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とある生徒会長の本音は日誌だけが知っている  作者: 『黒狗』の優樹
生徒会、オーガと戦う
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第百三十三話 隠匿(hide) 瑛、今回の一件を正確に、『組織』へ報告しない、と決める

瑛たちは、単身でオーガを追い払い、赤ん坊を救った紅壱に賞賛の言葉を、惜しげもなく送る

瑛がオーガ、愛梨と夏煌のペアがリザードマンを倒すのも手伝った紅壱には、きっと、「組織」から褒賞が出る、と喜ぶ面々

しかし、魔王の宿主である紅壱は、「組織」に目を付けられることは避けておきたかった

そこで、彼は瑛へと頼み込む、自分の働きは報告しないでくれ、と

実力が足りない今の自分が称賛されるわけにはいかない、紅壱の語った理由に納得しつつも、彼の凄さを「組織」の上層部へアピールしたかった瑛は戸惑ってしまう

 「・・・・・・さっき、あんだけの事を言っておいて何だが、アタシも『組織』には、コーイチが大鬼オーガを追い払ったって報告はしない方がいいと思うな」


 いつになく、真面目な表情となった愛梨の言葉に、恵夢も深刻な表情で首を縦に振る、胸が揺れるほど強く。

 夏煌は、紅壱の意見を尊重したいが、彼には正当な評価を受けてほしいし、他の者に彼の強さを広く知らしめたい、そんな気持ちの板挟みになっているようで、目をグルグルと回してしまっていた。


 「私も、ヒメくんの強さは、伏せておいた方がイイと思うのぉ」


 自分と恵夢からの反対に、戸惑いを隠せていない親友に、愛梨は小声で告げる。


 「ここ最近の『組織』は、きな臭いらしいじゃないか。ハイジさんも、怪しんでる。

 噂に尾鰭が付いているのかもしれないが、色々とヤバい実験もやってるらしい。

 その実験に、コイツが被験者モルモットとして、利用つかわれちまったらマヂィだろ」


 「!!」


 会長職に就いているが故に、愛梨よりも、『組織』の暗黒面に関する情報も、ある程度の正確さで入ってくる、瑛には。

 非日常の脅威から、抗う術を持たない者に何も見せず、知らせず、気付かせず、守る為に、また、その最前線に立って戦う者らが命を落とすリスクを下げるためには、リスクのある実験も必要だ、と理解している瑛。

 しかし、大義名分があるからと言って、非人道的な行いが許される、と割り切れるほど、彼女も大人ではない。

 何を目的としている実験なのか、そこは不明だが、睨まれるのも承知で集めた情報を繋ぐと、そこに幹部個人の利の追求があるのは明らかだった。

 けれども、一つのエリアを預けられ、そこの平穏を守るのが精一杯である立場の自分には、上層部の不正を糾弾できる権力がない。

 歯痒さは覚えるが、そんな自分でも出来る事はあった。

 「よし」と、瑛は真っ直ぐに遠くを見て、拳を握り締める。


 「辰姫が、オーガを単独で退散させた事は、ここだけの話にしよう。

 皆も口裏を合わせてくれるか?」


 頼む、と瑛に頭を下げられ、嫌だ、と言う者はいない。仲間を守るためならば、尚更だ。


 「みんなで、オーガ二匹とリザードマン一匹と戦って、オーガ一匹は逃がしちゃったけど、後はどうにか倒せた、でいいよね」


 「こう考えると、結構、凄い事したな、アタシら。

 バレねぇかな」


 「・・・・・・・・・」


 「その通りだ。

 何が何でも、『組織』から派遣される調査員には、紅壱の才能は教えない。

 全員で戦った、そして、生き残った、これが今夜の『事実』なんだ」


 「いいな?」と瑛に、口を噤む事を改めて求められ、恵夢は豊かな胸に手を当て、愛梨は「任せろ」と親指を立て、夏煌は頭上に両手で大きな丸を作った。


 「すんません、俺が我儘を言ったばかりに」


 瑛らに嘘を吐くだけでも心苦しいのに、瑛らに嘘を吐かせるのだから、紅壱の心労の値は数値化できまい。


 「気にしなくていい。

 君は『組織』に売らない、渡さない、そして、守る、これは私の勝手な都合だ」


 「恩に着ます」


 深々と紅壱に頭を下げられ、瑛は気恥ずかしそうにしながらも、どこか、嬉しそうに頬を赤らめていた。そんな可愛さが溢れる恋敵ライバルに、夏煌は唇をちょっとだけ尖らせるのだった。


