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とある生徒会長の本音は日誌だけが知っている  作者: 『黒狗』の優樹
生徒会、オーガと戦う
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第百十六話 制止(stop) 夏煌が「止めて」と叫ぶも、紅壱は止めない

瑛への愛から、何百回と「やり直し」続けていた鳴

しかし、時間の理を踏み荒らす術を己にかけ続けた彼女は、今回、これまで積み重ねてきた記憶と経験を喪失した状態に陥っていた

今回が最後のチャンスである事も知らないでいる鳴は、怒りに任せ、紅壱を得意とするカマイタチで亡き者にしようとするも、実力差は大き過ぎて、まるで歯が立たないのだった


 止めてッ、殺さないでッ

 夏煌の攻撃制止を求める叫びは、紅壱の耳だけでなく、心にも届いていた。

 だが、鬼気迫る表情の彼は掌の間に魔力を集め、大きくしていくのを止めなかった。

 淡白しろく光る球へ、魔力をバレーボール大となるまで込めきると、紅壱は腰を更に捻り、魔力を圧縮するように掌の圧を強め、一方では、一直線まっすぐに己へ飛翔してくるグリフォンから、一瞬たりとも、意識と視線、そして、魔力感知の標的固定を外さない。

 そして、甲高く鳴いたグリフォンが、攻撃の有効範囲に入るなり、紅壱は魔砲弾を包んでいた両手を勢いよく突き出し、標的に向かって撃ち放った。


 「ハァッ!!」


 カメハメ〇のフォームから放たれた、紅壱の魔閃光は目にも止まらぬ速度で、グリフォンへと迫っていく。

 回避できない、野生の勘で察知したか、急ブレーキをかけたグリフォンは迎撃を選択する。

 瀕死のゴブリン・メイジにかけられた術が原因で暴走していたので、思考の幅が狭まっていたが、これは正解と言えるだろう。

 今の紅壱であれば、グリフォンが高速で回避したとしても、魔閃光の軌道を操作し、追尾させる事もできたからだ。

 空気の層を前脚の鷲の爪、後脚の獅子の爪で、しっかりと掴み、踏ん張りを利かせたグリフォンは周囲に漂う魔力を大きく広げた両翼から吸収した。

 そして、限界まで開いた觜の奥より吐き出されるのは、大型トラックですら横転させる竜巻。

 一人と一匹の中間で衝突ぶつかる、魔閃光と竜巻。

 着弾の余波は安全だと思った距離まで離れていた瑛らの元まで及んだ。

 咄嗟に、瑛と恵夢が二人がかりで土の壁を魔術で作りだしていなかったら、一同は数十m近く吹き飛ばされてしまっていただろう。

 瑛らの元まで圧が届いてしまっているのは気付いたが、ここで力は緩められない。

 グリフォンは両翼を羽ばたかせ、更に魔力を吸収する。


 「!!」


 既に、グリフォンは自らの肉体に取り込める魔力の限界を超えていたのだが、主であり、友人でもある夏煌を守りたい、その気持ちだけが頭を満たしているグリフォンは再生しかけていた傷が開き、全体から血が噴き出し、痛みが走ろうとも無視し、竜巻の威力を上げる。


 「ちっ」


 夏煌の小さな悲鳴が聞こえ、紅壱は悠長にやっている場合じゃない、と腹を括る。

 グリフォンが魔力切れでグロッキーになり、落ち着くまで均衡状態を保つつもりでいたが、そうも言ってはいられないようだ。


 (しょうがねぇ、やるか)


 夏煌に嫌われる可能性があったので、こちらの手段は使いたくなかった紅壱。けれど、このままでは、グリフォンは魔力の過剰吸収で自壊するだろう。となったら、夏煌の心に刻まれる傷は根治不可能な深さになる。

 心を鬼にした紅壱、彼にはグリフォンとは対極的に、まだまだ、余裕があった。当然だ、彼は魔王(見習い)なのだから。

 傍目から見れば、夏煌を泣かさないで済む手段を考えていたために、緊迫した面持ちと自然になっていた紅壱が必死に、グリフォンと互角の状態を維持しているように見えただろう。

 だが、忘れないでほしい、辰姫紅壱は、アバドンの契約者だ。しかも、『組織』がブラックリストにも掲載できないほどに警戒している女の孫だ。

 確かに、グリフォンは獣型の魔属の中で、高位に入る存在だ。当然、魔力量も多い。

 けれど、紅壱の魔力量は、その比ではない。業務用のウォーターサーバーとダム、差と呼ぶには大きすぎるほどの絶望的な隔たりがあった。

 紅壱が魔力のコントロールを完全に習得する前であったなら、まだ、可能性はあっただろう。勝つ、ではなく、表面上の互角状態を保てる可能性が。


 「ハァァァァァ」


 腹筋がよりくっきりと割れるほど力を籠め、紅壱は掌へ流し込む魔力を増やす。

 ドォン、と音を上げ、紅壱がグリフォンに向けた掌から放たれ続けていた魔閃光は太くなり、眩しくなり、そして、破壊力を上げる

 となれば、竜巻は押されていき、グリフォンはその場から後退していく。

 爪を食い込ませているのは空気であるにも関わらず、ガリガリ、とグリフォンの停止位置が後ろへ動くごとに、空に爪痕が刻まれる音が聞こえそうだ。

 守る、その意志はグリフォンに限界を更に越えさせた。

 嘴の中から発生している竜巻が二つに割れそうな気配を感じた紅壱は、夏煌のために自らの壁を強引に突破しようとしている雄に感心する、攻撃の手は決して緩めないが。

 カメ〇メ波もどきの技を使っている最中でも、今の自分なら左右から自らを挟み込み、ミンチにしようとしてくる二本の竜巻を壁ではなく、障壁で防げる自信があった。だが、さすがに、そこまでやると、瑛らに自分の成長が異常である、と疑われてしまう。


 (一気に押し切る!!)


