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とある生徒会長の本音は日誌だけが知っている  作者: 『黒狗』の優樹
紅壱と夏煌、デビルと戦う
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第百五十七話 討議(discussion) 紅壱と修一、グリフォンをどう倒すか、討議する

山に落ちているゴミを拾う美化活動をメインにした、一年生の校外学習の真っ最中に、2匹のデビルが偶喚されてしまう

一年生とは言え、生徒会役員の自覚が既にある紅壱と夏煌は、すぐさま、そこへ向かう

2匹のデビルが大怪我を負っており、万全ではなかった事も幸いし、夏煌もデビルを倒す事に成功する

そのデビル共が持っていた、謎の大きい卵を、夏煌は持って帰りたい、と懇願し、あまりの熱意に、紅壱は折れるしかなかった

しかし、彼は、その卵から何が孵るのか、判ってしまっていたので、そこはかとない不安を胸中に渦巻かせる

 「グリフォンってのは、あれだろ、鷲とライオンの優れたパーツがくっついてる、外国の化物モンスター


 どっちが前だったけな、と逞しい首を捻る修一に、「鷲が頭で、ライオンが胴体だ。背には、鷲の翼が生えてる」と苦笑した紅壱は、ふと、窓外へ顔を向けた。

 この時、彼にしては珍しく、心ここにあらずの状態であった。それ故に出てしまった、不用意な独り言であった、それは。


 「グリフォンってのは、マジィかな」


 またもや、唐突過ぎる言葉に、修一もさすがに不安を覚えてしまう。


 「—――――――・・・どうなんだろうな。

 鷲も、ライオンも、肉食だから、肉は美味くなさそうだけどよ。

 まぁ、お前が料理すりゃ、少しは食えるようにできるんじゃないか?」


 「!?」


 今度は、振り返った紅壱が驚きの表情を見せる番だった。彼が、そんな反応になるとは、修一も思っていなかったので、返しを間違えたのか、と怪訝いぶかしんだ。

 

 「ま、そうだな、やっぱり、ブッ倒すしかねぇか、そん時は」


 「まさか、森の中に出たのは、耳飾りを拾ってくれた熊じゃなくて、グリフォンだったのか!?」


 そんな訳ないだろ、と車中にいる、寝ている巧以外の者のツッコミが、心中で一致する。


 「・・・・・・そんな訳ねぇだろ。

 鷲獅子グリフォンなんか出たら、大パニックだよ。

 大体、グリフォンなんてバケモンが、この世に実在するはずがねぇだろうが」


 修一は、親友がそんな「常識的な」台詞を呆れ気味な笑いと共に返すと思っていたので、続ける会話をイメージしていたのに、目をさりげなく逸らしてしまった紅壱が不自然に押し黙ったので、「おや?」と感じた。


 「・・・・・・・・・」


 もちろん、修一は紅壱が魔王・アバドンと契約し、器となっている事は知らない。また、実際に怪異の類と遭遇した事もない。いたら面白いだろう、実際に、目の前に出たら、その存在を受け入れるだけ、とも考えていた。

 なので、紅壱が自分の軽い冗談にノらなかった事に対し、些末な不安は抱いた。だが、元より察しが良く、友情を重んじる彼は、その辺りをこの場で追及する事はしなかった。

 修一は、紅壱の、いずれ、自分に話してくれる気はあるも、その期を探っている秘密に対する罪悪感を薄めてやろう、と軽口を重ねた。


 「それにしても、グリフォンか。

 実際、お出ましとなったら、戦ってみたいよな、男と生まれたからには」


 「まぁ、否定はしねぇな・・・俺もってはみてぇ」


 そりゃ、お前らだけだよ、このハモったツッコミも心の中で発しただけで、声には出ていなかった。ただ、第六感が鋭い二人は、何やら感じ取る物はあったようで、こちらに無関心を装っている男子らに鋭さを増した目を向ける。殺気を飛ばさなかっただけでも、彼らなりの情けだ。


 (まぁ、グリフォンは出なかったが、デビルは出たぜ。

 大怪我してて、全力は出せず、まるで歯応えもない奴らだったけどな)

 

 紅壱は、親友の気遣いに心中で感謝すると同時に、咄嗟に誤魔化せなかった自分の隙を反省する。

 遠くない内に、修一には自分の事情と、アルシエルの存在、そして、あちらで新たにできた仲間を紹介するつもりでいた。だからこそ、この車内では、怪異の存在は知らない、と言う姿勢を取るべきだった。

