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とある生徒会長の本音は日誌だけが知っている  作者: 『黒狗』の優樹
生徒会への入会
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第十二話 大蛇(python) 目を覚ましたのち、太猿愛梨は羞恥心に悶え転がる

森の中に散ってしまったエネルギー体を回収すべく、奔走する生徒会メンバー

自分が蜘蛛を苦手とする事を、紅壱に知られてしまった一方で、自分の素を彼だけに安心して見せられる事に幸せな気分に浸る瑛

恵夢と合流し、大鰐との契約に成功したのも束の間、届いたのは愛梨の悲鳴

果たして、彼女の身に何が起こったのか?!

 紅壱からの尊敬度を高めるべく、勇んでいた愛梨が出向いた筈の方角へ、草木を掻き分けながら駆けていく三人。


 (すっごい)


 恵夢の大きな胸の内は、当然ながら、愛梨の安否に大半が占められていたのだが、それでも、隣を全力疾走る男子には舌を巻かざるを得なかった。事が事なので、瑛も自分もセーブしないで瞬動法で駆けている。紅壱を置き去りにしてしまっても、それは仕方ない、と恵夢は心の中で詫びていた。

 しかし、実際はどうだ。紅壱は、涼しい顔とは言わないが、平然と自分達に並走している。戦う才能はズバ抜けていると確信していたが、よもや、ここまで優秀なのは瑛に劣らぬ先見の明がある恵夢にも予想外だったようだ。

 瞬動法の基本にして極意は、大地を踏み、大地を掴み、大地を蹴る、だ。全身で地球の重みを感じ取り、それを推進力に変換する。言葉で聞いてもチンプンカンプンのそれを、実践するとなるのは難しい。

 走る、とは筋肉や骨、関節の使い方が根本的に違っているのだから。

 相性はあるので一概には断言できないものの、陸上競技よりも、格闘ないしはダンスの経験者の方が、重力を肌に感じとるコツを掴みやすい、と言われていた。その説の信憑性が高いとするなら、全身を凶器とした喧嘩魔である紅壱が短期間で、ここまで瞬動法を会得できているのも納得だ、と恵夢はしきりに頷く。

 何やら、自分を見て首を胸と一緒に動かしている恵夢を訝しむも、この状態で理由を問うほどの余裕は、紅壱にもなかったので、スルーする事にした。



 「そろそろだ!!」


 彼らは大木の脇を通りぬけ、開けた場所に出た瞬間、言葉を失ってしまった。

 そこに「いた」のは蛇、しかも、知名度も危険度も毒蛇の中で一、二を争うであろうキングコブラ。

 今のところ、確認されている最も大きい体長は550cmだと何かのニュースで聞いた覚えもあった紅壱だが、彼の前で二つに割れた舌をピロピロと動かしているそれは、どう見たって10、いや、20mは越えていそうだ。その上、胴回りなど、毎夜、200回の腹筋をこなして特撮ヒーローばりの割れを維持し続けている彼のものより遥かに太く、巻きつかれたが最後、ほんの一瞬で瓢箪にされてしまいそうだ。

 三匹目の巨大危険生物に、もう紅壱はただただ驚くしかなく、この時点で、自分が想像していた美人アマゾネスが登場するのは諦めていた。

 だが、瑛と恵夢が顔を蒼白にしている理由は、キングコブラの長さや太さもあったが、これら以上に、愛梨が軽くではあるが巻きつかれていたからだろう。

 完全に気を失ってしまっているのか、浴びれば痛みを覚えるほどの、焦燥が全身から滲み出ている人間が近づいているにも関わらず、身動ぎ一つしない愛梨。


 「貴様ぁ、エリを解放しろ!!」


 またもや、気付かぬうちに抜刀し、大蛇との間合いを詰めようとしていた瑛を、紅壱は「会長、待ってください」と二の腕を咄嗟に掴んで止める。


 「どうして止めるんだ、辰姫!? エリは今にも絞め殺されそうなんだぞ!!」


 確かに、この状況はそう見える。だが、紅壱には目の前で愛梨にその長い身を緩くとは言え巻きつけているキングコブラが、彼女に危害を加えようとしているとは思えなかった。前の二体と同じように根拠はなかったが、直感が彼にはあった。


