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とある生徒会長の本音は日誌だけが知っている  作者: 『黒狗』の優樹
生徒会への入会
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第九話 儀式(ritual) 辰姫紅壱、召喚に挑戦する

魔王を宿しているが故に、彼はトラブルを引き寄せるのか。

『組織』が何かを封印し、瑛が人避けの術を施していた古びた祠を見つけてしまい、紅壱は予定を早め、魔属もしくは霊属と契約し、戦力を強化する事に。

スパルタ王・レオニダスもスカウトに来そうなほどの指導を瑛から受けながらも、目的のために紅壱は折れなかった。

そんな彼の強靭なメンタルは、複雑な関係の姉がアパートを訪れた事で崩壊しかける・・・

 「・・・・・・」と夏煌に軽く、ジャージの袖を引っ張られた紅壱は回想から戻り、「一応、ぼんやりとだけど固めてきたよ」と疲労で軽く固まってしまっている首の筋肉を揉みながら答えた。一方で、彼にしゃがんでもらい、肩を揉んであげたかった夏煌は意図が伝わらず、ショックを受けていた。

 ぷくっと頬を膨らませた夏煌に対し、小首を傾げた紅壱。顔が怖い分、その動作は妙に可愛らしく見え、夏煌はあっと言う間に機嫌が直る。


 「おいおい、ぼんやりとじゃ駄目だろ。

 イメージをがっちりさせとかないと、実戦で役に立てるヤツは召喚できねぇぞ」


 呆れたように紅壱の脇腹を、愛梨は小突く、「ゴスンッ」と軽く。

 今日、生徒会のメンバーが裏庭に集合したのは、『召喚』の儀式を行い、紅壱と契約させるためだった。主役とも言える彼の調子が良くなければ、良い結果は保証できない。


 「エリ先輩は、何と契約してるんすか?」


 「あ、アタシか?」


 チラっと愛梨は親友、いや、会長である瑛を見る。『組織』の許可が下りなければ、相棒をこちらに召喚よべないルールがある為、自身がどんな魔属と契約しているか、それを紅壱に教えていいのか、迷ったらしい。自由奔放、結果を出すなら規則は破る、そんなタイプに見える愛梨ではあるが、意外にそういう所は律儀らしい。

 しばし躊躇いを顔に滲ませていた瑛だったが、自分も講義の際に紅壱へナラシンハと契約している事を教えているしな、と思ったようで、愛梨にコクリと頷き返す。その動作に、愛梨は安堵の色を見せた。そうして、自信満々の顔で後輩に向き直ると、自身のパートナーの情報を開示する。


 「アタシは魔属・亜人型のエルフと契約してる。ちなみに女だぜ」


 (エルフか・・・弓のスキルに長けてて、なおかつ、魔術も得意なモンスターだったな。男、女に関わらず、美形が多いってのも特徴だったか。

 白や黒、ハーフで魔術の得手不得手は変わるって聞くが、多分、エリ先輩は自分が接近戦を得意としてるから、援護の為に遠距離攻撃を持ってる魔属を選んだんだな)


 「ぼんやり、って言っても九割くらいは固まってるんでしょう?」


 瑛が所用で出ている時は、彼女に代わって紅壱が書き殴っては重ねていくイメージ図に無駄のない助言を与えてくれていた恵夢の言葉に、彼は痛みが滲む脇腹を擦りながら頷きつつ、あらぬ方向へ視線を向ける。


 「しかし、驚いたぜ。まさか、一年生、しかし、こっちに足を踏み入れて大して経ってないお前がアレを見つけちまうなんてな」


 驚きと感心が混ざり合った表情を浮かべながら、紅壱と同じ物を見つめる愛梨は口の中で転がしていたバナナ味のキャンディを奥歯でゴリゴリと噛み砕く。


 「でも、アキちゃんの『記憶メモリ改竄リライト』が通用しなかったんですもの、おかしくないよぉ、これを見つけちゃうのも」


 豊かな胸を支えるように腕を組んだ恵夢だが、やはり、紅壱が例の祠を見つけてしまった上に、ある程度まで近づけてしまう事は予想外だったのだろう、憂いの色は決して薄くなかった。


 「鯱淵先輩、そもそも、一体、何なんです、あのボロっちい祠?

