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とある生徒会長の本音は日誌だけが知っている  作者: 『黒狗』の優樹
紅壱、修一、巧の友情は、こうして始まる
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第百一話 問掛(ask) 愛梨、紅壱に問い掛ける

ボクシング部で、自身の迷いを晴らしてもらった愛梨

意気揚々とした足取りで、生徒会室へ戻る途中で、彼女は、アルバイトに向かう紅壱と出くわす

紅壱は自分の頼もしい後輩である一方で、敵に回ってしまったのなら、それはそれで楽しいだろう、と割り切れるようになっていた紅壱と自然な態度で会話が出来た

まさか、愛梨がそんな穏当じゃない事を考えているとは露も知らず、紅壱は彼女へ「うみねこ」の割引券をプレゼントする

 「店長のポリシーで、お客さんからの注文には、全身全霊で応えるってスタンスでやらせてもらってますから、大抵の物は食べられますよ」


 「バイトとして、お勧めは?」


 「まぁ、ベタですけど、カツ丼は人気ですね。

 男子高校生や、ガタイの良いサラリーマンから、よく注文されます。

 ちょい酔っぱらったOLさんも、時たま、酒の勢いもあってか、注文するんですけど、何気にペロリと完食してもらってるんで、味には自信あります。

 うちの店は、豚だけじゃなくて、チキンカツと牛カツもあって、卵でとじたオーソドックスのカツ丼だけじゃなくて、和風出汁のカツ煮丼と、デミグラスソースをかけたデミカツ丼、八丁味噌ベースの味噌カツ丼も作れるんで」


 「カツ丼、悪くないな・・・他には?」


 ボリュームと味を想像したのか、涎が溢れ出しそうな愛梨に口の端を吊り上げながら、紅壱は少し考え、「ここ最近は、ハンバーガーの注文が増えましたね」と答えた。


 「ん、ハンバーガーか」


 そこで、少し、愛梨の表情が曇ったのを見逃さず、紅壱は眉根を寄せた。


 「あれ、苦手ですか?」


 「いや、嫌いじゃないんだよ。

 ただなぁ、意外と思われるかも知れないけど、アタシ、外で大きな口開けて、ハンバーガー食べるの、ちょっと恥ずかしくてさ。

 家とか、生徒会室なら、あんまり気にしないんだけどよ」


 周囲が感じている自分のイメージから外れているのが気恥ずかしいのだろうか、長くはない髪をくるくると、愛梨は指に巻きつけ、頬を赤らめた。


 「あー、確かに、女性は気にしますよね。

 俺としちゃ、豪快に食ってくれる方が嬉しいんですけど、気にして味を堪能してもらえないんじゃ本末転倒なんで、ナイフとフォークが要るか、聞きますよ」


 「それだと、今度は、ナイフとフォークで上手く、ハンバーガーが食べられないんだよな」


 面倒臭いな、と顔に出さないのは、さすが、紅壱だ。


 「なるほど、その辺りの事も、一回、店長と相談して、改良してみますよ」


 「おいおい、そんな大事にしなくても良いぞ」


 「いや、お客さんに『美味しい顔』してもらうのが最優先ですから」


 料理人としての矜持が宿っている、紅壱の横顔に、愛梨は改めて、「コイツが敵になるなんて、ありえないな」と確信した。意外に、ガッカリとはしなかった。

 敵として戦いたい、その気持ちに偽りはない。それでも、今の紅壱を見ていたら、友に戦える仲間の方が、ずっといい、そう本心から思える愛梨。


 「いっそ、一口サイズのハンバーガーにして、挟む具材を変えるのも受けが良さそうだな」


 小さく肯いた紅壱は、愛梨が何やら決心したような顔つきで、自分の顔をじっと見ているのに気付く。


 (何だ、その面は・・・さっきの殺気も関係あるのか?)


 「俺の顔に、何かついてます、エリ先輩?」


 「正面に目、鼻、口、横に耳が付いてるな」


 今日び、小学生だってしない返しに、紅壱は呆れてしまう。


 「まぁ、ジョークはさておき、近い内に食べに行くよ。

 アキも誘っていいよな」


 「もちろんじゃないっすか」


 破顔した紅壱に、今度は愛梨の方が苦笑してしまう。


 (コイツ、どんだけ、アキの事が好きなんだよ)


 お節介を焼きたくなった愛梨は、「アキは、クリームコロッケが食べたいって、この前、言ってたぜ」と教えてやる。

 まさかの情報に、ハッと目を見開いた紅壱は、すぐさま、生徒手帳のメモ欄に、「会長はクリームコロッケが食べたい」と書き記す。早速、今日から、クリームコロッケ作りの練習を始めよう、と決めたのが丸分かりの表情で、愛梨は噴き出してしまいそうになる。


