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とある生徒会長の本音は日誌だけが知っている  作者: 『黒狗』の優樹
紅壱、修一、巧の友情は、こうして始まる
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第百九話 呼称(popular name)、紅壱と修一、巧を「タク」と呼ぶようにする

先輩である愛梨が昼飯を奢ってくれる、と言うので、紅壱と修一の二人は食堂へ出向いた

三人に、魚見と巧も合流し、彼らは自己紹介をする

注文を愛梨に任せた紅壱と修一は、唐突に、好きな相手の事が心配な魚見から、巧と友達になって欲しい、と頼まれる

彼らが戸惑った理由、それは、既に巧とは友達になった気でいたからだった

いつの間にか、紅壱、修一が魚見と仲良くなっていたので、戻ってきた愛梨と巧は、微かな不安に駆られてしまう

 「いや、そんなビックリするような事っすか」


 「わ、悪い」


 謝りながらも、愛梨は動揺しているのか、箸を持っている手が小刻みに震えてしまっている。


 「コイバナっつーか、デートの時、代金はどっちが持つか、って話をしただけですよ」


 紅壱の説明に、ホッとしつつも、愛梨は「言葉が足りてないんだよ」と拳骨をくれたくなる。さすがに、食堂で、多くの目があるので、自重したようだが。


 「ちなみに、お前らは自分で全額払って、男らしさをアピールしたいのか?」


 鼻の穴を膨らませながら尋ねてきた愛梨に、軽く引きながら、紅壱は自分と修一のポリシーを告げる。


 「なるほどな」


 やけに、愛梨が嬉しそうなので、紅壱は不思議がるも、その理由を問うよりも先に、修一が巧に質問をぶつけていた。


 「タクは、どうなんだよ」


 「え、僕ですかっ?!

 その都度、二人で話し合って決めると思います。ただ、やっぱり、僕も彼女の誕生日と記念日くらいは、自分が全額持って、なおかつ、高いプレゼントを贈りたいです。

 けど、大事なのは、気持ちだとも思います」


 「だよな」


 巧が照れながらもハッキリと言い切ったのが気に行ったのだろう、修一は自らのエビフライを一本、彼の小皿に乗せてやる。紅壱も、「じゃ、俺も」と苺を一つ、乗せる。


 「え、いいんですか」


 「折角だ、貰っておけ、巧」


 二人に返そうとしていた巧だったが、魚見に諭され、「ありがとうございます」と、ぎこちなく頭を下げる。


 「あの、そう言えば、タクって僕の事ですか、矢車くん」


 「さすがに、タクってのは安直だよな」


 「なら、お前なら、どんなニックネーム、付けるんだよ」


 「別にいいだろ、無理に捻ったアダ名つけなくても、

 普通に、タクミって呼ぶぜ、俺は」


 「それだと、ダチって感じがしないだろ」


 よく解からん拘りを発揮する親友に、紅壱が不機嫌そうに眉を顰めたからだろう、巧は焦って、「大丈夫です、タクが気に入りましたから」と修一のフォローをする。


 「・・・・・・そうか、なら、俺もタクって呼ばせてもらうか」


 「呼ぶのかよ!?」


 「本人が、気に入ったなら、そっちで呼ぶべきだろ」


 自らの掌返しを全く恥じるでもない紅壱に呆れる修一だが、それも毎度の事なので、彼はすんなりと頭を切り替える。


 「デートと言えば、俺としちゃ、女に待っててほしいんだよな」


 「いや、女待たせるって、男としてダメだろ」


 愛梨の非難の目に、修一は「いや、そんな待たせませんよ」と手を左右に振る、少し、焦燥りながら。


 「実際は、彼女より先に到着して隠れてるんですよ、俺。

 そんで、時間になっても来ない俺を探して、周囲をキョロキョロ見回したり、腕時計や携帯電話の画面を確認する素振りって、凄ぇ可愛いだろ」


 可愛いか、それ、と付き合いがそれなりに長くなっている親友の意外な趣味に、紅壱は戸惑ったが、巧は共感できる所があるのか、「いいですよね」と頷いていた。


 「タク、お前だけだよ、俺と話が合うのは」


 ますます、巧への好感度が上がったのか、修一は里芋も小皿へ移す。


 「ただ、僕の場合、小心者なので、ドキドキしながら眺めてられるのは一分が限度だろうし、出て行ったら出て行ったで、平謝りしちゃうと思うんですよね」


 「そうだな、結果的に遅刻したのだから、謝るべきだ」


 「もし、わざと遅れてきたって知ったら、アタシならぶっ飛ばすな」


 「ニヤケ面に、右ストレートだな、全力で」


 愛梨と魚見に打撃なぐられる自分を想像したのか、男三人は震える。巧はともかく、紅一は回避できるし、修一は耐えられる。しかし、想像して恐怖が芽生えない訳じゃない。

 血の気が引くイメージを振り払うように、巧は質問の矢先を紅壱に向けた。


 「辰姫くんは、どちらですか?」


 「・・・・・俺は、待ちたい方だな」


 「お前、俺の時は、ちっと遅いよな」


 「そりゃ、お前が相手だからな」


 悪びれる事無く告げ、紅壱はデザートについていた苺を頬張る。


 (紅ほっぺか・・・次は、苺を使ったタルトを作るかなァ)