 一般人やレベルの低ぇ、いや、足りてない人間には見えなくて、近づけなくなるような術がかけてあるんですよね。セオリー通りに考えると、やっぱり、何かを封印してある、とかベタな物ですか?」


 (あの魔王が、しゃんと起きられる状況なら、疼くとか、そういう反応があって、凄さが分かるんだろうけどなぁ)


 「私達もよく知らないのよ。アキちゃんも詳しい事は聞かされてないみたいだし」


 「え、だって、一番外側の人除けの術は会長がかけたって」


 「何だかんだで、アタシらは下っ端で、現場で汗水垂らしてるだけだ。

 大事な情報は上の奴等は教えてくれないのさ。

 まぁ、アタシもコウと同じ予想だけどな」


 「アキちゃんが、仲良くなった上の人達から少しだけ教えて貰った話だと、ただ前に一歩進んだだけでも、この街の人たちを十分も経たない内に衰弱死させちゃうレベル、『魔王』って表現しても大袈裟じゃない魔属か霊属の力の一部を封印してあるみたい」


 「一部?」と紅壱が小首を傾げると、「その戦い自体は千年も前なんだけど、消滅どころか退帰させられないって判断した、その『何か』を七日に及ぶ激闘の末に倒した一団が、百以上のパーツに切断した肉体を、それを各地の自然エネルギーが昔から強い街に封印したみたい」と祠を指した。


 (魔王がいるってんなら、勇者と呼ばれる存在があっても不思議じゃないか。

 もしかすると、現代にもいるのかね、勇者様は)


 となると、倒さなければならない敵が一つ、増える事になる。面倒臭いな、としかめっ面となった紅壱を見て、彼も自分と同じ考えに至ったと勘違いしたのか、愛梨はぶすっとした表情で肩を怒らせる。


 「正直、そんな物騒な代物、学校の敷地に封印しないで欲しかったぜ」


 すると、瑛が線を引く手を止め、こちらに向き直った。


 「エリ、逆だ。その存在の一部を封印した場所だったから、何十度目かの封印を更新する儀式に携わった者が天戯堂学園の校舎を建てたんだ。つまり、その方は、この学園の創設者、棚橋悦司殿だ。

 あえて危険な存在を置く事で、自ら集めた若い術者の才能を刺激して伸ばす為にな。

 ちなみに、他の部位が封印されている場所の大半が、教育関係のようだ。まぁ、私も全てを把握している訳じゃないし、中には偽物もあるだろうがな」


 「・・・・・・」


 「いや、大神、それは考えすぎだ。漫画やゲームに出てくるような、それを食べた魔属や霊属が極端にパワーアップするような効果はないらしい・・・・・・私は、そう聞いている。

 もっとも、祠を壊されたら、一部とは言え私達の手に余る相手が出てきてしまうのは確かだろうな。

 他のパーツも影響を受け、封印を壊しかねない」


 「どんな存在のどこのパーツが封印されてるんですか? 会長」


 広げかけた想像でブルリと胸を大きく揺らした瑛は鳴に尋ねられ、しばらく躊躇った後にあらぬ方向を見ながら、それを口にした。


 「私も先代の会長から聞かされただけで、歴代の会長らも上層部から言葉だけで伝えられただけだからな、詳しい姿や種族、能力の詳細は知られていない。

 口伝されたのは二つ名、『岫にて(クライ・)慟哭す(クライム・)鬼子母神クライシス』と、島一つを沈められるほどの地震を起こす能力がある、これだけだ」


 その二つ名が耳から飛び込んできた瞬間、紅壱は心臓ではなく、胸の中、奥底で何かが烈しく揺さぶられたのを感じた。

 起きてはいない、寝返りを打っただけだ、彼の中の魔王は。しかし、これは稀有な事態だ。

 興奮を限界で押さえ込んでいる所為で、紅壱は泣く子も黙らす笑顔を通り越し、泣く子を失神させる無表情になってしまっていた。一同が『岫にて(クライ・)慟哭す(クライム・)鬼子母神クライシス』の怖さに緊張しているのだろう、と勘違いしてくれたのが幸いだった。


(なるほど、あの祠に封印されてるのは、俺の中で眠ってるあの魔王に近しい存在か)


 やはり、一部だからか、引き合う力は弱々しいようだが、彼が隠されていた祠を見つけられたのも、『岫にて慟哭す鬼子母神』が彼の中で眠っている『こうして、(フィナーレ・)世界は(オブ・)齧り尽くされた(ライフ)』と同位の存在であるからに他ならないだろう。


 (あの幽霊は地縛霊の類じゃなくて、魔王の封印を解きたかった輩か?)