 「いや・・・むしろ、敵意丸出しの会長が、そんな鬼気迫る面で近づいたら、アイツが驚いた拍子にエリ先輩は絞められちまう。

 落ち着きましょう、まずは。深呼吸です、深呼吸。はい、ヒッヒッフゥー」


 紅壱とは違い、キングコブラを危険と感じている様子の恵夢だが、彼の言葉には同意できる部分があったようで、瑛の肩に手を乗せて、「ヒメくんの言う通りにしよう、アキちゃん」と彼女を諌めてくれた。

 二人に説得され、焦燥も鎮まったのか、左手に掴んでいた鞘へと刀を納めてくれた瑛。

 ホッと胸を撫で下ろした恵夢へ目で一つ礼をしてから、深呼吸をした紅壱は心の中でキングコブラへ「こっちへ来てくれ」と念じてみた。

 キングコブラは一度、愛梨を解放した上で、気を失ったままの彼女を太い胴に乗せ、落とさないように気をつけながらズルズルと音を立て、三人へと近づいてきた。蛇は大丈夫なようの瑛も、さすがに落ち着いた状態で近づかれると、腰が引けてしまうようだ。

 彼らまで残り1mほどのところで蛇行を止めたキングコブラは、尾を左右に大きく振る。


 「・・・・・・」


 言わんとしていることを察した紅壱は大股で歩み寄った。

 彼の無警戒ぶりに声を荒げかけた瑛の口を、恵夢が慌てて塞ぐ。彼女はこのサイズの毒蛇へ堂々と近づいていける後輩の背へ、尊敬の眼差しを向ける。

 大蛇の太い胴の上でぐったりとしている愛梨を抱き上げる紅壱。


 (やっぱ、戦闘スタイルの違いかな・・・太猿先輩の方が会長より)


 口に出してしまわないように気をつけながら二人の元へ戻った紅壱は、恵夢へと愛梨を預ける。「大丈夫か、エリ」と瑛に体を揺すられると、愛梨は「うーん」と低い唸りを漏らすが、覚醒には至らない。


 「骨が折れてたり、噛まれてたりする様子はありません。

 単に、アイツに驚いて気絶しちゃったんでしょう」


 豪胆さが売りなのに、そんな戸惑いが紅壱の顔に滲んだのを見逃さなかったのだろう、恵夢が躊躇いがちに眉を寄せる。


 「・・・エリちゃん、蛇、駄目だもんね」


 「いえ、先輩、あんな大きいキングコブラ、私でもいきなり出てこられたら失神しますよ、間違いなく」


 ともかく、後輩と友人が無傷だと分かり、二人は安堵の息を大きく漏らした。

 紅壱もキングコブラが彼女に傷を負わせていなくて助かった、と肩の力を抜く。仮に、噛み跡などが残っていたら、今頃、瑛は怒髪天と化し、キングコブラへ刀を抜いて襲い掛かっていただろう。文字通り、百戦錬磨の紅壱は木刀を得物にする者、剣道を喧嘩に使う者と対峙した事もあったから、彼女の剣の腕がどれだけ強いか見抜ける、この刀で戦っている所を一度も見ていなくても。


 (沼先生も爪楊枝じゃ、本気の会長は相手できないかもな)


 祖父の友人である、女剣豪・ぬまりんを思い出す紅壱。彼女くらいのレベルになると、市内や木刀なのではなく、爪楊枝一本でも石板を真っ二つどころか賽の目切りにできる。その様を目の当たりにした際の驚きは、未だに彼の中で新鮮さを失っていない。

 何故、爪楊枝そんなもので切れるのか、と彼が問うたら、沼は涼しい顔で煙草をふかしながら、爪楊枝こんなものでも自分が石を切れる事を、微塵も疑っていないからだ、と答えた。何となく理解した上で、更に質問を重ねると、イケメンに弱い沼は「呼吸を聞くのがコツ」と指南してくれた。

 沼先生はガチギレした瑛を削っていない鉛筆で相手するかもな、と思いつつ、愛梨の介抱は恵夢に任せよう、と視線を外した紅壱はとぐろを巻いているキングコブラへ「もう少し、近づいてくれないか」と呼びかけてみる。もう一度、自分から歩み寄ってもいいが、瑛が後ろから着いてきたら契約の交渉も穏やかに進められないかも知れない。それなら、こちらに来て貰った方が、彼女も不必要かつ不用意な攻撃はしないのでは、と彼は考えていた。