 「女は贔屓するのかよ」


 「まぁ、ざっくり言えば、贔屓か。

 けど、待ちたい理由は、ちと違うな」


 「違う?」


 「彼女を待っている間、その時間もさ、立派なデートだと思うんだよ、俺ぁ。

 どんなオシャレをしてきてくれるかな、今日行くトコで手を繋げるかな、お揃いのお土産を買えるかな、って想像を膨らませられるのも、彼女を待っている時だけだろ。

 だから、俺はどちらかと言えば、先に待ってたい派だな」

 

 紅壱は照れる事でもないと思っているので、自然なトーンで語っていたのだが、慣れている修一以外は、頬が赤らんでいた。


 (知ってるかどうかは別として、このギャップは、瑛の弱点っぽいよな)


 (なるほど、これは確かに、太猿が認める訳だ・・・・・・欲しいぞ)


 (うわぁ、凄いカッコいい。兄貴って呼んだら、嫌がられるかな)


 「相変わらず、恥ずかしい事を平然と言うよな、お前」


 「けど、本音は彼女の家に迎えに行きたいけどな。

 俺の場合さ、途中で事故に遭いやしないか、変な奴にナンパされてないか、って不安の方が膨らんじまうよ」


 「まぁ、来る間に、つまんねぇ虫が寄って来たら嫌だよな」


 紅壱の意見に同意する修一は、「しっかし、俺ら、彼女もいねぇのに、こんな妄想ばっかして、虚しいっつーか、空回ってるな」と肩を小さく竦めた。


 「青春は、みっともねえくらいジタバタする事が許される時間なんだ。

 俺らは、大いに空回って、どデカい風を起こしてやろうじゃねぇか」


 ニッと笑った紅壱と修一はガツンッと、握り拳をぶつけた。そんな男の友情を深めるアクションに、恍惚の息を漏らしたのは、巧だけではなかった。

 一年女子らが自分に向ける目が、少し変化した事に気付かぬまま、紅壱と修一は昼食を終える。


 「ごちそうさんでした、エリ先輩」


 「美味かったっす」


 二人に頭を下げられ、愛梨は照れ臭そうだ。しかし、あと六日、彼らに奢らねばならない事を思い出し、憂鬱そうな面持ちになってしまった。なので、紅壱は今の内に、例の件を伝えておく事にする。


 「エリ先輩、俺ら、やっぱ、この食堂で飯を食うの、ちっと居心地が悪いもんで、明日からは他の食い物、奢って貰ってもいいですか?」


 「!! いいのか?」


 「えぇ・・・自分で言うのもアレっすけど、女子の視線が気になっちまって」


 周囲の女子たちは気をつけていたが、その注意は、あくまで素人のレベル。常に、周りに気を配って、不意打ちに備えるクセが染みついている紅壱には鬱陶しい。


 「そうだな、ここの飯、美味いけど、俺、量が足りねぇや。

 まだ、購買に何か残ってるかな」


 「お前らがそう言うなら、仕方ないな。

 明日からは、購買かコンビニで奢ってやるとしよう」


 愛梨が財布へのダメージを軽減できる、そう安堵している事に気付いた紅壱は気付かなかったフリをして、「よろしくお願いします」と、再び、頭を下げる。


 「あの、辰姫くん、矢車くん、明日も僕、一緒にご飯、食べていいかな?」


 自分でも驚くくらいの勇気を発揮し、巧は共に昼休みを過ごす事の許可を二人に求めた。

 

 「おう、いいぜ。飯は大勢で食った方がいいからな。

 どうする、待ち合わせするか、中庭で。それとも、迎えに行くか?」


 「そんな悪いよ。僕が、二人の教室に行く」


 「別に悪いって事はねぇけどよ、ま、お前がそうしたいなら、そうしろよ」


 巧にOKを出した修一は、「どうする、グラウンドでPKでもするか?」と、これからの予定を尋ねた。 だが、紅壱は呆れた表情で、首を横に振った。


 「お前、六時間目の数学で当てられるぞ」


 「マヂか!?」


 「また、答えられなくて、課題出されても、俺、手伝えないぞ」


 手伝わない、ではなく、手伝えない、と紅壱が言った事に修一は気付いたようだったが、今は気にしている場合ではない。


 「頼む、今の内に予習しておきたいから教えてくれ」


 紅壱は嫌そうな顔をしつつも、結果的に自分に面倒事が増えるのは厭う方なので、手を貸してくれる、と修一は分かっていた。彼の予想通り、「しょうがねぇな」と紅壱は頷いたのだが、ここで巧が手を挙げた。


 「あの、僕、数学は割と得意なので、手伝えると思います」


 「本当か!?」


 「はい、僕のクラスも、数学の先生は中村先生ですから、ある程度は、どんな問題が出せるか、当たりが付けられます」


 「よっしゃ。やっぱ、持つべきは頭の良いダチだな」


 修一に、「ダチ」と呼んで貰え、巧は嬉しそうだ。どうやら、彼も高校生活で、それなりの苦労をしており、頼れる友人が欲しかったのだろう。


 「じゃ、俺らの教室行こうぜ」


 善は急げとばかりに、巧の手を掴むや、修一は食堂の出口に向かっていった。


 「すんません、お先に失礼します」


 退席の挨拶もせずに去ってしまった友人の失礼を詫び、紅壱も足早に食堂を後にする。

それぞれが抱く、デートに対する意識を語り合う五人

恋の話で仲が深まった紅壱と修一は、巧のことを「タク」と気安く呼ぶ事に決めるのだった

巧との友情が深まった修一は、早速、彼に数学の課題を写させてもらう事に

修一に呆れながらも、紅壱は親友が巧に迷惑をかけないよう、食堂を先に出る彼らと共に行く

その場に残った愛梨と魚見は、何を思うのだろうか

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