 「問題は、メイちゃんだねぇ・・・記憶、変えちゃう?」


 恵夢の物騒な発言に、一同はギョッとする。その反応に、彼女は「やだなぁ、冗談だってば」と両手を振ったが、目には本気の光が宿っており、一同は改めて、恵夢は敵に回せない、その認識を強めた。


 「いやー、そこまでしなくてもいいんでしょうよ」


 紅壱が鳴を庇った事は、恵夢にとって意外ではなかったのだろう。彼女は温厚な微笑で、「冗談だってば」と繰り返した。


 「まぁ、記憶云々は、メグ先輩の冗談にしても、ナルには、アキが言えば問題ないでしょう」


 「・・・・・・」


 「だろ。アイツは、アキには絶対服従だからな」


 「エリ、お前は私と豹堂の事を何だと思っているんだ」


 「まぁ、ざっくり言えば、女帝と女騎士?」


 愛梨の言葉で、そのイメージを思い浮かべたのか、夏煌は急にそっぽを向いた。不快だった訳ではなく、さすがに、瑛に見られた状態で笑うのは礼を失するので、咄嗟に顔は背けたのだろう。

 だが、肩は震えているし、笑い声を噛み殺している所為か、口元を隠している掌の隙間から妙な呼吸音が漏れているので、夏煌が自分の笑いのツボを自爆気味に押してしまったのは間違いないようだ。