 『そんな畏まらなくてもいいわよ、坊や。来い、そう、命令してくれても構わないわ』


 ハッキリとした発音の人語で喋りかけられた紅壱は、思わず後ずさってしまった。突然、体を硬直させた自分へ戸惑いの視線を向けた瑛の反応から察するに、今の柔和さを感じさせつつも首筋を舐めてくるような無遠慮さも含む女の声は、自分の頭の中にだけ響いたようだ、と滲んだ冷や汗を拭いながら理解する。

 動揺を露わにした紅壱に対し、小さな嗤い声を上げながら、先程よりも速く蛇行して近づいてきたキングコブラ。咄嗟に刀を抜きかけた瑛だが、紅壱の鞭で打たれるような視線で制され、不安と一抹の高揚感を感じつつ、柄から手を離した。


 「・・・貴女は、人の言葉を喋れるんだな」


 手を伸ばせば触れられる距離まで近づいたキングコブラへ、戸惑いを隠せぬまま、紅壱は話しかけた。蜘蛛と大鰐は、主となる彼に報酬として、言葉ではなく画像でそれらを伝えていたからだ。


 「「え?」」


 そのダブった呟きに、紅壱は振り返った。

 彼に見つめられた瑛と恵夢は、いくらか頬を赤らめながら、頭を振った。

 どうやら、彼女達には「シュー、シュー」と、蛇が鋭く息を吐き出す音にしか聞こえないようだ。


 『そうよ、坊やの頭、いえ、心に私の言葉は人のそれとして届くけど、私と繋がってない者には、呼吸音としか感じないの』


 念話、そう表現できるものか、と理解した紅壱だが、ふと迷う。大蛇の言葉は自分にしか聞こえない。なら、大蛇に声に出して語り掛ける己の姿は、ひどく滑稽ではなかろうか。

 逡巡した紅壱は、この二人なら俺をおかしいモノでも見るかのような目をしないだろう、そう信じる事にした上で、会話を声に出さないで続ける事にした。経験が豊かな二人も、紅壱の反応と大蛇の発している魔力の揺らぎから、両者間だけで会話が成立するのを察したようで、行く末を黙って見守る事にしたようだ。


 「話を戻しちまうんですけど、貴女は人の言葉で喋れるんですね」


 『私は一番、若いから』


 その言葉に、紅壱は戸惑う。長い年月を経て、妖異が人語を操るようになるなら理解も追いつくが、若いから紅壱限定とはいえ、人の言葉を用いて流暢に会話できるとは如何なる事なのだろう。


 (蜘蛛や鰐は、この大蛇より年上なのか?)


 そうよ、と大蛇は返事をしてきた。念話と言う事は、自分の考えた事は勝手に伝わってしまうのか、と気付いた紅壱の表情が面白かったのだろう、大蛇は「シャシャシャ」と不気味な笑い声を上げ、その長い身をくねらせる。

 その特徴的な動きで、大蛇が紅壱を笑っている、と瑛は感じ取ったのだろう、刀を抜こうとしている。慌てて、恵夢が瑛を宥めなければ、斬りかかっていたかもしれない。

 うっすら滲んだ汗を拭い、恵夢に感謝すると、紅壱は大蛇に問い直す。


 「・・・・・・つまり、蜘蛛や大鰐は、かつては人語を喋れたが、長く生きて、それを忘れちまった存在なんですか?」


 『大体、そうね。私達の中で、最も長生きなのが、黒糸の御方で、霊属になってから千年。次が鰐様で、五百年くらい生きているらしいわ。

 私とあと二体はせいぜい、霊属になって百年くらいしか経ってないの。だから、まだ人の言葉を使えるのよ』


 人間の肉体を奪う、もしくは、人間の確固としたイメージを核としなければ、こちら側に来たエネルギー体は実体を得られず、長い間、留まっている事ができない、と瑛は講義で教えてくれた。