 紅壱としては、そんな反応への意趣返しのつもりではなく、単にお礼のつもりで、「シュウはあの面で、シュークリームが好きなんですよね」と告げた。

 途端、愛梨は紅壱へ顔を迫らせた。


 「お前、お菓子作りも得意なんだよな」


 「得意って言えるレベルかはともかく、人並みには作れますよ。

 ・・・・・・もしかして、シュークリームの作り方、教えろ、と?」


 頭皮まで真っ赤になった愛梨だったが、迷うことなく、首を縦に振った。しかし、さすがに、修一へ好意を伝えたい、と言うのは恥ずかしかったのか、らしくない言い訳を口に出してしまう。


 「いや、この間、てんで効かなかったとは言え、ぶん殴っちまった訳だから、その詫びも兼ねてよ」


 まだまだ長くない付き合いとは言え、普段の愛梨からは想像もしていなかった姿に、紅壱は驚いてしまう。

 恋愛感情が、瑛に対して、全て向けられると言っても、あまりのギャップを前にして、紅壱も「カワイイもんだな」と思ってしまう。


 「無理か?」


 「いえ、お世話になってる先輩からの頼み、断りませんよ。

 けど、さすがに、今日は無理なんで、明日でも良いですか?」


 「あぁ・・・そうだ、シュークリームの材料、これに書いてくれ。

 今日、アタシが買いに行っておくから」


 「そりゃ、助かります」


 紅壱が、巧と違い、遠慮の言葉を発さなかったので、愛梨はやや複雑な気分だ。


 「じゃあ、材料費を」


 そんな矢先に、紅壱が財布を肩から下げていたリュックサックから出そうとしたので、彼女は「いや、いいって」と制止とめる。


 「アタシがお願いする立場なのに、お前に金を出してもらったって、アキの耳に入っちまったら、今度こそ、ヤバい!」


 「いくら、会長でも、これくらいじゃ怒りませんよ」


 「いーや、お前はまだ、アイツのおっかなさを知らないんだよ、コーイチ。

 特に、今のアキは、お前絡みで何かがあったら、間違いなく、キレる。

 人に向かって、魔術ぶっ放しかねないんだよ」


 相当な恐れの感情もあってか、愛梨の剣幕に紅壱も気圧されてしまう。けれど、愛梨は悪意を持って貶している訳じゃないにしろ、惚れた女の事を少しでも悪く言われてしまうのは、紅壱としても黙ってはいられない。


 「会長は、誰よりも分別があって、自制心も強いから大丈夫ですよ。

 大体、何で、俺のコトで、会長がプッツンするんすか?」


 本当に、推測わかってないのが一目瞭然な紅壱の、不思議そうな表情に、愛梨は唖然とし、次に呆れ、しばらくしてから、苦笑した。


 「あのなぁ、アキはお前の事・・・」


 好きなんだよ、そう続けようとした口を、愛梨は自らの手で塞いだ。


 (さ、さすがに、これはマヂにガチでヤバいよな)


 紅壱に、菓子を作る材料費を出させた、その程度なら、真面目ひっしに謝罪をすれば、瑛も許してくれる。先程、あぁは言ったが、親友として、その確信はある(はずだ、と信じていたい)。だからこそ、自分がコレ‐瑛が紅壱に惚れている事‐をバラしてしまったら、命が危ない、と断言できた。

 いつになってしまうのか、瑛の恋愛ポンコツっぷりを考えると、全く、見当がつかないにしても、親友として、その気持ちは瑛から紅壱へ直接、伝えさせてやりたい。

 もし、紅壱に告白されたい、瑛がそう思っているようなら、そのサポートをする努力は惜しまないつもりだった、愛梨は。

 紅壱も、瑛に恋しているのは、ある程度の観察眼があれば察せる。瑛は、同年代の中でも、屈指の観察眼と推理力を有している。

 『組織』の上層部だけでなく、ハイジですら褒めるそれがあるのに、紅壱が抱いている気持ちを見抜けないのだから、瑛はとことん、ヒロインとしてベタな要素を持っている。

 紅壱に、瑛の気持ちを伝えてしまう、そうなると、対応に些細ながらも変化が生まれる。皮肉にも、瑛なら、一般人であれば気付かない、紅壱の戸惑いに気付く。その理由を紅壱に問える度胸が、瑛にあればいいのだが、残念ながら皆無だろう。むしろ、逆に自分に不備があったのだ、と勘違いして落ち込むだろう。