 夏煌が鳴の腕から脱出し、こちらに全速力で駆けてくる足音が聞こえた。それでも、紅壱は止まる気がなかった。

 スぅぅぅ、と息を大きく吸い込んだ紅壱は、「ハァッ」と気合の籠った声を発した。

 二倍、いや、三倍までなら、グリフォンも、まだ何とか、劣勢になる程度で済んだかもしれないが、紅壱は、ここでチマチマと出力を上げたりなどはしない。一気に、十倍の威力とする。

 竜巻は虚しく、魔閃光に掻き消されていった。

 体力と魔力の残りが十分であれば、グリフォンも防御ガードが出来たかもしれない。少なくとも、直撃を免れる事くらいは叶っただろう。しかし、無情にも、グリフォンのゲージはHP、SPともに、随分と減ってしまっていた。

 魔閃光の先端が直撃する刹那に、夏煌が自分の名を叫んだことで、グリフォンは最後の力を振り絞り、無駄な足掻きを起こそうとした。それでも、間に合わない、間に合わせない。

 ビームが直撃し、グリフォンは台風に匹敵するような絶叫を上げた。

 グリフォンは、数十m近く後ろへ吹き飛ばされる。だが、紅壱は魔閃光を、そのままの出力で放ち続ける。

 二度目の直撃で、グリフォンはもう、鳴き声一つ上げない。

 とっくに、グリフォンは瀕死であるのが、紅壱にも判っていたが、彼は魔閃光を操作し、グリフォンに密着させたままで、進行方向を下へ、つまり、地面に向けた。

 ビームに押され、地面に急降下していくグリフォンを受け止めようと言うのか、夏煌は落下地点へ走りだそうとする。


 「ダメだ、大神ッッ」


 夏煌にタックルを決めて転倒させたのは、瑛であった。

 卵を孵化させ、パピーグリフォンに牛乳を飲ませ、離乳食をマメに食べさせていたのは、誰でもない夏煌だ。

 グリフォンが吹き飛べば、夏煌がどれほど悲しむかは、仲間の気持ちを慮れるようになってきた瑛には想像できた。

 だからこそ、瑛は紅壱の決断を悟り、仲間の命を守る事を優先する、その決断を自らも下したのだ。

 落下おちてくるグリフォンしか目に映さず、前に進む事しか考えていなかった夏煌は、瑛の体当たりを避ける事が出来なかった。警戒心が強く、他人が自分に触れる事を許さない夏煌に、自分がタックルを成功させた事に、瑛は心底、驚いた。

 それでも、彼女は「ダメだ! 行くなっ」と腕へ力を込め、夏煌を離さない。


 「・・・・・・」


 夏煌は砂埃を立てるほど暴れ、自分の薄い体に回されている瑛の腕を解こうとする。

 瑛は先程、壁を作ったために温存していた魔力を使いきり、強化の呪文も詠唱できなかった。だが、日頃から鍛えている瑛の拘束は、夏煌が自分の力だけで逃げられるほど生温くはなかった。

 視線は向けられなかったが、紅壱は瑛に感謝し、ますます、足裏へ力を真っ直ぐに入れる。

 ズンッ、この戦いを見ているしかない恵夢らの腹の底まで響くような低音を発して、紅壱の足首が地面に沈んだ。

 それに、恵夢は焦燥あせるも、愛梨が「大丈夫です、先輩」と落ち着かせた。

 愛梨の推察した通り、紅壱は自らの体の軸がズレて、攻撃の威力が拡散ちらばらぬように、大地に自身の足を掴んで貰ったのだ。


 「ハァッッッ」


 紅壱は背を向けていたので、誰にも見えなかった、紅壱の右目が、眼鏡のレンズの下で真紅に変色っていた事に。

 地面に激突する間際に、紅壱は魔閃光の軌道を変えた。

 彼には、最初から、グリフォンを地面に激突させる気なんてなかったんだ、夏煌は安堵が心に広がった。けれど、直後に、彼女の顔色は青さを増した。

 紅壱は、グリフォンを地面に激突させなかったが、そのまま、平行にしたままで魔閃光で突き押していく。しかも、気合を増した事で、魔弾のスピードは上がっていた。恐らく、この時の速度は、200km/hを超えていただろう。

 ズドォォォン、とグリフォンの姿を隠すほどに膨張した魔閃光は軌道上にあった休憩小屋のドアを突き破った。そして、反対側の壁にも大穴をブチ開け・・・・・・小屋をも木端微塵にする大爆発を起こしたのだった。

 あまりにも強烈な大爆発に、皆は目を瞑ってしまう。

 咄嗟の事だったが、先輩もしくは年長者としての意識からか、瑛は夏煌を、愛梨は鳴を、その二人は恵夢が守った。

 小さな土塊や石片、木端が全身に風と共に当たってきたが、瑛らは「痛い」と口にせず、必死に後輩らを守る事だけを考え、残っていた魔力をギリギリまで消費して、防御力を高めた。

紅壱にとって、夏煌は大切な友人の一人である

しかし、彼は怪異から一般人と、この町を守る役目を与えられた生徒会の一員でもある

友情と役目、この二つを天秤にかけねばならなくなった紅壱は決断を下す、町に行かせない為に、夏煌が育てようとしていたグリフォンを今、ここで倒す、と

紅壱の手から放たれた閃光は、グリフォンを跡形もなく吹き飛ばしてしまったのか!?

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