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とある生徒会長の本音は日誌だけが知っている  作者: 『黒狗』の優樹
生徒会、オーガと戦う
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第百二十五話 保身(self-protection) 紅壱、自分の都合を優先する

ただの餌と見ていた人間から、一方的に攻撃され、経験のないダメージを体だけじゃなく、心にも受けたオーガ

そんな紅壱への憎しみは、憎悪を司る女神の目に留まり、大鬼は加護を与えられる

しかし、ちょっと強くなったくらいで、紅壱との間にある差が埋まるはずもない

得た加護を活かす戦いも出来ず、オーガは紅壱が繰り出した容赦のない連続キックで、致命傷を負い、闘争心を根元からボッキリ折られてしまうのだった

 「ん、加護が解けちまったか」


 オーガから感じていた、警戒を一つ上げるに見合った、異様な雰囲気が霧散したのに気付き、紅壱は加護が精神面に左右されるのだな、と頷く。

 経験のない痛みと魔力が出血と共に減っていく気持ち悪さに呻くオーガの闘争心は、今の「椀掛わんがけ」で完全に折られてしまったようだ。

 当鬼は頑として、言葉で認めないであろうが、魂は紅壱に敗北した事を受け入れたのだろう。その為、加護の効果が消えたらしい。


 (単にオフ状態となったのか、女神が没収したのか、そこは分からねぇな)


 これからの戦いで加護持ちに出会えれば、検証も出来るかね、と期待しながら、紅壱はオーガを冷酷さめた目で見下ろす。

 決めていた数の攻撃をブチ込んで、勝手な敵討ちをしていた紅壱はスッキリしていた。

 最後の「椀掛わんがけ」で絶命させるつもりだったが、思っていたよりも、オーガがタフだったようで、息はある。そうなると、改めて、トドメを刺すのも、男らしくない行為なので憚られた。

 既に、オーガは戦闘不能なので、瑛らに任せても構わない。

 素人なので、よくは知らないが、瑛らの話ぶりからして、オーガの屍からは貴重な素材が獲得できるのだろう。

 オーガから素材を獲得できて喜ぶ瑛の笑顔、また、瑛が自分を褒めてくれる未来を思い浮かべれば、紅壱は胸が温かくなるのを感じた。


 「けどなぁ」


 瑛を歓ばせたい気持ちを、「目立ちたくない」が抑えてしまう。

 オーガをここまで痛めつけられる一年生は前代未聞だろう。しかも、単騎ソロで、となったら、相当に目立ってしまう。

 自分の活躍が瑛の評価にプラスと働くのなら、それは願ってもない事だが、あまり、『組織』に注目されるのも困る身なのだ、紅壱は。

 恋愛と保身、それを心の天秤にかけていた紅壱の真顔は、そりゃ、もう、おっかない。ここまで一方的に攻撃されても、どうにか、殺意を維持していたオーガが「ひぃ」と引き攣った声を発してしまうほどだ。


 「しょうがねぇな」


 最終的な決断、それは保身だった。

 瑛を喜ばせられないのは辛い、だが、もしも、『組織』のスカウトによって、この学園を去る事になったら、瑛と一緒にいられなくなる。その方が、紅壱としては、精神的にキツかった。

 豹堂の事を笑えないな、と自嘲した紅壱が「さて」と、目を向けたのは、この空き地の隅に建てられている小屋。恐らく、草刈りや付近の清掃に使う道具が保管してあるのか。

 瑛達に、自分がオーガを倒した事は知られてはならない。もちろん、下手に、退帰の処理をした、とも言えない。だからと言って、ここに放置も出来ない。この状態のオーガは、瑛らに見せられない。

