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とある生徒会長の本音は日誌だけが知っている  作者: 『黒狗』の優樹
生徒会、オーガと戦う
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第百二十三話 警棒(nightstick) 紅壱、警棒を構える

一般人を恐怖させていた怪異を討伐に来た、天戯堂学園高等部生徒会の面々

聞き込みの情報から推測していたホブゴブリンではなく、オーガであった事に面食らいながらも、逃げかえる訳にはいかない

瑛らがオーガ二匹と、血、戦い、そして、強者の気配に引き寄せられたリザードマンと戦う覚悟を決めた矢先に、一匹のオーガが赤ん坊を食べた事に気付いた紅壱

そのオーガを離れた空き地まで連れ去り、紅壱は容赦ない腹パンで、赤ん坊を吐き出させて、救出に成功する

 『ガウォォォォォ』


 すっかりと頭に血が上っているオーガが繰り出してきたのは、ラリアット。完全に、避けられ、反撃を受ける可能性が高い事を失念しているようだ。

 しゃがんで回避し、背後に回って、夕影草ゆうかげぐさと名付けられたプロレス技、ジャーマンスープレックスをかましてやろうか、と思った紅壱だが、久しぶりに使いたくなった技もあったので、そちらを選択チョイスする。

 紅壱はラリアットを横跳びで避けると、オーガの背後へと滑らかに回り込んだ。オーガは危険を察知し、技をかけられる前に、自分の攻撃を当てるべく、裏拳を繰り出す。しかし、紅壱は、もう、そこにはいなかった。

 拳が空を切った事で愕然としたオーガの右脇へと、紅壱は目にも止まらぬスピードで左腕を差し込み、容易く、首を取った。オーガの首は桁違いの太さだが、紅壱には躊躇する理由にならない。触感で、ただ太いだけで、衝撃を吸収できる首にする鍛え方をしていない、と察せたからだ。

 そのまま、彼は首を右腕でも捕らえるや、真横に伸びた大鬼の太い腕を中心として、後方へ、一気に450°回転した。オーガの巨体は、嘘のように宙へ浮いた。そして、地面へ落ちた。

 リバースDDTの一種であり、俗に言う「デスティーノ」だ。玄壱が、この技に付けた名は、「狐ヶきつねがさき」である。地味にカッコいい。

 この技は、かけられた相手の体重が重いほどに破壊力が高まる。何せ、己のウェイトと、事前に仕掛けて避けられた攻撃の威力も乗ったダメージが、地面に叩きつけられた後頭部と首へ与えられる。

 オーガの体重は200kg以上だ。なので、きつねがさきのダメージは、普通の一流プロレスラーが喰らった時よりも甚大だっただろう。

 これまでの技もそうだったが、今の一撃はオーガにとって、激痛として受け止められる域を突破こえていた。

 あちらの世界では苦戦などした事はなく、こちらに来てからも人間を惨たらしく殺してきた。彼は、己が強者だ、と信じて疑っていなかった。

 なのに、今、自分は明らかなチビに一方的に攻撃されている。恐ろしかった。

 ここで、闘争心が折れるような者であれば、このオーガも幸せだっただろう。

 だが、紅壱への恐ろしさを、屈辱が上回ってしまった。

 オーガは自分の誇りを守りたいがために、体と心が出してくる警告を無視した。それが、更なる敗北の苦味を自分に味合わせるとは想像もせず。

 「ゴアアアアア」と憎悪でドス黒く濁った咆哮を放ってくるだけの元気はまだ残っていたらしいオーガに、紅壱は「待たせやがって」と肩を竦める。


 「お、何かするのか」


 紅壱はオーガの纏う空気に微妙な変化を感じ取り、眉を寄せた。


 (これは、魔力が手に集められているのか)


 しばらく待ってやると、オーガは己の魔力で、長さが自らの背丈に匹敵し、太さも電柱ほどはある鉄の棍棒を具現化させた。

 「ほぉ」と紅壱が感心したのは、オーガが魔力で武器を作ったからではなく、自らの腕力を活かせる鈍器を作ったからだ。その程度の理性が残っているなら、遠慮なくブチのめせるな、と紅壱は口角を釣り上げた。


 『叩き潰してやるぞッッ』


 「やってみろよ、やれるもんならな。

 しかし、さすがに、そこまで太い得物を持たれちゃ、こっちも素手って訳にはいかないか」


 『何!?』


 その言葉で、オーガは警戒心を剥き出しにした。これだけ、散々な目に遭ったのだ、この人間も、魔術で武器を作れるのか、そんな不安を抱いても不思議ではない。

 幸か不幸か、紅壱はまだ、自分の魔力を完全にはコントロールできない。なので、オーガの心配を裏切り、彼が背後に回してベルトのホルダーから抜いたのは、特殊警棒。素材は、竜宮殿が出資している会社が新たに開発した特殊カーボン。

