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ハニームーンの卵~炎竜と言霊使い~  作者: 伊藤ひおり
ウェントゥスの旅
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虫同士?

 コウキが開けた扉の中は割れたガラスが大量に散乱し、凶器のような風が吹き荒れていた。

 そんな中でキングサイズのベッドを盾にするようにして座り込んでいるミルアとユウヒを発見し、コウキとリンは急いでそちらへ向かう。

「『防御』!」

 自分達の周りに風避けの膜を張ったリンは、ハッとして悲鳴を上げた。

「・・・ユウヒ様!」

 ミルアを庇うようにしてその頭を抱え込んでいたユウヒは、顔にガラスの破片を受けたようで頬や額にいくつもの傷を作り、中には深く切れている傷もあって多量の血が流れ出ていた。

「・・・やぁ、二人とも」

 片目を血で染めながらいつものように微笑むユウヒに、リンはさっそく治療に取り掛かり、コウキは眉を吊り上げる。

「血流して笑ってんなっ!」

「心配してくれるのかい?これ位大丈夫さ」

 ミルアはユウヒの腕の中で身じろぎする。

「ごめんユウヒ!私を庇って・・・」

「君の顔に傷が付いたら、ハルア君が泣いちゃうからね」

  「・・・ユウヒ様もです。ユリカ様がびっくりしますよ。ハイ、治りました。無茶しないでくださいね」

 治癒を終えたリンに真っ直ぐに見詰められ、ユウヒはニコリと笑った。

「ユリカなら名誉の負傷だって言ってくれるさ。ところでリン、体調戻ったようだね。体液もらったんだ?」

 ビュウビュウと吹き荒れる中でさらりと聞かれ、リンは頭が真っ白になった。

「・・・なんで知ってんだよっ!」

 真っ赤になって怒鳴るコウキに笑顔を向けたユウヒは、これまたさらりと口を開く。

「あのバカ王子が言ってたんだ」

 リンに使った薬の効き目を無くす為に必要なもの。

 ヤキをいれながら、リンに後遺症が残るようなことはないだろうなと念を押した際に、ヒエンが口走っていた。

 ユウヒは爽やかに笑う。

「体液が必要ならもっと時間がかかるかと思ったんだけど、コウキ意外と早・・・」

「言っとくけど、唾液だからな」

 冷たい瞳で言葉を遮られ、ユウヒはきょとんとした。

「・・・なんだ、唾液か」

 とんでもない方向に考えを巡らせていたらしいユウヒにコウキは疲れたため息をつき、リンとミルアは何のことかわからず首を傾げた。

「ところで、バカはどこ行った?バカは?」

 室内にはヒエンの姿が見当たらなかった。

 ユウヒは苦笑する。

「・・・やっぱり、この風は風奏神かい?ヒエン王子なら、あんな酷いケガを負ってるのに、たぶんテラスに・・・」

 ユウヒの言葉を聞き、コウキは舌打ちした。

「ヤバいだろ!ったくバカだな!お前ら待ってろ!」

 言ってすぐさま防御膜を飛び出し、暴風の中をテラスへ向かって行ったコウキの行動の早さに驚いてから、リンは頬を膨らませる。

「防御ごと一緒に行けばいいのに、せっかちなんだから」

「結局お人好しだよねぇ」

「あんなに怒ってたのにな」

 クスクス笑うユウヒと、あきれるミルアと共にリンは防御膜を移動しながらテラスへ向かった。

 待ってろと言われたが、風奏神が近くまで来ている今、おとなしく待っていることなどできない。

「・・・あっ!」

 風の中にコウキの後ろ姿と、倒れているヒエンを見つけ、リンは声を上げた。

「・・・一人で風奏神と戦ったんですか!?こんな酷いケガ・・・!」

 近くまで来て見ると、ヒエンの顔はボコボコに腫れており、また体中あちこちに擦り傷や切り傷が出来ていて服に血がにじんでおり、服から出ている腕や足も鬱血していた。

