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ハニームーンの卵~炎竜と言霊使い~  作者: 伊藤ひおり
ウェントゥスの旅
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実験動物

風奏神くんの、おしゃべり・・・。

 風奏神の小さな掌から鋭い刃のような風が強大な力となってリンの防御を破り、五人を襲った。

「・・・っ・・・!」

 吹き飛ばされそうになり、ミルアは隣にいたユウヒの腕に必死にしがみつく。

 リンは防御を破られた反動で倒れたまま風にあおられて起き上がれず、身を伏せたまま風の刃を防ぐ言霊を紡ごうと口を開いたが、あまりの風の強さで呼吸もままならず、ぎゅっと瞳をつぶった。

「・・・放心してんじゃねぇよっ!バカ王子っ!!」

 リンと同じく風の刃を受けることを覚悟して思わず目を閉じたヒエンは、前方から聞こえた声にハッとした。

 いつの間にか一番前に出たコウキが炎の剣を持ち、風の刃から皆を守っていた。

「バカ竜っ・・・」

「てめえが自惚れた結果がこれだっ!責任取りやがれっ!!」

 呆然とするヒエンに振り返らないままコウキは怒鳴る。

「何が守護神を束ねるだ!!てめえ一人の力でどうにかなるなら苦労しねぇんだよっ!!」

 現実を思い知ったかと怒鳴られ、ヒエンはぎりりと歯を鳴らして風に逆らい前へ出た。

「・・・風奏神!!ならばなぜ俺に契約の話を持ちかけた!?」

 ーーーーあ~・・・本当に契約なんかするわけないじゃん。ちょうど良かったんだよねぇ。効率よく人間を大量に始末するのに、君の存在がさ。

 軽く言い返されたヒエンは息を飲んだ。

 英雄と呼ばれ尊敬され持て囃され、国中の民の期待と憧れの的だったヒエンにとって、この上ない侮辱だった。

「・・・俺を・・・利用したってのか・・・っ!」

 ーーーー対等だと思ってたわけ?本っ当君って腕っぷしだけのバカだねぇ。だから都合良かったんだけど。・・・でももういーよ。邪魔な言霊使いたちが来てくれたんだから。こいつらと一緒に君も殺してやるよ。

「・・・っ」

 あからさまな宣言に、一同は息を飲んだ。

「・・・コウキ!ヒエン!下がるんだ!」

 後方からユウヒの声が聞こえて二人はハッとした。

 守護神を鎮める為に必要なリンが、風に翻弄されたまま動けないでいる。

 リンの言霊が無ければ、守護神と戦うことは不可能だ。

「・・・下がれカブト虫!」

「また言ったな!鈴虫野郎!言われなくともわかってんだよっ!」

 ぎゃあぎゃあ言いながら仲間の近くに戻ってきたコウキは、自分の後ろにリンとミルア、ユウヒが来るようにして風からかばい、指示を飛ばす。

「ミルア、水の膜だ!」

「わ、わかった・・・!」

 暴風から解放されユウヒの腕を離したミルアは、呼吸を整え水の精霊に願う。

 すぐさま一同を水の結界が包んだ。

「・・・う・・・!」

 その重圧に思わず歯を食い縛ったミルアに、コウキは素早く視線を向ける。

「大丈夫か!?」

 耐えられるかと問われたミルアは、絶対に負けるものかと瞳に力を宿して頷いた。

 それを確認したコウキ、リン、ユウヒは結界のギリギリまで前へ出る。

 ーーーーなんだよっ!人間のくせに!

 自分の風をただの人間であるミルアの魔法が防いでいるとわかり、風奏神はムッとする。

 ーーーーお前らなんか、ただの実験動物だろ!?

「・・・なんだと!?」

 風奏神の言葉に、ヒエンが即座にかみついた。

 吠えるヒエンに、風奏神は歪んだ笑みを浮かべる。

 ーーーーああ、言葉難しかった?試しに色んな環境に置かれる身代わりってコトさ。

「そんなことはわかってるっ!!俺たちがなんで実験動物だってんだ!?」

 バカにされて血圧を上げるヒエンに、風奏神はこの上もなくニッコリとかわいらしく笑った。

 ーーーーこの地上は、もともと君らの物じゃないってことさ。

「何・・・!?」

 ーーーー何度も聞き返すのはバカな証拠だよ。・・・ほら、そっちの奴らは、なんかわかったって顔してるケド?

