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とある生徒会長の本音は日誌だけが知っている  作者: 『黒狗』の優樹
一年生は校外学習へ向かう
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第百三十八話 資質(capacity) 中学生の頃に、修一は玄壱に、見込みがある、と認められていた

天戯堂学園高等部の一年生が、校外学習=遠足で訪れたのは、とある山

歴史ある学園なので、当然、ただ、一年生に山登りを楽しませるだけではない

美しい自然を守るべく、一年生はゴミ拾いを課せられるのだが、男子と女子では拾わねばならないゴミの量には、大きな開きがあるのだった

男子生徒に、遠足を楽しませる気が皆無であるのが丸分かりの差別に、愚痴は溢しつつも、紅壱と修一は、さっさと頭を切り替え、自由時間を多く確保するための行動を開始するのだった

 「しっかし、どこにでもあるもんだな、この手のゴミってやつは」


 呆れる紅壱が背に担いでいるのは、大型の箪笥。


 「俺らが住んでたトコじゃ、一個も見かけた事ねぇのにな」


 疲れではなく、苛立ちの溜息を吐く修一が肩に乗せているのは冷蔵庫。

 どちらも、本来であれば、男二人で協力して運搬はこぶ重さと大きさだ。そんな代物を一人で担いでいるとは思えないほど、いつも通りの歩調だ、紅壱と修一は。彼らを後ろから見ている、巧と夏煌が絶句するのも当然じゃないだろうか。

 いくら、初心者の登山客が歩きやすいよう、道が整えられていると言っても、町中の道と比較すれば、安定感は低下する。にも関わらず、彼らの歩みは、大型の箪笥と冷蔵庫を担いでいる者のそれではない。

 紅壱が悪路かつ重荷を負っていても、平然と喋りながらでも歩けているのは、どんな猛攻を仕掛けられても、体勢を必要以上に崩さず、すぐさま、反撃に転じる為の技、「都雅とが」を応用しているからだ。

 一方で、修一が紅壱と同じように、歩みが安定しっかりとしているように見えるのは、彼のフィジカルが単純に、紅壱よりも優れているからだ。

 獣のような感性と感覚で、修一は特別に意識せずとも、体幹の芯と歩き方を最適な状態に調整できた。

 ちょっと目が肥え、相手の強さを見抜くマニアは、自分の事を天才だ、と言うようだが、一粒の本物からしたら、自分は所詮は養殖物だ、と紅壱は自嘲混じりの自戒をしていた。

 祖父や師匠らの技を悉く継承した己は、強い、その自覚もあり、養殖物なりのプライドもあった。

 その上で、祖父・玄壱にタイプとして近似ちかいのは、己よりも修一だ、と確信していた。

 修一は、祖父が実戦の中で、敵の肉体を実験台にして、より高い威力に昇華させてきた技は、一つとして受け継げないだろう。

 だが、己と同じ時期に、祖父らがいる領域に辿り着く、その未来も視えていた。

 自分より早い、と思わないのは、何だかんだで、紅壱も負けん気が、自覚しているよりも強いからか。


 「俺らのとこは、ジィさん達が睨みを利かせていたからな、この手の不用品ゴミ廃棄てに来るバカはいなかったんだよ」

 

 「そりゃ、そうだ。

 あんなおっかねぇジィさん達の怒りを買っちまったら、命がいくつあっても足りないよな」


 実際、利口な同業者からの忠告を聞かず、ゴミを山に不法投棄しようとした会社の豪華な社屋は、翌朝には、瓦礫の山となった。重機など、付近の人間は誰も見ていなかったにも関わらず。

 そして、近くの警察署には、一目では人間だ、と判別わからないほど形が変形させられた、その会社の社長を筆頭に、幹部らが虫の息で放り込まれた、それまで犯してきた大小の罪を証明する書類付きで。

 もっとも、紅壱が本当に恐ろしい、と思ったのは、その一件の後だが。


 (あの六人を正座させて、淡々と長々と大説教するバァちゃんは、本当に怖かった)


 変装術や演技、また、様々な乗り物の運転の仕方を、自分を助手席に乗せて教えてくれていた女優はともかく、他の五人には模擬戦で一度も完勝かてない相手。その為、紅壱の中では憧れながらも、怖い対象だった。