 つまり、瑛にすべき言い訳は、「オーガを逃がしてしまった」だ。

 強い、とされているオーガであれば、逃げられた、と言っても通用するだろう。むしろ、そちらの方が信用されるはずだ。

 しかしだ、紅壱は、結果的には救えたとは言え、赤ん坊を食べ、一般市民を殺害ころした、このオーガを本当に逃がしてやる気などない、一切。

 彼だって、牛、豚、鶏などの肉を食う。故郷にいたころは、祖父らが仕留めてきた鹿や猪、罠にかかった兎を自らの手で解体し、様々な調理方法で、その美味さを引き出し、皆の舌鼓をリズミカルに打った。

 だから、怪異が人を食べる事に、文句はない。生きる為に、食事をするのは当たり前だからだ。

 しかし、オーガが生きる為だけではなく、自らの嗜虐心を満たす為に、市民を甚振っていたのなら、話は別である。遊びで、人の命を奪う、それは紅壱にとって、悪行であった。

 逃がす気はない、だが、ここに残さない。

 矛盾しているようではあるが、紅壱だけに使える手段で、解決が図れた。

 そう、紅壱は小屋の扉を使って、オーガをあちらへ戻そう、と考えていた。

 逃げられた、と言い訳するのなら、瑛らから教えられた退帰させる、怪異をエネルギーに変換する方法を使っても良い。けれども、それだと、オーガにトドメを刺さなければならないし、エネルギーなんかに変えてしまったら、もったいなかった。折角のチャンスなのだから。


 「まぁ、ギリで通るサイズだよな」


 目測で、オーガの体が小屋のドアを通る、と判断した紅壱はおもむろに、オーガの耳を掴んだ。

 紅壱ほどの膂力があれば、オーガを抱き上げる事も、担ぎ上げる事も出来たが、それはしたくなかった。なので、小屋までオーガを引きずっていこう、耳を引っ張って、と考え、実行しようとしたらしい。


 「そうだ」


 ふと、紅壱はある事に思い到り、引っ張っていた耳から指を離した。もう、全身が痛いので、耳を引っ張られる痛み一つが消えたくらいでは、何も変わらない。

 ザグンッ、そんな音がオーガの脳に響く。

 何の音なのか、理解できなかったオーガは、紅壱が自分の耳を持っているのに気付き、目を見張り、遅れてやってきた新たな痛みと怖れで絶叫を放とうとした。しかし、前歯と犬歯を一瞬で抜かれてしまったら、悲鳴など喉の奥へ引っ込んだ。

 このまま、自分は解体されるのか、ガタガタと震え出したオーガだが、紅壱は、それ以上、傷付けなかった。

 こんなもんでいいか、と紅壱は戦利品をポケットに入れると、今度はオーガの角を掴んで、再び、引きずりだした。

 鉄塊すら損傷させられる大鬼の角を素手で掴めば、指は切り落とされ、掌はズタズタになるが、常に紅壱の手は闘気のグローブに保護まもられているので、傷は一つもつかない。むしろ、角を折ってしまわないよう、繊細なコントロールを行っていた。


 『許してくれッ。もう、人は襲ったりしない。約束する!!

 お前の奴隷になったっていい!! 俺は役に立つぞッッ』


 「・・・・・・テンプレな返しをするみたいで情けないが、お前は、これまで、自分に命乞いしてきた人間を見逃した事があるのか?」


 『そ、それは!?』


 「なおかつ、奴隷もいらない。頼りになるパートナーが、もういるからな。

 加えて、今はお前より弱くても、これから、お前よりずっと強くなる仲間もいる。

 だから、お前と契約を結ぶ事にメリットを感じない」


 『こ、殺さないでく・・・ださい』


 「ハハハ、殺さねぇよ・・・・・・俺はな」


 どういう事か、聞き返したかった大鬼オーガだが、残念な事に、その答えを聞く前に、紅壱は小屋の扉を開けてしまっていた。そして、オーガはトンッと押される、あちら側へ。

 ポカンとしたオーガが眼前に広がっていた、白と黒のマーブル状になっている面の中に消えていくのを見届けた紅壱は小屋の扉を閉じた。

 よし、行くか、とオーガの事など、完全に忘却わすれ、紅壱は瞬動法で最初にオーガ二匹を発見した場所まで駆け戻る。

 その目的は、瑛らの助太刀だ。

 瑛達の強さは、微塵として疑っていないが、オーガを少人数で倒せない事も察せる。しかも、リザードマンまで出現し、戦力を分散してしまったのだ、キツい戦いを強いられているに違いない。