 つまり、自分は善からぬ企みに手を貸しかけてしまったらしい、改めて理解して、複雑な気分になった彼のそんな陰鬱な罪悪感を知ってか知らずか、図形を描き終えた瑛は満足気に額の汗を拭う。


 「さぁ、辰姫、ここへ立ってくれ」


 瑛は二つの三角形が重なって作られた星の中央を教鞭で指し、中央まで来るように促す。


 「痛かったりしないすよね?」


 「何、怖いの?」ここぞとばかりに責めようとした鳴だったが、「当たり前だろ」と紅壱は怒りではなく、恐れで皺が寄った眉間を彼女へ向ける。生意気な口を叩いているとは言え、鳴も女子高校生、オーガに匹敵するような紅壱の険しい面に腰が引けてしまっても、誰も笑えない。


 「俺はついこの間まで、バカばかりやってきて、喧嘩しか能のねぇ一般人だったんだぞ?! 儀式が怖いに決まってんだろ」


 見苦しい様で強がるかと思いきや、紅壱がすんなりと怖い事を認めたからだろう、鳴は苦虫を噛み潰したような面持ちになってしまう。


 「まったく痛みがないとは言えないが、せいぜい、チクッとするだけだ」


 瑛は優しい口調で、紅壱をほぐそうとする。しかし、自身の経験を思い出し、この程度では不足か、と思ったらしい。不意に、紅壱の右手を握り締め、自身の胸に軽く当てさせる。

 油断していなかったのに手を握られた事に驚いたところに、瑛の愛梨には劣るだろうが、十分に柔らかい感触に、紅壱は言葉も出せなくなる。もし、愛梨が羽交い絞めにしてくれていなかったら、鳴に必殺の一撃を叩き込まれてしまっていただろう。


 「大丈夫。私が、万が一なんか起こさせない。

 かくいう私も怖かった。だから、辰姫、君には怖い思いをさせない」


 自信満々に笑う瑛の瞳に恐怖を吸い取られ、緊張も和らいだのだろう、「あざっす」と彼女に礼を告げ、自ら、手を胸から話す。そうして、自分に気合を注入するかのように頬を強く叩いた紅壱は力強い足取りで、瑛と鳴が描いてくれた図形の中央に仁王立ちする。

 「では、始めるぞ。なるべく、動かないように」と告げた瑛は十本の指を、見ている方が痛みを覚えそうになるほど複雑に絡めると、凛とした鋭い声で呪文を唱え出す。

 かなり早口で時折、「赤の烏」「右に巻く渦潮」「月まで跳ねる鞠」、「英雄を煙に巻く奇術師」などの不可思議な単語が耳に飛び込んでくる。しかし、その調子は心を不思議と鎮めるもので、紅壱は瑛の声に目を閉じて耳を傾けてしまう。


 

 彼女が呪文を唱えて一分半も経った頃か、不意に足下が熱くなりだしたのを感じた紅壱は瞼を上げ、図形が外側から淡く光りだしているのに気付いた。

 光が中央に緩やかに進んでいくにつれて、彼は胸の内に違和感を抱く。心臓に痛みが走る、とまでは行かないのだが、妙にくすぐったい。魔王が身動ぎをした時とも異なる、ざわめきを体内に感じた。

 まるで、皮膚の一枚下で何かが蠢いているかのようだ。エネルギー体が、自分の中で固めつつあるイメージの形を取り出しているのだろうか、と小首を傾ぐ紅壱。


 (・・・・・・会長の呪文と、この図形に反応してるのか?)