 けれど、あの光景を目の当たりにし、祖父を含めた五人よりも、自分の祖母の方がヒエラルキーは上だ、と知った時、ランキングは一気に変動した。

 元から、嫁に頭の上がらない祖父・玄壱だが、その時は、いつも以上に委縮していた、嚇怒の雰囲気を出す朱音に。

 以来、紅壱はそれまで以上に、祖母の言う事をしっかりと聞き、下手な逆らい方はしないようになっていた。祖父らを反面教師にした結果と言えば、順当だろう。



 「・・・・・・俺らもよ、場数、それなりに踏んで強くなったけど、まだ、ピンじゃ敵わないだろうな、お前のジィさんに」


 「二人でも、ちょっとばかしキツいだろ」


 自分達の強さが、高校生の枠に収まらない、と承知しているからこそ、玄壱に歯が立たない、と直感できる。強いからこそ、感じてしまう高い壁だった。

 もちろん、二人は勝つ事を諦めてはいない。

 あくまで、勝てないのは「今現在」だけ。これから先は、分からない、と自分達に言い聞かせている紅壱と修一。


 (だけど、コイツは凄ぇな。

 あん時、ジィさんに一発、ブチ込まれたってのに、また、挑戦いどもうって闘争心が湧き上がってくるんだから)


 もし、球磨が、この紅壱の言葉を聞いたのなら、「お前も大概だよ」と弟弟子に言っていただろう。


 (まぁ、中学生相手に、10%のパンチをブチ込むジィさんも大人気ないよな)

 

 そう、修一が「打撃耐性」を獲得するほどの一撃を彼に与えた二人の人物、その片方は球磨くま素歌もとか、そして、もう一人にして、修一の異常な打たれ強さを本格的に覚醒させたのが、誰でもない、辰姫たつひめ玄壱げんいちだった。

 自分らが手塩にかけて鍛えている孫と、互角に喧嘩が出来る中学生がいる、と聞いた玄壱は、紅壱に「友達を、家に呼べぃ」と、夕食時に告げた。

 当時は、顔を合わせる度に、小さな喧嘩に発展する仲だったが、修一の強さは紅壱も素直に認め出し、友情のようなものも感じ出していた。

 しかも、祖父の玄壱が楽しそうに笑っている時は、ろくでもない事になる、と気付き始めていた紅壱は、いくら何でも、修一を贄として差し出すのは憚られたので、「友達じゃねぇから」と否定した。

 けれど、玄壱は、孫の態度で余計に興味津々となってしまった。

 孫の口を割らせるのは難しい、と判断した彼はカカシに紅壱の交友関係を調査しらべさせ、翌々日の朝には、玄壱は修一を通学路で待ち伏せした。

 玄壱に鑑定スキルはないが、真なる強者としての勘で、修一が自分と同じ病気である、と見抜いた。

 修一の方も、いきなり、大男が自分の前に立ちはだかったので、仰天したが、彼も幼く、弱い者なりに、玄壱の強さが本能に直撃した。

 この時だけである、修一が自分から、たった一歩であるが、下がってしまったのは。

 真なる強者が本物である事を証明する存在感、シンプルな言い方をすれば「覇気」だ、を浴びたのなら、良くて失禁、悪くて失神、最悪の場合は即死だ。

 修一が一歩、下がるだけで済んだのは、彼もまた、真なる強者として覚醒できる可能性を宿す者だったからに他ならない。

 二歩目の後退は、踏み止まった修一。ここで、もう一歩でも下がってしまったら、ライバルに追いつけなくなる、それだけでなく、挑戦する資格を何かに剥奪うばわれる、と直感おもった。

 羞恥心が一気に頂点へ達した修一は、気付いたら、玄壱へ全力で殴りかかっていた。

 自分が強い、と信じていた修一は、紅壱との本気喧嘩ガチンコでも、無意識にセーブをしていた。もし、自分が全力で、同級生を殴ったら殺してしまう、と判っていたからだ。

 そんな彼だからこそ、玄壱に対し、全力のパンチを繰り出す事に躊躇わなかった。玄壱が、全力を出す事を自分に求めている、それも修一は本能で察していたのかもしれない。

 どうせ、敵わず、負けるのであれば、誇れる負け方を、その為に玉砕承知で挑めるからこそ、修一は玄壱と同類なのだろう。

 紅壱であれば、勝つ為に、逃げる事を躊躇しない。汚名なんて、生きていれば、いくらでもすすげる。

 敗北に価値がある、と疑っていない紅壱は、命を落とす確率が5割を超えるのならば、即座に逃げる。死んだら、誇りも何もない。生きなければ、何も守れない。

 アルシエルのトップとなった以上、これから、自分は今まで以上に、「撤退」の判断を誤らないようにしなければ、と考える紅壱であるが、実際のところ、彼は今まで、自分から強い相手と対峙しても逃げた事がない。

 自分の全力を出せば、コイツに負けない、死なない、そう判断を下したからだが、結局のところ、紅壱もまた、敗走がこれまで自分が積み重ねてきた物が崩れ、これから掴もうとしていた物が手に入らなくなる事を、何よりも恐れる人種だった。

