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ハニームーンの卵~炎竜と言霊使い~  作者: 伊藤ひおり
ウェントゥスの旅
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創世の少女

「・・・・は?」

 竜巻に襲われたのと反対側、崩れずに無事だった棟の応接室に集まったコウキたち四人は、ヒエンに聞かされた言葉に目を点にした。

 一緒に部屋に集まり、ヒエンの隣にプカプカ浮いてる風奏神までが同じように驚いて、自らの契約者たるヒエンを見詰めた。

 幻霧神は室内に入るには体が大きすぎるため姿を消している。

 ヒエンは各人の反応を見、自分用の大きな椅子に腰かけて腕を組み、偉そうに足を組んでふんと鼻を鳴らした。

「・・・・もう一回、言ってみろ・・・?」

 ピクピクとひきつったコウキにそう言われ、ヒエンはムッとする。

「何度も言わせんな!だから、最初から言ってた通り俺が各国を統一して、その全勢力をもって『黒い月』をぶっ倒す!!」

 迷いの無い声でもう一度聞かされた言葉にリンは呆気にとられて目を瞬き、ミルアとユウヒは頭痛を覚えて額を押さえた。

 あまりにヒエンらしすぎる決断にコウキですら何か言う気力も無くなりかけたが、ここは自分が言わなければとこぶしを握り大きく息を吸った。

「このぶぁっかやろうっ!!お前の脳みそはスポンジかっ!?」

「んだよっ!?文句あるってのか!?」

「あったり前だっ!!この期に及んでまだ自分が統一するとか、子供かてめぇはっ!?しかも軍隊なんか集結させたらそれこそあの稲妻で集中攻撃されるぞ!?おまけに『ぶっ倒す』なんて、『黒い月』がどこにあるのかも知らねぇだろ!?この、脳みそへなちょこっ!!」

 ーーーー・・・ちょっと!ボクの契約者をバカにしないでよ!!

 さすがに言い過ぎだと抗議した風奏神を、コウキは冷めた瞳で流し見る。

「・・・てめぇもブラックの時は散々バカバカ言ってただろ?」

 ーーーー・・・うぐっ・・・。

 精神を強く支配されていた間の記憶もちゃんと残っている風奏神は言葉に詰まる。

 たしかに、ものすごく上から目線でバカバカ言っていたが、ヒエンにとってはそれはもう過去のことだった。

「おいバカ竜。俺の守護神イジメんじゃねーよ」

 ムッとして睨むヒエンに、コウキは大きくため息をついた。

 その後ろで、ミルアも同じようにため息をついていた。

「・・・ユウヒの言う通りだったな」

 ユウヒも困った笑みを浮かべる。

 単純と言えば単純なような。

 それで片付けて良いものか、悩んでしまうような。

「・・・ヒエン様、ただでさえ大戦の為に大勢の人が亡くなってます。これ以上、戦いの為に犠牲をだすのは・・・」

「それでも、この地上は俺たちが生きていく場所だ」

 控え目に口を挟んだリンの言葉に、ヒエンはキッパリと強い意志を持って言い切った。

 自分達がこの地上で生きていく権利を得る為に、自分達の力で戦う。

 それは、当然のこと。

「今までずっとここで生きてきたんだ。今さら用済みだ、消えろなんて言われて受け入れるわけがない。俺たちは、最後の一人になっても戦い抜かなきゃならない」

 ーーーー・・・・・・・。

「・・・そんなっ・・・」

「月から来たリンちゃんには、わからない事だ」

 所詮、よそ者。

 例え地上に人間がいなくなっても、帰る場所のあるリンには他人事でしかない。

 そう言われ、リンは言葉に詰まった。

「・・・私にもわからないっ!!」

 微妙になった空気のなかでそう叫んだのはミルアだった。

 ミルアは震える拳を握りしめ、顔を真っ赤にして怒りの形相でヒエンの前に立った。

「・・・国民はっ・・・人間はこれ以上戦いなんて望んでないっ!!守る立場の者として、これ以上辛い戦いはさせたくないっ!!なのにっ・・・どうしてこんなことにっ・・・!!」