 しかし、例の卵について悩んでいたために漏れてしまった言葉に、修一が反応してしまい、焦ってしまった。

 何か気付いただろうか、と危惧感が膨らんだが、修一は詰問せず、なおかつ、変な空気とならないように、あえて、グリフォンについての与太話を続けてくれるようだ。

 「ありがとうな、シュウ」と心中で、もう一度、親友に礼を言った紅壱は、今度は軽い調子で、話を合わせる姿勢を取った。


 「お前なら、どう倒すよ?」


 「まぁ、とりあえず、近場に武器になりそうなものがないか、探すな」


 イメージの中とは言え、やはり、修一にとっても、グリフォンは強敵らしい。

 自身の頑丈さと打撃力の高さに、「傲慢」と評しても良いほどの自信がある修一が、真っ先に武器を探す、と言うのが、その証拠じゃないだろうか。


 「都合よく、剣や刀は、そこらへんに落ちてないだろうしな。

 できりゃ、槍の方が、グリフォンに挑むなら、安全だろうが。

 そもそも、素人じゃ、刃物の類を持っても、十分に扱えないか。

 やっぱり、その辺の木をヘシ折るか、工事現場で鉄の棒を拾うのが一番だろ」

 

 確かに、修一の馬鹿力を存分に活かすのであれば、鈍器の方が都合はいい。よほどの名刀でないと、修一の腕力で振られたら、いくらも経たない内に、刀身へ亀裂が入ってしまう。


 「グリフォンってのは、鷲の要素が入っている以上、飛べるよな。

 だから、まず、飛べないように背中から生えてる翼を使用不能にする」


 「確かに、飛翔させず、陸上戦に持ち込む方が、危険性は下がるな」


 「尾の蛇も、先に潰しておきてぇ」


 「噛まれたら、毒で動きが鈍るか、やっぱ」


 「嘴や爪を使った攻撃にも警戒は必要だけど、グリフォンは魔法の類も使いそうだよな」


 「火を噴くとかか?」


 「いや、どちらかっつーと、風の魔法じゃないか。

 カマイタチを飛ばすとか、口から竜巻を吐いてくるみたいな。

 ナイフみたいな羽を突風で飛ばしてくるって、攻撃も考えられるか」


 「一帯を真空にされたら、一発でアウトだな」


 「そうなったら、お手上げだからな、とことん、接近戦だ」


 なるほど、と頷いた紅壱は、「じゃあ、打撃よりも、組み付いて絞め上げる方がいいか」と意見を出す。


 「そうだな。密着くっついちまえば、風の魔法は下手に使えなくなるな。

 呼吸をしているか、そこは別にしても、さすがに、首を絞めて、骨が折れりゃ、グリフォンだってお陀仏だろうよ」


 車中の男子らは、紅壱と修一が喧嘩をしている様など、一回たりとも見ていないので、彼らの強さが、どれほどか、は正確に知らない。けれど、自分達とは圧倒的に違う雰囲気が漂う容姿で、ある程度の強さは予測できる。

 そんな彼らの話は、車中が静まり返っている事で、嫌でも彼らに耳に入ってきてしまう。

 その為、男子らは、この二人がグリフォンと戦っている様を、容易に想像できた。するつもりがなくても、頭の中に浮かんでしまった。

 グリフォンなどいるはずがない、現実の厳しさを知り、空想の世界から卒業した一年生の男子らですら、グリフォンに快勝する紅壱と修一の姿が思い浮かべられた。

 紅壱は何らかの手段で、地面へ転ばせたグリフォンの首を、腕よりも力の強い足で絞めていた。一方の修一は、グリフォンへ真正面から挑み、まさかのフロントネックチョークを仕掛けていた。

 巧のように、格闘技経験がある者ならば、異形の存在にも臆さず、人が研鑽してきた技で勝った彼らに尊敬を抱いたかもしれない。

 しかしながら、彼らは格闘技など露も興味が無く、喧嘩などもした事がない、内向的な文科系の人間だった。

 その上、彼らは不良を毛嫌いしていた。中学生時代に、可愛げのあるツッパリ方をしていたクラスメイトにカツアゲをされたり、他校の根性がないヤンキーに理由もなく殴られた経験があった、彼らには。

 なので、不良に対して、好印象を抱けない。少し考えれば、紅壱と修一は、自分らに怖い思いしかさせない輩とは違う、と気付けるのに。それによって、自分の世界が狭まるのを阻止できるのに。

 要するに、この男子達は、自分にない物を持っている紅壱と修一が羨ましかった、妬ましかった。そして、彼らのようになれない自分が、誰よりも大嫌いだった。

森を後にし、帰るバスの中で、紅壱は修一の汗の臭いに、顔を顰める

修一が消臭スプレーで、汗の臭いを散らしても、夏煌が持ち帰る卵が気がかりで仕方がない紅壱の表情は冴えない

そんな時、彼の心は不安で、ガードが緩くなっていたようで、不用意な呟きを修一に聞かれてしまう

グリフォンが出現したら、どうやって戦い、勝つか、そんな絵空事を真剣に語る紅壱と修一

彼らの話が嫌でも耳に入ってしまう、他の男子生徒らは二人を見下しつつも、頭の片隅では、憧れを捨てられずにいた

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