見なくなった事を訝しむ、勘が鋭い者、言うまでもないが、瑛だ、もいたが、他の仕事に忙殺され、調査にまで手が回せずにいた。



 モブに埋まる自分達への関心が、紅壱と修一にないのを薄々と感じ、余計に自分達が惨めな存在だ、と思い知らされているのも、彼らに憎悪を抱く理由だったが、それ以上に、彼らを卑屈にしている理由があった。

 単純に言えば、容姿だ。

 確かに、紅壱と修一の顔つきや体つきは、人を威圧する。

 けれど、芸能界にいて、人気が出ても不思議じゃない容姿なのも確かなのだ。

紅壱と修一を、ろくでなし認定することで、自分らの器の矮小さから目を逸らし、自分を守っている男子生徒らは知らなかった、何も

自分達が、校内でこそ、女生徒らに厳しく当てられ、辛い思いこそしているが、校外で、他の高校の不良に襲われないのは、紅壱と修一がいるから、それを彼らは知りもしなかった

良くも悪くも目立つ、存在感が強い紅壱と修一は、とっくに、他の高校の不良に危険視されていた

一方的な被害しか、自分達に出ない、と判断した他校の不良らは、紅壱と修一を下手に刺激しないために、天義堂学園高等部の男子生徒を狙わずにいたのである

男子生徒らが、僻み根性を拭い去れない理由の一つには、見た目の差があった

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