 実体化できた妖異は、ハンターに狙われる確率も高まるも、運が良ければ十年は人間界こちらで生き永らえる事が出来るらしい。

 瑛曰く、実体化の期間が長い個体ほど、その強さと危険度は増すらしい。

 それを踏まえて考えると、大蛇は自分を若造と評したが、百年も生きている霊属は『組織』の危険度を図るレベルに照らし合わせれば、相当に上位だろう。

 千年、ともなると、最早、俺の中で体を休めている、あの魔王に匹敵しかねないのでは、と紅壱は恐れを後ろの二人に気取られぬよう、喉が鳴るのを堪える。


 「そうなんですね」


 『もっとフランクに話しかけてもいいわよ。坊やは私達の主になるんだから』


 「・・・・・・俺と契約してくれるのか?」


 『約束ですもの、それが』


 その声に、どこか懐かしそうな微笑を漏らす美女の、不鮮明な映像が大蛇と被る。

 「約束? 誰とのだ?」と紅壱は小首を傾げて聞き返したが、キングコブラは彼の質問に答える気がないのか、もしくは、答えられないのか、そこで口を噤んでしまう。

 しつこく問い詰めたところで、望む答えを得る事は叶わないだろう、と判断を潔く下す紅壱。


 「・・・・・・契約する条件は何だろうか? 俺に払えそうな報酬なら用意するが」


 『そうよ、坊や。女が一番に聞かれたくない質問をしないのは、イイ男の条件の一つ。

 今、契約しているのは・・・・・・黒糸の御方と鰐様ね』


 彼が袖を捲り上げて見せた右腕に浮かんでいる刻印に、小さく頷いたキングコブラは少しの間、舌を出し入れしながら虚空を見据える。

 念話の内容こそ判らないものの、緊迫の空気で交渉中と察したのだろう、彼の反応でキングコブラが無理難題を突きつけてきた、と判断したら躊躇わずに攻撃する気満々なのが、背中越しに見える鋭い眼光で読み取れた。後輩思い、過保護、どちらとも言える瑛に、愛梨の汗ばんだ焦げ茶の髪を撫でていた恵夢は苦々しい笑いをこぼす。


 『そうね・・・一日五個、生卵もしくは茹で卵を食べて貰いましょうか。玉子料理でも可よ』


 「そんな事でいいのか?」


 逆に戸惑ってしまう紅壱へ、キングコブラは長身を更に伸ばし、頬ずりしてきた。爬虫類独特の体臭が鼻を突き、眉根を寄せそうになってしまうが、紅壱はそれを堪える。


 『そんな事でいいのよ』


 「約束だから、か?」


 キングコブラは答えなかったが、やはり、重なる美女の口許には微笑が浮かんでいる。

 ぎこちなく微笑み返した紅壱は更に袖を捲り上げると、キングコブラへ腕を突き出す。

 先程の鰐とのやり取りを見ていても、やはり、警戒心は解けないのか、瑛の闘気が膨らんでしまう。

 それでも、紅壱はキングコブラへ力強い動作で、太い首を縦に振った。

 ズクッと音を上げ、二本の毒牙が紅壱の逞しい腕へ突き立てられる。蜘蛛の時とは異なった種類の痛みが肩先まで走ったが、それも数秒と立たずに引いていく。気付けば、やはり、大蛇は目の前から消え失せており、腕にはキングコブラに見える群青色の刻印が鮮やかに浮かび上がっていた。


 (・・・まるで、俺がどんなイメージを抱いて儀式に当たったとしても、五匹の獣が自動的に召喚されているみてぇだ。

 誰かが、俺の中にイメージを、俺が気付かない内に植えつけていた?

 彼らは、そのイメージを足掛かりにして、こちらに来たのは間違いなさそうだ)


 冷静さを保とう、といつもの癖で眼鏡の蔓を擦っていた紅壱の手が、不意に止まる。


 (バァさんか?)


 祖母・朱音は子供時代の記憶から判断するに、かなりの術者だったはず。他人の記憶を弄ったり、潜在意識に命令式を組み込んだりすることが出来る術が仮にあるのなら、それを使った可能性もある。


 (だが、その理由は何だ? 予知で俺が自分のいる世界に足を踏み込む事が判っていたとしても、鍵かつ橋となる猛獣のイメージを俺に刷り込んでおく理由があったのか?)


 一つだけ思い当たるのは、今、自分の中で深い眠りについている魔王の一角である美女。

 眼鏡を自分に与える時の会話で、祖母が自分の中にいる彼女の気配を感じ取っていたのは既に、彼自身も気付いていた。恐らく、この眼鏡がその魔力を外に漏らさない為の代物、と言う事も薄々は感づいていた。

 傷付いた魔王をその身に封印している幼い自分は、偶喚された気性の荒い魔属・霊属からしたら、極上の餌にしか見えなかっただろう。

 孫まで失う事を恐れた彼女は、紅壱へ自分の持てる限りを尽くし、この眼鏡に術式を組み込んだのだろう。

 力さえ足りていれば、孫の中から魔王など追い出したかったに違いない。しかし、無理だったのだろう。 その上、ヤンチャな孫が自分から進んで、人外と関わる危険な状況に飛び込んでいくのも、得意の占いで『視て』してしまい、途方に暮れたに違いあるまい。