 そんな精神状態の瑛に、自分が口を滑らせたことがバレたら・・・・・・瑛が放った紅蓮の炎に喰われる想像をしただけで、脊髄に液体窒素を注射されるような寒気が走る。

 自分では完全に隠していたつもりなのに、愛梨にバレバレだった、その恥ずかしさも火勢を強めさせるだろう。

 ギリギリで失言にブレーキをかけられ、大惨事を回避できた己を心中で褒めようとした愛梨だったが、彼女はまだ、自分が招いたピンチから逃げられていなかった。


 「ちょっと、エリ先輩、中途半端なトコで止めないでほしいんすけど」


 紅壱は物理的に間隔を詰めてきたわけでも、心臓を握り潰してくるような威圧をしてきたわけでもない。

 けれど、彼ほど背が高く、体格が良く、何より、顔つきが「穏和」と言う表現から程遠い男子高校生が、眉を軽く顰めただけでも、十分な脅しになる。

 これまで、鬼やナーガと対峙し、戦ってきた愛梨は一般人と比較すれば、恐怖への耐性値が遥かに高いが、彼女でも今の紅壱を前にすると、下唇を軽く噛み締めてしまう。


 「――――――・・・アイツは、お前の事を特に可愛がっているからな」


 (ちょ、苦しいか、さすがに)


 愛梨は、そう感じて、言い繕おうとした。だけれども、彼女の不安に反し、紅壱の眉間からは皺が消えているではないか。それどころか、注視していないと気付けないほど微妙ではあるが、口元が緩んでいた。


 「いや、そんな事はないですよ。豹堂の方が、会長に大事にされてますよ。

 ナツが、ギリ2番手で、俺は3番目ですよ、きっと」


 惚れた相手が自分を特別視してくれる、その嬉しさから笑いたいが、どうにか耐えているのが痙攣から分かる口で、そんな事を言っている紅壱に、愛梨は「ハハハ」と肩を竦めた。


 「まぁ、アキの事はともかく、アタシに金は出させてくれよ。

 そもそも、アタシはシューイチにシュークリームを食べさせたいんだから、その材料はアタシが買うってのが本当だろ?」


 恋する者として、愛梨の気持ちは理解できるのだろう、紅壱は素直に頷く。


 「じゃあ、お願いします」

 

 財布を鞄へ戻すと、紅壱はメモ帳を出すと、何かを書き込む。ペンを走らせる手は、一度も躊躇いで止まらず、メモは愛梨に手渡される。


 「これ、買ってくればいいんだな?」


 メモには無塩バター、強力粉、薄力粉、卵、生クリーム、グラニュー糖、コーンスターチ、牛乳、バニラエクストラクトが、見た目からは想像できないが、紅壱の生真面目で、芯のある性格が視える、丁寧な字で書かれていた。


 「これ以外は、買ってこないでくださいね」


 愛梨の料理スキルが、如何ほどか、それは紅壱も知らなかった。だが、素人は余計な食材を入れて失敗する事を、紅壱は舌を引っこ抜きたくなるような不味さで思い知らされていたので、先輩と言えども、彼はきっちりと釘を刺して置く事にする。

 一瞬こそ、愛梨もカチンと来そうになったのだが、ここで怒っては先輩の威厳など丸潰れだ。

 何より、紅壱の技量が、自分よりも遥かに高いのは、彼が差し入れてくれる、手作りの菓子で理解している。ここは、素直に従うのが良いだろう、と自分を宥めた愛梨は「任せとけ」と胸を叩く。


 「これは、駅地下で全部、揃います。店によって、値段が違うかも知れませんけど、安いのを買うか、高いのを買うか、はエリ先輩に任せます」


 「じゃ、早速、行ってくるな」


 「お願いします」


 紅壱は見送ろうとしたのだが、ふと、愛梨は足を進めず、神妙な面持ちで後輩に、ある質問を放り投げた。


 「なぁ、コーイチ。お前にとって、『強さ』って何だ?」

愛梨は、意外にも、他人の目が多い場所でハンバーガーを食べるのが苦手、そんな一面を知る紅壱

彼女のような苦手意識をハンバーガーに持っている人は多いかも知れない、彼は、店長に新メニューを提案してみよう、と考えていた

瑛はクリームコロッケが好きだ、その情報と引き換えに、修一の好物の一つを知った愛梨は紅壱に、それの作り方を教えてくれ、と頼み込む

そして、愛梨は紅壱に、お前にとっての「強さ」は何か、と問う

果たして、紅壱はどんな答えを述べるのだろうか

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