 両手に特殊警棒を持った彼は、「ヒュッ」と手首のスナップを利かせて振る。その勢いで、特殊警棒はすぐさま、30cmの長さに伸びた。


 『ガハハハハハハ』


 紅壱が二本の特殊警棒を持っただけなのを見て、オーガには、ある程度の余裕が戻ってきたようだ。

 大声で笑うオーガに対して、紅壱は気を悪くした様子もない。むしろ、予想通りの反応だったので、逆に可笑しそうだ。


 『そんな細っこい棒切れ二本で、何が出来るんだ?』


 「何が出来る? まぁ、そうだな、大した事は出来ないよな。

 せいぜい、お前をぶった切るくらいだ」


 どうやら、この大鬼オーガは煽り耐性の値が低いらしい。額に青筋が浮かび、噛み締められた奥歯からは凄まじい音がしていた。


 『やれるものなら、やってみろ!!』


 「じゃ、お言葉に甘えて」


 特殊警棒を持った腕をブラリと下げたまま、一度、軽く跳躍ジャンプした紅壱。

 憤りながらも、オーガは無意識の内に、彼の動きを目で追っており、決して、視線はそらしていなかった。

 だが、オーガの脳が、紅壱の足が地面に着く、そう予想し、体を動かそうとした時、オーガの持つ鉄棒の攻撃有効範囲に、紅壱は侵入はいってきていた。

 冷静になれ、と己に言い聞かせていたオーガだが、想定外の事態に、肉体は威力の乗っていない攻撃を繰り出していた。

 例え、自分の鈍器攻撃を受け止めようとしても、武器の頑丈さが段違いで、膂力も差がある。

 棒切れごと、人間の体などヘシ折ってやる、と勇んでいたにも失敗だった、オーガにとって。

 痛い目を見ているにも関わらず、まだ、このオーガは紅壱の恐ろしさを本当の意味で理解は出来ていなかったようだ。

 オーガは、自分が思っていた通り、紅壱が振り抜いた鉄棒を特殊警棒で受ける、もしくは逸らそうとしたので、笑いが込み上げてきてしまう。

 だが、その笑顔は一秒に引き攣り、そのままで硬直した。

 オーガが考える通り、特殊警棒では鉄の棍棒を受け止める事は不可能と言えないにしても、かなり厳しい。けれど、紅壱は普通じゃないのだ。

 ガギィィィン、と鉄の棍棒と一本の特殊警棒がぶつかり合った時、その音が上がった。

 特殊警棒が折れる「ボキンッ」と、人間の肉が圧倒的な力で潰される「グチャンッ」を鼓膜の奥で想像していたオーガは、ありえない音に愕然としてしまう。けれども、信じがたい事が起きるのは、これからだったのだ。

 特殊警棒を握る手に、ほんの少し力を入れ、オーガが握る鉄の棍棒を押し返した紅壱。

 驚いていたオーガは紅壱の動きに対しての反応が遅れ、体勢を紅壱が予想していたより大きく崩した。全く、体勢がブレなかったのなら、次の動きを変えねばならない所だったが、より大きな隙を曝け出してくれたのなら、言うことはない。


 「爛斬らんぎり


 紅壱の闘氣によって覆われ、艶黒くろく染まっていた二本の特殊警棒は、大鬼オーガの得物《棍棒》を、野菜を切るような気軽さで先端から根元に向かい、バラバラに斬っていく。

 魔力で作られたと言っても、それは本物同然。だから、硬さも鉄をイメージしたのなら、その通りとなる。当然、そんな簡単に斬るどころか、傷を付けられる物ではない。

 だが、紅壱は世界最高の女侍に、「斬り方」を指南されている。カッターナイフや鉛筆では厳しくとも、特殊警棒を手に出来ているのならば、鉄くらい、それで斬れるのだ。闘氣で覆っているのならば、より簡単だ。

 怪異は自らの魔力から作りだした武器を破壊された際、そのフィードバックを受ける。魔力を多く使って作りだした得物であれば、尚更に反動で、肉体は硬直を強いられる。

 その隙を逃すつもりもない、例え、自分が優勢でも、紅壱は決して、油断などしない。

 苦労など全くせずに、紅壱はオーガの命に手が届く距離に近づく。

 体は動かせずとも、意識は明瞭であり、目で紅壱の動きを追う事も出来る。

 オーガは、確かに見ていた、この男が自分の前に立っていた時、特殊警棒を交差した事に。

 しかし、オーガの横を過ぎて、背後に立った時、紅壱が握っていた特殊警棒の交差は解かれ、最初と同じように、ぶらりと下げられていた。

 その構えの変化に、オーガは気付かなかった、振り向く事ができなかったので。

 何故、振り向かなかったのか、その答えは一目瞭然だ。

 逞しい筋肉の鎧を装備している上半身には、五十近い刀傷が刻み付けられていた、いつの間にか。

 しかも、オーガは突然、発生した竜巻に吹き上げられ、宙を舞っていた。

 竜巻に錐もみ状態にされ、その中で傷が開き、広がり、深まるのだから、紅壱の構えが変わっていた事に気付く余裕などありはしなかった。


 「堕天巻だてまき


 闘氣を帯びた剣圧によって生じた竜巻で吹き上げられたオーガは、20m近い高さから地面へ落下するも、全身の激痛で受け身など、ろくに取れなかった。

 それでも、オーガはフラつきながらも、ゆっくりと立ち上がりだす。

 無数の傷が刻み付けられた体を、竜巻でぼろ雑巾のようにされたオーガが立ち上がってしまったのは、強者として生きてきた者の驕りだろうか。それとも、立った方が四つ這いよりも速く、この人間から逃げられるのでは、そう本能が判断したのか。いや、どちらでもないようだ。

赤ん坊は救えたが、オーガは既に、十人もの一般人を殺害していた

紅壱は、勝手に、彼らの仇を討ってやると決め、オーガに強烈な技を見舞っていく

目の前の人間が、餌などではない、ようやく、お粗末な頭でも気付けたオーガは、少ない魔力を消費するのも承知で、金棒を具現化させる

しかし、その程度で怯む紅壱ではなく、彼もまた、二振りの警棒を抜く

貧相な装備をせせら笑ったオーガだったが、紅壱に警棒による斬撃を浴びてしまう

死の淵まで追い込まれた時、オーガの中で、何かが弾け飛んだ!!

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