 リンの悲鳴のような声と治癒の言霊を聞きながら、コウキ、ミルア、ユウヒは視線を反らしてポリポリと頭をかく。

 もちろん、ヒエンのケガは三人のヤキ入れの結果だったからだが、正直に言うとリンに怒られそうな気がした。

「・・・う・・・リンちゃん・・・?」

 リンの言霊で傷が癒され、ヒエンはゆっくりと瞳を開けた。

 心配そうな、しかしホッとしたような表情のリンが目の前にいるのを信じられないような目で見てから、ガバッと体を起こした。

「やっぱりバカ竜より俺の方がいいって戻っ・・・」

「んなわけねぇだろ!このバカ!!」

 機嫌の良さそうな顔で今にもリンに抱き付きそうだったヒエンの顔面を、コウキは足の裏で押さえた。

 そのまま力を入れて押し戻され、ヒエンはコウキの足を振り払ってぷはっと息をつく。

「・・・んだよてめぇっ!俺は王子だぞ!?」

「黙れカブト虫」

 もう少し敬えと言ったヒエンに、王子などと認められるかとコウキは突っぱねた。

 カブト虫と罵られたヒエンは、目を瞬いてあごに手を当てる。

「・・・確かに俺は女の蜜が大好きだ!バカ竜のクセに上手いことを・・・」

「虫並の脳みそしかねぇって言ってんだよっ!本当にバカだな!!」

 ちっともへりくだった態度を取らないコウキに怒鳴られ、ヒエンはムッとする。

「・・・俺がカブト虫なら、てめえは鈴虫だな」

「・・・んだとぅ!?」

 ムカッとするコウキに、ヒエンはしたり顔で流し目を送る。

「てめえはリンリン鳴いてろよ」

「だぁから誰が上手いこと言えって言ったよっ!?・・・ミルアっ!ユウヒ!感心した顔で手ぇ叩くなっ!!状況考えろよ!っとにカブト虫だなっ!」

「なんだぁ!?この鈴虫っ!!」

「うるせぇカブト虫っ!!」

「・・・ちょっと!!ケンカしてる場合じゃないでしょ!?」

 いつの間にか子供のケンカのような悪口の言い合いになってきて、さすがのリンも怒鳴った。

 ーーーーそうだよ。ボクを無視して楽しそうにしないでくれる?

 突然聞こえた軽やかな少年の声に、五人はハッとして身構えた。

 城の前庭を破壊しながら目の前まで近付いてきた巨大な竜巻の中心部が、小さくボンヤリと光る。

「風奏神・・・!」

 ヒエンがギリッと歯を鳴らし、その名を呟いた。

 ボンヤリとした光がやがて形を持ち、五人の見る前で風奏神はその姿を現す。

「・・・子供・・・?」

「小さいな・・・」

「・・・羽が生えてる・・・」

 今まで戦ってきた守護神たちと違い、風奏神は人間の子供と変わらないちんまりした体に、透明な羽を持つ少年の姿をしていた。

 少しつり上がった瞳は、気の強いわんぱく小僧のようだった。

 五人の前に姿を現し、その力で巨大な竜巻を従えた風奏神は、全く風の影響を受けずにいる五人の姿にムッとした顔をした。

 ーーーーなんだよ、つまんないなぁ。ボクの力を思い知れっ!

「・・・きゃ・・・!?」

 うなりを上げて防御膜にぶつかってきた風の力に驚いたリンは、慌てて防御に集中した。

 リンが自分達を守っていると気付いたヒエンは、風奏神を鋭い目付きで睨んだ。

「風奏神っ!話が違うだろっ!俺に任せろと言ったはずだっ!」

 ーーーーはぁ~?本気にしてたわけ?

「何・・・!?」

 ーーーーあのさ~、確かに君に言ったことは本当のことだけど。でも、肝心なことは話してないんだよ。・・・だって、それがボクのやるべき事だから・・・。

 軽い口調で話しながら、邪悪な笑みを浮かべた風奏神の姿に、コウキは背筋がぞわりとするのを感じた。

「・・・伏せろっ!!」

 コウキの怒号のような叫びが響いた。

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