 当人は、自分と玄壱、修一は違うタイプだ、と思っていたが、周囲からしたら、同じ怪物だ。

 違いがあるとしたら、紅一は二足歩行で、ある程度の意思疎通は計れるにしろ、失敗じれば、徹底的に破壊されてしまう怪獣、玄壱と修一は四足歩行で、最初から、説得や足止めなど意に介さず、好き勝手に暴れる怪獣だ。

 どちらも、戦う力を持たず、自分だけは大丈夫だ、と過信し、平穏な日常が壊れるなどありえない、と妄信している一般人からすれば、災厄そのものである。

 話が随分と逸れたが、潔く散るためには、一発ぐらいはブチ込む、と決心した修一の拳、それを玄壱は笑顔のど真ん中で受けた。しかも、闘気まで完全に消した状態で。

 修一が闘気に目覚めていないと言っても、中学生にして、黒人ボクサーに匹敵するパンチ力がある彼の体重と気合が乗った拳を、顔面に受けるのは自殺行為だ。

 けれど、そんなパンチを無防備に喰らっても、大したダメージを負わないのが、玄壱だ。

 倒せる、なんて驕りはなかった修一だが、ここまで見事に直撃れば、尻もちくらいは付かせられる。そうなれば、もう一発くらいは浴びせられる、そう思っていた。

 そんな期待が霧散した事で、修一は頭が真っ白になってしまった。よりにもよって、滅茶苦茶に攻撃を繰り出してしまう方ではなく、情報が多く頭に入って来すぎて、フリーズしてしまう方だった。

 相手が中学生であろうと、隙があれば、攻撃できる男だ、玄壱は。相手が、孫と同じくらい見込みがあるのなら、余計に躊躇う理由がない。

 20%パンチではなく、10%パンチを繰り出したのは、玄壱も指導者として、それなりには形になってきていたからだろうか。

 球磨に打たれまくっているおかげで、より打たれ強くなっている、現在の修一なら、15%パンチを受けても、辛うじて、立っていられるだろうが、中学生の頃だったら、間違いなく、即死しんでいた。腹に穴が開いた、それで済んだだけ、大したもんだ、と玄壱の友人らは感心したかもしれないが。

 玄壱が手加減してくれたおかげで、修一は腹に穴が開かずに済んだ。それでも、紅壱のパンチですら、完全には刈れなかった意識は、修一の体から弾き出された。


 「見込みあり」

 

 その一言のみ発し、修一の値踏みを終えた玄壱は、ほんの少しだけ赤くなった鼻梁を擦ると踵を返し、その場を後にした。

 手加減はしたが、敗者を病院に連れていってやるほど、玄壱は優しくなかった。もし、紅壱に内緒で、修一の事を調べ、玄壱に教えてしまった気まずさから、一部始終を見ていたカカシが、急いで、病院に連れていかなかったら、危なかっただろう。もしかすると、玄壱が修一を残し、去ったのは、カカシの気配に気付いていたからか。

 玄壱に10%パンチで殴られ、絶命しなかった、この結果により、修一は「打撃耐性」と「物理ダメージ軽減」の下地が敷かれ、球磨からの攻撃でスキルとして形成された。

 後日、紅壱に彼の家へ招かれた修一は、自分を襲った男が、ライバルの祖父だ、と知って、人生最大の驚きに打たれた。

 それから、修一は頻繁に、辰姫家を訪れる事になったのだが、彼が玄壱に殴りかかる事は一回たりともなかった。

 玄壱が、修一が来た時に不在である事も多かったのだが、たまたま、在宅している時に、修一がリベンジマッチを仕掛けなかったのは、臆病風に吹かれたからではない。

 今度こそ、圧勝つ為に「挑めない悔しさ」に耐える事を、修一は選択えらんだのだ。

規定の量のゴミを拾わなければ、遊ぶ時間が確保できない

しかし、男子が持つゴミ袋は大きく、制限時間ギリギリまでゴミ拾いをして、やっと、満たされるほどだった

当然、折角、山に来たのに、ゴミ拾いだけで終わらせる気がない紅壱と修一は、不法投棄されていた箪笥と冷蔵庫を担いで、ゴミ捨て場へと向かう

その道中で、紅壱は自分の祖父・玄壱と強さのタイプが似ている修一に対し、改めて、敬意の念を覚えていた

地上最強の生物の孫であり、直接的に鍛えられている紅壱と、地上最強の生物に殴られても死なず、「見込みがある」と判定された修一は、これから、まだまだ強くなっていく!!

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