 堪えきれずに涙を流すミルアの慟哭に、ユウヒは目を伏せた。

「・・・一番悔しいのは、なんとかする力を僕達が持っていないことだね・・・」

 先程の戦いで嫌というほどわかった。

 多少、ひとより強くとも。

 守護神との戦いに勝ち残ってきたのだとしても。

 所詮、ただの人間であるという事。

『黒い月』の力の前には、為す術もなく、ただ見ていることしかできなかったという事実。

 その苦しさがあったからこそ、ユウヒとミルアは城の中で疲れた体にムチ打って働いたのだ。

「ユウヒ様・・・」

 今まで強く前を見続けてきた二人の弱音を聞き、リンは唇を噛んだ。

 リンとて、まさかこんな事態になるなど思ってもいなかった。

 ただ、地上を救いたくてここまで来たというのに。

 もう、自分の許容範囲をとっくに超えていた。

 ーーーー・・・おいコラちび助っ!さっきオレに言ったコト早く言えよっ!

 突然響いた幻霧神の声に、全員が素早く反応して顔を上げた。

「なんだよ、さっき言ったコトって・・・」

 何を知っているのかと問うたコウキに応え、幻霧神は声だけで風奏神を急かす。

 ーーーーほらぁっ!早く言えってば!大丈夫だって!

 何か励ますような幻霧神の声に促され、風奏神はためらいながら中央まで移動し、この場に集う人間達の顔を見回した。

 ーーーーあの・・・赤い竜・・・幻霧神が保護してくれるって言うから、話すけど・・・。

 そう前置きし、風奏神は語り出した。

『黒い月』の、正体を。



 はるか大昔。

 神に見捨てられた民たちがいた。

 輝いていた世界がいつしか闇に染まり、生き物が暮らすには酷な時代が訪れた。

 人々は神を呪い、運命を呪い、光にさえも呪いの言葉を送った。

 だが、このまま静かに滅びを待つかに思えた世界に、一つの希望が生まれた。

 それは、一人の娘だった。

 祈りを具現化する、まさに神のごとき力を持った少女。

 少女は祈った。

 暗闇に染まった世界ではなく、光に溢れる世界に人々が移り住めるようにと。

 赤と青の光に見守られる、あたたかな世界。

 それが、今いるこの地上の原初の姿。

 緑があり、海があり、凍てつく氷が輝き、風が遊ぶ世界。

 昼は太陽に暖められ、夜は二つの月にそっと見守られて眠ることのできる世界。

 少女の憧れた世界。

 最初、自分の創り出した世界に往き来できるのは、創造主である少女自身だけだった。

 滅びる世界の住人たちは、少女の創り出した世界を喜びながらも、怖れた。

 本当に、自分達が生きていける世界なのかと。

 そして一つの提案をしたのだ。

 まずは試しに自分達のような人間を創り、生活をさせてみてはどうかと。

 そしてそれを見張り、観察するために、6体の守護神が造り出された。

 守護神は、闇の世界の民たちの技術が加えられたものだった為、少女が創り出したものとは異なる存在だった。

 その6体の守護神と共に、少女は地上に降り立った。

 そこから、地上の世界が始まった。



 まるで夢物語のような途方もない話に一同は沈黙した。

 ただの物語として聞くだけなら何の問題も無かったが、それを語っているのがまぎれもなく話の中に登場する守護神本人であることが、重くのし掛かっていた。

 聞かされた情報を頭の中で整理するだけでも、とても労力のいることだった。

 じっくりと時間をかけてから、一番に口を開いたのはユウヒだった。

「・・・じゃぁ、我がフォレスタ王家の乙女にのみ宿る『三種の神器』とは・・・?」

 守護神たちを束ね、その力を操ることの出来るものとして伝えられてきたものはいったいなんなのかと見つめるユウヒに、風奏神は静かに頷いた。

 ーーーーあるよ、本当に。今まで使われたことは無いけど。・・・僕たちを制御する装置さ。誰にでも使えるモノじゃないよ・・・。

 その言葉を聞き、ユウヒは息を飲む。

 今まで考えていた伝説の秘宝のようなイメージが、一気に生々しく恐ろしいものに思えた。

「・・・なぜ、そんなものがうちの血筋に・・・」

「それより!その娘はいったいどうしたんだよ!?どこにいるんだ!?」

 ユウヒの呟くような言葉は、目をつり上げたヒエンの声によってかき消された。

 その少女が創造主だというなら、今のこの事態をどう思っているのか。

 言うなれば責任者である少女と直接話したいと真っ直ぐに見るヒエンに、風奏神は悲しげに目を伏せる。

 ーーーー・・・彼女は、もう・・・いない。

「いないっ!?」

 さっさと逃げたのか、身を隠したのかと声を荒らげたヒエンに、風奏神は首を振った。

 ーーーー神のような力を持つ彼女も、人間だったんだ・・・。地上に来て何十年で・・・命は尽きた・・・。

「!」

 風奏神の辛く悲しげな声に、他の者は息を飲んだ。

 リンはその少女のことを思った。

 人々を救う為に異界に降り立ち、その後どうなるかも見ないままに、故郷ではなく自らの創り出した異界に地で一人死に絶えた少女のことを。

(・・・・どんな・・・想いで・・・?)

