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とある生徒会長の本音は日誌だけが知っている  作者: 『黒狗』の優樹
一年生は校外学習へ向かう
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第百三十七話 塵拾(sweep dust) 紅壱たち、ゴミ拾いを開始する

紅壱ら、天戯堂学園高等部の一年生男子を詰め込んだ小型バス

途中、トイレ休憩で立ち寄ったパーキングエリアで、紅壱は意図せず、引率の女性教師の、自分に対する誤解を払拭する事に成功する

今回、校外学習=遠足で訪れたのは、山

しかし、ただ、初春の風景を山の中を歩きながら楽しめると思ったら、大間違い

生徒らには、山に落ちているゴミを拾う事が義務付けられており、当然のように、男子と女子では、ノルマに大きな差が!!

 「――――――・・・案の定、男子は女子よりも拾わなきゃいけない、ゴミの量が多いんですね」


 小柄な巧が吐き出した、盛大で陰気が籠った溜息に、格差にボヤこうとしていた修一も苦笑してしまう。


 「あんな小さい袋じゃ、持ってきたお菓子の空き袋で一杯になっちまうな」


 一方で、紅壱たち、男子が持つゴミ袋の大きさは、一般家庭で一週間に出るゴミで、やっと満たされる大きさだった。

 ここまで、あからさまに差をつけられると、ほとんどの男子は文句も言えなくなる。

 この程度の事で、他の女子や教師に噛み付いても、男としての格が下がるのは火を見るよりも明らかなので、修一も抗議する気はないようだ。


 「この大きさをいっぱいにするとなると、山の風景を楽しむ余裕なんてなさそうですね」


 またしても、辛気臭い溜息を吐こうとした友の背を、修一は叩く、もちろん、手加減はして。力をセーブせずに、巧の背中を叩いたら、どうなってしまうか、想像するだけで恐ろしい。

 しかし、修一は手加減したつもりでも、それは、魚見のパンチよりも威力があり、巧が咄嗟に踏ん張り切れるものではなかった。

 背中を叩いた手で、襟を修一が掴んでくれなければ、巧は顔面から地面にぶつかり、前歯が折れていたに違いない。


 「大丈夫だよ、タク。

 これくらいのゴミ袋、すぐに満杯パンパンにしてやっから」


 なぁ、コウ、とイイ笑顔でアイディア出しを丸投げされた紅壱は呆れ笑いを浮かべ、口の端を指先で掻いた。


 「まぁ、方法はある」


 「本当ですか、辰姫くん」


 三つばかりな、と巧に頷いた紅壱。


 「一つ目は?」


 「クソ真面目に、このゴミ袋がいっぱいになるまで、山の中を歩き回って拾う」


 「当然、却下だな。次は?」


 「ちっと難易度が高いぞ」


 紅壱が浮かべた意地の悪そうな笑みに、巧は不安を覚えたようだが、付き合いの長い修一は「もったいぶらずに言えよ」と急かした。


 「比較的にゴミを真面目に拾っている女子に、声をかけて、そのゴミを俺らが使っている袋に入れてもらう。

 教師に言えば、余分な袋は貰えるが、あの大きさじゃ、拾ったゴミは全て入らない。かと言って、見て見ぬフリは出来ない良い子ちゃんが多いはずだ」


 「嫌がられませんかね?」


 怖がられないか、そう聞かなかったのは、巧なりの配慮だった。


 「だから、俺らじゃなくて、タクミ、お前が女子に声をかけろ」


 「難易度が高いって、ボクの方ですか!?」


 「確かに、女子と同じくらいの背丈で、中坊っぽい顔つきのタクなら、女の子も警戒しないかもしれねぇな」


 「矢車くん、それ、逆にダメージ来るんですけど」


 表情が翳った巧に、修一は「悪ぃ、悪ぃ」と詫びるも、反省している風はない。巧の方も、修一の裏表がない面には慣れてきたのだろう、言葉ほどは、さほど傷付いてはいないようで、「頑張ってみます」と拳を握っていた。


 「そんで、三つ目は?」


 「三つ目は、一番、手っ取り早いんだが、やりたくねぇんだよな、正直」


 「まさか、辰姫くん、女子からゴミを強奪うばう気ですか!?」


 紅壱らへの耐性が付き始めているのか、巧が思っていたよりも、大胆な発言をしてきたので、紅壱らは唖然としてしまう。

 そんな二人の代わりに、巧へキツい罰を与えたのは、いつのまにか接近していた夏煌であった。


 「おぶぁぅ!」


 夏煌のミドルキックは、まるで警戒していなかった巧の可愛らしいサイズで、程好く引き締まっているケツへ直撃し、彼が発した短い奇声と共に、息で膨らませた紙袋を叩き割ったかのような破裂音が、一帯に響いた。

 尻が真っ二つになった、そんなお約束の事すら言う余裕もなく、尻を手で押さえ、四つ這いとなる巧。

 そんな彼の高く上がっている尻へ、追撃を与えようとした夏煌を、修一が後ろから抱き上げて止める。


 「おい、その辺にしといてやれ」


 「・・・・・・」

 

 「いや、そこ《・・》は、余計に蹴らせる訳にはいかねぇよ、男のダチとして」


 女子小学生のような見た目の夏煌が言うと、悪すぎるギャップが生じた台詞に、修一は顔を引き攣らせ、友人の将来を守るべく、夏煌を肩車する。

 いきなり、肩車され、言葉も出なくなった夏煌だったが、眼前に広がる光景に、巧への怒りも消えたようで、修一の黒髪を短く刈っている頭の触り心地を楽しむ。

 周囲の女子は、修一と夏煌の姿にざわめく。

 しかし、個人的には、紅壱と修一の事は、カッコ良い、と思いながらも、周囲の「男子拒否」の空気に迎合してしまっている女子生徒らは、何も言えず、他の女子が動いてくれる事を願いながら、遠巻きに見ているしかなかった。