 孫の意思は尊重したい、と思いつつ、魔王に孫の肉体が乗っ取られてしまう、または、他の妖異に害される事態はどうしたって回避したい。故に、紅壱が寝ている隙にでも、イメージを術で埋め込んだのか。

 いくら、美女とは言え、魔王に楽々と魂を売り渡す気は微塵も持ち合わせていなかった紅壱だが、祖母の気遣いには感謝した。


 (何はどうあれ、戦力が強化されるんだ。マズい事はない。

 バァさんの考えは知らないが、俺はあの魔王ヒトを守る。

 彼女を傷つけようとする存在を叩き潰すために使わせて貰う・・・例え、会長たちが相手でも)


 ひとまずは一段落、と安堵している瑛、大蛇がいなくなったので愛梨を起こそうとしている恵夢へと、紅壱はゾッとする、黄泉の辺土を思わせる漆黒の瞳を向ける。もっとも、悪寒が全身に走り、瑛が自分の方を向いた瞬間には、彼は黒い光を散らして、彼女に対し、微笑みかけていたが。

 他の者であれば、瑛は警戒を怠らなかっただろう。しかし、紅壱からのアイコンタクトを受けてしまったら、疑心暗鬼など瞬時に捻じ伏せてしまう。


 「太猿先輩の具合、どうっすか?」


 「駄目だねぇ」と眉を顰める恵夢。


 「しばらくは起きないかも・・・」


 「会長と逆で、エリ先輩は足の無い生物が苦手なタイプの人なんすね」


 すると、瑛は組んでいた腕を解くと、苦笑いを向けながら、紅壱の額を軽く突く、正解だ、と言うように。


 「一年の頃、遠征先で魔属・蟲型のサンドワームに一口で飲みこまれてしまってな、それ以来、駄目になってしまったようだ」


 「サンドワーム? ・・・・・・デカい蚯蚓を想像してもイイんすかね」


 「大体、間違いじゃない」と頷いた瑛は「すぐに、前会長が腹をかっ捌いて、消化寸前のエリを救出したんだが、やはり、服をジワジワと溶かされていくのが、かなりのトラウマになったようだ。気持ちは痛いほどに判るがな」と、優しげに親友の髪を撫でた。


 「鯱淵先輩、エリの事を診ていてもらえますか?

 私と辰姫は大神の所へ向かいますので」


 「うん、任せて」と握り拳を作って笑う恵夢。自信ありげに頭を振った拍子に、双つの肉山は「ばゆゆん」と揺れ、瑛は嫉妬から、彼女のそれを引っ叩きたい衝動に押される。しかし、事態が急を要する事に加え、紅壱にそんな矮小な自分を見せたくない、そんな思いが働いたようで、咄嗟に瑛の左手が右手首をしっかりと掴む。

 「よろしくお願いします」と揃って頭を下げた瑛と紅壱は回れ右すると、急いで薄紫色の光球が落下した方角へ駆け出す。最も小柄な夏輝の身が心配なのか、それとも、恵夢から遠ざかりたいのか、切羽詰った面持ちの瑛は半ば全力だ。



 紅壱に、今の引き締められない顔を見られたくない、そんな思いが魔力による走力の強化の効果を高めているのか、トップアスリートどころか、野獣のような速度と俊敏さで森の中を軽やかに駆ける瑛。

 走る、と言うより、逃げているような彼女を必死に追いかけながらも、彼女の纏う雰囲気に戸惑い、少し離されてしまった紅壱。

 自分がまだ使いこなせていない(と本人は思っている)技のコツを少しでも掴もうと目を見開いて、彼女の後姿を凝視していた・・・途中、引き締まった双臀に意識が集中しすぎて、目の前まで迫っていた太い枝に額を思いきりぶつけてしまったりもしたが。

豪胆な印象を抱かせる愛梨。しかし、彼女にも弱点があった

足のない生き物が苦手な彼女の前に現れたのは、よりにもよって、大蛇

紅壱は恐れることなく、大蛇と契約し、次のエネルギー体を見つけた夏煌の元へ急ぐ

目を覚ました愛梨が、後輩に助けられたことを恵夢に聞かされ、自己嫌悪で凹む、ちょっと先の未来も知らず

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