 自らの死を迎える瞬間、少女は何を想ったのだろうか。

 神のごとき力を持つ少女には、先に起こること全てが見えていたのだろうか。

 故郷『黒い月』の行く末。

 自ら創り出した世界に住まう者の末路。

「・・・じゃあ『黒い月』と連絡取り合ってたのは、お前らか・・・」

 コウキの声を聞き、リンは物思いにふけっていた思考から浮上した。

 コウキは、責めるように風奏神を見詰めていた。

 責任者としてこの地に来たのに違いない少女がいないのであれば、監視の為に造られた守護神たちが『黒い月』の介入の為の媒体になっていたに違いない。

 風奏神は、コクンと頷いた。

 ーーーー連絡を取るというより、ボクらの体を通して・・・全部見える(・・・)ようになってるんだ・・・。

 それは、意思に関係などなく、そうなるように造られた守護神たちにはどうしようもないことであった。

「・・・・ちょっと待て。『黒い月』からこちらに来れるのは、その少女だけだったんだろう?奴らはどうやって移住するつもりなんだ?」

 顎に手を当てながら唸るようにミルアが言った。

 核心に迫った質問に、風奏神はきゅっと唇に力を入れた。

 ーーーー・・・・ボクら守護神が6体造られたのには、意味があるんだ・・・。

「?」

「んだよ?もったいぶってねぇで早く言えっ!」

 イライラと指を動かすヒエンに急かされ、風奏神は一気に口を開いた。

 ーーーーつまり、場の安定を意味する六芒星を描く為だよ。ボクらの描く六芒星に力を集中させて、『黒い月』に通じるゲートを開くんだ!『黒い月』はもう、そのときを待ってる・・・!

 こちらの人間を滅ぼすなどあっという間だと思っていたのに、隠密裏に動くはずだった計画が月の守護神の介入によって暴かれ、阻止されようとして『黒い月』の人々は慌てたことだろう。

 特殊な力を持つ『言霊使い』を狙ったのは、当然の成り行きだった。

 自分達の希望を打ち砕く『悪』と思っていることだろう。

 だがしかし、地上の守護神たちにも迷いが生じていた。

 少女と共に使命を果たすためにこの地上に降り立った守護神たち。

 そうなるように仕向けたとはいえ、人間たちを見守り尊敬されて敬われ、愛されるうちに守護神たちは情というものを覚えた。

 造り物であるはずの自分達には芽生えるはずのない、心。

 いつしか、本当に自国の民を守りたいと思うようになってしまった守護神たちは、それゆえに苦しむことになった。

 滅びへ向かう足音を間近に聞きながら助けの手を待つ『黒い月』の人々の想いと、何も知らずにただ懸命に人生を生きている地上の人々の命の狭間で。

 どうすることもできずにいる守護神たちに、とうとう最後の審判が下った。

『黒い月』からの、強制的な信号という、審判が。

「・・・それで・・・・」

 ユウヒのその言葉のあとを継ぐ者は誰もいなかった。

 誰も、言葉にできなかったのだ。

 ーーーー・・・・ボクたちは・・・やっぱり、造られた存在で・・・逆らえなくて・・・どっちも・・・大切でっ・・・。

 世界の板挟みになり、あるはずがないという心を痛める風奏神。

 涙を流すその様に誰も声を掛けられないでいると、涙を無理やりこすった風奏神は顔を上げた。

 ーーーー・・・でも、これだけは話しておく。『黒い月』がこちらに来られないようにする方法・・・。

 一同はハッと目を見開いた。

 ーーーーボクたちのうち誰か一体でも欠けたら、六芒星はできない。・・・つまり・・・ボクらを殺す・・・いや、壊すか、封印してくれればいいんだっ・・・。

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