 「それで、三つ目のアイディアってのは?」


 聞かせろよ、と悪友に促された紅壱は、おもむろに見槻山に目をやった。


 「個人的には、使えない方がいい手段だからな、山に入って、使うしかない、と判断したら教えるよ」


 紅壱の歯切れが悪いので、夏煌は修一の肩の上で小首を傾げた。

 だが、修一は「じゃ、それでいい」と肩を竦めた。突然、修一が肩を竦めたものだから、夏煌はバランスを崩してしまう。元から、体幹がしっかりしている彼女でなければ、間違いなく、頭から落下おちていただろう。


 「・・・・・・」


 辛うじて、落下はしなかったにしても、怖かったのは確か。涙目になった夏煌は、修一の坊主頭を思い切り、引っ叩く。

 だが、夏煌が打撃力を魔術で強化しようとも、愛梨の攻撃すら、平然と受ける修一には、彼女のビンタは大した痛みも感じない。

 音こそ派手だったので、周囲のざわめきは増したが、紅壱らは何ら気にしない。


 「よしっ、行くか。

 昼休憩までに片付けりゃ、帰りの時間まで、ゆっくり出来るぞ」


 「昼飯メシ、どうするよ?」


 「中腹に軽食を出す店はあるらしいが、女子で満員イッパイになっちまうだろうからな、一応、弁当は俺らの分、持ってきたぞ」


 「サンキュ。じゃ、荷物は俺が持ってやるよ」


 修一は紅壱から弁当箱が入った袋を受け取ると、夏煌を肩車したままで、普段通りの足取りで歩き出した。


 「おい、タクミ、いつまで這い蹲ってるんだ。置いていかれちまうぞ」


 「お、お尻が・・・・・・」


 「あの程度の蹴りを喰らったくらいで動けなくなるなんて、鍛え方が足りてないんじゃないか」


 そもそも喰らうなよ、と言われてしまい、巧は「無茶、言わないで下さいよ」と嘆く。

 紅壱からの発破を受け、巧は何とか立ち上がろうとするが、尻には、まだ痛みが残っているのだろう、足が小刻みに震えてしまっていた。

 しょうがねぇなぁ、と生まれ立ての子牛のような足取りで進まんとする友人に嘆息した紅壱は、先に行ってしまった修一らに追いつくべく、巧を脇に抱き抱えると、速足で歩き出す。

 マネージャーとして入部しているとは言え、他の女子部員の練習に付き合い、他の高校にある男子ボクシング部との試合も諦めていないので、巧は日頃から、自己努力を怠っていない。なので、彼は見た目よりも筋肉質で、体重はある。

 にも関わらず、まるで特売の米袋のように運ばれ、しかも、50ccのバイクで走っているのか、と思うようなスピードで前進するのだ、怖くはないにしても、尻の穴は窄まってしまった。


 「ちょっと、下ろしてください!!」


 「お前、まだ、ろくに歩けないじゃねぇか」


 恥ずかしがる巧の視線の先にいるのは、自分達を携帯電話のカメラや、デジタルカメラで撮影とっている女生徒ら。恐らく、度合いは違うにしろ、腐っている女子だろう。

 興味や関心、嫌悪感の類もないが、紅壱と自分が、彼女達の妄想の中で、どんな辱めを受けているのか、想像しただけで巧は震えてしまう。

 紅壱は、巧からの再三の抗議を一切として受け入れず、修一らを追っていく。

 ものの数十秒で、紅壱らは修一に追いつけたのだが、やっと、下ろしてもらえた巧は頭皮まで真っ赤になっていた。


 (一体、何枚の写真を撮られちゃったんだろう・・・・・)


 紅壱の図太さは羨ましく思いながらも、二度と御免な巧は、背後からの攻撃でも避けられるようになろう、と決心するのだった

 余談ではあるが、紅壱に運ばれる巧、それを撮影した女子らの六割は紅壱×巧、残りの二割が修一×巧、残りは紅修、と妄想している派閥である。

 そして、この夏、大祭典で、彼らをモデルとした薄い本が漫画部から百部限定で発売され、10分で即完売、その日にすぐ、もう百部だけ重版がかけられるのだが、まだ先の話、そして、紅壱達が知るべきではない事だった。



 「そこそこ、良い山だな」


 「俺らには、ちっと物足りないけどよ」


 生徒らが拾ってきたゴミを纏めておくエリアを目指し、自分らの前を先に行く紅壱と修一の背を見て、緩慢と歩くしかない巧は、汗だくだ。

 確かに、山に入って、30分ほどは歩いたが、ボクシング部に籍を置き、部員らと共にトレーニングしている彼は、他の男子よりも基礎体力がある。それにしては、汗の量が多すぎるのだが、それも仕方ないだろう。

 日々、人目に触れる事無く、怪異を相手取り、命懸けの戦いに、その小さな身を置いている夏煌ですら、信じがたい光景が目の前にあり、言葉が出ていないのだから。

 改めて、彼らは紅壱と修一が桁違いだ、と戦慄させられていた。

遠足を楽しませる気がないのが明らかな、ノルマに巧は可愛い顔に似合わぬ、欝々とした溜息を吐き出してしまう

そんな親友の陰気を叩き飛ばしたのは、良い意味で何も考えていない修一

迅速にゴミ拾いを終わらせる方法の考案を丸投げされた事に対し、いつもの事なので、嫌な顔をせず、紅壱は秘策がある、と漏らす

夏煌も加え、四人は早速、ゴミ拾いをすべく動き出す

果たして、紅壱の秘策とは!?

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