 そう切り返され、ヒエンは思わずすぐそばにいる者たちに振り向いた。

 必死に防御をしているミルアではなく、自分のすぐそばに立つコウキ、リン、ユウヒの顔を。

 コウキは険しく顔を歪め、リンは蒼白になり、ユウヒは目を見開いて風奏神を見詰めていた。

「おい・・・!?」

 何がわかったというのかと肩を掴まれたコウキではなく、その隣のリンとユウヒが震える唇を開いた。

「・・・まさか、『黒い月』の狙いは・・・」

「この地上を・・・乗っ取るつもりか・・・!」

 だからこそ、守護神を操って戦争を起こさせ人間を滅ぼそうとしていた。

 人間のいなくなった地上に移り住む気だったのかと続いたユウヒの言葉を、風奏神は鼻で笑った。

 ーーーーわかってないなぁ。乗っ取るんじゃないよ。もともとこの地上は『黒い月』が移住先として創ったんだ。ここを『黒い月』の民が住みやすい土地にする為に置かれてたのが、君たち人間なんだ。人間の役目はもう終わったよ。それなのに『赤き月』だ『青き月』だと余計な奴等が騒いじゃってさ。・・・え?・・・ああ、喋りすぎね。わかったよ。とにかく・・・みんな死んじゃえ!

 途中、何者かと会話するような素振りを見せた風奏神は、昏く淀んだ瞳を見開いて一同を見詰めた。

「・・・ミルアっ!!」

 コウキの檄が飛んだ瞬間、ミルアは歯を食い縛って魔法力を込めた。

 それと同時に手を振った風奏神が攻撃の風を強め、ミルアに重圧をかけた。

「・・・っ水の精霊がこんなに味方してくれてるんだっ・・・負けるものかっ・・・!」

 耐えるミルアの周りに水の精霊が集まっているのを見たコウキは、再び風奏神を見据えた。

「・・・ミルアは水なら負けない。水はミルアの味方だ。任せて大丈夫だ」

 本人の根性しだいだが、根性ならミルアは誰にも負けないと確信するコウキの言葉に頷き、リンとユウヒも前を向く。

「・・・じゃあ、僕たちは僕たちの仕事をしよう」

「そういう事だ!」

(水の精霊!二人を守ってくれっ!)

 剣を構えて防御膜から飛び出したコウキとユウヒを、ミルアの願いに応えて個人用の防御膜が包んだ。

「『水刃』!!」

 コウキとユウヒの突破口を作る為に、リンの言霊が響く。

 リンの放った水の刃の後を追うように二人が駆けて行き、風奏神に向かっていく姿をヒエンは呆然と見詰めた。

「・・・こいつら・・・マジかよ・・・」

 あんなに敵意を持った風の中に生身で飛び出して行った二人が信じられないと呟くヒエンの横で、リンは見せたことのない険しい表情で言霊を放っていた。

 その顔を見たヒエンは、第一印象とのあまりの違いに絶句する。

 おっとりとして優しげで、傷付いた者を癒す力を持つと同時に、巨大な力を前にして共に戦うことのできる娘。

 戦荒らしとして恐れられたコウキと並び立つのに、これほど都合のいい相手はいないと、少し自分に偏った解釈をしたヒエンは同時に悔しさを感じて舌打ちをする。

 負けていられるかとヒエンも防御膜を飛び出した。

 ーーーーちょっと守護神を退けたことがあるからって調子に乗るなよ!

 自分に逆らう人間たちに腹を立てた風奏神が次々に狂暴な風を繰り出す。

 リンの援護を受け、ミルアの防御に守られたコウキとユウヒはその風を避け、あるいは剣で弾きながら風奏神へと迫る。

 その二人の間を、防御膜も身に纏わないヒエンがすり抜けて風奏神へ剣を振りかざした。

「俺を騙した奴は、たとえ神でも許さねぇ!」

 コウキとユウヒに気を取られていた風奏神は一瞬驚いたような顔をしたが、すぐにニヤリと笑った。

 ーーーーまとめて吹き飛べっ!!

「うわっ・・・!?」

 突然三人の足元から竜巻が巻き起こり、三人は空中へと巻き上げられた。

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