 「会長、今、行きますッッ」


 たった一秒で、結果は異なる。地面を駆けていて、手遅れになったら洒落にならないので、紅壱は壁だけでなく、空中まで翔ける。



 一方、紅壱によって、人間界から、あちらの世界に強制送還されたオーガは、アルシエルで吾武一らに囲まれていた。


 (どういう事だ?)


 鼻の奥に血が溜まっているので、匂いは判別わからなかったが、雰囲気からして、自分が故郷の森に戻ってきた事は理解できたオーガ。自分達が縄張りにしていた地域でないのも、微かに見える風景で察する事が出来た。

 だからこそ、何故、今、自分がゴブリンやオークと言った下位の魔属に包囲されているのか、その理由が想像すら出来なかったようだ。

 吾武一らが、似合っているかは別にしても、自分らがバラバラにした人間が着ていた衣服に袖を通していれば、余計に混乱するだろう。

 そんな疑問が渦巻く中で、オーガはゆっくりと自信を回復したようだ。

 あの人間には、油断から不覚を取ったが、次は負けない。その為にも、何かを食べて、傷を癒すのが最優先である。

 本音を言えば、人間が食べたいのだけれど、自力では人間界に戻れないし、人間界で暴れてくれればいい、と自分らに頼んで来た悪魔に連絡する手段もない。


 (あんな強い人間がいたのに教えなかったってんなら、許せないな、あのデーモン。

 絶対ぇに見つけ出して、喰ってやるぜ)


 この状況で我儘を言っている場合ではない、諦めたオーガは、泥臭い上に肉も筋張っている犬頭土精コボルドや、歯応えが悪く、腹にも溜まらない骨兵士スケルトンで我慢しよう、と肩を竦めた、心の中で。


 「おい、お前ら、俺に喰われろ!!」


 高圧的なオーガの言葉に、吾武一らは顔を見合わせた。失笑すら生じず、同情すら覚えたのだろう、彼らはオーガを見て、溜息を溢した。

 これまで、ゴブリンらに、そんな態度を取られた経験などないオーガの心中では、苛立ちよりも不安が勝ったようだ。

 

 「な、何なんだ、お前ら!?」


 「私達か?

 貴様を、そこまで痛めつけた御方に仕える者だ。

 名乗る気はない」


 「そうだな、これから死ぬ者に教えるほど、王から賜った名は安くない」


 「同感ですね。先程の態度も随分でしたし、必要はないでしょう」


 「ザッツライト。スムーズにスタートしましょう」

 

 吾武一、奥一、弧慕一、輔一の言葉に宿る、静かな昂ぶりに、オーガは死の危険を感じ取ったのだが、逃げられるようなコンディションではない。

紅壱の無慈悲な強さの前に、オーガは魂で敗北を認めてしまう

加護も失い、手も足も出なくなってしまった大鬼は無様に命乞いをするも、紅壱の耳には入らない

オーガを一人で倒せたことを、瑛に褒められたい、しかし、『組織』に目を付けられてしまうと、本来の目的である、魔王の復活が滞ってしまう

迷った挙句、紅壱は瑛へ、オーガに逃げられてしまった、と虚偽の報告をする判断を下した

そうと決めたら、取るべき行動は一つ

アルシエルへオーガを飛ばすと、紅壱は瑛たちを助けに向かう

吾武一らに囲まれる、満身創痍のオーガに助かる道はあるのか!?

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