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とある生徒会長の本音は日誌だけが知っている  作者: 『黒狗』の優樹
生徒会、オーガと戦う
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第百三十四話 悩種(cause of worry) 紅壱、自分は呪文頼りの魔術を使う訳にいかない事を悩む

オーガを単身で追い払え、また、トドメに繋げるための足止めを熟せる実力を、紅壱が有していた事に、瑛は驚きながらも、喜ぶ

彼女は、紅壱の存在を『組織』に報告し、働きに見合った褒賞を用意させようとする

しかし、目立つ事を好まない紅壱は、報告しないでほしい、と頼み込む

思いがけない願いに面食らいながらも、ここ最近、怪しい動きを水面下でしている『組織』に、紅壱が奪われる事を危惧した瑛は、その願いを聞き入れる事にした

生徒会メンバーも、紅壱の実力を『組織』に教えない、と誓い、彼女らの絆は、ますます強くなっていく

 「・・・そうだな、あそこで休んでおくとイイ」


 紅壱が妥協おれてくれたのを、掌に感じ取り、安堵した瑛は肩から離した手の先を、恵夢の治療を受けた民間人に向けた。

 「うっす」と、渋々の空気を一切として出さずに頷き、紅壱は彼らの方へ向かっていく。しかし、二歩三歩と進んだところで、足が止まる。

 彼の足音を無意識に聞きながら、先に戦闘の痕跡を、専門職が来る前に、ある程度は隠滅けしておこう、と行動うごき始めていたメンバーと合流しようとしていた瑛。


 「どうした?」


 彼が立ち止まっただけでなく、こちらに戻ってきた事に気付き、瑛は眉を寄せ、心配そうに振り返った。

 そんな彼女に、紅壱は「これ」とポケットの中から取り出した物を、そっと握らせた。

 目の前に立ったのは紅壱なので、警戒は一切、していなかった瑛。だが、彼女も、学生術師の中でも上位の存在として活躍し、控えめに言ってもセミプロの域に達している彼女は、常に油断しないようにしている。なので、誰が近づこうとも、不用意に手を握らせた事などなかった。

 紅壱に触って貰えた喜びと、握られるまで全く察知できなかった驚きが、心中でミックスしてしまったのか、瑛は呆けた面で固まってしまう。


 「会長?」


 不安そうに、紅壱が眼前で手を振って、ハッと我に返った瑛。


 「な、何だ?」


 どうにか、年上と生徒会長としての威厳を繕う努力をし、瑛は彼に握らされた物を、手の平を開いて見る。


 「これは・・・・・・大鬼オーガの耳か?!」


 「すんません、さっき、出すのを忘れてました」


 「いや、ありがとう。

 だが、まさか、牙だけじゃなく、耳まで奪っているとはな。

 あのオーガも、相当に運が悪かったようだな、今宵は」


 オーガに同情したのか、苦笑した好きな相手に釣られ、紅壱も「そうっすね」と破顔した。しかし、その表情は、麻薬の取引に成功したマフィアのようであった。


 「約束しよう。

 先程の牙と、この耳から抽出した魔力で作った魔晶は君に与える、と」


 「ありがたく頂きます」


 紅壱の性格なら、まず遠慮する、と予想していた瑛は、紅壱を説得する過程を頭の中で組み立てていた。けれど、予想は外れ、彼がすんなりと「魔晶を貰う」と言ったので、「え?」と驚いてしまう。

 そんな彼女のリアクションを「くッそっ、可愛いな」と心の中で悶えた紅壱は、ふと、悪戯心が疼いた。


 「うわっ」


 半開きのままになっていた唇が、ちょっとだけ割り開かれ、何かが口の中に入って来れば、「女帝」と称される瑛だって吃驚する。その驚きに、甘さもプラスされたのだから、瑛の目が白黒してしまうのも当然だ。