 「・・・・・・辰姫」


 「うっす」


 「正直に答えてくれ・・・これは、会長命令だ」


 「おっす」


 「私と豹堂は、本当に、そんなイメージなのか?」


 「豹堂が、女騎士に見えるか、思えるか、は別にして、俺も会長が女帝ってイメージなのは間違っちゃいない、と思います」


 「!?」


 背後に雷光のエフェクトが見えるほど、瑛はショックを覚えたようだ。

 惚れている男が、自分にそんな「高圧」と「高慢」、そして、「高飛車」の代表格であるイメージを抱いていると知れば、いくら、瑛のタフな精神だってショックを受ける。

 しかし、恋する少女だからこそ、復活する理由も単純明快だ。


 「女帝って、カッコいいじゃないっすか。

 自分の下す判断は、本当に間違ってないか、真剣に考えて、でも、自分を慕ってくれる部下に迷いを抱かせないために、自分は絶対に正しいって雰囲気を纏える。

 守られるだけの存在じゃなくて、逆に守るために剣を取って、戦いの最前線に立って、兵士を鼓舞できる女帝ってイメージは、会長にピッタリじゃないですか。

 俺は、騎士って柄じゃないかも知れませんけど、会長のイメージを守るためなら、頑張って、騎士っぽくなりますよ」


 「・・・・・・・・・ありがとう」


 瑛の声は、夏煌のそれと劣らないほど、か細かったが、紅壱の耳は一言一句漏らさずに聴こえており、「うっす」と笑顔になった。


 「アキちゃんが女帝で、ヒメくんが騎士・・・そうだね、凄いお似合いかも」


 「騎士は騎士でも、黒騎士、いや、真っ紅な鎧を装着してるっぽいから、紅騎士か」


 「・・・・・・」


 「確かに、外国人と並んでも、身長で負けてないから違和感はないな」


 「今度の文化祭は、そういうコンセプトの喫茶店を、生徒会でやらない?」


 「いいっすね」


 「・・・・・・」


 「いやっ、さすがに、メイド服は勘弁してくれよ」


 「アタシも、メイド服はちょっと抵抗あるなぁ。

 そういうお店っぽくなっちゃうんだもん」


 「着た事あるんですか!? ってか、逆に見たいんですけど、それ」


 「・・・・・・」


 「そうなのよね、どうしても、オッパイが目立っちゃって、エッチい感じになっちゃうんだ」


 「よし、ナツ、捥ぎ取って、アタシ達に移植しようぜ」


 「ちょっとッ、二人とも、目が本気だし、指の動きが怖いよ!!」


 ワイワイ騒いでいる三人は放置しておく事にしたらしく、瑛は努めて真面目な表情になると、まだ起きる気配もない鳴を見つめる。


 「豹堂の事は、私が責任を持って、説得をする。

 君がオーガを追い払った事は、決して口外させない」


 「お願いします」


 「もっとも、豹堂は君が来たと同時に失神してしまったし、君がオーガを一人で撃退したなど信じないだろうし、仮に真実だと知っても、プライドの高さから決して、外には漏らさないと思うがな」


 「言えてますね」


 苦笑し合った二人は、おもむろに、鳴と同じく、未だに目を覚ましていない家族へ視線を向ける。


 「彼らは、これから来る『組織』の処理班に任せてもいいだろう。

 この件に関わった者としては、記憶の改竄まで、自分の手で行いたいんだが、さすがに、もう、魔力が足りなくてな」


 手持ちの魔晶はあるが、戦闘がまだ続行中であるならばまだしも、自分達が勝ち、残すは後始末だけとなると、瑛も手を抜きたくなるようだ。

 普段であれば、持ち前の高い責任感で、腑抜けそうな己を叱咤し、行動に映るんだろう。しかし、さすがに、オーガを相手にし、死なずに済んだ安堵感を味わった後では、根性論では、どうにもならないようだ。


 「じゃあ、俺、今の内に、さっきの空き地に戻って、オーガの一部が落ちてないか、確認してきますね」


 「いや、君も休め。

 顔に出さないようにしているんだろうが、あれだけの働きをしたんだ。

 無理はしない方がイイ」


 瑛が心配してくれるのは、本当に嬉しかった。だが、疲れは、ほとんどない。

 一匹目のオーガはほぼ一方的に攻撃し、圧勝で終わった。

 二匹目のオーガにしても、殺してしまわないよう、手加減には気を遣ったにしても、瑛が技を繰り出すのに必要な時間を稼いだだけ。

 愛梨と夏煌が相手取っていたリザードマンに関しては、腕を切り飛ばしただけなのだ。

 修一には劣るにしても、体力バカと表現される域にいる紅壱としては、あの程度で、スタミナは短時間で回復しないほど消耗はしない。

 だからと言って、瑛の親切を無碍にしない、出来ない紅壱。


 「『組織』の人間が来るまで、あと20分はある。

 何より、明日、君らは山歩きをするんだ。

 今の内に、体を休めておくのも、生徒の規範となるべき生徒会の一員としての、立派な仕事だぞ」


 「・・・・・・仰る通りですね」


 自らの肩に置かれた手から、瑛の「絶対に休ませる」、「これ以上は、疲れさせない」、あらゆる反論も説得も受け入れない、断固たる意志を紅壱は確と感じ取った。

 念入りな偽装が行えない事に不安はあったが、彼は瑛の優しさを受け入れる事にした。

今の「組織」は、何やら、非人道的な実験を密かに繰り返している

そんな情報を得ていた瑛は悩んだが、「組織」に紅壱を渡すくらいならば、と事実の隠蔽を決断する

彼女の英断に対し、紅壱は深々と頭を下げ、感謝の気持ちを伝えるのだった

親友の愛梨から、自分と鳴のイメージが、気に入らないものは全て燃やす女帝と、絶対忠誠の覚悟がある女騎士のようだ、と言われてしまい、ショックを受けた瑛だったけれど、紅壱から女帝を守る騎士になりたい、そう言ってもらえ、急にテンションが上がるのだった

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