 なるべく動くな、と言われてしまった以上、声をかけて中断させるわけにもいかない。また、動いたらどうなるか、そこが分からない分、怖さは増す。

 まだ我慢できるレベルか、と溜息を噛み殺した紅壱の眼鏡のレンズが熱気で曇り出した瞬間だった、彼の喧嘩だけで鍛えられた肉体から、バレーボール大の光球が五つの方向に向かって飛散していった。

 思わず、六人は五色の光の尾を引きながら、森に落ちていく球を目で追ってしまう。

 凄まじい爆音が響き渡るかと思いきや、それらは静かに着地したようだ。

 素人の紅壱は当然として、自分達が経験した時とはまるで違う事態に瑛たちも唖然とした表情のままで固まってしまう。

 最初に口を開いたのは、二番目に遠くへ落ちていく群青色の光球の軌跡を目で追った愛梨だった。


 「コーイチ、お前、どんなイメージしてたんだよ?」


 「戦闘での利便性を意識して、魔属・亜人型のアマゾネスを」


 恩人の魔王と瑛に似た、と言う所だけ省略した紅壱の答えに、恵夢は「本当に?」と不安そうに問う。


 「召喚が成功したのなら、そちらの中に出現する筈なんだが」


 色濃い焦りを隠せないでいる瑛は、紅壱が立つ複雑な図形からわずかに離れた所に描いた三重丸を指し示す。紅壱は瑛の眉間の皺を見て、事態は俺が考えているモノの三倍くらいは深刻らしい、と悟った。


 「その中なら、一定の危険度までの魔属・霊属はイメージの持ち主に逆らえず、契約も円滑に進められるハズ・・・だが、君のイメージを得た魔属もしくは霊属は」


 「森の中に落ちちまったな」と重い溜息を漏らす愛梨。

 「だから、私は反対したんです。こんな素人に儀式を受けさせるなんてっっ」


 顔へ人差し指を向けながら鼻先に噛み付かんばかりの勢いで迫ってきた鳴の額を指で押さえて止めた紅壱は、苦虫を噛み潰したような面持ちの瑛に小さく頭を下げた。


 「すんません、会長」


 「い、いや、謝らなくていい。

 君の潜在能力を考慮した術式を組んだつもりでいたが、私のツメが甘すぎたようだ。

 辰姫、君に非はない。怪我をさせなかったのが、不幸中の幸いだった」


 「だが、のんびりしている場合じゃない」と、後悔の念を追い出して頭を素早く切り替えた事を示すかのように、瑛の口から出た言葉には力が戻る。


 「幸い、この森の外周には結界が張られている。外からの侵入者用ではあるが、外へ出ようとする存在に対して、何の効果も発しない訳ではない」


 手元の小枝を折り、瑛は足下に大きな丸を描く。


 「目視した限りじゃ、コーイチから出た光はこんな感じで飛んでいったよな」


 「・・・・・・・・・」


 愛梨と夏煌は、円の中に小石や木の実を置く。


 「五体か・・・よし、散開しよう」


 実体を得てしまったエネルギー体が、森の外に出てしまう事を最も怖れる瑛は少し逡巡した後、あえて戦力を分散する策を選んだ。一番、良いのは『退帰』が出来る事だが、足止めだけでも十分である。あくまで、元々の目的は、紅壱に契約をさせる事であったので、瑛は再召喚を行って彼に余計な体力・精神力の消耗を科したくなかった。


 (なるべく、五体すべて、無傷で捕らえた上で、彼と契約を結ばせたい)


 本来であれば、複数の魔属・霊属と契約するのは危険が伴う。同種族であれば、リスクはある程度まで低くできるが、光球の色からして種族は異なっているだろう。それを承知した上で、瑛は直感していた、紅壱であれば多重契約者に成り得る、と。


 「辰姫」


 「はい」と、瑛の堅い表情と声に、紅壱も真面目な雰囲気で返事をする。


 「本当に、君はイレギュラーな事ばかり起こす」


 想定外の剣呑な台詞に、紅壱のみならず、他の役員も表情を引き攣らせる。いや、鳴だけは喜びの色を隠そうともせず、瑛がこの件の責任を押しつけ、紅壱を生徒会から追い出す事を期待しているのが丸分かりだ。しかし、鳴が知っているのはこれまでの獅子ヶ谷瑛。恋に落ちて変化し始めている彼女の情報はまだ収集していない。いや、集めたくない、と言うのが本音なのだろう。