 「これは・・・・・・キャラメルか?」


 「疲れている時は、やっぱり、甘い物ですよ」


 ニタッと笑った紅壱は、自分の口の中にもキャラメルを一粒、放り込んだ。


 「美味しいな。どこのキャラメルなんだ?」


 「手作りですよ、俺の」


 まさかの答えが、キャラメルを舌で転がしている紅壱の口から発せられたので、瑛の喉にはキャラメルが詰まりかけ、彼女は咽そうになってしまう。


 「ちょ、大丈夫っすか」


 「も、問題ない。

 しかし、今、辰姫、君、このキャラメルを手作りした、と言ったか?」


 「ええ、言いました。あ、もしかして、苦手でした?」


 「いや、そうではない。

 だが、キャラメルを手作りできるのか、と驚いた」


 ホッとした紅壱は、「簡単ですよ」と肩を軽く竦めた。


 「今度、暇があったら、一緒に作りますか?」


 「・・・・・・ぜひ」


 紅壱が、お菓子作りに誘ってくれるなんて、想定外すぎて、瑛は頭の中に牛乳を溢されてしまったようになったが、それでも、気付かない内に首は縦に振られていた。


 「おっと、行かねばな。

 辰姫、ありがとう」


 「オーガを倒した会長へ、俺からのご褒美です。

 なんで、エリ先輩らには秘密っすよ」


 惚れた男が浮かべた、最高の笑顔に、瑛は鼻血が噴き出しそうになる。


 「うむ、秘密だな、私と君だけの」


 真っ赤な顔のままで、紅壱に対し、瑛は唇の前に人差し指を立てると、これ以上は、もう、彼と正対はしていられなかったのだろう、瞬動法で皆の元へ行ってしまった。


 「おおっ」


 瑛が瞬動法を使う気配は感じ取る事こそ出来たが、それは彼女が目の前にいて、なおかつ、戦闘ではなく、何より、どういう訳か、動きの入りと抜きがバレバレだったからだ。

 もし、瑛に劣らぬ練度で瞬動法を使える相手が、自分を殺す気で死角から迫ってきたのなら、難しかっただろう、生きて捕らえるのが。

 いくら迅速はやかろうと、来る方向さえ読めれば、カウンターは簡単に繰り出せる。ただ、相手が単に迅速はやいだけで、タフネスでなかったら、殺す気のないカウンターでも命を奪ってしまう可能性は高かった。

 自分の命を狙うだけでなく、瑛に害為す存在であるなら、相手がどんな者であっても屠る事に抵抗はない。ただ、殺してしまって、瑛に有益となるかもしれない情報を引き出す事が出来なくなり、彼女に迷惑がかかるのは心痛かった。


 (やっぱり、さっさと魔力を使えるようになって、相手を無傷で捕まえられる術を、思い通りに使えるようにならないとな)


 こちらの世界に生きる術師が研究かんがえ、試行ためし、形成つくってきた魔術は、一定以上の魔力量を保有している者が呪文を唱えれば発動する。

 最低限の才能があれば、と言う条件は取っ払えなかったにしろ、誰にでも使えるようにする、それを意識して、研鑽を怠らなかった先人らに、紅壱も敬意は覚える。

 ただ、紅壱にとっては、そのお手軽さ(・・・・)が悩みの種だった。

 長い呪文を完璧に、間違える事なく詠唱となえれば、誰でも使える、その法則は紅壱にだって当てはまる。

 それのどこが悩みとなるのか、と首を傾げる者もいるだろう。

 