 「だからこそ、君は面白い。

 改めて、私は君が気に入った。

 好きだぞ、辰姫紅壱」


 想定外の言葉に、紅壱の目は点と化す。バキュンポーズを決めている瑛の口より出た「好き」には、本人がやっと自覚し始めた恋心が詰まっている。瑛自身が把握しきっていない感情をわざとらしく指摘し、慌てる様を見たがるほど、紅壱もサディストではない。実際、この状況で軽口を叩いている暇もないな、と己を諫めた彼は「光栄です」、その返答に留めた。

 紅壱に告白紛いの言葉をサラッと流された瑛だが、自分の彼に受け止めて欲しいキモチが「友愛」なのか「恋愛」なのか、を決定きめあぐねているからか、さほど不機嫌になった様子もない。彼女は、膝から崩れ落ちて、泡を噴いている後輩を不気味そうに見ながらも、淡々と指示を下す。


 「豹堂は一番、遠くに落ちた檸檬色の光球は君に任せたい。できるか?」


 自分の実力に全幅の信頼を置いてくれている、そう思い込める瑛の言葉に、嬉しそうに顔を輝かせた鳴は瞬時に忘我状態から復活を果たし、「了解しました、会長」と力強く頷き返した。


 「なら、私は西側に落ちた群青色だな」


 「・・・・・・」と夏輝はブルーベリーを指す。


 「ナッちゃんは、ここから東に落ちたラベンダー色の光球のとこに行くのね?

 なら、私はモスグリーンの光球を追おうかな」


 恵夢は現在地から南に100mほどの所にある池の方に視線を向ける。


 「私は辰姫と一緒に、近くに落ちた赤褐色の光球を探そうと思う」


 「え!?」


 それまで緩んでいた鳴の頬が一気に引き攣り、瑛を讃える内容の鼻歌も止まる。


 「会長、そいつとペアを組むつもりですか?」


 「当然だろう、彼は豹堂、君が言った通り、素人なんだ。

 誰かがサポートせねばならない。

 あと、“そいつ”ではない、辰姫だ。そろそろ、私も怒るぞ」


 本当に、鳴が辰姫を蔑ろにする事に苛立ちを覚えているのだろう、瑛の眉の角度は鋭さを増す。しかも、不意打ちから身を守るため、球状に展開している魔力が揺らぐ、瑛の感情の起伏に合わせて。並みの人間なら息苦しさを強いられ、立っていられないだろう。

 瑛が好きすぎる鳴にとっては、意中の相手から敵意とは行かないにしろ、好意からは程遠い感情で身を打たれるのは辛いはずだが、それでも、彼女は悲しさをグッと堪え、意見を通そうとする。


 「・・・・・・なら、会長じゃなくても良い筈です。

 会長が、そぃ・・・辰姫とペアを組むくらいなら、私が面倒を見ます!!」


 鳴があまりに食ってかかり、己を傷つけるような提案をしたものだから、紅壱は逆に気が咎め、「別に、一人でも良いんですけど」と告げるも、瑛は頑として首を横に振る。二人して意固地だなぁ、と他の者らは顔を見合わせてしまう。


 「辰姫、自分でコチラ側に立つと決断した以上、魔属・霊属を相手にする以上、自分の身は自分で守るのはごくごく当然だが、会長として入ったばかりの君を一人で行動させる訳にはいかない。

 無論、他のメンバーが力量不足だと言ってはいないぞ。しかし、儀式を進めていたのは私で、彼を守る責任は私に発生する。辰姫、私と一緒に行動しろ、いいな?」


 有無を言わせないつもりであろう、強すぎる口調の瑛に胸を指先で幾度か突かれた紅壱は頷き返すしかできない。憮然としつつも文句を言えない鳴を慰めるように、恵夢は彼女の肩へ優しく手を乗せた。


 「よし、皆、頼んだぞ!」


 瑛が手を一つ、大きく叩いたのを合図に彼女等はそれぞれ違う方角へ走り出した。鳴は何度も振り返っていたが、憧れの相手が憎い相手と共に反対方向に向かってしまうのを見て、悔しそうに唇を噛み締め、憎悪を更に募らせる。その感情が、瞬動法に磨きをかけるのだから、皮肉な物である。

姉との会話で負ったダメージが、儀式が失敗した理由だったのか・・・

本来であれば、スムーズに進むはずだった魔属・霊属との契約儀式は、瑛ですら予想もしていなかった展開を迎える。

果たして、紅壱は飛び散った魔属・霊属と契約する事が出来るのか!?

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