 先人らが完成させた魔術は、呪文の完璧な詠唱で発動するのだが、その威力と範囲は詠唱者の魔力量で変わる。

 仮に、魔力量が100の術者Aと、200の術者Bが、同じ呪文を詠唱して、テニスボール大の魔弾を標的にしたスチール缶に撃ち出した、としよう。

 Aの魔弾は50m離れた缶を弾き飛ばせる威力だが、Bの魔弾は缶の半分ほどを壊してしまう。

 しかも、同じサイズの魔弾でも、魔力量が異なれば、消費する魔力量も異なってくる。消費する量が多いのは、当然ながら、総量の少ないAだ。

 ここに、得意な魔術の属性も絡んで来れば、威力の差は更に広がるだろう。


 紅壱は、未だに、自分の魔力量を確認できていなかった。それでも、自分の魔力量は同年代よりは、遥かに多い、と確信はしていた。

 彼が怪異相手に、祖父仕込みの体術だけで対応しているのは、今のところ、出現する怪異が、体術と闘気で、その命を容易に刈り取れてしまうからである。

 けれど、それ以上に、自己の実力も把握せず、制御コントロールする術も知らぬまま、不用意に魔術を使う事には抵抗があった。

 どれほどの被害が、自分の常識に縛られている者が見たら、小鬼ゴブリンを倒すのがやっとの威力しかない、と勘違いされるサイズの魔弾を放った時に出るか、さしもの紅壱にすら想像できなかった。いや、想像したくない、が正解か。

 自分の中にある魔力を完全に制御し、敵を無駄に殺さないで済む威力に、自分の意志で下げられるまでは、人前で魔術は使えない。

 紅壱だって、男の子、立派すぎるモノをぶら下げた。自分に魔術が使えるなら、使いたい、と望む青さがあった。

 その一方で、変に目立ちたくない、と言う気持ちも大きかった。

 折角、瑛がオーガの事は伏せてくれるのに、魔弾の威力が異常だ、と知れ渡り、結果的に目立ってしまったら、本末転倒すぎる。


 (明日の校外学習が終わって、家に帰ったら、弧慕一に進捗を尋ねがてら、アルシエルに行くか)


 弧慕一は、他の幹部の手を借りて作った時間に、自分へ魔力の使い方を、どう解かりやすく教えるか、考えてくれているようだった。王の為ならば、と他の幹部は嫌な顔一つしないで、弧慕一に手を、積極的に貸してくれているようである。

 助け合える関係を築けている幹部らに信頼の情を強めた紅壱は、弧慕一が先日に、形は出来上がってきた、と疲れが滲む顔に嬉しさを色濃く出していた事を思い出す。

 先日は、吾武一からの報告を手短に受け、食料などを渡しただけで帰ってきてしまった。

 そろそろ、他の魔属の強さが、どこまで高まっているのか、を紅壱は確認しておきたかった。

 今はまだ、ウルフも、他の魔属も不穏な動きを見せていない。

 基本的に、村の事は吾武一らに一任まかせ、彼らでは太刀打ちできない事だけ、自分が動く、そんなスタンスのトップでいた紅壱。だからこそ、個々の実力と成長は、つぶさに把握しておきたかった。

 その魔属が、どれほど強く、何が得意なのか、が分かっていなければ、吾武一らにアドバイスを送る事も出来ない。


 (とりあえず、明日の校外学習じゃ、何も起こらなきゃいいけどな)


 そんな願いをした紅壱は、自分が今、「平穏無事」と書かれた旗の竿を根元から蹴り折り、引っこ抜き、その穴へ「危険注意」、そのようにデカデカと書かれた、黄色と黒色の横縞の旗を突き刺してしまった事に気付いていなかった。

オーガと戦ったのだから疲れているはず、今は休め、と気遣ってくれる瑛

まったく、疲労感はなかったのだが、惚れた女の優しさを無碍に出来るような男でもない紅壱は、不安は感じながらも、彼女の優しさに甘える事に

瑛を、手作りのキャラメルで驚かせ、機会があれば、一緒に作る約束を交わした裏で、紅壱は自分に足りないモノを省みていた

桁違いに魔力が多いゆえに、学生術師ならば、撃てて当然である魔弾も、威力があり過ぎる事が予想できるため、安易に撃てない紅壱

アルシエルに、次、行った時に、魔力の安全な発現方法を研究させている弧慕一に進みを聞こう、と紅壱は決め、思考を翌日の校外学習に向ける

生まれ持った性質なのか、それとも、魔王の依代だからか、当然ながら、彼の平穏無事の願いに反し、校外学習では何かが起きる!

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